報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「謎と闇の東京中央学園」 4

2022-11-17 20:27:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日10:30.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・教育資料館(旧校舎)1F男子トイレ跡]

 リサが投げ込んだC-4爆弾により、ほぼ全壊した男子トイレ。
 天井が崩れて来なかっただけマシというもの。
 一応、教育資料館として再生されるに辺り、補強工事をしたりリニューアルしたりと改築したからだろうか。
 そんなトイレの壁。
 具体的には個室の中の壁。
 その向こうは、私達が破壊して向こう側に行こうとした空間があるはずだ。
 廊下側の壁にばかり気を取られていたが、どうせ壁を破壊するのならば、こちら側からでも良かったわけだ。

 愛原:「因みに主任、このトイレの修理代は……」
 善場:「ええ、まあ……。当方に責任がありますので、当方で弁済することになると思います」

 投げ込んだリサではあるが、ああでもしないと私達が危険な目に遭っていたし、たまたまリサがこのトイレに投げ込んだだけであり、反対側の教室に投げていたら、その教室が全壊していたわけだから、結局同じことである。
 問題の壁は、ポッカリ空いていた。
 中は窓も埋められている為に、真っ暗である。
 トイレの方は全壊した為に断線し……というか、そもそもそれ以前に照明器具も壊れている為、照明が無い。
 善場主任は、手持ちのマグライトで中を照らした。

 善場:「……なるほど。言い伝えの通り、教室がここにはあったようです」
 愛原:「やっぱり」

 私も覗き込んでみた。
 もう封鎖するつもりであった為に、椅子や机は撤去され、撤去できなかった黒板や教壇、照明器具などは残っているものの、確かに教室であった名残はあった。
 窓も板が隙間無く打ち付けられている為に、外からは見えないし、光も殆ど入って来ない。

 善場:「リサ、この教室での言い伝えは?」
 リサ:「……そこ!」

 リサは教室の中央を指さした。
 そこには、跳ね上げ式の扉があった。

 リサ:「そこには防空壕跡があって、そこに逃げ込んだ生徒達、逃げ遅れた生徒達が爆弾の爆発や火事に巻き込まれて、沢山死んだんだって」

 いかに防空壕とはいえ、現代のシェルターとも言うべきそれなら何とかなるだろうが、第2次大戦中の日本のそれは急ごしらえの物ばかりだっただろうから、ちょっとした爆風や小火程度なら凌げても、爆弾の直撃でも受けようものなら、意味を為さなかったものだったろう。
 もっとも、当時の爆弾と今の爆弾を比べるのもどうかとは思うがな。
 それでも、防空壕に逃げ込めても死亡、逃げ遅れても死亡ともあらば、全く遣る瀬無いものだ。

 善場:「防空壕」

 善場主任はニヤッと笑った。

 善場:「防空壕跡は、日本アンブレラが秘密の研究施設に転用する良いきっかけとなっています。恐らくきっとここも、そうだったのでしょう」
 愛原:「そう、ですかね……」

 私は半信半疑だった。
 もしこの防空壕跡が日本アンブレラに転用されていたとしても、出入りする場所が無いからだ。

 善場:「この防空壕を確認してみましょう。防護服に着替えて」
 愛原:「えっ、防護服?」
 善場:「もしかすると、ウィルスや特異菌がこの下にあって、漏洩している恐れがあります。先ほどの事象が好例です」
 愛原:「と、仰いますと?」
 善場:「特異菌に感染すると、幻覚症状が現れます。そう考えれば、先ほどのオカルト事象も説明が付きます」
 愛原:「さっきのは幻覚だったと!?」

 確かに、いきなりエブリンの幽霊みたいなモノがこんな所に現れるのは不自然過ぎる。
 それに、壁の中から触手が現れたことも、科学的には何の説明もできない。
 しかし、全て私達が見た幻覚だったとしたら?
 それなら、科学的に有り得ない現象が目の前で起きてもおかしくはない。
 と、なると……。

 愛原:「私達は感染していると!?」
 善場:「その可能性はありますね。BSAA極東支部に連絡し、至急、特効薬を取り寄せましょう」
 愛原:「あるんですか!」
 善場:「ありますよ。もっとも、本当に感染しているか確認する必要がありますが……」
 愛原:「でしたら主任、それを確認してからの方が良いのでは?もしも感染していて、また幻覚症状でも出たりしたら、まともな調査なんてできませんよ?」
 部下:「それに学校法人側と、この惨事に関する弁済などを話し合うのが先だと思われますが?」
 善場:「……それもそうですね。本日の調査は、ここまでと致しましょう。調査が終わるまでの間、ここの施設は一切の立入厳禁と致します。警察にも協力を」
 部下:「ははっ!」

 今度は学園側が契約した警備業者ではなく、警視庁の警察官が直接警備に当たることになるか。
 段々とセキュリティレベルが上がって行くな……。

[同日12:00.天候:晴 同学園・駐車場]

 駐車場にはBSAA日本地区本部のドクター・カーが止まっていた。
 そこで私達は、メディカルチェックを受けた。
 ここで出た結果が、特異菌感染陽性!
 つまり、私達は特異菌に感染していることだ。
 どこで感染したのかは知らないが、心当たりがあるのは、そこの旧校舎である。
 そして、リサでさえも陽性の症状が出た。
 基本的にウィルスなら何でも食べてしまうGウィルス保有のリサでさえも、カビの一種である特異菌を食い殺すことはできなかったようだ。
 とはいうものの、先ほどの幻覚以外に、これといった症状は無い。

 善場:「日本地区本部の医療施設に特異菌の治療薬がありますので、それを投与すれば大丈夫です」
 愛原:「リサに打って大丈夫なんですかね?」
 善場:「仕方ありません。むしろ、陽性のまま放置しておく方が危険だと思われます」
 愛原:「確かに……」

 GウィルスとTウィルス混合型BOWのリサ。
 そこに特異菌も入ったら、どんな化け物になるか分からない。

 愛原:「大丈夫か、リサ?」
 リサ:「うん、平気」

 リサは何でも無いような感じだった。

 善場:「午後には治療薬が届きますので、それまでここで待機しておいてください」
 リサ:「えー、お昼は?」
 善場:「お弁当を届けてもらいます。それを食べてください」
 愛原:「旧校舎のトイレを壊したことについては?」
 善場:「既に学園側には、こちらで全て弁済すると伝えてあります。あとは、学園側が修理代の請求書を送ってくれれば良いのです」

 壊したのに強気の発言なのは、そもそもこの調査が国家権力の発動によるものだからだろう。
 警察や裁判所の捜査で家宅捜索が行われ、状況によっては壁を破壊したり、床に穴を開けたりすることもある。
 しかしその場合、後で弁済されるシステムになっているのだ。

 愛原:「しかし、特異菌に感染しているというのに、さっきの幻覚以外、何も変わりませんね?」
 善場:「はい。特異菌感染による初期症状は、幻覚以外に自覚症状はありません。恐らく、我々の体内に入った特異菌が少量だったのでしょうね。これが大量ともなると、適合すれば人の姿を保ったままBOWになってしまいますし、そうでない場合はモールデッドなどのクリーチャーに変化します」
 愛原:「怖っ!」
 リサ:「少量だけなのに、あのエブリンと触手?」
 善場:「はい。ですので、本当に特異菌は恐ろしいのです。Gウィルス並みに取り扱いを誤ると、とても危険です」
 リサ:「でも、わたし達は火傷しなかった。あの焼死体達をやったのは、もっと別の奴ってこと?」
 善場:「恐らくそうでしょうね。そしてその秘密が、あの防空壕跡にあるのではないかと、私は見ているのですよ」

 善場主任は確信を持ったかのように頷いた。
 高橋は今、事務所で留守番をしている。
 もしもこの場に高橋がいたら、どんな意見を言うだろうか。
 それが少し気になった。
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“私立探偵 愛原学” 「謎と闇の東京中央学園」 3

2022-11-17 14:36:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日10:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・旧校舎]

 私の名前は愛原学。
 今日はNPO法人デイライトの善場主任達と一緒に、東京中央学園にいる。
 警察やBSAAの規制線は解かれたが、学園側は、これまで導入していた機械警備にプラスして、常駐の警備員を配置することにした。
 こうすることで、旧校舎への侵入者を防ぐ狙いがあると。
 もっとも、民間の警備業者など、BSAAが本気で侵入しようとすれば、死体が増えるだけなのだがな。
 普段はそれでも絶対に入れない警備員達も、さすがに国家権力が発動されたとあらば、ドアを開けざるを得なかった。
 そう、これは国家権力の発動なのである。
 令状を持った善場主任が部下数名と、私とリサを連れ、例の壁を調査することになったのだ。
 午前10時という真っ昼間。
 しかも、天候は良好。
 木造校舎に差し込む夏の日差しは、どこか懐かしい思いを醸し出してくれる。
 だが、例の壁は日の当たらない所にあるのだ。

 愛原:「“花子さん”がいなくなってから、随分と雰囲気が明るくなったような……?」
 リサ:「先生も分かる?」
 愛原:「何となくな」

 この旧校舎の怪現象を担っていた『表の大ボス』、“トイレの花子さん”はここから去った。
 しかし、壁の向こうには『裏の大ボス』がいるかもしれないのだ。

 リサ:「ここだよ。これが、その壁」

 件の現場は薄暗いので、善場主任達はマグライトを持っている。

 リサ:「ここの壁だけ、周りよりも新しいでしょ?」
 善場:「分かりました。どうやら、隠し部屋は例のトイレだけではなかったようですね」

 実際、正面玄関からここまで歩いて来たが、確かにBSAAが突入した形跡なんてまるで無かった。

 善場:「皆さん、耐火服に着替えてください」
 愛原:「こんな真夏に、耐火服を着なくてはならないとは……」
 善場:「黒焦げの遺体になりたくなかったら、着なくても結構ですよ?」
 愛原:「わ、分かりましたよ。き、着ますよ」

 その時だった。

 ???:「くすくす……」

 どこからか、笑い声のようなものが聞こえた。
 それは数秒の間だけで、微かに聞こえただけであった。

 リサ:「……“花子”……さん?」

 リサがそう言った。

 愛原:「やっぱりリサも聞こえたのか?」
 リサ:「う、うん。何だか、“花子さん”の声に聞こえた」
 愛原:「善場主任……」
 善場:「今のは悪戯っぽい笑い方でした。恐らく、私達の努力を嘲笑っているのでしょう」
 愛原:「つまり、『こんな耐火服来たって無意味だよ』と?」
 善場:「その可能性もあります」
 愛原:「ど、どうするんですか?」
 善場:「もちろん、続けます」

 善場主任達の作戦はこうである。
 件の壁に、プラスチック爆弾を仕掛ける。
 軍隊でも使われるC-4爆弾である。
 しかし、使用するのは少量である。
 ヘタすると、この建物ごと爆破しかねないため。
 爆弾を仕掛けて、私達は離れた所からそれを起爆する。
 もしも壁の向こう側から攻撃されたとしても、離れていれば直撃を避けられる。
 そう思ったのだ。
 思えば、6話目の語り部も、韓国BSAAも直接壁を破壊しようとして、謎の黒焦げ死体になったのだ。
 それならば、離れた所から破壊すれば良い。
 こういう考えだ。
 善場主任達は爆弾を壁に設置した。

 部下:「主任。カウントダウンは如何致しましょう?」
 善場:「ここから玄関の外までは、どのくらい掛かるかしら?」
 部下:「は、1分ほどあれば十分かと」
 愛原:「建物の外にまで出るんですか?」
 善場:「はい。“トイレの花子さん”の例を取ると、『物の怪』には決められたテリトリーがあるようです。つまり、テリトリー外には手出しができないということです。そこがBOWと違う所ですね」
 リサ:「うん」

 部下は爆弾を仕掛けると、カウントダウンのスイッチを入れた。
 それは60秒になっている。

 部下:「起動しました!急いで館外へ!」

 小数点第二位まであるカウンター。
 小数点以下だけを見ると、物凄い勢いでカウントダウンが始まっているように見える。

 愛原:「はいっ!」

 私達は動きにくい耐火服を着たまま、正面玄関に走った。
 だが、私は何者かに足を掴まれて転倒した。
 私の足を掴んだ物は、リサの触手に似ていた。

 愛原:「リサ!フザけるな……って、ええっ!?」

 だが、リサはフザけてなど無かった。
 そのリサも、別の者の触手に足を掴まれていたからである。
 そして、その触手は壁から生えていた。
 どんどんカウントダウンが進んで行く。
 この触手を何とかしなければ、爆発に巻き込まれてしまう!
 まさか、6話目の語り部や韓国BSAAもこれにやられたのだろうか?
 そう思っていると、壁の中から、何者かが現れた。
 それは黒いワンピースを着た、10歳くらいの少女だった。
 宙に浮いていて、しかも体が透けている。
 幽霊なのか!?
 しかし、私には見覚えがあった。
 資料映像で観た、特異菌BOWのエブリンに酷似していた。
 そのエブリンらしき少女は、スーッとリサに近づくと、こう言った。

 エブリン?:「死んじゃえ。旧型ウィルスのオバハン」
 リサ:「きさまァ……!!」

 リサは両手の爪を長く鋭く伸ばし、牙を剥き出してエブリンを睨み付け、爪で引き裂こうとしたが、体が透けているエブリンに対しては空を切る形となってしまった。
 リサの両手の平から、触手が伸びている。
 あの触手は捕食相手の血液や老廃物を吸収したり、遠くの物を掴んだりするのに使われる。
 その時、善場主任が大きな声で言った。

 善場:「リサ、その触手で爆弾を外して、外に投げて!!」
 リサ:「! そ、そうか!」

 リサは両手から触手を伸ばした。
 そして、壁に取り付けられた爆弾を外すと、壁の隣の男子トイレに放り込んだ。
 直後、爆発が起きてガラスの割れる音、トイレのドアが吹き飛ぶ音が聞こえた。

 エブリン?:「あーあ。ザンネン……」

 エブリンと思しき幽霊?は、肩を竦ませて消えて行った。

 リサ:「ま、待て!こら!」

 だが、同時に私達を掴んでいた触手も消えた。

 愛原:「た、助かったのか……」
 善場:「とんだ失敗でした。まさか、こんなオカルトな事態になろうとは……」
 リサ:「“花子さん”がいなくなって、別の幽霊が現れたのは分かるけど、何でエブリン?」
 愛原:「それな!」
 部下:「如何致します?一応、予備の爆弾はありますが……」
 善場:「作戦は中止です。この事は、上に報告します」
 部下:「幽霊が現れて、作戦を妨害されたと報告するんですか?」
 善場:「嘘を報告するわけにはいかないでしょう。幸い、ボディカメラはあります。そして、私達はこうして無事です」
 部下:「はっ」

 その時、リサが隣のトイレを覗き込んだ。

 リサ:「うわ、メチャクチャ……」
 愛原:「そりゃ、爆弾が爆発したんだからな。あまり動き回るな」

 しかし、リサは何か見つけた。

 リサ:「ねぇ、こっち!穴が開いてる!」
 愛原:「なにっ!?」
 リサ:「壁の向こう側の空間に行けるよ!」

 どうやら爆発の衝撃で、トイレの壁に穴が開いたらしい。
 それは、私達が行こうとした壁の向こう側の空間に通じる壁であった。

 善場:「分かりました。壁の穴の中を確認してから、引き上げましょう」

 取りあえず、さすがに邪魔な耐火服は脱ぐことになった。
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