報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜都営地下鉄新宿線〜」

2016-10-23 22:47:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日18:29.天候:晴 JR中央線特急“あずさ”26号・8号車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、新宿、新宿。お出口は、右側です。……〕

 稲生は恐らく寝ているであろうイリーナを起こす為に、普通席エリアからグリーン席エリアに移動した。
 結局終点までイリーナの隣の席に座る者はいなかったようだが、それを良いことに、イリーナは座席を深々倒してローブのフードを被り、案の定、爆睡していた。

 稲生:「先生、先生。もうすぐ到着ですよ」

 稲生は、『あと5分』を1時間以上繰り返そうとはしまいかと緊張した。

 イリーナ:「……ん?ああ、もうすぐ着くのね」
 稲生:「はい」

 意外と素直に起きた。

〔「……9番線に到着致します。お出口は、右側です。……」〕

 イリーナ:「人形達は元気だったかい?」
 稲生:「色々と大変でした……」
 イリーナ:「うんうん、だろうねぇ……。ま、それだけマリアの魔力も高まっているということだから、許してやってよ」
 稲生:「いえ、全然気にしてませんから」

 稲生はそう言って、再び自分の席に戻った。

 マリア:「師匠は起きた?」
 稲生:「ええ、起きました」
 マリア:「私の時は『あと5分』を1時間以上繰り返すんだ」
 稲生:「電車の中だからですかね?」
 イリーナ:「うん、そういうこと」
 稲生:「わっ?」
 マリア:「絶対、違う気がします」

 マリアは眉を潜めて言った。

[同日18:34.天候:晴 JR新宿駅→都営地下鉄新宿駅・新宿線乗り場(京王電鉄京王新線乗り場)]

 稲生達を乗せた特急列車は、ダイヤ通りに新宿駅の特急ホームに到着した。

〔しんじゅく〜、新宿〜。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 稲生達は荷物と一緒に電車を降りた。
 電車内で楽しく(?)過ごした人形達も、さすがに今はマリアのバッグの中に入っておとなしくしている。

 稲生:「都営新宿線に乗り換えますので、ついてきてください」
 イリーナ:「あいよ。こういう時、詳しい人がいると安心だねぇ」
 稲生:「ありがとうございます」
 イリーナ:「この前、50年ぶりにモスクワの地下鉄に乗ってみたら、路線がかなり増えていて迷子になったもんでねぇ……」
 稲生:「モスクワの地下鉄も、だいぶ路線数がありますからね。僕も、迷わずに乗れる自信が無いですよ」
 マリア:「勇太が?ニューヨークの地下鉄よりは、複雑ではないと思うけど……」
 稲生:「そもそも、ロシア語自体が分からないんで」
 マリア:「それはそうだ。私も分からない」
 イリーナ:「いきなり身も蓋も無いことを言う弟子達だねぇ……」

 稲生の先導のおかげで、直に都営地下鉄乗り場に到着できた3人。

〔「5番線、ご注意ください。18時44分発、当駅始発の各駅停車、本八幡行きの到着です。お下がりください。長い10両編成での到着です」〕

 入線してきた車両は新型の都営車両であったが、稲生達がホームから見た限りでは誰も乗っていなかった。

 稲生:「やった!当駅始発だ!」

 ドアが開くと、早速乗り込む3人。

〔「ご案内致します。この電車は18時44分発、都営新宿線、各駅停車の本八幡行きです。途中駅での急行の通過待ちはありません。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 固い座席に座ると、稲生が切り出した。

 稲生:「どうして、わざわざ東京経由で向かうんですか?」
 イリーナ:「私もね、勇太君の“献血”に大賛成というわけでは無いんだわ。こうして少し遠回りすることで、プチ抗議してるわけね」
 稲生:「い、いいんですか?」
 マリア:「効いてるかどうかは怪しいですね」
 イリーナ:「いいのいいの。どうやって、勇太君の血の味を知ったか知らないけど、おおかたバァルと決戦した時辺りでしょ」
 稲生:「本当に大丈夫なんでしょうか?」
 イリーナ:「心配は無いよ。赤十字に献血するつもりでいて」
 稲生:「はあ……」

 そうこうしているうちに、電車は3打点チャイムのドアを閉めて走り出した。
 最近のJR車両のそれに似ているが、それもそのはず。
 都営新宿線の新型車両は、JR電車の設計図を参考にしているからである。
 もちろん、ハンドルの形状や安全装置などのソフト面においては、乗り入れ先の京王線に合わせている。

〔毎度、都営地下鉄をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。お出口は、右側です〕

 因みに行き先の読み方は『ほんはちまん』ではなく、『もとやわた』である。
 都営地下鉄でありながら、終点は千葉県市川市にあるという不思議。
 千葉では八幡という漢字を『やわた』と呼ぶことが多いようだ。
 埼玉では『はちまん』、九州では『やはた』か?

 稲生:「何だか、お腹が空きましたね。森下に着いたら、何か食べますか?」
 イリーナ:「いや、少し我慢して」
 稲生:「えっ?」
 イリーナ:「美味しい血を作り出す為にって、遅めの夕食会でもやってくれると思うから」
 稲生:「そうなんですか?」
 イリーナ:「マリアは聞いたことない?」
 マリア:「かつて、『王宮見学会』が行われていたことは聞いてます。女王に献血をする国民を無作為に選び、彼らを誘って晩さん会が催されたと……」

 但し、そのやり方が騙し討ち的なものだったのと、魔王軍の女性武官で大佐の地位にあるレナフィール・ハリシャルマンの猛反発により、『王宮見学会』は中止となった。
 参加者の中にレナの身内が含まれており、勝手に含まされていたことに対する怒りからである。
 レナは安倍春明のかつての冒険者仲間であり、安倍が『勇者』で、レナが『戦士』であった。
 本来なら大佐ではなく、大将や元帥になっていても良いのだが、レナの、
「将軍になりたくて戦ったわけじゃない」
 という固辞から、将軍ではないが、しかし武官としては高位の大佐に任命されている。
 かつてはビキニアーマーの女戦士だったことから、同じような戦士達の憧れの的となっている。

 イリーナ:「向こうの政府関係者もあなたと会うから、安倍首相の他にレナフィール大佐も現れるかもしれないね」
 稲生:「うあー……。何かいきなりVIPの人達と会うのは……緊張しますね」
 マリア:「何を今さら……。首相も大佐も初対面じゃ無いじゃないか」

 マリアはフフッと笑った。
コメント (1)
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