ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

イスタンブール、歌謡曲の小道

2012-03-06 02:15:23 | イスラム世界

 ”Neveser Kokdes Sarkilari” by Aslıhan Erkişi

 ドイツに生まれ、長じて故国トルコに帰り古典音楽など学んだ美しきお嬢様の麗しき一枚。20世紀前半のトルコで人気だったという伝説的女性シンガー・ソングライターの作品のカバー集とのこと。
 そのような歴史上の人物の作品となれば、”アラブ大衆音楽の一角としてのトルコ・ポップス”が濃厚に香る作品群なのだろうなと思いきや。むしろ民族色は淡いもので、腹にもたれない瀟洒な仕上がりの曲が続く。黒人ブルースの古典をさかのぼって聴いて行くと、どんどん黒っぽくなるかと思いきや、むしろ白人との垣根があやふやとなる白っぽさを感じる、あれと同じことなんだろか?

 アラブ的旋律というよりヨーロッパ音楽で言うところの”短調”の音階をたどるメロディが目に付く。我が日本人にも非常に親しみやすいマイナー・キイの、いわゆる”ベタな歌謡曲”のメロディが展開されているのである。我が国の古き歌謡曲にも聴かれるような、節度を保った表現のうちにそっとすすり泣く歌謡曲の魂が、部屋の隅に佇み、竹久夢二のイラスト入りのハンカチを銜えている。
 ある曲のメロディなどには一瞬、”モンテンルパの夜は更けて”が始まったのかと驚かされたのであって、日本の歌謡曲との近似点も多く、実際、聴き通すうちに何度も不思議な懐かしさが胸をよぎったのであって。
 あるいは、シャンソンを思わせる装飾音を散りばめるアコーディオンが切なくすすり泣く曲などもあり、その控えめな国際色の現れも嬉しい。

 そしてAslıhan Erkişi嬢の歌いぶりも美しく、そして非常に抑制の効いた上品なもので、この遠い過去からやって来た花束に新しい生命を宿らせるに十分な秘めたる情熱の血潮を注いでいるのである。
 ユーラシア大陸を裏町伝いにそっと横断する長大な歌謡曲ベルトの流れなどに思いをはせるも良し、イスタンブールは涙を信じないことはない、いくらでも飲んでいってくれたまえ。




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