”Ya Baher”by Walid Toufic
たいていのアラブ・ポップスのファンの方と言うのは、美人歌手が鉄火肌で歌い上げる妖艶な世界を愛好されていると思うんだけど、というか、アラブのポップス愛好家そのものがどれほど我が日本におられるのかがそもそも分かっていないんだけど、私のようにオヤジ歌手たちの盤を好んで聴いているなんて人はあんまりいないんではないか。
まあ、奇をてらっているんでも変な趣味があるわけでもなし、これは私がロックとかブルースを聞く延長線上にワールドものを聴いている証拠ってことなのだけれど。(正直言いますが、男臭~い写真が何枚も掲載されてるジャケやら歌詞カード、あんまり見直したくありませんが。というか、どうせ当方には全然読めないアラビア文字しか記されていない歌詞カード、何度見直したってしょうがないですな)
と言うわけでレバノンの大歌手、ワリド・タウフィクの、これはジャケに”2007”と大書されているとおり、バリバリの新譜であります。
いや、大歌手とか書きましたが、そのように教わったというだけで、この人を聞くのは実は初めて。でも、その無骨な貫禄ものの歌声を一声聴けば、確かにこれは大物と理解は可能であります。
当地の土着系ポップスとなれば当然出てくるアラブのパーカッション群は、枕詞みたいになっている”狂乱の”というよりはむしろ、”フォーメーション・プレイ”なんて言葉を使いたくなるくらいの引き締まった連携プレイを聞かせてくれる。
そのくらいの空間の感覚があるんですな。ビッシリ音が密集している感じではなく、各楽器がお互いに距離を保ちつつ、緊密に反応し合い、非常に刺激的なリズムを繰り出している。
同じくアラブ名物のユニゾン・ストリングスも当然絡んでくる訳ですが、これも、通例の怪しげな甘美さよりもクールさを演出するアレンジとなっている。
全体としてアラブの現代都市の洗練された空気感が非常に感じられる音作りであり、アラブの民俗音楽的響きというのは、もはや”遠きにありて思うもの”となりつつあるんではないかと近未来を想ってみたり。
そこに響き渡るワリドのしわがれたワイルドな歌声。都会の無頼派、ちょい、どころか非常に悪いオヤジ的荒くれた感傷が都会の夜を吹きぬける。バックに従えたクールめの音構造のど真ん中で、ワリドのアラブの血はますます濃厚に煮えたぎっているようであります。
ちょっと興味を惹かれたのが、裏ジャケで歌手本人が抱えているギター。物自体は普通のクラシック・ギターなんだけど、弦が4本しか張ってないのですな。1,2,3弦と6弦だけ。4弦と5弦は張られていない。
これ、おそらくはアラブの何らかの楽器と同じ要領でプレイできるように、あえて弦を外しちゃっているんだろうけど、どんなチューニングになっているんだろうな。演奏しているところ、ぜひ生で見て見たいと思う次第でありました。
あっちのオッサンはむさ苦しい顔が多いので(失礼!)、どうも聞く気にならないというのが正直なところであります。
どうも私は、70年代のアメリカ南部ロックの代わりにアラブのオヤジ歌を聴いているみたいな気がします。あのディープで重いノリを求めて。でもやっぱりジャケを見ているとうんざりしますが。
でも、考えてみれば、アラブの女性も結構”濃い”ですよね。彼女らと付き合うパワーは私にはない、と思う。まあ、その機会もないでしょうけど。というか音楽の話だ、そもそも関係ねえ(笑)