報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋無き後の探偵達」

2022-11-26 20:13:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月27日23:00.天候:雨 東京都中央区銀座8丁目 銀座グランドホテル]

 リサ:「先生、お風呂出たよ」

 そう言って、リサはバスルームから出てきた。
 部屋備え付けのルームウェアを着ている。

 愛原:「ああ、分かった」
 リサ:「先生、先に入って良かったのに……。そしたらわたし、先生の残り湯に浸かるのに……」
 愛原:「あー……そうだな。うん、悪かった」

 私はリサの半分冗談、半分本気とも言えるセリフに対して上の空だった。
 高橋がいなくなった今、事務所のことをどうしようかと思っていたからだ。
 むしろ、生活全般に対して高橋に頼っていた部分があったので、それも痛手であった。
 私はバスルームに向かうと、入浴の準備を始めた。
 デラックスツインルームでは、ビジネスホテルのバスルームのような、ユニットバスではない。
 浴室は家のそれのように、ちゃんと洗い場が付いているタイプであった。
 先に体を洗って、それからリサが入った後のお湯に浸かる。

 愛原:「これからどうしよう……」

 今後の不安がつきまとう。
 最初は私が1人で探偵をやっていた。
 それがいつしか高橋が助手として加わり、高野君が事務員として加わり、そしてリサが……。
 もう、専用の事務所は必要ないのかもしれない。
 当初はアパートの部屋兼事務所でやっていたのだから。
 その時、バスルームのドアに人影が……。
 まさか、リサか!?

 リサ:「ねえ、先生」
 愛原:「リサ!?入って来なくていいぞ!」
 リサ:「お兄ちゃんの代わりに背中を流してあげたいところだけど……」
 愛原:「今、ちょっと考えごとしてるんだ!気持ちはありがたいが、また後にしてくれ!」
 リサ:「分かったよ。それでね、先生。ちょっと、飲み物買いに行っていい?」
 愛原:「飲み物!?」
 リサ:「全く買わなかったでしょ?というか、買いに行くヒマが無かった」
 愛原:「あー、そうだな……。こんな高級ホテルの中に、自販機なんてあるか?」
 リサ:「コンビニがあるんだって。ファミマ。そこに行って買って来る」
 愛原:「そ、そうか」
 リサ:「ホテルの外に出なければいいんだよね?」
 愛原:「そう、だな.…。あれだぞ?カードキー持って行けよ。確か、2枚もらったはずだから」

 ケースは1つだけだったが、カードキーは2枚入っていた。
 恐らく、3人で泊まるので、予備に1枚入れてくれたのだろう。
 さすがに、日本アンブレラのゴールドカードキーでは開かないだろう。

 リサ:「分かった」
 愛原:「部屋着のままじゃ行けないから、着替えて行けよ?」
 リサ:「分かってるよ」

 そこまで言って、リサの影は無くなった。
 リサの年齢ではビールは買えないだろうから、ジュースか何かになるか。
 まあ、いいや。
 さすがに3LDKに2人で住むのは広いよな。
 いや、事務所を畳んでマンションの部屋に集約するか……。
 どうしよう……。

[同日23:30.天候:雨 同ホテル]

 バスルームから出て、私は部屋に入った。
 この時、既にリサは帰っていた。

 リサ:「先生、飲み物は冷蔵庫に入れておいた」
 愛原:「ありがとう」

 リサはミニッツメイドのオレンジジュースを飲んでいる。
 他にも、お菓子を買っていたようだ。
 冷蔵庫を開けると、やはりビールとかではなく、三ツ矢サイダーが入っていた。
 まあ、いいか。

 愛原:「寝る前からお菓子か……」
 リサ:「ちゃんと、歯は磨くから」
 愛原:「ああ。そうしてくれ」
 リサ:「……これからどうするの?」
 愛原:「まだ、考え中だ。リサは、どうしたらいいと思う?」
 リサ:「わたしは先生のお世話になっている身だから、先生の決めた事に従う」
 愛原:「そうか……」
 リサ:「でももし引っ越すんだとしたら、なるべく転校したくないし、するならエレンの所がいい」
 愛原:「さすがに沖縄に転校は遠いな……。大丈夫だよ。善場主任が何も言ってこない限り、お前が転校することはないよ」
 リサ:「うん……良かった」
 愛原:「大学に行きたいんだって?」
 リサ:「東京中央学園大学。都内の他、埼玉にもキャンパスがあるみたいだね」
 愛原:「そうなのか……」
 リサ:「まあ、もう少し先」
 愛原:「まあな。確か、栗原蓮華もそこに行くとか言ってなかったっけ」
 リサ:「鬼斬り先輩は多分、通信制だと思うね」
 愛原:「そうなのか?」
 リサ:「東京中央学園大には通信制もあるから」
 愛原:「ふーん……」

 そういう他愛も無い話をしていると、少し気が和らいできた。
 もしかしたらリサ、これを狙って関係の無い話をしてくれたのかもしれない。

 リサ:「お兄ちゃんがいなくなって寂しいのは、わたしも同じ。エレンが遠くに行っちゃって、高野お姉ちゃんも遠くに行っちゃって、お兄ちゃんも遠くに行っちゃった。これで先生も遠くに行っちゃうと、わたし、居場所無くなっちゃう……」
 愛原:「俺は遠くに行かないよ。俺の方こそ、リサもいなくなったら、寂しくてしょうがない」
 リサ:「一緒だね。ねえ、先生。一緒に寝る?ベッド、広いでしょ?」
 愛原:「さすがにそれはマズい。俺達のこと、デイライトやBSAAが監視してるかもしれないのに」
 リサ:「GPSで居場所は監視してると思うけど、部屋の中までは見てないでしょ?」
 愛原:「いや、分からんぞ。さっさと寝た方がいいかもしれない」
 リサ:「むー……。じゃあ、そっちのベッドで寝ていい?」

 リサはエキストラベッドではなく、私の隣のベッドを指さした。
 そこは本当なら、高橋が寝る所であった。

 愛原:「あー……うん。まあ、そこならいいか」

 まさかいきなり高橋が戻ってきて、『今までのことはドッキリでしたw』なんてことはあるまい。

 リサ:「おー!」

 リサは再びベッドにダイブした。
 ウェアの裾がまくれて、黒いショーツが丸見えになるが、リサは気にせず、裾を直した。

 愛原:「寝る前に、歯ぁ磨いてこい」
 リサ:「そうだった」

 リサは自分の頭をポンと叩いて起き上がると、バスルームに向かった。
 まだリサがいるうちは、何とかなりそう気がした。
 ……が、とはいえ、このままでは現実逃避しているだけだ。
 何とかしなければ……。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の逃亡」

2022-11-26 15:14:04 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月27日21:00.天候:曇 東京都内東京湾上 シンフォニークルーズ“シンフォニーモデルナ”船内]

 私は善場主任から、突拍子もない話を聞かされた。
 高野芽衣子君がエイダ・ウォンのコピーで、更には高橋もまた、何か秘密を握っている人物だったとは……。
 私が呆然している間、善場主任は自分のカクテルグラスを口に運びながら、私が落ち着くのを待っていてくれた。

 愛原:「高橋は……逮捕されるのでしょうか?」
 善場:「容疑が固まり次第、ですね。ただ、今は任意で事情を聞かせて頂く事になると思います。今度は、エイダ・ウォンコピーのようには行きませんよ」
 愛原:「そんなことは……」

 その時だった。

 リサ:「先生!大変!お兄ちゃんが海に飛び込んだーっ!」

 リサがバーに飛び込んで来た。

 愛原:「はあーっ!?」
 善場:「!!!」

 私と主任はバーを飛び出した。

 善場:「どこから飛び込んだの!?」
 リサ:「あっち!」

 リサが指さした方向へ走る。
 そこは2階の船室“プレリュード”という所を突き抜けた、船尾甲板であった。
 そこへ行くと、どうやら仲間がいるらしく、海に飛び込んだ高橋を別のタグボートが来て、引き上げる所だった。
 夏の東京湾だから、飛び込んでもそんなに海水温は低くないし、それに、彼はライフジャケットを着ていた。
 どうやら、この船にあった物を無断拝借したらしい。

 愛原:「高橋!!どこへ行くんだ!?」

 私は夜の東京湾に向かって叫んだ。
 だが、恐らく聞こえてはいまい。
 船尾だとスクリューなどの音が響くし、向こうのタグボードもエンジン音が響いているだろう。

 善場:「至急!至急!こちら、『0番』!直ちに出動を請う!場所は東京湾!目標は……」

 主任はスマホではなく、インカムを使って連絡していた。
 どうやら、BSAAに出動要請をしているようだ。
 BSAA日本地区本部は、日本の自衛隊駐屯地を間借りしている形になる。
 間借りなので、いつも同じ駐屯地にいるとは限らない。
 場合によっては、在日米軍の基地を間借りすることもあるようだ(主に、北米支部と何か合同で動く場合など)。

 善場:「今、BSAAに緊急出動を要請しました!幸い今、陸上自衛隊朝霞駐屯地に間借りしているようなので、すぐにヘリで飛んで来てくれるとのことです!」
 愛原:「マジですか……」

 善場主任の鶴の一声でBSAAが出動するなんて、高橋の奴……相当ヤバいことをしたのか?
 ところが、その後、主任のスマホに電話が掛かって来た。

 善場:「……何ですって!?」

 ちょうど今、朝霞駐屯地では夜間訓練を行っており、出動するに足るハッキリとした理由が無いと、その夜間訓練を休止させてまでヘリを飛ばすことができないという。
 例えばリサが暴走した場合は、BSAAのレーダーにも反応するので、それを自衛隊にも確認してもらって、訓練休止にしてもらうということができる。
 しかし今、ただ単に怪しいというだけで、逃げた高橋を追う為だけにそんなことはできないというのだ。
 善場主任の本当の所属先は、日本政府の防諜機関ではあるようだが、防衛省というわけではないようだ。
 日本の公務員は、省庁が違えば【お察しください】。

 善場:「仕方が無いので警察に……」
 愛原:「待ってください。ここは東京湾、つまり海ですから、海上保安庁なのではないですか?」
 善場:「えーと……それはですね……えぇ……」

 善場主任も混乱した。
 まさか、BSAAに出動を断られるとは思ってもみなかったのだろう。
 心なしか、善場主任の顔が紅潮するだけでなく、血管も浮き上がっているように見えた。
 この辺り、まだ完全に人間に戻り切れていない名残が出るのだろう。

 善場:「と、とにかく、デイライト本部に連絡して指示を仰ぎます」

 主任は、船が日の出桟橋に着岸するまで、ずっと電話しっ放しだった。
 関係各所に連絡するので、大忙しなのだろう。
 この船の実害としては、ライフジャケットを1つ盗られただけのようであるが……。

[同日22:15.天候:曇 東京都中央区銀座8丁目 銀座グランドホテル]

 船が日の出桟橋に戻ると、私達は車でホテルに戻った。
 そこには高橋の荷物が放置されているので、それを押収しようというのである。

 愛原:「これが、高橋の荷物です」

 私は室内にあった高橋のバッグを指さした。

 善場:「確認します」

 室内には善場主任の他、黒スーツの男性部下数名もいる。
 しかし、高橋のバッグからは、特段怪しい物は見つからなかった。

 善場:「取りあえず、この荷物はお預かりします。もしも高橋容疑者から連絡があったら、すぐに教えてください」
 愛原:「分かりました」

 このホテルにチェックインした後、部屋に入ってから30分しか経っていないし、私は高橋と同じ部屋にいた。
 そして、あいつが何か怪しげな行動をしている所も見ていない。

 善場:「取りあえず、今夜はこのホテルでお休みください」
 愛原:「明日はどうしたら良いですか?」
 善場:「ホテルをチェックアウトしたら、そのまま帰宅して頂いて結構です。もしかしたら、所長のマンションや事務所に現れるかもしれませんので」
 愛原:「分かりました」

 善場主任達は、部屋を出て行った。
 私は室内のソファに座って、頭を抱えた。

 愛原:「マジか……」
 リサ:「先生……。お茶……入れるね」
 愛原:「ああ……」

 リサはティーサーバーに水を入れようと、バスルームに向かった。

 リサ:「あっ!」

 そこでリサ、何かに気づく。

 愛原:「どうした?」
 リサ:「バスルームに先生やお兄ちゃんの水着、干してあるんだった!」
 愛原:「あっ、そうか!」

 昼間、富津市の市民プールに入ったので、水着をバスルームで乾かしていたんだった。
 リサは窓際に掛けていたが、まだ乾いていないようだ。
 それは私や高橋の水着もそうだった。
 冬の乾燥した季節ならまだしも、夏のジメジメした季節では、なかなか乾かないだろう。

 愛原:「さすがに、高橋の水着には怪しいところは無ェべ……」

 高橋の水着は、サーフパンツだった。
 今時流行りのデザインである。
 これも、特段怪しい所は無い。
 さすがに入浴する際に邪魔になるので、室内に戻しておくか……ん?

 愛原:「高橋の奴、こんな無駄なことをするかな?」

 ホテルにチェックインしてから、入浴するまでは数時間しかない。
 その間に、いくら換気扇を回しているからといって、バスルームに干しておくのって正しいのかな?
 だったら、まだリサのように、エアコンの風が当たる場所に干した方が良いのではないだろうか?
 私はバスルームの中を探した。
 だが、中には特段怪しいものはなかった。
 私の思い過ごしだったのだろうか?

 愛原:「…………」

 私も高橋に勧められて、サーフパンツを買わされた。
 サーフパンツには、ポケットが付いている。
 その中を探してみた。
 高橋のパンツには何も無かったが、私のパンツのポケットには……。

 愛原:「マジか……」

 入れた覚えのないUSBメモリーがあった。
 あいにくと、今はノートPCを持って来ていない。
 明日、家に帰ってから確認するとしよう。
 新橋だから、別にタクシーを飛ばせば菊川まで難無く帰れるのだが、このホテルに泊まることは善場主任の指示なので、致し方無い。
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