ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

東地中海ブルースの旅

2011-08-29 02:05:19 | ヨーロッパ

 ”OPOU AGAPAS KAI OPOU GIS”by MARIA ANAMATEROU  

 なにやらスキモノの間で密かに話題になってますね。ギリシャの民族系歌謡の歌い手、まだ20代前半の女性のデビュー・アルバム、これがなかなか聴き応えあり!ということで、当方もさっそく聴いてみた次第。

 アルバムの内容としては、ギリシャの半島部や諸島部の大衆歌を学び、歌って来た彼女がさらにバルカン半島各地を旅し聴き集めた歌、そこから発想された楽想などをまとめた作品、ということになるようだ。
 実際、若い身空でよくこんな地味な世界にトライする気になったな、と呆れるくらいのディープな内容。シンプルな音つくりの中で、クリアでちょっぴりハスキーなマリア嬢の声がストイックにコブシを回し、ヨーロッパの曙に差したオリエントの光を捜し求める。

 彼女が、そのフィールドワークの成果としてまとめた、いわば”東地中海ブルースの版図”みたいな、空間的にも時間的にも奥行き深い音楽世界。
 それは南イタリアなんかの女性がよく身につけている体を一巻きで覆うような漆黒の民族衣装、あのやりきれないくらいな、地面に染み付くような暗さに通ずるものがある。地中海の明るい太陽が打ち下ろす光が輝かしいほど、地に描かれる人影は果てしなく暗い、そんな種類の漆黒を見つめながら歌っているのではないか、彼女は。

 アルバムのつくりは、アコースティックな民族楽器が必要最小限の音数で歌のバックアップをして行く、時には無伴奏の歌も聴かせる、という、西欧のトラッド歌手のアルバムなどに似ている。構造としては。
 そこに、次元の違う何かを招来しているのは、マリア嬢のコブシが織り成す”揺れ”の感覚。こいつが深い深いコクを生み出していて、なんかクセになる後味をこのアルバムに与えているのだった。





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