ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

魅惑の島によせて

2007-01-15 04:26:19 | 南アメリカ
 ”Isla Del Encanto”by Enrique Chia

 毎度同じボヤキで恐縮だが、私はワールドミュージック・ファンながら、もっとも興味をそそられるジャンルがタンゴだったり、最愛のミュージシャンがハワイのウクレレ名人のオータサンだったりする。かっこ悪いなあ。

 逆に、サリフ・ケイタとかに興味なかったりする。そもそもセネガル・マリ方面の音に、あんまり惹かれないほうだ。こんなんじゃ、もともと数の少ないワールド物のファンの中でもさらに少数派、ほんとにゲットー内ゲットーの住民てとこだよ。

 イージー・リスニング、いわゆるムードミュージック好きってのも、決定的孤立要因(?)だろうなあ。いやもう本気でマントバーニとかが好きなの。
 そんな私であって、だからこのアルバムが日本盤で出たのは「快挙!」とは思いつつも、誰が買うんだろうなあ?と首をかしげてしまうのである。みんな、買ったらいいんだけどねえ、素晴らしいアルバムなんだから。

 ラテンの世界のイージーリスニング・ピアノの巨匠だそうである、エンリケ・チアが、プエルト・リコの音楽を取り上げたアルバム。サルサのファンには、かの音楽の故郷の島として馴染みはあるだろうけど、これはダンス・アルバムではない。

 かの音楽の島が産んだ美しいバラードばかりを集めて、あくまでもロマンティックに情感豊かに演奏したものである。というか、「我が懐かしのサン・ファン」「クチナシの香り」なんて曲名を見ているだけで嬉しくなってしまうなあ。ラファエル・エルナンデス、ペドロ・フローレスといった、19世紀末生まれのプエルトリコを代表する作曲家たちの作品群。

 まだまだ世の動きがのどかだった時代。カリブの陽を一杯に浴びて滋味豊かに育った果実みたいにふくよかな味わいを持つメロディが愛情込めて奏でられる。なんという美しい時代錯誤だろうか!
 断固支持します。ジャケに付されたプエルトリコのコロニアル風味満点の古跡の風景写真も、懐旧の情をそそる。

 この美しき恵みの島、プエルトリコのビスケス島にアメリカ海兵隊の射爆場がある。どうやらそこで劣化ウラン弾の実弾射撃訓練が行なわれている。

 その結果として、ビスケス島の住民における癌の発生率がプエルトリコ本島より異常に高いことが調査で判明し、アメリカ合衆国の”保護領”であるプエルトリコで、大きな反米運動が持ち上がった。
 が、その運動は、突然に起こったあの”9・11”の騒ぎに巻き込まれ、うやむやにされてしまった。現実は何も変わらぬままだ。

 プエルトリコの岸辺に寄せては返す波のように、懐かしい、美しいメロディは奏でられる。魅惑の島が、永遠に夢の拠り所でありますように。祈りの声を空しくさせるのは、我々の罪だろう。