ITSを疑う

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Borgward(ボルグヴァルド)という独カーメーカーの謎

2018年07月31日 | 中国生活


先日運転中に前に止まったSUVに「BORGWARD」というエンブレムがついていた。ポルシェカイエン的なフォルムで決して悪くないスタイルなのだが、あまり見かけない車。
ちょっと気になったので調べてみたらその背後にはかなり面白い話が隠れていた。

ボルグヴァルドはドイツに実存したカーメーカー。1950年代後半にイザベラというヒット車を出し年間100万台を生産するまでになったがその後が続かず、1961年に資金難で倒産している。

そこから半世紀の時が流れ、2015年のジュネーブショーにおいて創業者の孫によるそのブランド復活がアナウンスされる。本社はシュトゥットガルト。企画、デザイン、設計、販売を行い。生産は中国企業が行うとのこと。そしてなんとそのわずか半年後にはSUV BX-7が発表される。翌16年にまず中国で販売が開始された。
iPhoneもアメリカのアップルの商品だが生産は中国であることを考えると、車の世界でもこうしたビジネスモデルもありえない話ではない。


しかし、実態は全く違っていた。


この話の主役はドイツ人ボルグヴァルド氏ではない。中国の自動車メーカー福田汽車なのだ。
新生BORGWARDは生産を中国で行っているだけではない。そのほとんどの資金が福田汽車から出ている。実質中国の会社であると言っても差し支えない。

福田汽車は北京汽車グループの中堅カーメーカー。大型トラックではそれなりの地位を持っているが乗用車ではいまだヒット車を出していない。
大型トラックはダイムラーとの合弁で事業をしており、ドイツ自動車業界との縁はある。
乗用車事業を発展させたい福田汽車としては、海外ブランドが活用できれば大きなアドバンテージとなる。実際MGやローバーというブランドはすでに中国企業が買って使っている。

福田汽車はおそらくダイムラー人脈をつかってボルグヴァルド氏と話をつけブランドを手に入れたのだろう。中国企業は金ならいくらでもある。ここでキーとなるのはダイムラーの北アジアと中国生産事業を仕切っていたバルキャー氏。彼はダイムラーを退職後新生BORGWARDのCEOに就任している。氏はその前にはスマートの事業のトップだった。
(余談だが筆者はバルキャー氏を個人的に知っている。彼に関していい思い出は一つもない)

ひとつ不思議なことが有る。新生BORGWARDは2015年のジュネーブモーターショーで設立がアナウンスされた。それ以前には会社は存在せず企業活動をしている可能性はゼロである。
その会社がなぜ一年もしないうちに新車を世に出せたのだろうか?通常新車の開発は企画から最短で4年かかる。なのに、プラットフォームからなにからゼロスタートの会社がそんな短期間で新車を開発できるはずがない。

その答えは簡単だ。新生BORGWARDが設立される以前からこの車の開発は進められていたのだ。誰が? そう、福田汽車。
福田汽車は、むしろ新型車の「販売戦略」としてBORGWARDブランドを買ったというべきだろう。会社設立後多少ドイツ系人材が入ってある程度軌道修正はされたかもしれないが、一年でできることは限られる。実質BORGWARDというバッジをつけた福田汽車製乗用車だ。
シュトゥットガルトの本社でどの程度の設計関連オペレーションが行われているかは知る由もないが、彼らのHPではエンジニアの募集は行っていないことからドイツにはR&Dはないのではないかと思われる。

実際、中国におけるBORGWARDの販売戦術は露骨にドイツを強調している。ブランドの中国名は宝沃。BMWが宝馬、VOLVOが沃尔沃。そこから1字づつとった中国名は相当にあざとい。
販売店でも、宝沃はドイツの会社であり、ドイツのブランドだということを最大のセールスポイントにしているらしい。いわく、1919年創業のドイツ4大メーカーの一つ、など。
中国におけるドイツブランド信仰心は極めて高い。

しかし、中国の消費者も馬鹿ではない。2018年6月のBORGWARD(宝沃)の販売台数は3車種合わせて3000台。概ね月販2000~4000台程度で推移しているようだ。これは中国の自動車販売からするとほとんどゴミのような数字。
同様のビジネスモデルを採用した例がQOROS(观致)。奇瑞汽車とイスラエル企業の合弁であたかも欧州車であるかのようにプロモーションを行っているが、現時点での累積赤字は1000億円近いとの話もある。

やはり所詮はブランドを買っただけのエセドイツ車であることが見抜かれている、ということだ。
BORGWARDブランドの本格的な復活はないだろう。なお、バルキャー氏はつい最近退任した。沈む船から逃げるネズミ、といっては言い過ぎかな。

(中国サイト知乎の記事を参考にしています。中国語が分かる人はかなり面白いので一読をおすすめします)


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