ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

チルダイ式記憶箱

2008-08-13 02:09:12 | 沖縄の音楽


 ”裸足(からびさー)”by ji ma ma

 どのような経緯だったか忘れたが。嗄れ声、なんて表現は粋じゃないな、ハスキーな声の女の子に悪い子はいない、なんて話に友人と飲んでいてなった。
 うん、そうだそうだよなと頷きあったのだが、よく考えてみればお互いにハスキーな声の彼女というのはいたことはなかったのであって。まあ、それはしょうがないよと笑いあった彼はその後、長い旅に出てそのまま帰らず、年賀状のタグイのやり取りもいつか絶えた。

 気が付いたが、夏になってから沖縄音楽の話ばかり書いている。奄美の音楽を聴いているうちにその気になった沖縄音楽の聴き直しが結構はまり、それにこの夏のクソ暑さが加勢して、島歌漬けとなっている次第。ご退屈の向きもあろうが、どうか気まぐれをお許し願いたく。

 沖縄の音楽をあれこれ検索しているうちにふと出会い、気になったのが今回の”ji mam ma”なるグループ(?)の音楽である。京都で結成されたバンドであるが、現在ではメンバーである沖縄出身の女性歌手の個人ユニットとなっている、とのこと。
 だったら彼女のソロ扱いでいいじゃないかと思うのだが、この辺がどうなっているのかよく分からない。ネットの書き込みなど読んでみても、彼女個人を”ji ma ma”と呼んでしまっている人が多いようだ。

 音楽自体は今どきの女性歌手によくあるパターンといっていいだろう、いかにも「R&Bが好きです」みたいなサウンド、黒人ぽい節回しを強調する歌い方である。
 ただそれが醸し出す空気感が都会の夜ではなく南の島の真昼間であるあたり心地良く思える。特別に南の島の特性を取り入れた音楽をやっているわけではないのだが、歌声の合間を吹き抜けるのは、確かに南の島の香気と感じられる。

 真夏の陽炎燃え立つ向こうに見えた遠い海の記憶や、子供の頃に作ったピンホールカメラの中に倒立して浮んだ、不思議に変形して見える見慣れた日常の風景。そんな懐かしさを不思議に喚起させる歌声でもある。

 恋人に「せわしい日常を忘れ、ひと時、ゆっくりと時を過ごしましょう」と呼びかける。初めての子を生んだ学生時代の友人に便りを出す形で青春の日々を振り返る。失ってしまった愛と守りたい愛の話。そして、でぃごの咲く道と父親の思い出。
 と、まるでストレート過ぎる歌詞の世界はひねくれた聴き手である当方には照れくさいものであるはずが、そのハスキーな声の持ち味と南の島を巡る風の感触に、いつの間にか納得をさせられてしまうのだった。

 けだるい真夏の昼下がり。どこかにあまやかな感傷を含む微風が吹き過ぎて行く。こんな時間を、いつか過ごしたことがある。思い出して振り向けば繰り返される季節と、立ち去ったきり返って来ない人たちの記憶。
 それにしても毎日毎日、暑いですね。こんな日々も時が過ぎればまたいつものように終わり、木枯しが表通りを吹き抜ける季節がまたやって来るなんて、ちょっと信じられない気分だ。


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