報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「謎と闇の東京中央学園」 3

2022-11-17 14:36:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月24日10:00.天候:晴 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校・旧校舎]

 私の名前は愛原学。
 今日はNPO法人デイライトの善場主任達と一緒に、東京中央学園にいる。
 警察やBSAAの規制線は解かれたが、学園側は、これまで導入していた機械警備にプラスして、常駐の警備員を配置することにした。
 こうすることで、旧校舎への侵入者を防ぐ狙いがあると。
 もっとも、民間の警備業者など、BSAAが本気で侵入しようとすれば、死体が増えるだけなのだがな。
 普段はそれでも絶対に入れない警備員達も、さすがに国家権力が発動されたとあらば、ドアを開けざるを得なかった。
 そう、これは国家権力の発動なのである。
 令状を持った善場主任が部下数名と、私とリサを連れ、例の壁を調査することになったのだ。
 午前10時という真っ昼間。
 しかも、天候は良好。
 木造校舎に差し込む夏の日差しは、どこか懐かしい思いを醸し出してくれる。
 だが、例の壁は日の当たらない所にあるのだ。

 愛原:「“花子さん”がいなくなってから、随分と雰囲気が明るくなったような……?」
 リサ:「先生も分かる?」
 愛原:「何となくな」

 この旧校舎の怪現象を担っていた『表の大ボス』、“トイレの花子さん”はここから去った。
 しかし、壁の向こうには『裏の大ボス』がいるかもしれないのだ。

 リサ:「ここだよ。これが、その壁」

 件の現場は薄暗いので、善場主任達はマグライトを持っている。

 リサ:「ここの壁だけ、周りよりも新しいでしょ?」
 善場:「分かりました。どうやら、隠し部屋は例のトイレだけではなかったようですね」

 実際、正面玄関からここまで歩いて来たが、確かにBSAAが突入した形跡なんてまるで無かった。

 善場:「皆さん、耐火服に着替えてください」
 愛原:「こんな真夏に、耐火服を着なくてはならないとは……」
 善場:「黒焦げの遺体になりたくなかったら、着なくても結構ですよ?」
 愛原:「わ、分かりましたよ。き、着ますよ」

 その時だった。

 ???:「くすくす……」

 どこからか、笑い声のようなものが聞こえた。
 それは数秒の間だけで、微かに聞こえただけであった。

 リサ:「……“花子”……さん?」

 リサがそう言った。

 愛原:「やっぱりリサも聞こえたのか?」
 リサ:「う、うん。何だか、“花子さん”の声に聞こえた」
 愛原:「善場主任……」
 善場:「今のは悪戯っぽい笑い方でした。恐らく、私達の努力を嘲笑っているのでしょう」
 愛原:「つまり、『こんな耐火服来たって無意味だよ』と?」
 善場:「その可能性もあります」
 愛原:「ど、どうするんですか?」
 善場:「もちろん、続けます」

 善場主任達の作戦はこうである。
 件の壁に、プラスチック爆弾を仕掛ける。
 軍隊でも使われるC-4爆弾である。
 しかし、使用するのは少量である。
 ヘタすると、この建物ごと爆破しかねないため。
 爆弾を仕掛けて、私達は離れた所からそれを起爆する。
 もしも壁の向こう側から攻撃されたとしても、離れていれば直撃を避けられる。
 そう思ったのだ。
 思えば、6話目の語り部も、韓国BSAAも直接壁を破壊しようとして、謎の黒焦げ死体になったのだ。
 それならば、離れた所から破壊すれば良い。
 こういう考えだ。
 善場主任達は爆弾を壁に設置した。

 部下:「主任。カウントダウンは如何致しましょう?」
 善場:「ここから玄関の外までは、どのくらい掛かるかしら?」
 部下:「は、1分ほどあれば十分かと」
 愛原:「建物の外にまで出るんですか?」
 善場:「はい。“トイレの花子さん”の例を取ると、『物の怪』には決められたテリトリーがあるようです。つまり、テリトリー外には手出しができないということです。そこがBOWと違う所ですね」
 リサ:「うん」

 部下は爆弾を仕掛けると、カウントダウンのスイッチを入れた。
 それは60秒になっている。

 部下:「起動しました!急いで館外へ!」

 小数点第二位まであるカウンター。
 小数点以下だけを見ると、物凄い勢いでカウントダウンが始まっているように見える。

 愛原:「はいっ!」

 私達は動きにくい耐火服を着たまま、正面玄関に走った。
 だが、私は何者かに足を掴まれて転倒した。
 私の足を掴んだ物は、リサの触手に似ていた。

 愛原:「リサ!フザけるな……って、ええっ!?」

 だが、リサはフザけてなど無かった。
 そのリサも、別の者の触手に足を掴まれていたからである。
 そして、その触手は壁から生えていた。
 どんどんカウントダウンが進んで行く。
 この触手を何とかしなければ、爆発に巻き込まれてしまう!
 まさか、6話目の語り部や韓国BSAAもこれにやられたのだろうか?
 そう思っていると、壁の中から、何者かが現れた。
 それは黒いワンピースを着た、10歳くらいの少女だった。
 宙に浮いていて、しかも体が透けている。
 幽霊なのか!?
 しかし、私には見覚えがあった。
 資料映像で観た、特異菌BOWのエブリンに酷似していた。
 そのエブリンらしき少女は、スーッとリサに近づくと、こう言った。

 エブリン?:「死んじゃえ。旧型ウィルスのオバハン」
 リサ:「きさまァ……!!」

 リサは両手の爪を長く鋭く伸ばし、牙を剥き出してエブリンを睨み付け、爪で引き裂こうとしたが、体が透けているエブリンに対しては空を切る形となってしまった。
 リサの両手の平から、触手が伸びている。
 あの触手は捕食相手の血液や老廃物を吸収したり、遠くの物を掴んだりするのに使われる。
 その時、善場主任が大きな声で言った。

 善場:「リサ、その触手で爆弾を外して、外に投げて!!」
 リサ:「! そ、そうか!」

 リサは両手から触手を伸ばした。
 そして、壁に取り付けられた爆弾を外すと、壁の隣の男子トイレに放り込んだ。
 直後、爆発が起きてガラスの割れる音、トイレのドアが吹き飛ぶ音が聞こえた。

 エブリン?:「あーあ。ザンネン……」

 エブリンと思しき幽霊?は、肩を竦ませて消えて行った。

 リサ:「ま、待て!こら!」

 だが、同時に私達を掴んでいた触手も消えた。

 愛原:「た、助かったのか……」
 善場:「とんだ失敗でした。まさか、こんなオカルトな事態になろうとは……」
 リサ:「“花子さん”がいなくなって、別の幽霊が現れたのは分かるけど、何でエブリン?」
 愛原:「それな!」
 部下:「如何致します?一応、予備の爆弾はありますが……」
 善場:「作戦は中止です。この事は、上に報告します」
 部下:「幽霊が現れて、作戦を妨害されたと報告するんですか?」
 善場:「嘘を報告するわけにはいかないでしょう。幸い、ボディカメラはあります。そして、私達はこうして無事です」
 部下:「はっ」

 その時、リサが隣のトイレを覗き込んだ。

 リサ:「うわ、メチャクチャ……」
 愛原:「そりゃ、爆弾が爆発したんだからな。あまり動き回るな」

 しかし、リサは何か見つけた。

 リサ:「ねぇ、こっち!穴が開いてる!」
 愛原:「なにっ!?」
 リサ:「壁の向こう側の空間に行けるよ!」

 どうやら爆発の衝撃で、トイレの壁に穴が開いたらしい。
 それは、私達が行こうとした壁の向こう側の空間に通じる壁であった。

 善場:「分かりました。壁の穴の中を確認してから、引き上げましょう」

 取りあえず、さすがに邪魔な耐火服は脱ぐことになった。

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