ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

すべての美は悲し

2011-05-02 04:51:40 | ヨーロッパ

 ” All Beauty Is Sad ”by Ophelia's Dream

 いろんな人がいろんなところで言っていますな、あの”3・11”の大震災以来、どうも何を聴いても楽しめないし、どんな本を読んでもその世界に入り込めない、なんてことを。私もまあご多分に漏れずで、なんか調子が出ない、不完全燃焼のストーブみたいな、といいますか、なんか鬱に降り込められちゃった、みたいな気分で暮らしている次第で。
 もうこうなったらしょうがないから持ってる音盤の中でも特に悲嘆の度合いの強い物件をあえて持ち出して逆療法にかかろうか、なんてのが今夜の趣向です。

 とりいだしましたるはドイツの男女二人による音楽ユニット、”Ophelia's Dream”のデビュー作、”All Beauty is Sad”であります。なんたって「すべての美は悲し」ですからね。ジャケには、これはボーカル担当の女性ですかね、彼女が大振りの古文書かなんかの上に横たわり、虚空を見上げている様子が、なにやら戦前のドイツ表現主義っぽいモノクロ風の写真で捉えられております。中ジャケを見てもどこやらの墓所で、誰の逝去を悲しんでいるのでしょう、悲嘆に暮れるメンバー二人の姿を捉えた写真が数葉。二人は完全に喪服に身を固めております。これは聴く前から心落ち込まずにはおれません。

 音の方は、教会オルガンを模した男性メンバーの奏でるシンセの荘重な音が鳴り響く中、ティンパニが打ち鳴らされ、女性コーラスが分厚い悲嘆の壁を構築する中、完全にクラシックの技法によるボーカル担当の女性のソプラノ・ヴォイスが高らかに響き渡ります。この壮大なオープニングにより、悲嘆劇の幕が上がります。
 その後は、シンセ多重録音によるドラマチックなオーケストラが、遠い過去よりすべての人が歩いた、人生の苦しみの足跡を拾って歩くみたいにオルガンが、ピアノが、丹念に哀しみの旋律を辿り、ともかくすべてが悲嘆、そして「ここぞ」と言うところに登場して究極の悲哀を歌い上げるソプラノ・ヴォイス。

 ともかく、「何がそんなに悲しいのだ?」とか訊ねてみたってしょうがない、この哀しみの様式美の大伽藍に迷い込んだら、人はただただ、この古きヨーロッパが醸造したマイナー・キーの悲嘆の湖に溺れ、酔い痴れるよりないのです。
 そして人は、この哀しみの岸辺に水死体として打ち上げられた後、なにごとかの法力によって蘇り、何事かを得てまた歩き出すのでしょう。あるいは死んでそのまま終わるか、だ。