”Lugares comunes”by Inti-Illimani
曇り空の下、プラットホームに楽器を並べて汽車(電車と書くより風情があろう)を待つジャケ写真に、このベテラングループ、インティ・イリマニが背負って来た特異な”旅愁”が忍ばれる。
1967年結成のチリのベテラン・フォルクローレ・バンド。たまたまヨーロッパ・ツアー中に故国でピノチェト将軍のクーデターが起こり、そのままヨーロッパに留まらざるを得なくなった、”長き旅路”の日々。
とはいえ、亡命生活を彼らは有意義な研鑽の日々として生かしたのではないか。たとえば冒頭、パーカッション群に支えられてクラリネット、フルート、ヴァイオリンが室内楽的に絡み合う表現の深い美しさには陶然となってしまう。この抑制の効いた美しさなどは・・・
いや、時の流れは容赦なく、もうオリジナル・メンバーは二人しか残ってはいない。若手へのバトンタッチは進んでいるのだが。
その若手の一人はキューバから来た黒人であったりし、グループの汎中南米化は進んでいるようだ。演じられる音楽も、南米各地の根の音楽をミクスチュアし洗練させた、知的興奮を誘う奥行きの深いものである。風はアンデスの山中からブラジルのショーロの嘆きを伝え、メキシコの太陽の輝きを歌う。
不勉強でスペイン語が分らず、彼らが静かな口調で描き出す、南米諸国の民衆の喜怒哀楽を受け止めきれないのが無念なのであるが。
曇り空の下、異郷の冷たい風に吹かれつつ育んだ豊かな音楽。決して激せぬ抑制した語り口の奥に、母なる南の大地と過酷な運命に不当にも翻弄される人々の面影が過ぎる。ニーノ・ロータに捧げられた最終曲の美しいメロディが妙に後を引く。
そして音楽が終わり、CDを納めて裏ジャケを見れば、彼らの立ち去った後のからっぽの駅が風に吹かれているばかりである。