ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ソン・ダムビ、女王あり、乙女歌あり

2011-05-22 04:04:01 | アジア

 ”Type B” by Son dam bi

 雑誌みたいな手触りのミニ写真集付きの凝ったジャケであり、いかにも「満を持して真打登場!」みたいな気合いが伝わってくる、ソン・ダンビ嬢のデビュー・アルバム。 何の真打かと言えば、韓国のセクシー・ダンスクィーンの、である。そういえば、このアルバムに先行する予告編たる(?)ミニ・アルバムのタイトルも、そのものズバリ「クィーン」だったのだ。
 ネットなどを覗いてみると、ダンビ嬢を「最近韓国で流行している“セクシーダンス”とは違い本格的な“パワフルなダンス”で“韓国のビヨンセ”と称されている」なんて紹介文に出会うことがある。
 問題のジャケの写真も、あのやたら目を吊り上げて描く韓国化粧も濃厚にカリスマ・スタイリスト大動員、もうめいっぱい行ってしまっているファッションに身を固め、時代の先端に飛び出す者の輝きで眩いばかりである。さすが、所属事務所も決まらないうちからCM出演の依頼が続々と飛び込んだという逸話が納得できる逸材の証明と言えよう。

 実際、収められた楽曲も、どれも一癖あるものばかり。このデビュー・アルバムのコンセプトは副題にあるように「Back to 80's”」となっているようだが、スタッフはそれらしい楽曲を用意するに飽き足らず、レコーディングにいたって80年代当時の録音機材まで揃えてしまった、という入れ込みよう。
 まあ当方、60~70年代の仔であるのでその辺の成果のほどは良く分からぬが、よく出来たダンスポップスのアルバムと評価するにやぶさかでない。
 あえて過ぎ去った時代の魂を今日の風俗最前線に持ち込むというバイアスのかけ方は、アルバムの表現に独特の緊張感をもたらすことに成功しており、湿った激情とでも言うべき、独特の熱っぽさがアルバムを支配している。なかなか快感である。

 でも、ちょっと違和感が伴うのは肝心の主役のダンビ嬢の声質である。なんか、”ダンスクィーン”とスポットライトをあてるには、やや線が細くないか?いや、下手だといっているのではなく、なんだかエエトコのお嬢さんがとんでもないところに引っ張り出されて戸惑いつつ、必至で与えられた役割を演じている、みたいに聴こえる歌唱とも聴こえるのである。
 強力なバックサウンドにごまかされずに注意深く耳を傾ければ、ダンス曲の狭間に置かれた可憐なバラード、「ゆっくり忘れる」などの慎ましやかな昔ながらの乙女世界が彼女の本領と分かってくる。
 この辺が、ちょっと面白いのですね。

 根っからのビッチと想像できる同業のダンスクィーン、イ・ヒョリなんかとは決定的に違う佇まいである。そういえばダムビ嬢、もともとは女優志願の人であった、とのこと。事務所の事情など、いろいろあるのかも知れないですなあ。
 また、ダンスで売り出すと決まったはいいが実は彼女、あまりダンスのセンスはなく、しょうがないからデビューを前にしてアメリカに三年もダンス修行に出された、なんて話も聞いた。
 ・・・三年て、なあ?さすが男は万人が徴兵されて鍛えられる国である。半端なことはしない。その辺、アマチュア同然でデビューさせ、プロらしくなって行くのを見て楽しむ、日本の緩い芸能界とは決定的に違う。
 なんて昔ながらの裏構造を勘ぐりながら聴く、大衆音楽ビッグビジネス部門。いやあ、罪深くも甘美なものでございます。