報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜アルカディアメトロ(魔界高速電鉄)〜」 3

2016-10-27 19:09:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日11:10.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅・高架鉄道線乗り場]

 サウスエンド駅に向かうべく、メトロ高架鉄道線乗り場にやってきた稲生。
 ここからは冥界鉄道公社の列車も発着しており、その情報を得ようともしていた。
 そんな稲生に声を掛ける1人の女性がいた。
 振り向くと、そこにいたのは……。

 サーシャ:「よっ!」
 稲生:「サーシャ!」

 以前、“魔の者”に稲生自身が狙われて魔界に引きずり込まれたことがある。
 その時、保護してアルカディアシティまで同行してくれた女戦士がいた。
 本名はアレクサンドラというが、本人は愛称のサーシャで呼んで欲しいという。

 サーシャ:「どうしたんだい?また魔界に引きずり込まれたのかい?」

 サーシャはビキニアーマーを着用していた。
 確か、行方不明になった重戦士のエリックと再会し、結婚したというが、まだ戦いから身を退いていないのだろうか。

 稲生:「違うよ。今回は魔王城に呼ばれたんだ。で、その用も終わったから、知り合いに会いに行こうと思ってね」
 サーシャ:「さすが魔法使いさんは顔が広いねぇ。どこまで行くの?」
 稲生:「サウスエンド。まあ、南端村だね」
 サーシャ:「なるほど。確かに、稲生と同じ国から来た人間達が多く住んでるっていうね」

 共民内戦の際、魔界民主党軍によって魔王城に捕われたルーシーを救うべく、一時的に魔界共和党軍の拠点となったのも南端村である。
 民主党は魔界をも第2の人間界にするべく、南端村においても厚遇政策を約束していたが、村の住民達はあえて民主党ではなく、共和党を支持することにした。
 民主党の謳う共産主義に対し、諸手を挙げて喜べなかったからである。
 人間界では政党同士の一騎打ちなど、選挙活動で行われるが、魔界では中国と同じく、戦争によって決められた。
 共和党軍はメトロの高架線や地下鉄線を使って、魔王城へ攻め込んでいる(メトロは全面運休していたが、外部政党の圧力を受けない魔界高速電鉄は民主党軍の鉄道封鎖を認めなかった)。

 稲生:「サーシャはどこに住んでるの?」
 サーシャ:「デビル・ピーターズ・バーグの郊外さ。あそこ、まだ森とかあるだろう?エルフの棲む森もあるくらいだし……。あそこの土地が安く手に入ったんで、エリックに家を建ててもらって、そこで2人暮らしさ」
 稲生:「なるほど。新婚生活だね」
 サーシャ:「エヘヘヘ……」
 稲生:「エリックさんは?2人一緒じゃないの?」
 サーシャ:「ああ。エリックは今、デビル・ピーターズ・バーグの保安隊(保安官の部隊)にいてね、今日は仕事なんだ。傭兵時代に稼げる時は稼げるというわけじゃないから、夫婦共働きさ」
 稲生:「サーシャも何か仕事してるの?」
 サーシャ:「保安隊の手伝いだよ。夫婦で同じ部署にいるわけにはいかないから、私は非正規部隊さ」

 要するに、岡っ引きみたいな仕事ということだ。
 保安隊は魔王軍国家憲兵隊から分隊された組織で、それまでは警察業務も軍隊でやっていたのだが、政権の安定に伴い、国内の治安維持にそこまで勢力を裂く必要が無くなった為、新たに作られた。
 保安隊に所属する隊員を保安官と呼ぶ。

 稲生:「傭兵時代のツテを生かして、情報収集の役目か。それで、まだその恰好なんだね」

 もっとも、サーシャの着ているアーマーは、アニメやゲームのそれほど露出の高いものではない。
 スポーツブラやビキニショーツの上に胸当てや股当てを着けるなど、比較的現実的なものとなっている(二次元の世界では素肌の上から直接、胸当てなどを着けているような絵柄もある)。

 サーシャ:「ま、そんな所だね。イノーはイノーで、あの姉弟子さんとは仲良くやってるのかい?」

 イリーナ並みに背の高いサーシャ。
 小柄な稲生を上から覗き込むようにして聞いて来た。

 稲生:「お、おかげさまで……」
 サーシャ:「ははっ、そうか。立ち話はこのくらいにして、もし何だったら、うちに遊びに来なよ。何も無いけど、エリックも改めて礼を言いたいみたいだしさ」
 稲生:「うん。先生にも言っておく」

 稲生はサーシャと別れて、高架鉄道線の改札口から中に入った。
 そして、環状線のホームに向かった。

〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕

 かつては“霧の都”と称されたアルカディアシティ。
 だがルーシー王権が安定していく度に霧は薄れ、今では薄いもやが掛かる程度になっている。
 ここでもホームの発車票にはパタパタが使われており、それによると今度の電車は各駅停車だが、次の電車は急行が来るらしい。
 だから稲生は、各駅停車を見送ることにした。
 環状線ホームから見える中央線ホームには、焦げ茶色のモハ40系電車が停車しているのが見えた。
 そして、稲生がいるホームにやってきた電車は山手線のように薄緑色に塗られたモハ72系。

 稲生:「これもいいなぁ……」

 環状線もまた、地下鉄線と同じく6両編成くらいで運転されることが多い。
 高架鉄道線は地下鉄線と違って車掌が乗務しており、ワンマンで運転されることはない。
 乗務員も地下鉄は魔族が多いのに対し、高架鉄道は人間が務めることが多い。
 地下よりも明るいので、人間はよく高架鉄道を使うことが多いという。
 え?チョウセンヒトモドキはどっちを使うのかって?そもそも魔界に棲息していないのでご安心を。

 モハ72系が出発した。
 反対側の内回り線には、東武鉄道の5000系電車がやってくる。

 稲生:「どっちも釣り掛け駆動がいいねぇ……」

〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕

 稲生:「おっ、来た来た。えー……」

 稲生、やってきた急行電車を見て固まる。

 稲生:「え?これって……」

 どう見てもJR西日本207系にしか見えなかった。
 それも、水色のラインが入った旧塗装。

 稲生:「え?何でこんな最新型があるの?しかも7両編成だし」

〔「6番線から、環状線外回り、急行電車が発車します。ご注意ください」〕

 稲生:「あっ!の、乗ります!」

 稲生が急いで乗り込むと、2打点チャイムを鳴らしてドアが閉まった。
 そしてJR西日本ならではの、聞いていて眠くなるようなVVVFインバータの音が鳴り響いた。

〔「ご乗車ありがとうございます。環状線外回り、急行電車です。次は21番街、21番街です」〕

 稲生:「何で、こんな新型電車が魔界高速電鉄で走ってるんだろう……?」

 稲生は何度も首を傾げた。
 しかし、電車内の乗客達は誰も稲生の疑問に答えようとする者はいなかったのである。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」 4

2016-10-27 16:04:49 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日09:00.天候:晴 魔王城新館ゲストルーム]

 稲生:「う……」

 稲生は宛がわれたスイートルームで目が覚めた。
 何部屋にも分かれているスイートルームで、和室の部分に布団を敷いて寝ていた。
 左腕には献血の際に開けた穴を塞いだ絆創膏が貼られている。
 今度は変な夢を見ることは無かった。

 稲生が起き上がって和室の外に出ると、室内のダイニングテーブルの所にはマリアが座っていた。

 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「あー、勇太。やっと起きたね」
 稲生:「先生は?」
 マリア:「師匠は『あと5分』を1時間以上繰り返していたので放っておいた」
 稲生:「いつものパターンですね」
 マリア:「どうする?頼めばすぐに朝食を持ってきてもらえるらしいが……」
 稲生:「あ、そうしましょう。ちょっと僕、着替えて洗面台に行って来ますんで」
 マリア:「ああ」

 稲生がシャワールームと隣接した洗面所に行ってすぐに、キングサイズのベッドが置かれた寝室からイリーナが出てきた。

 イリーナ:「うぃー、おはよ〜……」

 大きな欠伸をしながら出てきたイリーナは下着姿だった。

 マリア:「師匠!?何て恰好なんですか!?」
 イリーナ:「あー、何だか暑くて無意識のうちに脱いじゃったみたい。そういうことって無い?」
 マリア:「無いですよ、私は!」
 イリーナ:「まあ、いいや。ちょっくらシャワー浴びて目ぇ覚めましてくるから、朝食頼んでおいてー」
 マリア:「せめて服着てからにしてください!そっちには勇太がいるんですから!」
 イリーナ:「おっ、そうだった。勇太君がいたんだったね。もう起きたの?」
 マリア:「さっき起きて、今洗面所に……」
 稲生:「マリアさん、新しいタオルってどこに……って、わあーっ!?」
 イリーナ:「あらあら」
 マリア:「あらあらじゃありません!」
 稲生:「ぼ、僕はセクハラしてませんよーっ!」

 稲生、慌てて奥に引っ込む。

 イリーナ:「別に、気にする必要無いのにねぇ……」
 マリア:「あなたはもう少し気にしてください!!」

[同日10:30.天候:晴 魔王城・謁見の間]

 ルーシー:「昨夜は協力して頂き、真にありがたい限り。押し頂いて吸わせて頂きます」
 稲生:「陛下にお喜び頂き、真に光栄です」
 ルーシー:「昨夜一晩と言わず、何日でもゆっくり過ごしてください。城内を自由に歩く許可を出しましょう」
 稲生:「ありがとうございます」
 ルーシー:「ああ、でも、旧館は立ち入らない方がいいかもね」
 稲生:「旧館ですか?」
 ルーシー:「ええ。内戦でも破壊されなかった方。私でもあまり行かない所だから」
 稲生:「分かりました」

 魔王城はバァル帝政時代に建立されたものである。
 それが共民内戦(ルーシーを新女王として担ぎ上げ、立憲君主制を求める魔界共和党と、王制を完全廃止し、共産主義を求める魔界民主党の政権争い)やバァル1週天下(冥界の奥底から舞い戻ったバァルがルーシーから王権を奪取し、1週間に渡って新政府を弾圧し、そこで発生したバァル派とルーシー派による内戦)によって、魔王城は半壊した。
 崩壊した部分は再建して新館とし、破壊されなかった部分は旧館とした。
 破壊されなかった旧館は未だバァルの妖力の残っている部分があり、誰も解けない即死トラップまであったりするので、一部を除いて立ち入り禁止になっている。

 稲生は謁見の間から出て、外で待つイリーナ達と合流した。

 稲生:「お待たせしました」
 イリーナ:「うん、ご苦労さん」
 マリア:「この後、どうしますか?」
 イリーナ:「あなた達は魔界で何かしたいことあるかい?」
 稲生:「いえ、特には……。あ、威吹に会って行きたいですね」
 イリーナ:「威吹君か。いいね。会ってきな」
 稲生:「そろそろ子供が生まれてるかな?」
 イリーナ:「あー、そうだねぇ……。1人で大丈夫かい?」
 稲生:「ええ。南端村なら環状線で行けますからね」

 山手線を2倍ぐらいの長さにしたアルカディアメトロ環状線。
 駅名はサウスエンドだが、そこに流れ着いた日本人達がリトル・ジャパンを作り、サウスエンドを直訳した南端という言葉を使い、南端村という名前が付いている。
 路線図的には、山手線の大崎駅辺りに位置する。

 イリーナ:「じゃあ、マリアは私に付いてきな」
 マリア:「あ、はい」
 イリーナ:「魔界の方が、魔女の何たるかが教えやすいからね。マスターになったからといって、あなたはまだロー(low)なんだから、まだまだ勉強は必要よ」
 マリア:「はい」
 イリーナ:「じゃあ勇太君、何かあったらすぐに連絡して」
 稲生:「分かりました」

[同日11:00.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅]

 1番街駅は、東京で言えば東京駅や大手町駅に相当する駅である。

 稲生:「今度の人間界行きの冥鉄列車は2日後に運転されるのか……。あれに乗って帰れないかなぁ……。帰ったら、先生に相談してみよう」

 通常はその列車に乗ることはできない。
 そもそも乗車券が時価であり、その乗客の持ち合わせより高く設定されるのがオチだからである。
 ここに流れ着く人間というのは、時空乱流に巻き込まれたり、たまたま開いてしまった魔界の穴に落ちてしまったりと様々である。
 もちろん、人間界では何の手掛かりも無く行方不明者扱いだ。
 中には最終電車に急いで乗り込んでみたら、それは実は冥鉄列車で魔界に連れて来られたという話もある。
 もちろん、そのまま折り返し列車に乗ることは許されない。

 稲生は券売機でサウスエンド駅までのトークンを買い求めた。
 高架鉄道線であっても、キップではなくトークンである。
 メトロの運賃ならとても安く、それはつまり、それだけアルカディア王国の物価が安いことを意味する。
 宿屋でも、日本なら1泊1万円くらいしそうな部屋でも、1000円ほどで泊まれるくらいだ。

 稲生:「一応、今度の冥鉄列車の情報でも仕入れておくか」

 稲生は普段閉まっている冥鉄の有人窓口に近づいてみた。
 閉まっていても、魔道師が呼び出せば係員がやってくるのがデフォである。
 と、そこへ、

 ???:「イノー!?イノーじゃないか!」

 と、勇太を呼び止める者がいた。

 勇太:「えっ?」

 何だか聞き覚えのある女性の声。
 振り向いてみると、そこにいたのは……。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜魔王城〜」 3

2016-10-27 10:11:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月23日02:00.天候:雷 魔王城新館某所]

 横田:「クフフフフフフ……。さあ、稲生さん。お時間でございますよ」

 キラリンと横田の眼鏡が雷光に反射する。
 変態的な笑みが尚、恐怖を演出する。

 横田:「あなたはこれから、我らが女王、ルーシー陛下の永遠の命の糧となるのです。光栄に思うのですよ。クフフフフフフフ……」
 稲生:「あ、あの……献血程度の量でいいんですよね?」
 横田:「ええ、もちろん。さあ、場所へご案内致します」
 稲生:「あ、あの……マリアさん達は……?」
 横田:「あの御方達は、あくまで付き添いでしょう?陛下に呼ばれたのはあなた1人です。他の方は関係無い」
 稲生:「はあ……」
 横田:「さあ、こちらです」

 稲生はカンテラを手にする横田の後をついていった。
 窓からは時折、雷鳴が響き、雷光が差し込んできた。

 稲生:(ラストダンジョンに相応しい場所だ。さすが魔王城……)

 最近のRPGでもってしても、未だに女魔王の出現には至っていない。
 これだけ聞くとフェミニストは怒るだろうが、登場させたら登場させたらで今度は別の理由で怒るのである。
 だからゲームメーカーも、ラスボスで女性は出さないのだろう。
 作者の知っている限り、数えるほどしか無い。
 え?“東方Project”は主人公もラスボスも女性ばかりだって?いや〜、それはちょっと……。
 全く、フェミズムは不便ですな。

 稲生が案内された場所は、ルーシーの私室であった。

 横田:「失礼します。横田です。先般の宮中晩餐会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります」
 ルーシー:「ご苦労……」

 ルーシーは謁見の間にあるような、豪勢な椅子と似たような別の椅子に座っていた。
 王冠代わりの黒いコウモリをあしらったティアラが、雷光に反射して黒光りするのが目についた。

 稲生:「…………」

 ルーシーの目が赤くボウッと光る。
 威吹やキノなど、高等妖怪が妖力を解放する時などと似た現象だ。

 横田:「稲生さん、陛下への4リットル献血、真に感謝致します。陛下に代わり、御礼を申し上げる次第であります」
 稲生:「は!?よ、4リッター!?」
 横田:「はい。魔界における献血は、4リットルですよ。それが何か?」
 稲生:「いや、死んじゃうでしょ!?そんなにしたら!」
 横田:「それは私の関知するところではございません」
 稲生:「だいたい、どこに4リットル献血って表記があるの!?僕、同意書をよく読んだけど、そんな記述はどこにも無かったよ!?」
 横田:「これはしたり!よく見て御覧なさい」

 横田は同意書を取り出した。
 もちろん、最後には稲生のサイン付きであるが……。
 献血量の所には、『0.4ℓ』と書いてあるのだが、横田が『0.』の部分をペリっと剥がした。
 代わりにその下に『絶対』という言葉が出てくる。
 こうすることで、
「私はルーシー・ブラッドプール陛下に絶対4ℓ献血に協力することに同意します」
 と、出てくるのである。

 稲生:「うわあっ!詐欺だ!」
 横田:「これはまたしたり!陛下を詐欺呼ばわりするとは何たる非礼!!」
 ルーシー:「いいのよ、横田。4リッターも献血してくれるのだもの。私は構わないわよ」
 横田:「ううっ!何と陛下はお優しい!」

 ルーシーが稲生の首元に手を伸ばしてくる。

 稲生:「わっ、わああああああああっ!!」

 稲生はルーシーと横田を突き飛ばして、私室から飛び出した。

 ルーシー:「逃がすなっ!追えっ!!」
 横田:「メガネ、メガネ……」(←稲生に抵抗された衝撃で眼鏡が吹っ飛び、全く見えない状態になっている)

 稲生:「先生ぇっ!マリアさん、助けてーっ!!」

 だが、ここは魔王城。
 妖力によるテレポーテーション(瞬間移動)で先回りされたルーシーに捕まった。

 ルーシー:「いただきます」
 稲生:「わあああああああっ!!」

 ルーシーは人間では有り得ないほどの鋭い犬歯を稲生の喉笛に突き刺した。

                                         BAD END(“大魔道師の弟子” 完)

[同日同時刻 天候:晴 魔王城新館ゲストルーム]

 稲生:「……という夢を見たんです」
 マリア:「さっきの叫び声はそれかいw」
 イリーナ:「大丈夫だよぉ。今時のヴァンパイアはそんな血の吸い方はしないから」

 さすがのイリーナも呆れていた。

 稲生:「ま、まさか、予知夢!?」
 イリーナ:「具体的な夢みたいだけど、私の見立てではただの夢だねぇ……」
 マリア:「ユウタ。師匠がこう言ってるんだから、安心して」
 稲生:「はあ……」

 と、そこへ、ゲストルームのドアがノックされた。
 入って来たのは安倍だった。

 稲生:「安倍総理!」
 安倍:「お待たせしました。お時間になりましたので、ご案内致します。その前に、こちらの同意書にサインの方を……」

 稲生は同意書を受け取ると、それを隅から隅まで読んだ。
 特に、献血量の所。
 変な細工がされていないかを調べてみる。

 安倍:「あの……何か、変な所が?」
 稲生:「うん……。上からシールが貼られているわけでもない。炙り出しで、字が隠されているわけでもない」
 安倍:「そんな小細工しませんよ」
 イリーナ:「ごめんなさいね。さっきまで、怖い夢は見たそうだから」
 安倍:「はあ?」

 やっと稲生は同意書にサインした。

 安倍:「では、ご案内致します。こちらです」

 夢の中と違い、今度はイリーナとマリアも一緒だ。
 そして夢の中では外は雷だったが、今は雲もほとんど無い快晴の天気だ。
 魔界なのに月があり、しかもそれは人間界にある月と比べて大きい。
 その為か、月明かりが異様に明るいのだ。
 まるで皆既日食……よりは暗いか。
 この満月が、妖怪達の妖力を倍増させる。
 人間界の月は小さいので、それでも……。

 稲生:「! もしかして、魔界って別の星なんじゃ?」
 イリーナ:「さあ、どうだかねぇ……」

 連れて行かれたのは、ルーシーの私室では無かった。
 医務室であった。

 看護師:「じゃあ、そこに横になって」

 看護師は人間ではなく、恐らくサキュバスの類だろう。
 吸血鬼は人間の血を吸う妖怪であるが、サキュバスはというと……。

 看護師:「さすがは陛下に見込まれた方ですわ。白い血も美味しそう……」
 イリーナ:「契約に無いからダメですよ」

 サキュバス看護師は、稲生の股間を見てうっとりした。
 が、すぐにイリーナに突っ込まれる。
 サキュバスは人間の男性の精液を吸う妖怪である。
 その為、魔界の妖怪達の間では、本来の人間の血液を『赤い血』、精液を『白い血』と呼ぶのだそうな。

 稲生:「あの……何かまるで、献血ルームみたいな感じなんですけど……。ここに陛下が来られるんですか?」
 看護師:「いいえ。こちらの400mlパックに、稲生様の血液を充填します。それからすぐに陛下に献上するシステムになっております」
 稲生:「な、何だ……」

 非常にシンプル、且つ取り越し苦労の稲生だった。
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