報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」

2016-10-25 19:19:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日20:30.天候:曇 アルカディアメトロ1番街駅]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく1番街、1番街です。お出口は、右側です。2号線ドワーフ・バレー方面、6号線直通電車、高架鉄道環状線、中央線、軌道線ターミナルはこちらでお降りください。本日、冥界鉄道公社による魔列車の運行はございません。詳しくは高架鉄道線の駅窓口でお尋ねください」〕

 電車は3面6線の広い地下駅の真ん中のホームに滑り込んだ。
 ここで電車を待つ乗客は多い。
 ドアが開いて、稲生達は電車を降りた。

 マリア:「バァル決戦の時は、停電して真っ暗な駅でしたけどね」
 イリーナ:「平常時は賑わう駅なわけね」

 この駅は人間界の駅並みに照明が明るい。
 ここは魔界共和党の党本部も近く、魔族もそうだが人間の利用者も多いからであろう。
 照明の薄暗い電車内との対比が大きい。

 稲生:「僕が死んでいる時ですね?」
 マリア:「そう」
 イリーナ:「マリア、蘇生魔法に失敗した時はわんわん泣いてたもんね」
 稲生:「えっ!?」
 マリア:「そ、それは、その……!今度は完全蘇生魔法をマスターしますから!」
 イリーナ:「おおっ!?大きく出ましたなぁ……。アタシでも修得が難しい魔法だよ?」
 稲生:(ザオリクかな?メガンテやパルプンテもあるんだろうなぁ……)

 駅の外に出ると雪は止んでいた。
 積もってもいない所を見ると、すぐに止んだらしい。
 だが相変わらず、日本の東京の冬といった感じの寒さではあった。
 吐く息も白い。
 常春の国なのに、冬が来るとは何とも不思議であった。

[10月22日20:45.天候:曇 魔王城新館]

 さすがに城内は暖房が入っているのか、寒くはなかった。

 横田:「横田です。先般の九州大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 マリア:「げ……!」
 イリーナ:「あらあら?」
 稲生:「ウソだよ!絶対に行ってないだろ!」
 横田:「これはしたり。言葉に気をつけて頂きたい。今の私は魔界共和党総務担当理事ですよ?」
 稲生:「だったら、最初の枕詞は何だ!」
 横田:「それより、総理にお取り次ぎを致しますので、こちらで暫しお待ちをば」

 横田は稲生達を応接室に通した。
 イリーナは素直にソファに座ったが、マリアは立ったままだ。

 イリーナ:「マリア、座らないの?」
 マリア:「きっと座った所に盗撮カメラが仕掛けられていて、私のスカートの中が覗けるようになっているはずです。あの変態理事のことですから!」
 イリーナ:「そんなことしなくても、もうあの理事は透視の異能があるみたいだけどね」
 マリア:「ううっ……!」

 マリアはスカートの裾を押さえて、覗かれないように警戒した。

 横田:「クフフフフフフフ……。『服の上依り、内を見通す。是、法華経の極意也』と大聖人も仰せです」
 稲生:「ウソだよ!そんなの聞いたことないよ!」
 安倍:「すみません。うちの横田は相変わらずで……」
 稲生:「安倍総理!」
 安倍:「稲生さん、よくぞ来てくれました。ルーシーも大喜びです。夕食がまだでしょう?晩さん会をご用意しておりますので、もうしばらくお待ちください」
 稲生:「は、はい!」
 安倍:「それと……」

 安倍はマリアに近づいた。
 マリアはまだ稲生以外の男性に警戒心を持っているので、スッと離れる。
 そして、さっきまでマリアが立っていた場所まで来るとしゃがんだ。

 安倍:「横田ぁ〜!変態行為もいい加減にしろよ?」
 横田:「な、なな……何のことでしょうか?わ、私はさっぱり……」

 マリアが立っていた場所には、しっかり超小型のカメラレンズが床に仕掛けられていたのだった。

 安倍:「すいませんでした。画像は後でちゃんと消させますので……」
 マリア:「今消してください!さもないと勇太連れて帰りますよ!!」

 マリアは色白の顔を真っ赤にして安倍に詰め寄った。
 こんなことしても、何故かクビにならない横田であった。

[同日21:00.天候:曇 魔王城新館・ゲストルームエリア]

 安倍:「先ほどは大変失礼致しました。もう横田には勝手なマネはさせませんので」
 イリーナ:「そうしてもらいたいですね」
 安倍:「ゲストルームにご案内致します。今夜はそちらでお寛ぎください」
 稲生:「また、隠しカメラが仕掛けられていたりしませんか?」
 安倍:「その心配はありませんよ。準備に当たりまして、魔王軍近衛兵隊が厳重警備を行いました。横田の出入りは一切ありませんでしたので」
 稲生:「なるほど……。でも、共和党理事って高い地位なんでしょう?近衛兵隊がその下にあったりしたら……」
 安倍:「いえ、近衛兵隊は魔王軍からも切り離された宮内省直轄の警備兵隊なんです。共和党本部からの権限の及ばない所にあります」

 魔王軍からも切り離されているとはあるが、宰相の下には属しているらしい。
 宰相、つまり首相だから安倍だ。

 安倍:「こちらのお部屋です」

 確かに部屋の入口には、近衛兵隊2人がビシッと立哨に当たっていた。
 安倍達の姿を見つけると、青いブレザー調の上着に白ズボン姿をはき、青いドゴール帽を被った兵士達がビシッと敬礼してサッとドアの脇に避け、そのドアを開けた。

 稲生:「スイートルームだ。一晩泊まるだけじゃ、もったいない」

 稲生は素直な感想を漏らした。
 安倍も笑みを浮かべて言う。

 安倍:「稲生さんは今は国賓のようなものですから、一晩と言わず、何日でもゆっくりしてらして構わないんですよ」
 イリーナ:「でもその分、提供する血の量は増えそうだけどね」
 マリア:「一泊だけで立ち去らないと、血を搾り取られるぞ」
 安倍:「はははは……。ルーシーはそんな器の小さい女王じゃありませんよ。吸血鬼として、最低限の吸血を行うだけですから。まもなく晩餐会が始まりますので、お荷物を置いたら、大食堂までご案内致します」

 因みにスイートルームは、空間が1つだけではない。
 何と、和室まであって、稲生は一瞬そこに寝ようかと思ったくらいである。
 キングサイズのベッドで1人分らしいから、それが2つあったので、そこはイリーナとマリア用か。
 稲生は和室の方に布団でも敷いて寝ようかと思ったわけである。

 イリーナ:「じゃあ、荷物を置いて早く行こう。陛下もお待ちだよ」
 稲生:「そうですね」
 マリア:「……はい」

 それでも隠しカメラなどが無いか気にするマリアだった。
 それにしても、別に服装規定があるわけでもないのに、アナスタシア組のスーツ以外で下がスカート以外を着用している魔女はほとんどいない。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」 2

2016-10-25 16:33:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日19:55.天候:不明 アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)3号線→1号線]

 アルカディアメトロでは高架鉄道線には路線名が付き、軌道線(路面電車)は系統番号、そして地下鉄は号線で呼ぶ。
 稲生達の乗っている電車の運転士はオーガー(一角単眼の食人鬼)であるようだが、王都内に住む者は人喰いをすることもなく、こうして平和に労働に従事しているようである。
 ドラクエに出てくるようなフレイムやホイミスライムみたいなモンスターがハンドルを握っている所を、稲生は見たことがある。
 何も、人型でなくても良いらしい。
 何故なら、アルカディアメトロの電車は自動運転だからである。
 運転席からハンドルがガチャガチャ動く音は聞こえるが、それは運転士が回しているのではない。
 運転士は運転席に座って前方を監視しているだけ。
 もし自動運転ができなくなった場合、手動で運転することもあるが。
 あとは駅に到着したら、ドアの開け閉めをするだけである。

 魔界では遠慮することもないのか、イリーナもマリアも魔法の杖を取り出してそれを足に挟んだり、窓際に立てかけたりしている。
 王都内では魔道師の地位は高く、それを誇示する為もあるのだろうか。

〔「33番街、33番街です。お出口は、右側です」〕

 電車が途中駅のホームに滑り込む。
 停車すると、すぐにドアが開いた。
 普通なら運転席横のドアも開けるのだが、ニューヨーク地下鉄の車両にはそれが無いため、代わりに窓を開けるようだ。

 稲生:「何だか、豊洲駅とか都庁前駅みたい」

 この駅のホームは2面4線になっており、中線がある。
 電車は外側に止まっているので、中線が副線のようである。

〔「対向電車と待ち合わせを致します。5分ほど停車致します。発車まで、しばらくお待ちください」〕

 稲生:「は?対向電車って!?」

 稲生は思わず、電車の進行方向を見た。
 この電車も運転室が向かって右側にある半室構造になっており、左側には前面展望がある。
 しかし、暗いトンネルの中だからなのか、その先が単線になっているようには見えなかった。

 イリーナ:「まあ、もう夜だからね。既に片方の線路は、メンテをやってるからかもしれないね」
 稲生:「へえ……」

 稲生はホームに降りてみた。
 こちらは10番街駅と比べると、若干明るい。

 マリア:「あまり電車から離れないで」

 と、マリアが乗降ドアの前に立って稲生に言った。

 稲生:「えっ、どうしてですか?」
 マリア:「ここは魔界だ。勇太のハイスクールで起きていた現象の大元だから、ヘタするとはぐれるよ」
 稲生:「おおっと!」

 稲生は急いで電車内に戻った。
 もっとも、何か起きたわけではないのだが。

 イリーナ:「来る度に地下鉄やトラムの路線図が変わってるように見えるのは、正にマリアが言ったことさ。勇太君の高校は魔界の入口にあった為に、色々とそこから悪影響を受けていたわけだね。空間が捻じ曲がる現象が起きたなんて話は聞いたことないかい?」
 稲生:「えっと……!」
 イリーナ:「魔界内部でも空間ねじ曲がりなんてザラにあるわけだからね。アタシらは無意識のうちにそんなのに巻き込まれないようにしているわけだけど、勇太君はまだ修行中だから。まあ、魔法の杖を持っていれば大丈夫なんだけどね。ま、変なのにイタズラされる恐れもあるから、今はアタシらから離れない方がいいよ」
 稲生:「わ、分かりました」

 そんなことを話しているうちに、反対側のホームの外側に黄色い電車がやってきた。
 どこの国の車両だか分からないが、確かに保線用の車両に見えた。
 しかし、待ち合わせする電車はそれだけではないらしい。
 この駅も放送は無いらしく、再びトンネルの向こうから、別の電車の風切り音とモーター音が響いて来た。

 稲生:「銀座線の2000形車両に似てるな……」

 それがこちらのホームの隣の線に入って来た。
 すると、向こうの保線用車両が止まったホームは何のホームなのだろう?
 それこそ、イリーナが言っていた空間捻じ曲げによるものなのだろうか。

〔「お待たせ致しました。1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行き、発車します」〕

 ブーというブザーがホームに響く。
 すぐにドアがバンッと閉まって、電車が走り出した。

〔「お待たせしました。トンネル緊急工事に伴いまして、この先、単線区間となっております。その為、この先においても対向電車との待ち合わせを行う箇所が発生することがあります。予め、ご了承ください。次は16番街、16番街です」〕

 稲生:「トンネル緊急工事?」
 イリーナ:「あー、なるほどねぇ……」

 ここから電車は、やたら警笛を鳴らして走るようになる。
 最初は作業員に注意を促す為かと思ったが、そうではないようだ。
 いや、確かにトンネルに人影は見えるのだが、作業員には見えない。
 イリーナはその理由が分かっているようだ。

 稲生:「何がですか、先生?」
 イリーナ:「勇太君の高校にもあったと思うけどね。校舎に取り残されて、そのまま行方不明になった生徒の話とか」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「アンナなら、その話を詳しく知っていそうです」
 イリーナ:「アーニャは話の内容を相手に侵蝕させるのが好きだからね。捻じ曲げた空間に閉じ込めてやるなんて魔法、あのコならやるわ」
 稲生:「はあ……。それで、それがこのトンネルとどんな関係が?」
 イリーナ:「電車の外をよく見てみな」
 稲生:「?」

 稲生は窓の外を見てみた。
 すると、そこにいたのは……。

 稲生:「あれは……!?」

 対向線をひたすら走る少年。
 彼は東京中央学園の制服を着ていた。

 イリーナ:「恐らく、無限廊下に捕まった少年だね。空間の捻じ曲がった廊下に足を踏み入れた為に、そのままその廊下に閉じ込められてしまったのさ」
 マリア:「おおかた、今でも彼の目に映っているのは夜の学校の廊下で、出口を探す為に走り回っているといったところでしょうか?」
 イリーナ:「そういうことだね。霊感が無く、しかし無限廊下に閉じ込められるとあんな感じ。そして……勇太君、今度は反対側を見てみな」
 稲生:「えっ?」

 今度はトンネルの反対側の壁際を見た。
 線路の外側は人1人分の幅の点検歩廊があるのだが、そこに立って電車に大きく手を振る少女の姿があった。
 だが、電車は冷酷な警笛を鳴らすだけで減速もせず、そのまま過ぎ去って行った。

 稲生:「あのセーラー服、東京中央学園の昔の制服に似てます」
 イリーナ:「その頃から行方不明になったコだろうね。ある程度、霊感が強かったようだ。だから、取りあえず自分が地下鉄のトンネルにいるという状況だけは分かっているみたいだね」
 稲生:「助けないんですか!?」
 イリーナ:「ここは魔界高速電鉄の範疇だからね、アタシらは勝手に手出しができないんだよぉ」
 マリア:「越権行為になるということですね」
 イリーナ:「そういうことさ。もちろん、依頼があれば助けるけどね」
 稲生:「そんな……!」
 イリーナ:「助けたかったら、早いとこ一人前になって、行方不明者の家族・親族の所へ『営業』に行くんだね。魔道師もまた、ビジネスに徹することがあるという一面さ」
 マリア:「私は興味が無いから」

 マリアはバッグの中から出したミク人形とハク人形を抱きながらそう言った。
 電車は無限廊下とリンクしているトンネルをひたすら進む。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」

2016-10-25 10:21:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日19:40.天候:雪 アルカディア王国・王都アルカディアシティ10番街駅]

 稲生:「アルカディア王国って、常春の国ですよね!?毎月の平均気温が20度から25度くらいの!何か寒いなと思ったら、どうして雪!?」

 建物から通りに出た稲生は驚いた。
 降り始めたばかりなので、まだ路面に雪は積もっていない。
 さすがに寒いので、稲生は似合わないと自分で思っている魔道師のローブを羽織った。
 防弾・防刃の他に、防寒・防熱も兼ね備えている魔法の装備である。

 イリーナ:「うーん……。王宮で何かあったかねぇ……?」
 マリア:「その割には、町は静かですけど?」

 市街地は繁華街を除いて街灯が少なく、夜は暗い。
 マリア曰く、ロンドンを舞台にしたホラー映画みたいとのことだ。
 しんしんと降ってくる雪、人通りの少ない街路が、確かにそんな雰囲気を醸し出している。
 どこからか、弱い主人公を追った強い追跡者が現れるかのようである。
 が、恐らくそんな者が例え近くにいたとしても、稲生達を襲って来ることはあるまい。
 ゲームに出て来るような追跡者程度の力であれば、イリーナやマリアがあっという間に地獄に送ることとなるからだ。
 どちらかというと、ここにいる魔道師達の方が追跡者側なくらいだ。

 イリーナ:「ま、とにかく寒いから地下鉄の中に入ろう」
 稲生:「そうですね。駅なら少しは温かいでしょう」

 稲生達はアルカディアメトロ10番街駅の階段に向かった。
 正式名称は魔界高速電鉄なのだが、愛称としてアルカディアメトロ(更に略称AM)が使用されている。
 これは、日本の東京地下鉄株式会社がその愛称を東京メトロとしているのと同じだ。

 街中が薄暗ければ、駅構内も薄暗い。
 だが、確かに地上と比べれば温かいものだった。

 稲生:「1号線直通、デビル・ピーターズ・バーグ行きに乗ると乗り換え無しで1番街に行けますね」
 イリーナ:「よし、そうしよう」
 マリア:「こっちの地下鉄、来る度に複雑になってくるなぁ……」

 メトロの運賃は定額制。
 チケットではなく、トークンと呼ばれるコインを買う。
 このコインを自動改札機の投入口に入れると、遊園地の入口辺りにあるゲートの如く、バーが回って中に入れるというものだ。

 稲生:「えー、直通電車は次の次に来るみたいですね」

 コンコース内にある発車票を見ると、英語と日本語で案内が出ている。
 今時流行りのLED表示ではなく、反転フラップ方式(いわゆる、『パタパタ』)だ。
 ホームに下りてみると、そこは2面2線の対向式になっている。
 反対方向の電車が発車していく所だった。
 アルカディアメトロは人間界での古い車両を使っていることが多く、発車していった電車は、かつてドイツのベルリンで使用されていた車両である。
 因みにこの車両、人間界でもまだ使われており、それは北朝鮮の平壌地下鉄である。
 地上の路面電車も日本製ではなく、外国車両が多いことから、そういうのを見る度、外国に来たなぁと思うのである。
 とはいえ、パスポートは必要無い。
 本来は存在しない世界ということになっているからだ。
 そうしているうちに、見送る予定の電車がやってきた。
 古い車両は、なかなか行き先表示が掲げられていないことが多い。
 先ほどの平壌地下鉄ベルリン地下鉄も、フロントの上の部分に掲げているだけである。
 今度は開業当時の地下鉄銀座線1000形がやってきたが、こちらはもっと表示板が無い。
 そこでフロント部分の運転台が無い部分に後付けで表示板を設けて、それでやっと案内しているのである。
 因みに、駅構内放送はある駅と無い駅がある。
 この10番街駅は、放送が無い駅のようだ。
 ホームドアも無い為、視覚障碍者になったらあっという間に利用不可の地下鉄なわけだ。
 地下鉄はワンマン運転。
 おおよそ6両編成で運転されている。
 電車が駅に到着すると、運転士は運転席横のドアを開ける。
 別にホームに降りて、安全確認をするわけではないようだ。
 ハンガリーのブダペスト地下鉄でも同じことをしているところを見ると、何かしら意味があってやっているのだろう。
 かつての営団地下鉄時代に流れていた発車ブザーがホームに流れる。
 ホームに駅員が立っているわけではないが、これまた面白いところがある。
 ブザーが鳴り終わった後、もう1回、1秒だけ同じブザーが鳴る。
 運転士をそれを合図にドアスイッチを操作しているらしい。
 その1秒ブザーが客終合図なのだろう。
 これは日本においても、名鉄名古屋駅のホームで同じようなことが行われている。
 今でも路面電車で聞ける釣り掛け駆動のモーター音を響かせて、黄色い車体の電車が発車していった。
 運転士は小柄な少年のような姿をしていたが、魔族で確かそういうのがいたから、体付きは少年でも実際は成人なのだろう。
 アルカディアメトロは人間だろうが魔族だろうが、順法精神があって、電車の運転ができる知識や技術を持ち合わせていれば、分け隔てなく採用している。
 電車が発車して行くと、ホームの発車票がパタパタと表示を変える。
 今度は『1号線直通(1番街経由)、デビル・ピーターズ・バーグ』という表示に変わった。
 因みに稲生がやってくる電車に鼻息荒くして見ているのに対し、魔道師師弟はベンチに座って、次の電車を待っていた。
 反対側のホームにやってきた次の電車は、大阪市地下鉄御堂筋線の開業当時の車両。
 尚、このように地下鉄線では世界中の旧型車両ばかりがやってくるが、地上の高架鉄道線では、日本の旧国鉄などの車両が多く走っていたりする。

 稲生:「やっと来ました」

 トンネルの向こうから風を切る音と、旧型車両ならではのモーターの轟音が響いてくる。
 確かにまあ、放送など要らないくらいの勢いだが、あって当然の日本の地下鉄においては何か足りなさを感じる。

 稲生:「これは……?ニューヨークの地下鉄かな?」

 開業当時のものなのかは不明だが、かなり古めかしいのがやってきた。
 ドアが開くと、照明も白熱電球のもので薄暗い。
 ドアの横は2人掛けの横向きシートがあるが、その隣には背中合わせのクロスシートもある。
 乗り込むと、すぐにブザーの発車合図の後で発車した。
 車内は空いていて、稲生とマリアは横向きの座席に座り、イリーナは進行方向向きの座席に座った。

〔「次は12番街25丁目、12番街25丁目。軌道線10系統、15系統、16系統、19系統はお乗り換えです」〕

 アルカディアシティの区画番号については、稲生もサッパリ分からない。
 一応、車内には路線図が掲げられている。
 運転系統ごとに線引きされていて、それに沿って辿れば良い。
 実は行き先表示板が色分けされていて、この電車の場合、オレンジ色に黒抜き表示だったので、オレンジと黒の線を辿れば良い。
 すると確かに1番街駅を通り、最後にはデビル・ピーターズ・バーグ駅に着けるというのが分かる。

 稲生:「着いたら連絡した方がいいのでしょうか?」
 イリーナ:「いや、大丈夫でしょう。アタシ達が今、地下鉄で向かっていることくらい、向こうはお見通しよ」
 稲生:「えっ?」
 マリア:「なるほど。ポーリン先生が宮廷魔導師じゃ、水晶球で見てますか」
 イリーナ:「ま、そんな所だね」
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