ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

貝殻と流星群

2011-01-01 03:36:12 | エレクトロニカ、テクノなど
 ”グーテフォルクと流星群”by Gutevolk

 はい、毎度のことですが、ジャケ買い作品。音に惹かれるよりジャケに惹かれて盤を買うケースの多いみたいな私ですが、いや本気で”ジャケ芸術”を愛しているのかもしれない。まあ私、もともとが画家志望だった人間なんで、その辺はお許し願いたいんですが。

 で、これは冬の夜明けの海辺ですかね、フードつきの赤い厚い上着を羽織った人物が貝殻らしきものを手にしている。その貝殻から光が零れ出して中空へ舞いかけている。上空に、このアルバムの正式タイトルらしきものが浮んでいます。”Tiny People Singing Over The Rainbow”と。2007年作品。このタイニイ・ピープル云々は、何かいわれとか原作とか、絡みがあるのかしら?分かりませんが。不思議な世界への扉が開かれているようで、興味をそそられますな。

 いくらジャケ買いとはいえ、このアルバムが私が今注目しているエレクトロニカ作品であることくらいの知識はあった。西山豊乃という女性のソロ・ユニットで、もう何作かのアルバムを世に問い、それなりの評価もあるようです。
 一番意外だったのは、電気楽器中心のインストものと想像していたのに、ほぼ全曲にボーカルが聴かれたこと。サウンドの基本は期待通り電子音楽っぽいものだったが、こちらが思っていたよりずっと開かれた世界の住人による音楽なのだろう。

 歌の歌詞は英語だったり日本語だったりするが、どちらも聞き流しているだけでは内容までは読み取れず、断片的なイメージを喚起する言葉が残るのみ。でも、それで良いんじゃないか。海辺の気ままな呟きは、自由に散って行くに任せたらいいんじゃないか。
 ジャケの海岸に寄せては返す波みたいな反復するリズムに乗って、まるで作意のなさ過ぎる声がポップスのような子供の遊び歌のようなメロディを呟く。全体をメジャー・セブンスっぽい響きが包み、基調音としてずっと鳴っている。

 多重録音されたキーボードの音の上をトイ・ピアノがポンポンと歩き回り、シロホンが揺れ、リコーダーが行進する。タンバリンやシェイカーが遠い昔に失われた夏の祭りの残響を演出する。
 凍りつく北風と海。寄せては返す波のきらめきと、立ち上って行く光の粒と。
 私が今、キイを叩いている部屋から出手、ほんの数歩で国道に至り、それを越えればもう海辺だ。とうに新しい年は明け、でもまだ夜明けはやって来てはいないけれども。波のざわめきは街路灯の向こうから確かに聞こえて来ている。