冷え切った空気が大地を張り付くように覆っていた。力ない光を放ちながら灰色の空を、ゆっくりと太陽が横切って行く。埃っぽい道は地平線に向ってまっすぐに続いていた。道の両側にはひと気のない田舎町が広がっている。
ひょろ長い体に青い作業服を着け、集金鞄を下げた耐放射線ロボットは、途方に暮れた眼差しで街を眺めた。この街・・・人影も見当たらない廃墟の町にしか見えないのだが。
それでも職務に忠実な彼は通りの入り口の商店に入り、声をかけた。
「ごめんください。東京電力のものですが。電気ご使用量の集金にうかがいました」
返事はない。気がつけば薄暗い商店の中には厚い埃が降り積もり、およそ人の暮らしの気配はなかった。
彼が製造され、東京電力に配属されて最初に申し付かった仕事がこれだった。
”もうどこからも電気料金の振込みがなくなってしまった。だから一軒一軒、契約家庭を廻ってメーターの検針を検め、直接電気料金を徴収して来い”
そして彼は、上司たるメイン・コンピューターから渡された地図を片手に、この街にやって来たのだ。しかし。
彼は、もう見ることの出来ない子供たちの笑顔や失われた日本人たちの暮らしを想い、自分がもし人間だったらきっと、ここですすり泣いたりするのだろう、と思った。
いや。何を泣くことがあるだろう。確かに日本人は滅びてしまったが、東京電力は守られたのだ。国の庇護の下、株式会社として残ったのだ。もういなくなってしまった日本国民たちの税金を使って。そして今日も原発は順調に確実に、電気を町に送り続けている。
何を文句があるのか。この状況に文句があるなら代替案を出せ。この便利な生活を、原子力無しで、どのようにして守ろうと言うのか。文句があるなら電気を使うな。
ロボットは出もしなかった涙を拭う真似をし、立ち上がった。
命令に従うのはロボットの責務。なんとしても彼は電気料金の集金を果たさねばならなかったのだ。