ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ギターのオマール

2012-07-13 02:49:34 | イスラム世界

 ”Guitar El Chark”by Omar Khorshid

 1970年代半ばの数年間、「アラブ世界にエレキギターを持ち込んだらどうなるか?」という趣旨の様々な音楽的冒険を繰り広げた男の途方もない足跡が2枚組のCDとなって、ここにある。
 いやほんとにおそらくはじめは、「ウードのフレーズを、このエレキギターなるナウい代物で弾いてみたら面白いんじゃないか」というイタズラ心から始まったんではないかと想像するのだが、その後に展開された世界は・・・

 粋でいなせな60年代エレキバンド風のスタイルから、ホテルのサパークラブ・タッチの甘々なエコーだらけのムーディな一夜を、一気に飛んでプログレ紛いの複雑怪奇な迷宮の構築までと、聴いて行くと頭がクラクラするような世界が広がっているのだった。何やらとてつもないスケールの創造力の持ち主だったようだ、このエジプト人は。

 アコーディオンの伝統的プレーヤーと組み、華麗なアラブ音楽絵巻を繰り広げるかと思えば、チュニジアのトラッドをサカナに、まさにプログレバンドかと見まごう狂躁世界を描く。この振り幅の凄さ。そいつをまさに”カミソリ”の切れ味のピッキングで弾き倒してみせた彼だった。
 エンリコ・マシアスの「ソレンツァラ」など取り上げているのは、もともとがアラブ・ルーツであるマシアスへの共感をこめてなのか、それともあの曲自体、アラブ世界でもお馴染みの”流行歌”だったのか。

 ライナーなど読む限りでは彼の音楽は、アラブの庶民の日常生活の様々な場面で、まさに使い慣れた道具、通いなれた道、くらいの気安さで愛されていたようだ。そんな彼の音楽が人肌の距離感で鳴り響いていたアラブの街角を想像すると、なにやら血が熱くなってくるようだ。
 そんな彼、オマールが、まったく納得しがたい形で若くしてこの世を去らねばならなかったのは、実に口惜しい出来事と言うしかないのだった。




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