報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「善場との話」

2022-11-08 20:25:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月16日14:00.天候:晴 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所]

 昼食が終わった後、私達は善場主任と仙台であったことの報告と、今後の動きについて話し合った。
 仙台の奥新川の研究施設で保護された少女達は、しばらく動くことはできないだろうということだ。
 また、一部は既に死亡していたコもいたらしい。
 リサと違うのは、全員の身元が判明できたことだが……。

 善場:「リサの出自についても、調べを進めて行きます。上野達夫氏は、元・日本アンブレラの主任研究員です。白井伝三郎とは同期であったと思われます」
 愛原:「既に死亡しているわけですね?」
 善場:「はい。恐らく日本のUSSあるいはUBCSみたいな連中にでしょう」
 愛原:「UBCS。USSがアンブレラ直営の警備会社で、表向き警備業務に勤しんでいたのに対し、UBCSはそんなUSSですら手に負えない汚れ役を引き受ける裏組織ですな」

 USSとは『Umbrella Security Service』の略である。
 まんま、警備会社の名前だろう。
 尚、日本の場合は日本アンブレラ100%出資の完全子会社としての警備会社であり、他の警備会社がその業務を請け負える余地など無かった。
 私がかつて勤めていた警備会社は、業界でも大手の企業ではあったが、それでも日本アンブレラの仕事など全く回ってこなかったくらいだ。
 警備会社委託とは名ばかりの、守衛制度と言って良かっただろう。
 それに対して、UBCSは……。

 愛原:「ん……?」
 善場:「どうされました?」
 愛原:「あ、いや……」

 何だろう?
 今、頭だけが重力が変わったかのような感覚を覚えた。
 しかし、それは一瞬だけだった。
 えーと……何を話していたんだったけな……?

 高橋:「先生。霧生市の時、でっかい寺に行ったじゃないですか」

 私が思い出そうとしていると、高橋が割り込むように話し掛けて来た。

 愛原:「ああ。大山寺だったっけな。それがどうした?」
 高橋:「憶えてませんか?あそこにUBCSの奴らの死体が転がってて、唯一の生き残りと会ったじゃないですか」
 愛原:「ああ、そうだった。日系アメリカ人だったかな。名前が……」
 高橋:「ジョージですよ、ジョージ。最初、在日米軍とウソついてたヤツです」
 愛原:「そういえばいたな!」
 高橋:「そいつも結局、UBCSの隊員だって分かりましたよね」
 愛原:「そうだそうだ!」
 善場:「アメリカのアンブレラ本社では、USSも会社にとって都合の悪い人物の暗殺などをやっていたそうですが、UBCSもそれをやることがあったらしいですね。で、日本ではUSSは完全にただの警備会社ですから、UBCSが裏の仕事を一手に引き受けていたようです」
 愛原:「日本でもUBCSがいたなんて、驚きでしたねぇ」

 霧生市の事件でUBCSはほぼ壊滅したそうだが、生き残りは生き残りで、BSAAに捕縛されたもようである。

 善場:「上野達夫氏の一家を襲撃したのは、このUBCSであろうと我々は見ています」
 愛原:「そうでしたか。命令したのは……」
 善場:「社長の立場としての五十嵐皓貴でしょう。もっとも、副社長の息子か、或いは研究部門統括部長だった白井かもしれませんが」
 愛原:「ふむふむ。この辺の調べについては?」
 善場:「それはこちらでやります。私共が引き続きお願いしたいのは、所長方が調査を遂行した上で知り得た内容については内密にして頂きたいのです」
 愛原:「それは当然です。我々探偵業者には、守秘義務があります」
 善場:「よろしくお願いします。リサ、あなたもですよ?」
 リサ:「大丈夫。先生の命令は絶対」
 愛原:「他にも何かお手伝いできることはありますか?」
 善場:「いくつかあるのですが、1つはリサにお願いしたいことです」
 リサ:「わたしに?」
 善場:「もっとも、リサにお願いすることです。それは学校での事になりますが、夏休み終了後になってからでしょうね」
 リサ:「あー、本当に学校のことだ」
 愛原:「一体、何ですか?一応、私もPTA会長代行なのですが……」

 あくまで、正式な会長が就任するまでの仮の役目というつもりである。
 私の場合、会長に就任できる規定を満たしていないからだ。
 会長職が何らかの理由で空席になってしまい、副会長だけではPTA活動に支障を来す恐れがあると認め得る場合にのみ、特例で規定に達していなくても会長代行者を選任することができるとされている。
 副会長が会長を兼任することは認められていない為。
 御多分に漏れず、PTA役員というのは人気が無いもので、他の役員で会長職に就任できる条件を満たしている役員がいるにも関わらず、誰も会長になりたがらないのである。
 その為、来年からは規定を撤廃し、私が正式に会長職にという声もあるくらいだ。
 規定というのは私立校ならではなもので、『寄付金の額が最も多い保護者』である。
 やはり、それだけ裕福な家庭の保護者がPTA役員、そして会長になるべきという考えからだろう。
 公立校には無い考え方だ。

 善場:「白井伝三郎が東京中央学園上野高校の卒業生で、尚且つ90年代は化学の教師をしていたのは御存知ですね?」
 愛原:「あ、はい。斉藤元社長もあそこの卒業生で、現役生だった頃、白井が引き起こした謎の現象に巻き込まれたと……」

 それで私と高橋で調査したところ、白井が専用の研究室として使用していた科学準備室の倉庫の地下に秘密の通路があって、そこを辿って行くと日本アンブレラの営業所に繋がっていたというのを突き止めた。
 もちろん、突き止めた時点で既に日本アンブレラは潰れていたから、空き事務所となっていたが。
 それで、白井が既にあの時点で日本アンブレラと関わりがあったことを突き止めたんだっけ。

 善場:「今度は違う着眼点で、調査して頂きたいのです」
 愛原:「違う着眼点?」
 善場:「はい。前回は斉藤元社長の肝煎りで調査されましたよね?」
 愛原:「ええ」
 善場:「しかし斉藤元社長も、結局は日本アンブレラの息の掛かっていた人間でした。それが所長に白井との関係を調査させたというのは、明らかに不自然です」
 愛原:「そういえばそうですね」

 どうして斉藤元社長は、ややもすれば、自分の首を絞めかねないことをさせたのだろう?
 いや、待てよ……。

 愛原:「日本アンブレラの営業所跡は見つかりましたけど、でもそこで終わってしまいました。そもそも営業所跡くらい、調べればわかることです。営業所は研究所と違って、秘密の施設でも何でも無いんですから」
 善場:「そうですね。斉藤元社長が、所長方の目を逸らす為に、あえて見当違いの調査をさせたのかもしれません。他に、白井と関係のありそうな所を調べて頂ければと思います」
 愛原:「白井と関係ありそうな所ねぇ……。リサ、心当たりあるか?」
 リサ:「うーん……“トイレの花子さん”……旧校舎?」
 愛原:「旧校舎。今は教育資料館として使用されている建物だな。俺達も入ったことがある」
 リサ:「白井が現役生だった時、まだ今の校舎は無くて旧校舎だけだったから、そこで授業を受けていた。関係があるとしたら、そこ」
 愛原:「調査を頼めるか?」
 リサ:「うん、分かった。でも、先生もPTA会長代行として協力して」
 愛原:「ん?」
 リサ:「あそこの教育資料館、普段は立入禁止だから」
 愛原:「あー、なるほど」

 生徒の立入が普段は禁止されているわけだから、それを生徒のリサが面と向かって立入を申請しても却下されること請け合いである。
 そこを、PTA会長代行の私が……ということか。
 まあ、それでも面と向かって申請したところで却下されるだろうが、そこはいい方法を考えよう。

 愛原:「もう1つ、何かありませんでしたっけ?」
 善場:「調査依頼ではないのですが……。夏休み最後の週末、所長方を御招待したい所があります。話はその時に」
 愛原:「?」

 それは一体、何だろう?
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「探偵達の帰京」 2

2022-11-08 14:46:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月16日11:39.天候:晴 東京都港区新橋 JR新橋駅・横須賀線ホーム]

 

 成田空港第2ビルから快速電車で、およそ1時間40分ほど揺られた。
 錦糸町~品川間の総武快速線・横須賀線は地下トンネルを走行する。
 つまり、私達の下車駅である新橋駅も地下にあるというわけだ。

 

〔しんばし~、新橋~。ご乗車、ありがとうございます。次は、品川に停車致します〕

 まるで地下鉄のような佇まいのホームに降り立つ。
 ここが地下鉄ではなく、JR線だということは、停車している車両や駅名看板、そしてJR駅に使われている発車メロディを聞けば分かる。

〔1番線の、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 新橋駅地下ホームではまだホームドアが無い為、電車のドアが閉まると、すぐに走り出す。
 電車が地下トンネル内で巻き起こす風で、リサの髪が靡いた。
 今はヘアピンをしているからいいが、それをしていないと前髪が顔に掛かって大変のようである。
 尚、今はデニムのショートパンツを穿いている為、強風でスカートが捲れ上がる心配は無い。

 愛原:「都内は地下も暑いねぇ……」
 高橋:「早いとこ、姉ちゃんとこの事務所に行って、涼ませてもらいましょう」

 もうすぐお昼時ではあるが、善場主任はこのまま来て欲しいということだったので、そうさせて頂くことにした。

[同日11:50.天候:晴 同地区 NPO法人デイライト東京事務所]

 高橋:「相変わらず、傘要らねーのマークが嫌味ったらしいっスね」
 愛原:「シッ。デイライトさんの成り立ちからして、それは当然だろう」

 デイライトとは日光のこと。
 元々は日本アンブレラやその他、外国法人のアンブレラコーポレーションが引き起こしたバイオハザードの鎮静化を目指す組織である。
 BSAAは国連軍の一派である為、それが日本国内で活動しようとすると、どうしても制約がある。
 その窓口となる業務を一手に引き受けるNPO法人として発足した。
 もちろんバックには日本政府の防諜機関が付いているし、善場主任を始めとする、多くの職員達がそこからの出向だとされている。
 ネーミングはアンブレラコーポレーションに対する意趣返し。
 アンブレラとは雨傘のこと。
 『世界中の人々を病気の雨から護る傘でありたい』という崇高な理念からは大きく外れた実態に対し、『日光が照らせば、雨傘など不要』という意味で付けられた。
 その為、デイライトのロゴマークは、閉じて巻かれた傘の上に太陽が重なるような物となっている。

 愛原:「こんにちは。愛原学探偵事務所です」

 雑居ビルのエレベーターに乗り、デイライトさんの入居しているフロアで降りる。
 エレベーターホールから先は、曇りガラスに覆われた壁とドアがあり、オートロックが掛かっている。
 来訪者はドアの横にある内線電話で来訪先部署に連絡し、用件を伝えなくてはならない。

 善場:「愛原所長、お待ちしておりました。どうぞ、中へ」

 カチッとドアロックが解除される音がドアノブからした。

 愛原:「失礼します」

 私は電話を切って、高橋達と共に事務所に入った。
 奥から善場主任がやってきて、応接会議室へと通してくれる。

 愛原:「今しがた、仙台より帰って参りました」
 善場:「お疲れ様でございました。愛原所長方のおかげで、事件が進展しました。ありがとうございました」
 愛原:「報告書は届きましたか?」
 善場:「はい。無事に届きました」
 愛原:「東北新幹線の方はどうですか?」
 善場:「話せば長くなるのですが、BSAAが鎮静化に当たり、今は運転を再開しております。恐らく、ヴェルトロか別のテロ組織が仕掛けた物ではないかと見られていますが、今は目下のところ調査中です」
 愛原:「そうですか」
 高橋:「それは先生を狙った犯行なのか?」
 善場:「愛原所長に限らず、皆さんを狙った犯行かもしれません。とにかく、巻き込まれては大変でしたので、緊急にルートを変更して頂きました。ありがとうございます」
 愛原:「それにしても、凄い力ですね。デイライトさんは」
 善場:「分かりますか?」
 高橋:「先生?飛行機代くらい、姉ちゃん達の組織力を持ってすればお茶の子さいさいでしょう?」
 愛原:「違うよ。デイライトさんがしたのは、そこだけじゃない。飛行機そのものを飛ばすくらいの力だ」
 高橋:「は!?」
 善場:「ふふ……。さすがです」
 リサ:「???」
 愛原:「種明かしをすると、俺達が乗った飛行機、3232便は、本来運休中なんだよ。コロナ禍で」
 高橋:「は?はあぁ!?」
 愛原:「今日だけ特別、チャーター便という形で飛ばさせたのですね?」
 善場:「よく、分かりましたね。さすがは名探偵です」
 高橋:「どういうことっスか!?」
 愛原:「後で航空会社のサイトを見るといい。あの便、『しばらくの間、運休』となっているのに、今日だけ飛ぶことになっているから」
 高橋:「え、でも、他にも客はいましたよ?」
 愛原:「夏休みの時期にしては空いていると思わなかったかい?」
 高橋:「えっ?そ、そりゃあ……。でも、それはコロナ禍だから……」 
 愛原:「チャーター便として今日だけ復活運航させるに当たり、航空会社は予約受付をしたのでしょう。それに飛びついた旅行客が、たまたまあの場にいたということですね」
 善場:「そうです。あと、東北新幹線が運転見合わせということで、代替ルートとして選択した乗客もいたはずです。航空会社では案内していましたからね」

 そうすることで、何とか乗車率……じゃなかった搭乗率50%くらいまでは確保できたのだろう。
 それにしても多い方だと思うが。
 多分、ここでは明かしていないが、他にも色々と細工したのだろうな。
 これを見ても、デイライトさんがただのNPO法人でないことが分かるのである。

 愛原:「重要なお話はこれからですね?」
 善場:「そうです。まずは、昼食をお召し上がりください。お弁当を用意させて頂きましたので」
 リサ:「おー!」
 高橋:「姉ちゃん……何か、企んでるんじゃねーのか?」
 善場:「どうですかねぇ……ふふ……」
 リサ:「おー!豚カツ弁当!」
 愛原:「仕出し弁当屋に頼んでも、1500円はする弁当だで。本当にいいんですか?」
 善場:「どうぞどうぞ。お話は、午後からにしましょう。……話が終わるまでは、このビルからは出ないでください。お手洗いや喫煙所、自販機の利用でしたら館内で完結できますので」
 高橋:「お、おい、そりゃあ……」
 愛原:「私達の身は、まだ安全じゃないってことだよ」
 高橋:「暢気に電車で移動できたのに?」
 愛原:「まさか航空機に切り替えて戻って来るとは、テロ組織も思っていないだろうから、それでここまでは電車でのんびり帰る余裕があったんだろう。だけど、今時点ではそうではなくなった。そういうことですね?」
 善場:「そんなところです」
 高橋:「ふっ。どうやらとんでもない事件に首を突っ込んじまったらしい。俺は平和な日常に戻れないかもしれん」
 愛原:「何を今さらカッコ付けてんだ。霧生市のバイオハザード事件に巻き込まれて生還した以上、もう既にそうなんだよ」
 高橋:「仰る通りですね。何しろ、化け物と一緒に暮らす時点でそうですもんね」

 高橋はリサを見ながら言った。

 リサ:「化け物じゃなーい!」

 しかし、第1形態に戻ったリサの容姿は鬼娘そのものであった。
 
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