ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

可愛い子たちは皆、死んだ

2009-03-25 03:47:07 | アジア

 ”3”by Bubble Sisters

 照明を落し気味にした部屋に置かれたソファがあり、そこに妙齢の美女4人が結構ヤバい衣装を身にまとってしどけなく腰を下ろしている。あるいは横になっている。
 こいつはありがたいや、とそのCDジャケを手に取り、彼女らのお姿に目を近付け、じっくり見てみると・・・アリャリャ?いや、「意外にも、と言うか想像以上ににブサイクだった」とか、そんな話はしてませんよ。してませんてば。それはこれから。
 そういや昔、”太陽とシスコムーン”なんて名前の女性ボーカルグループがいましたっけねえ。仕掛け人の”つんく”が彼女らのコンセプトは何かと尋ねられ、「ブスです」と答えていたのには、「うわあ、こりゃやられた」と頭を抱えたものですが、そうかあ、海峡の向こうにも似たような連中がいたとはねえ。

 韓国の女性ボーカルグループ、”バブルシスターズ”であります。これは2007年に発表された3rdアルバム。
 なんかしょっぱなから、彼女らが揃いも揃ってブサイクみたいな、そんな話題ばかりしてますがねえ、いやでも、そもそも彼女らの売り出し時のキャッチフレーズが「可愛い子達は皆死んだ」だったってんだから、そりゃしょうがないでしょ。凄い売り出し文句もあったもんだわ。
 このバブルシスターズ、デビュー当時はシャネルズあらためラッツ&スターみたいに顔を黒塗りにしてテレビに出ていてアメリカの人権団体から「人種差別ギリギリですよ」みたいな警告を受けたりもしたらしい。その黒塗りだって、シャネルズのような黒人への憧れというよは、どうせブサイク隠・・・ああ、いやいや、この話題はもうやめましょ。

 さて、バブルシスターズの音楽性といいますに、これはもう日本を含む昨今の東アジアの流行そのままの、「R&B大好き症候群」的、ソウルなソウル(前者は”SOUL”の、後者は”京城”のほうのソウルね。カビの生えたようなシャレで申し分けないです)のコーラスグループです。
 さすがルックス度外視して集められただけの事はあり(おいおい・・・)パワフルでもあり味わいもある、黒人音楽大好きっ子の実力派女史集団の面目躍如であります、聴いていて安心できるし気持ちが良い。そのしっかり地に足のついたハングル=ソウル表現が。
 ことに、収められた曲の半数以上を占めるバラードものはしみじみと良い出来で、こんな風になんとなく心の隙間に風が吹き抜ける、みたいな夜には非常に癒しになりますな。グラスを掲げて「たまんないぜ、漢河レイジー・ブルース!」と部屋に流れる彼女らの歌声に乾杯する理由は十分にあります。

 日本のR&B歌姫諸嬢との決定的違いは、その表現の乾き具合。我が国の歌姫たちはもう、黒人らしさを表現するに当たり、その歌声を感傷でびしょびしょの水浸しにするわけですが、この韓半島のソウル・シスターズの歌声は乾いている。感傷でびしょびしょになったりはしない。
 これ、凄くさわやかに聴こえます、”ビショビショのR&B”に食傷した身には。
 なんかねえ、バブルシスターズの歌声の向こうには、朝もや煙るソウルの朝市でガラガラ声張り上げてキムチ売っているオバちゃんたちの豪放な生き方、そんなものに直ずる逞しい心意気が感じられるんだよね。
 薄暗い照明の下、タバコの紫煙けむる不健康なクラブで歌っていても、彼女たちのど真ん中に息付く向日性の魂は何者にも曲げられる事はない。そんな生命力の木霊がしっかりとした手ごたえで伝わってくる、そいつにいつしか惹かれている自分がいたりする次第で。


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