報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原達の帰所」

2022-11-20 20:10:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日17:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私とリサはタクシーで、事務所まで戻った。

 愛原:「そこのビルの前でお願いします」
 運転手:「はい、そこですね」

 料金はタクシーチケットで払った。
 そしてタクシーを降り、私もビルの中に入る。
 あれから、体の変化は特に無かった。
 旧校舎の壁以外の幻覚を見ることも無かった。

〔上に、参ります〕

 先にビルの中に入っていたリサが、エレベーターを呼んでいた。
 それで一緒に乗り込む。

〔ドアが、閉まります〕

 リサ:「お腹空いた……」
 愛原:「お昼のお弁当、食べただろ?」
 リサ:「あれだけじゃ足りない……。そもそも肉が少なかった」
 愛原:「幕の内弁当じゃなぁ……」

 私にとっては普通のボリュームの弁当だったが、リサにとっては足りなかったらしい。

 愛原:「まあ、安心しな。ちゃんと、今夜は御褒美をあげるから」
 リサ:「おー!」

 まずは一旦、事務所に引き上げる。

 高橋:「先生、お帰りなさい」

 エレベーターを降りて、すぐに事務所に入る。
 すると、事務所で留守番していた高橋が出迎えた。

 愛原:「ただいま。悪かったな。結局、1日がかりになってしまった」
 高橋:「いえ、大変でしたね」
 愛原:「ああ。危うくエブリンに殺されるところだったよ」
 高橋:「エブリンが現れたんですか?!」
 愛原:「まあ、結局は特異菌による幻覚だったがな」
 高橋:「幻覚も結構怖いっスからねぇ……」
 愛原:「だよなぁ……」

 有り得ないモノがまるで本当にあるかのように見え、しかも無いはずなのに、あると見える触手に掴まれ、それで自分達で仕掛けた爆弾で自爆なんて、末代までの恥だもんな。
 私がそう思ってると……。

 高橋:「ゾッキー(暴走族)だった頃、クスリやってたヤツがいて、そいつの幻覚症状、パなかったっスよ」
 愛原:「『悪魔が襲って来るぅ~!』とかか?」
 高橋:「それもあったんスけど、不思議なこともあったもんです」
 愛原:「例えばどんな?」
 高橋:「バイクに乗ってて、大ヤケドしたんスよ」
 愛原:「バイクが事故って、爆発したのか?」
 高橋:「いや……。事故は事故なんスけど、何でも無いのに、『火が迫ってくるぅ!』とか喚き出しまして……」
 愛原:「末期症状だな」
 高橋:「末期っスよ。で、バイクで逃げ出したんスけど、チームの奴が半分冗談で、『あの鉄パイプ、真っ赤に燃えてるぞー!』って言ったんです。まあ、ガードレールのパイプなんスけどね。で、そいつ、そのガードレールにぶつかって、吹っ飛んだんスよ」
 愛原:「はあ……」
 高橋:「で、体が吹っ飛んで、ちょうどガードレールの上に落っこちたんですね。そしたら、『うぎゃああああ!!熱いぃぃぃぃぃっ!!』って騒ぎ出しやがりまして……」
 愛原:「ええっ?」
 高橋:「いや、別にそのガードレール、燃えたりはしてないんスよ?ただ、そいつのバイクがぶつかったんで、へっこんだだけで。後で病院に送ったら、本当に何故かそいつ、大ヤケドしてたんスよ」
 愛原:「どういうことなんだ???」

 面白い話だと思ったが、とつてもなく突拍子な話だと思った。
 とは思ったが、頭ごなしに否定することはできなかった。
 私達だって、幻覚症状で危うく死にかけたのだから、高橋のかつての族仲間に起きた不可思議現象もきっとウソではないのだろう。

 高橋:「あんまりチーム内でも好かれてなかったんで、露骨に嫌っていたヤツが後で言ったんスけど、『目の前は火の海だー!って言ってやったら、黒焦げになってたりして!』なんて言ってましたね。まあ、俺も含めて皆、『さすがに、んなわけねーだろw』って笑ってましたね」
 愛原:「! オマエ、今なんて言った!?」
 高橋:「え?え?え?な、何かマズかったっスか???」
 愛原:「いいから!クスリで幻覚が見えてたヤツに、『目の前は火の海だ』と言ってやったら、本当に黒焦げになるかもしれなかったんだな!?」
 高橋:「ま、まあ、そう言ってましたけど、半分冗談で言ったことなんで……。まあ、あの……当時は俺も含めて、アホな奴らばかりだったんで……」

 そ、そうか!
 6話目の語り部も、韓国BSAAも『火に包まれた』幻覚を見て、黒焦げになったのかもしれない。
 もちろんいくら何でも、普通ならそれは有り得ないだろう。
 暗示で皮膚に変化があるとされ、先ほどの高橋の話に出て来た暴走族仲間も、幻覚症状による暗示で火傷のような症状が現れたらしいが、それでも人間が自然発火でもしない限りは黒焦げになったりしないだろう。
 しかし、特異菌感染による幻覚症状は違う。
 その後の調査で、本当に幻覚症状だけで黒焦げになった例があったのだ。
 どうして、これに気が付かなかったのだろう。

 愛原:「ちょっと、善場主任に連絡することがある」

 私は事務所の電話の受話器を取り、それで善場主任に連絡を取った。

 善場:「……はい。それにつきましては、先ほど韓国BSAAから連絡がありました」
 愛原:「えっ?韓国BSAAから?」
 善場:「こちらで、HQで動画を保存していないかどうか問い詰めた所、ついに白状しましてですね……。動画を確認させてもらったら、確かに韓国BSAA隊員達が特異菌に感染し、その幻覚症状で体が自然発火する様子が見受けられましたよ」

 あくまでも幻覚症状である為、カメラには映らない。
 だが、BSAAが使用しているカメラには、特異菌は胞子のような感じに映るようになっている。
 それが映っていたので、件の壁からは特異菌の胞子が飛んでいて、その前を通ろうものなら、感染することが分かった。
 恐らく6話目の語り部も、特異菌に感染し、『火に包まれた』幻覚を見せられて、体が自然発火したものだと思われる。

 愛原:「じゃあ、あの壁を何とかしませんと」
 善場:「もちろん、BSAAと調整中です。ただ、破壊すれば良いというものではありません。壁全体が特異菌のそれだと判断して、行動する必要がありますので」
 愛原:「な、なるほど」

 とにかく、その辺に関しては、民間の探偵業者の出る幕は無さそうだ。
 ヘタしたら、教育資料館たる旧校舎そのものを取り壊す必要が出て来るだろう。
 私は電話を切った。

 愛原:「どうやら高橋、オマエの推理は当たりみたいだぞ」
 高橋:「ええっ!?」
 愛原:「やはり助手は持つべきだな。助手の何気ない話が、事態を解決に導くこともある。けして、マンガやアニメの少年探偵のように、探偵が1人で解決する必要は無いんだ」
 高橋:「先生……!」
 愛原:「というわけで、2人に御褒美だ。命が助かった祝いに、焼き肉宴会コースと行くぞ。なぁに、心配要らん。もう店は予約してある。この近所の焼肉屋だがな」
 愛原:「おー!焼き肉!食べ放題!」
 高橋:「バーカ。宴会コースってのは、食べ放題とは違うんだぜ」
 愛原:「まあまあ。硬いことは言わない。それに、今週末は今週末で、善場主任からの御褒美がある。これは、ほんの前座だ」
 高橋:「焼肉宴会コースが前座って、どんだけですか!」
 リサ:「早く行こ!」
 愛原:「待て待て。予約は18時からだ。それまでは、ここの事務所にいるんだ。まだ、役所に提出する『○×申請』とか、作成してないだろ?」
 高橋:「あっ……」
 愛原:「というわけで、俺と高橋は事務作業。リサは給湯室で、寛いでろ」
 リサ:「ちょこっと宿題やっとく」
 高橋:「まだ終わってねーのかよ?」
 リサ:「あと2~3日で終わる」

 リサは長期休みの宿題を『最初に一気に片付ける』タイプでも、『後半で一気に終わらせる』タイプでもなく、『1日平均ベースで片付けていく』タイプのようである。
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“私立探偵 愛原学” 「謎と闇の東京中央学園」 5

2022-11-20 15:55:13 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日14:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 午後になって特異菌の治療薬がBSAAによって届けられ、私達はそれを投与された。
 そしてしばらく様子を見る為、まだ帰宅は許されなかった。
 その為、BSAAのドクターカーの中にいることになったわけだが、そうしている間に動きがあった。
 何と、BSAA日本地区本部がデイライトの代わりに旧校舎を探索するという。
 韓国地区本部に出し抜かれた意趣返しかなと私は思った。

 BSAA隊長:「既に関係各所からの許可は得ています」
 善場:「……確かに、書類は揃ってますね……」
 BSAA隊長:「それでは、あとは我々にお任せください」

 そうして、BSAAの隊員達が旧校舎の中に入って行った。
 大丈夫かな?
 焼死体が増えるだけだったりとかは、無いだろうか。
 私達は特別に、BSAAの隊員達が着けているボディカメラの画像を見ることが許された。
 日本の役所もメンツに拘るきらいがあり、BSAA側からの配慮である。
 デイライトの仕事を奪ってしまった罪悪感から、このような計らいをしてくれたのだろう。
 隊員達は韓国BSAAから、ある程度の情報は得ていたようである。
 ガスマスクを着けて向かって行った。
 私とリサはドクターカーから、『走る指令室』に移動した。
 ドクターカーがマイクロバスを改造したものに対し、『走る指令室』は4トントラックを改造したものだった。
 どちらも、中型免許で運転できる車種である。

 隊員A:「高濃度の特異菌の反応あり!」

 隊員達は、まずは件の壁について調べた。

 隊員B:「濃度は!?」
 隊員A:「簡易的な計測になるが、数値的にはアメリカのルイジアナ州の事件現場と同等と思われる!」
 善場:「何ですって!?」
 リサ:「それでエブリンがいたのか……」
 愛原:「となると、やはりあれは俺達が見た幻……」

 問題はBSAAが出動するほどの高濃度の特異菌が、どうやって持ち込まれたのかだ。
 BSAA史上に出て来る特異菌は、ほんの数年前からである。
 しかしその後の調査で、ルーマニアには100年以上も前からその祖である菌根が存在していたことが明らかになっている。
 なので、あの旧校舎が現役だった頃には、既に特異菌も存在していたことになる。
 というか、歴史的には、ゾンビウィルスとしては初出のTウィルスよりも断然古いわけである。
 それが、いつ、どうやって、誰が持ち込んだのかということだ。

 善場:「白井伝三郎……或いは五十嵐皓貴……」

 善場主任も同じことを考えていたようで、怪しそうな人物の名前を呟いた。

 愛原:「どちらかが、わざわざルーマニアまで行って、特異菌を取ってきたと?」
 善場:「それは……ですね……」

 善場主任は言葉に詰まった。
 恐らく、この2人の過去の動向については調べに調べているはずだ。
 詰まったのは、どう洗っても、この2人にルーマニアへの渡航履歴が見つからなかったのだろう。
 もちろん、ルーマニアへの渡航履歴のある人物と接触して、その人物から受けたという事も考えられるが……。
 しかし、誰かが特異菌を持ち込んで、あの壁に仕掛けでもしないと、私達の案件については説明できないのだ。
 隊員達は壁からサンプルを採取すると、隣のトイレに入った。
 そして、爆発して穴が開いた壁の中に入る。
 教室跡を一通り調べた後、床の跳ね上げ扉を特殊な工具でこじ開けた。

 隊員A:「ちっ、ヒドい臭いだ……」
 隊長:「何がある?」
 隊員A:「水が溜まっています。濁った泥水です。臭いは、これのせいですね。この水を何とかしないと、探索できません」
 隊長:「よし。バキュームカーを使おう」

 BSAAは、本当に用意が良い。
 デイライトから状況を聞いただけで、何が必要なのかも分かっているらしい。
 黒焦げの死体の話が出て来たからか、消防車も待機していた。
 隊員達はバキュームカーからホースを引っ張って行くと、それを防空壕跡に入れた。
 バキュームカーのタンクの後部には、『積載物 汚水』と書かれていた。
 これが汲み取り式トイレの便槽からだと、『糞尿』となり、グリストラップからの汲み取りだと、『廃油』となる。
 ポンプで汲み取りをしている間、隊員達はその汚水の成分についても調べている。

 隊員A:「特異菌並びに生物兵器ウィルスの反応なし!」
 隊長:「では特異菌は、あの壁だけということか」
 隊員A:「そういうことになります」

 しばらくして、汚水が吸い出されると、隊員達は防空壕跡に入った。
 そこは素掘りの空洞になっていた。

 隊員B:「隊長、ただの防空壕跡です!研究施設どころか、その入口らしき物も見つかりません!」
 隊長:「何だと!?よく探せ!」

 隊員達は地面や素掘りの土壁を調べて行ったが、ついに防空壕跡はただの防空壕跡だったという結論になってしまった。

[同日15:00.天候:晴 同地区 同校]

 愛原:「とんだ骨折り損だったか……」
 善場:「見事に騙されました。が、取りあえずは、あの壁に高濃度の特異菌が仕込まれていたことが分かりました」
 愛原:「汚染はあの旧校舎全体でしょうか?」
 善場:「それは今後の調査で明らかになるでしょう」

 いくら普段は立入禁止の旧校舎とはいえ、たまに開放されることもあるし、必要な時、権限のある者は出入りすることもあるだろう。
 もしも旧校舎全体が汚染されていたとしたら、他にも感染している者はいるはずだ。

 愛原:「……何か、夏休みが延長されそうな予感……」
 リサ:「ええっ!?」
 善場:「高濃度なのがあの壁だけというのが気になります。まあ、特異菌はカビの一種ですから、日当たりの良い所では繁殖しにくいでしょう。エブリンがいないことが幸いでしたね。いたら、彼女が造り出すモールデッドもいたはずですから」
 愛原:「なるほど……」

 ラスボスの条件の1つに、自分でザコキャラを創り出すことができるというのがある。
 リサの場合は、保有しているTウィルスでゾンビを作れるし、Gウィルスに感染させた寄生虫もザコキャラとして使うこともできる。

 善場:「学園側と相談して、総合的な検査をしなくてはなりませんね。幸い特異菌の感染状態については、すぐに調べることができます」
 愛原:「始業式の日に一斉に行うというのは如何でしょう?検査するにしても、大量の検査キットが必要でしょうし、陽性者に対する治療薬の確保にも日数がいると思うのです」
 善場:「それは良いアイディアですね。学園側に打診してみます」

 こうして今日の調査は終わった。
 壁のことについて分かったのは1つの勝利だが、どうもミスリードさせられたような気がして仕方が無い。
 実は他にも調べる所があるのでは?
 私は探偵としての推理を働かせてみたが、しかしその『他所』がどこなのかは知らなかった。
 尚、BSAAは防空壕跡のある教室の天井やその他の床、トイレとは反対側の教室についても調査したが、結局何も見つかっていない。
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