[8月27日18:15.天候:晴 東京都港区海岸 シンフォニークルーズ待合所]
ホテルの前から、迎えの車に乗った。
黒塗りのアルファードなのは、いつも通りである。
運転席には善場主任の部下らしき男性が、黒スーツ姿で乗っていた。
黒スーツは着ているが、ノーネクタイではある。
思えば、主任もそうだった。
愛原:「主任、暑くないのですか?」
私は助手席に座っている主任に聞いた。
善場:「そうですね……。暑いと言えば暑いですが、もう慣れましたね」
愛原:「そうですか……。私達だけ、何だかラフな格好で申し訳ないですね」
善場:「いえ、構いませんよ」
私は水色のカジュアル半袖シャツだし、高橋は赤が目立つアロハシャツ。
リサはノースリーブの白いTシャツ(“バイオザードシリーズ”のマーク入り)と、黒いプリーツスカート(デニム生地)を穿いている。
下には黒いスパッツを穿いていたのだが、紺色のブルマに穿き替えた。
理由は不明。
多分、私を意識してのことだろうが……。
部下:「まもなく到着です」
夕焼けに染まる東京湾に面した日の出埠頭。
そこに車は到着した。
車を降りて、待合所の中に入る。
ホテルのエントランスのようだったが、中は椅子が並んでいて、そこは空港の出発ロビーのようだった。
善場:「ちょっと、ここでお待ちください」
主任はそう言って、案内窓口の方に行った。
リサ:「何だか凄いね……」
愛原:「まるで、顕正号に乗り込む時の……様子……」
私の頭にフラッシュバックが起きた。
前回みたいな激しい頭痛ではなかったが、しかし物凄い違和感があった。
リサ:「先生を顕正号に誘ったのは、わたしじゃなく、『1番』だよ。それに、白井が乗っかっただけで……」
愛原:「それは分かっている」
まるでリサは全く関わらなかったかのような言い方だが、元はと言えばリサが計画した話だったのを、『1番』達が横取りした形だと言うことも判明している。
しかし、何だろう?
似たような桟橋だからだろうか?
私は、ここからも豪華客船に乗ったような気がしてならないのだ。
東京港からなら、八丈島行きの船に乗ったことはある。
これはハッキリと覚えている。
だが、どうしてだ?
実際は横浜の大さん橋から乗ったはずなのに、ここからも豪華客船に乗った気がするのは……。
高橋:「先生。具合が悪いのでしたら、やっぱり帰りましょう」
愛原:「い、いや、大丈夫だ……」
私は心配する高橋を制した。
[同日18:50.天候:晴 シーライン東京“シンフォニーモデルナ”船内]
10分前に乗船案内の放送が鳴ると、私達は早速船に向かった。
船は昼間に乗った東京湾フェリーと、同じくらいの大きさだろうか。
しかし、あちらは車も乗せて航行する“フェリーボート”なのに対し、こちらは本当に旅客しか乗せない“クルーザー”なのである。
つまり、同じような大きさなら、車を載せる部分も客室として使用できるこちらの船の方が定員は大きいということになる。
高橋:「モデルナなんて、まるでコロナワクチンの名前みたいっスね」
愛原:「あれはワクチンの名前じゃなくて、ワクチンメーカーの名前だろ」
高橋:「それもそうっスね」
私達のディナープランは、予定通り、バイキングであった。
船は4層構造になっていて、私達のプランは3階である。
いつもそうであるわけではなく、プランの参加人数とかで決まるらしい。
リサ:「ローストビーフがあるー!」
愛原:「食べ放題だからって、食べ過ぎはダメだぞ」
もっとも、リサにそのような注意は果たして効くものなのかどうか……。
尚、4階のオープンデッキには出入り自由らしい。
私も寿司などを皿に取って、テーブルで舌鼓を打つ。
善場:「どうですか?お味の方は……」
愛原:「いやあ、こういう豪華な船で食べるバイキングも格別ですねぇ!」
善場:「それは良かったです。19時出港の、21時半帰港ですから、それまで食べ放題です」
愛原:「リサはともかく、私はそこまで食べ切れるかなぁ……」
善場:「その時は、船旅を楽しむという形でも良いわけですよ」
愛原:「なるほど!」
善場:「私も、お話がありますので……」
愛原:「お話?」
高橋:「……!」
それから小一時間ほどは、飲食を楽しんだ。
善場:「本題は、ここから入ります」
20時ぐらいに、私と主任は、船内のバーに移動した。
高橋とリサの同行を、主任は許さなかった。
善場:「所長は、顕正号にご乗船されたことがあるのですよね?」
愛原:「はい」
善場:「しかし、詳しいことを思い出そうとすると、激しい頭痛が起こる?」
愛原:「そうなんです」
善場:「こちらの調査で明らかになったことをお話しします。もしも途中で具合が悪くなった場合は、すぐに仰ってください」
愛原:「は、はい」
善場:「まず……所長は顕正号に高橋助手と高野芽衣子と乗船されたのですね?」
愛原:「はい」
善場:「そして一泊して、翌朝目が覚めたら、船内でバイオハザードが発生していて、それで避難している最中に転倒して頭を打ち、意識を失われた……と?」
愛原:「はい」
善場:「そして気が付いたら、病院だったわけですね?」
愛原:「そうです」
善場:「……そうですか。そして高橋助手は、その後、意識の無くなった愛原所長を連れて船内を逃げまどい、最後にはBSAAに救助されたということですね?」
愛原:「そうです」
善場:「……まず、皆さんが救助されたのは、正信号です」
愛原:「は!?」
善場:「顕正号ではありません」
愛原:「え?え?え?」
善場:「しかも正信号は、この日の出桟橋から出ています。横浜の大さん橋ではありません」
愛原:「は?え!?」
善場:「私は高橋助手が怪しいと思います。帰港次第、連行しますが、宜しいですね?」
愛原:「ちょ、ちょっと待ってください!どうして、高橋が怪しいんですか!?」
善場:「愛原所長がこの船に乗ることを嫌がっていました」
愛原:「それは、私の具合を心配してくれたのでは?」
善場:「私はそうは思いません。エイダ・ウォンのコピーであった高野芽衣子といい、高橋助手も怪しいと思うのです」
愛原:「私の記憶は、どういうことなんでしょうか?」
善場:「恐らく、操作されたのでしょうね。どこかの組織が、愛原所長の特殊性に気づいて、調査しようとした。奇しくも顕正号に乗船する機会が訪れた。そして、顕正号には同一設計の姉妹船、正信号があります。所長は本当は、日の出桟橋から正信号に乗られたのです。そして、その船では何もありませんでした。しかし、あなたのことを調べる為に、正信号から顕正号へと移したのでしょう。そこで記憶を操作し、あたかもバイオハザード発生時における避難中の事故ということにした、と.……」
愛原:「で、でも、顕正号でバイオハザードが起きたのは本当なんですよね?」
善場:「それは本当です。でも、あなた達は実際には巻き込まれなかったのだと思います。何せ、ゾンビが発生したのは客室上階エリアのみ。あとは船橋とか船尾・船首甲板とか、その辺りです。地下研究施設があった船底部分では、何も起こっておりません」
愛原:「そ、そんな……。私は、死んだのでしょうか?」
善場:「死んでは、いませんよ。ただ、実験とかの後遺症はあったでしょうけどね。考えてもみてください。所長が記憶がハッキリした時、あなたは何をしていましたか?」
愛原:「……豊洲の寿司屋で、くだを巻いてました」
善場:「病院から抜け出して、ですね。でも、あなたが入院していた病院なんて無いんですよ」
愛原:「は?」
善場:「つまり所長は、どこかの研究施設から、あたかもあなたが病院から抜け出した形にして、あそこの寿司屋に入店させたのです。そして、頃合いをみて高橋助手が話し掛けた……そんなところでしょう」
愛原:「私の前の事務所とかを破壊したのは……」
善場:「“青いアンブレラ”だと思っています。あなたが、高野芽衣子と呼ぶエイダ・ウォンのコピーが所属している……ですね」
愛原:「……!……!!」
善場:「詳しい話は、またにしましょう。これ以上は、愛原所長の脳に悪いので……」
私はカクテルの入ったグラスを呆然と眺めていた。
ホテルの前から、迎えの車に乗った。
黒塗りのアルファードなのは、いつも通りである。
運転席には善場主任の部下らしき男性が、黒スーツ姿で乗っていた。
黒スーツは着ているが、ノーネクタイではある。
思えば、主任もそうだった。
愛原:「主任、暑くないのですか?」
私は助手席に座っている主任に聞いた。
善場:「そうですね……。暑いと言えば暑いですが、もう慣れましたね」
愛原:「そうですか……。私達だけ、何だかラフな格好で申し訳ないですね」
善場:「いえ、構いませんよ」
私は水色のカジュアル半袖シャツだし、高橋は赤が目立つアロハシャツ。
リサはノースリーブの白いTシャツ(“バイオザードシリーズ”のマーク入り)と、黒いプリーツスカート(デニム生地)を穿いている。
下には黒いスパッツを穿いていたのだが、紺色のブルマに穿き替えた。
理由は不明。
多分、私を意識してのことだろうが……。
部下:「まもなく到着です」
夕焼けに染まる東京湾に面した日の出埠頭。
そこに車は到着した。
車を降りて、待合所の中に入る。
ホテルのエントランスのようだったが、中は椅子が並んでいて、そこは空港の出発ロビーのようだった。
善場:「ちょっと、ここでお待ちください」
主任はそう言って、案内窓口の方に行った。
リサ:「何だか凄いね……」
愛原:「まるで、顕正号に乗り込む時の……様子……」
私の頭にフラッシュバックが起きた。
前回みたいな激しい頭痛ではなかったが、しかし物凄い違和感があった。
リサ:「先生を顕正号に誘ったのは、わたしじゃなく、『1番』だよ。それに、白井が乗っかっただけで……」
愛原:「それは分かっている」
まるでリサは全く関わらなかったかのような言い方だが、元はと言えばリサが計画した話だったのを、『1番』達が横取りした形だと言うことも判明している。
しかし、何だろう?
似たような桟橋だからだろうか?
私は、ここからも豪華客船に乗ったような気がしてならないのだ。
東京港からなら、八丈島行きの船に乗ったことはある。
これはハッキリと覚えている。
だが、どうしてだ?
実際は横浜の大さん橋から乗ったはずなのに、ここからも豪華客船に乗った気がするのは……。
高橋:「先生。具合が悪いのでしたら、やっぱり帰りましょう」
愛原:「い、いや、大丈夫だ……」
私は心配する高橋を制した。
[同日18:50.天候:晴 シーライン東京“シンフォニーモデルナ”船内]
10分前に乗船案内の放送が鳴ると、私達は早速船に向かった。
船は昼間に乗った東京湾フェリーと、同じくらいの大きさだろうか。
しかし、あちらは車も乗せて航行する“フェリーボート”なのに対し、こちらは本当に旅客しか乗せない“クルーザー”なのである。
つまり、同じような大きさなら、車を載せる部分も客室として使用できるこちらの船の方が定員は大きいということになる。
高橋:「モデルナなんて、まるでコロナワクチンの名前みたいっスね」
愛原:「あれはワクチンの名前じゃなくて、ワクチンメーカーの名前だろ」
高橋:「それもそうっスね」
私達のディナープランは、予定通り、バイキングであった。
船は4層構造になっていて、私達のプランは3階である。
いつもそうであるわけではなく、プランの参加人数とかで決まるらしい。
リサ:「ローストビーフがあるー!」
愛原:「食べ放題だからって、食べ過ぎはダメだぞ」
もっとも、リサにそのような注意は果たして効くものなのかどうか……。
尚、4階のオープンデッキには出入り自由らしい。
私も寿司などを皿に取って、テーブルで舌鼓を打つ。
善場:「どうですか?お味の方は……」
愛原:「いやあ、こういう豪華な船で食べるバイキングも格別ですねぇ!」
善場:「それは良かったです。19時出港の、21時半帰港ですから、それまで食べ放題です」
愛原:「リサはともかく、私はそこまで食べ切れるかなぁ……」
善場:「その時は、船旅を楽しむという形でも良いわけですよ」
愛原:「なるほど!」
善場:「私も、お話がありますので……」
愛原:「お話?」
高橋:「……!」
それから小一時間ほどは、飲食を楽しんだ。
善場:「本題は、ここから入ります」
20時ぐらいに、私と主任は、船内のバーに移動した。
高橋とリサの同行を、主任は許さなかった。
善場:「所長は、顕正号にご乗船されたことがあるのですよね?」
愛原:「はい」
善場:「しかし、詳しいことを思い出そうとすると、激しい頭痛が起こる?」
愛原:「そうなんです」
善場:「こちらの調査で明らかになったことをお話しします。もしも途中で具合が悪くなった場合は、すぐに仰ってください」
愛原:「は、はい」
善場:「まず……所長は顕正号に高橋助手と高野芽衣子と乗船されたのですね?」
愛原:「はい」
善場:「そして一泊して、翌朝目が覚めたら、船内でバイオハザードが発生していて、それで避難している最中に転倒して頭を打ち、意識を失われた……と?」
愛原:「はい」
善場:「そして気が付いたら、病院だったわけですね?」
愛原:「そうです」
善場:「……そうですか。そして高橋助手は、その後、意識の無くなった愛原所長を連れて船内を逃げまどい、最後にはBSAAに救助されたということですね?」
愛原:「そうです」
善場:「……まず、皆さんが救助されたのは、正信号です」
愛原:「は!?」
善場:「顕正号ではありません」
愛原:「え?え?え?」
善場:「しかも正信号は、この日の出桟橋から出ています。横浜の大さん橋ではありません」
愛原:「は?え!?」
善場:「私は高橋助手が怪しいと思います。帰港次第、連行しますが、宜しいですね?」
愛原:「ちょ、ちょっと待ってください!どうして、高橋が怪しいんですか!?」
善場:「愛原所長がこの船に乗ることを嫌がっていました」
愛原:「それは、私の具合を心配してくれたのでは?」
善場:「私はそうは思いません。エイダ・ウォンのコピーであった高野芽衣子といい、高橋助手も怪しいと思うのです」
愛原:「私の記憶は、どういうことなんでしょうか?」
善場:「恐らく、操作されたのでしょうね。どこかの組織が、愛原所長の特殊性に気づいて、調査しようとした。奇しくも顕正号に乗船する機会が訪れた。そして、顕正号には同一設計の姉妹船、正信号があります。所長は本当は、日の出桟橋から正信号に乗られたのです。そして、その船では何もありませんでした。しかし、あなたのことを調べる為に、正信号から顕正号へと移したのでしょう。そこで記憶を操作し、あたかもバイオハザード発生時における避難中の事故ということにした、と.……」
愛原:「で、でも、顕正号でバイオハザードが起きたのは本当なんですよね?」
善場:「それは本当です。でも、あなた達は実際には巻き込まれなかったのだと思います。何せ、ゾンビが発生したのは客室上階エリアのみ。あとは船橋とか船尾・船首甲板とか、その辺りです。地下研究施設があった船底部分では、何も起こっておりません」
愛原:「そ、そんな……。私は、死んだのでしょうか?」
善場:「死んでは、いませんよ。ただ、実験とかの後遺症はあったでしょうけどね。考えてもみてください。所長が記憶がハッキリした時、あなたは何をしていましたか?」
愛原:「……豊洲の寿司屋で、くだを巻いてました」
善場:「病院から抜け出して、ですね。でも、あなたが入院していた病院なんて無いんですよ」
愛原:「は?」
善場:「つまり所長は、どこかの研究施設から、あたかもあなたが病院から抜け出した形にして、あそこの寿司屋に入店させたのです。そして、頃合いをみて高橋助手が話し掛けた……そんなところでしょう」
愛原:「私の前の事務所とかを破壊したのは……」
善場:「“青いアンブレラ”だと思っています。あなたが、高野芽衣子と呼ぶエイダ・ウォンのコピーが所属している……ですね」
愛原:「……!……!!」
善場:「詳しい話は、またにしましょう。これ以上は、愛原所長の脳に悪いので……」
私はカクテルの入ったグラスを呆然と眺めていた。