[10月23日11:10.天候:晴 アルカディアメトロ1番街駅・高架鉄道線乗り場]
サウスエンド駅に向かうべく、メトロ高架鉄道線乗り場にやってきた稲生。
ここからは冥界鉄道公社の列車も発着しており、その情報を得ようともしていた。
そんな稲生に声を掛ける1人の女性がいた。
振り向くと、そこにいたのは……。
サーシャ:「よっ!」
稲生:「サーシャ!」
以前、“魔の者”に稲生自身が狙われて魔界に引きずり込まれたことがある。
その時、保護してアルカディアシティまで同行してくれた女戦士がいた。
本名はアレクサンドラというが、本人は愛称のサーシャで呼んで欲しいという。
サーシャ:「どうしたんだい?また魔界に引きずり込まれたのかい?」
サーシャはビキニアーマーを着用していた。
確か、行方不明になった重戦士のエリックと再会し、結婚したというが、まだ戦いから身を退いていないのだろうか。
稲生:「違うよ。今回は魔王城に呼ばれたんだ。で、その用も終わったから、知り合いに会いに行こうと思ってね」
サーシャ:「さすが魔法使いさんは顔が広いねぇ。どこまで行くの?」
稲生:「サウスエンド。まあ、南端村だね」
サーシャ:「なるほど。確かに、稲生と同じ国から来た人間達が多く住んでるっていうね」
共民内戦の際、魔界民主党軍によって魔王城に捕われたルーシーを救うべく、一時的に魔界共和党軍の拠点となったのも南端村である。
民主党は魔界をも第2の人間界にするべく、南端村においても厚遇政策を約束していたが、村の住民達はあえて民主党ではなく、共和党を支持することにした。
民主党の謳う共産主義に対し、諸手を挙げて喜べなかったからである。
人間界では政党同士の一騎打ちなど、選挙活動で行われるが、魔界では中国と同じく、戦争によって決められた。
共和党軍はメトロの高架線や地下鉄線を使って、魔王城へ攻め込んでいる(メトロは全面運休していたが、外部政党の圧力を受けない魔界高速電鉄は民主党軍の鉄道封鎖を認めなかった)。
稲生:「サーシャはどこに住んでるの?」
サーシャ:「デビル・ピーターズ・バーグの郊外さ。あそこ、まだ森とかあるだろう?エルフの棲む森もあるくらいだし……。あそこの土地が安く手に入ったんで、エリックに家を建ててもらって、そこで2人暮らしさ」
稲生:「なるほど。新婚生活だね」
サーシャ:「エヘヘヘ……」
稲生:「エリックさんは?2人一緒じゃないの?」
サーシャ:「ああ。エリックは今、デビル・ピーターズ・バーグの保安隊(保安官の部隊)にいてね、今日は仕事なんだ。傭兵時代に稼げる時は稼げるというわけじゃないから、夫婦共働きさ」
稲生:「サーシャも何か仕事してるの?」
サーシャ:「保安隊の手伝いだよ。夫婦で同じ部署にいるわけにはいかないから、私は非正規部隊さ」
要するに、岡っ引きみたいな仕事ということだ。
保安隊は魔王軍国家憲兵隊から分隊された組織で、それまでは警察業務も軍隊でやっていたのだが、政権の安定に伴い、国内の治安維持にそこまで勢力を裂く必要が無くなった為、新たに作られた。
保安隊に所属する隊員を保安官と呼ぶ。
稲生:「傭兵時代のツテを生かして、情報収集の役目か。それで、まだその恰好なんだね」
もっとも、サーシャの着ているアーマーは、アニメやゲームのそれほど露出の高いものではない。
スポーツブラやビキニショーツの上に胸当てや股当てを着けるなど、比較的現実的なものとなっている(二次元の世界では素肌の上から直接、胸当てなどを着けているような絵柄もある)。
サーシャ:「ま、そんな所だね。イノーはイノーで、あの姉弟子さんとは仲良くやってるのかい?」
イリーナ並みに背の高いサーシャ。
小柄な稲生を上から覗き込むようにして聞いて来た。
稲生:「お、おかげさまで……」
サーシャ:「ははっ、そうか。立ち話はこのくらいにして、もし何だったら、うちに遊びに来なよ。何も無いけど、エリックも改めて礼を言いたいみたいだしさ」
稲生:「うん。先生にも言っておく」
稲生はサーシャと別れて、高架鉄道線の改札口から中に入った。
そして、環状線のホームに向かった。
〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕
かつては“霧の都”と称されたアルカディアシティ。
だがルーシー王権が安定していく度に霧は薄れ、今では薄いもやが掛かる程度になっている。
ここでもホームの発車票にはパタパタが使われており、それによると今度の電車は各駅停車だが、次の電車は急行が来るらしい。
だから稲生は、各駅停車を見送ることにした。
環状線ホームから見える中央線ホームには、焦げ茶色のモハ40系電車が停車しているのが見えた。
そして、稲生がいるホームにやってきた電車は山手線のように薄緑色に塗られたモハ72系。
稲生:「これもいいなぁ……」
環状線もまた、地下鉄線と同じく6両編成くらいで運転されることが多い。
高架鉄道線は地下鉄線と違って車掌が乗務しており、ワンマンで運転されることはない。
乗務員も地下鉄は魔族が多いのに対し、高架鉄道は人間が務めることが多い。
地下よりも明るいので、人間はよく高架鉄道を使うことが多いという。
え?チョウセンヒトモドキはどっちを使うのかって?そもそも魔界に棲息していないのでご安心を。
モハ72系が出発した。
反対側の内回り線には、東武鉄道の5000系電車がやってくる。
稲生:「どっちも釣り掛け駆動がいいねぇ……」
〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕
稲生:「おっ、来た来た。えー……」
稲生、やってきた急行電車を見て固まる。
稲生:「え?これって……」
どう見てもJR西日本207系にしか見えなかった。
それも、水色のラインが入った旧塗装。
稲生:「え?何でこんな最新型があるの?しかも7両編成だし」
〔「6番線から、環状線外回り、急行電車が発車します。ご注意ください」〕
稲生:「あっ!の、乗ります!」
稲生が急いで乗り込むと、2打点チャイムを鳴らしてドアが閉まった。
そしてJR西日本ならではの、聞いていて眠くなるようなVVVFインバータの音が鳴り響いた。
〔「ご乗車ありがとうございます。環状線外回り、急行電車です。次は21番街、21番街です」〕
稲生:「何で、こんな新型電車が魔界高速電鉄で走ってるんだろう……?」
稲生は何度も首を傾げた。
しかし、電車内の乗客達は誰も稲生の疑問に答えようとする者はいなかったのである。
サウスエンド駅に向かうべく、メトロ高架鉄道線乗り場にやってきた稲生。
ここからは冥界鉄道公社の列車も発着しており、その情報を得ようともしていた。
そんな稲生に声を掛ける1人の女性がいた。
振り向くと、そこにいたのは……。
サーシャ:「よっ!」
稲生:「サーシャ!」
以前、“魔の者”に稲生自身が狙われて魔界に引きずり込まれたことがある。
その時、保護してアルカディアシティまで同行してくれた女戦士がいた。
本名はアレクサンドラというが、本人は愛称のサーシャで呼んで欲しいという。
サーシャ:「どうしたんだい?また魔界に引きずり込まれたのかい?」
サーシャはビキニアーマーを着用していた。
確か、行方不明になった重戦士のエリックと再会し、結婚したというが、まだ戦いから身を退いていないのだろうか。
稲生:「違うよ。今回は魔王城に呼ばれたんだ。で、その用も終わったから、知り合いに会いに行こうと思ってね」
サーシャ:「さすが魔法使いさんは顔が広いねぇ。どこまで行くの?」
稲生:「サウスエンド。まあ、南端村だね」
サーシャ:「なるほど。確かに、稲生と同じ国から来た人間達が多く住んでるっていうね」
共民内戦の際、魔界民主党軍によって魔王城に捕われたルーシーを救うべく、一時的に魔界共和党軍の拠点となったのも南端村である。
民主党は魔界をも第2の人間界にするべく、南端村においても厚遇政策を約束していたが、村の住民達はあえて民主党ではなく、共和党を支持することにした。
民主党の謳う共産主義に対し、諸手を挙げて喜べなかったからである。
人間界では政党同士の一騎打ちなど、選挙活動で行われるが、魔界では中国と同じく、戦争によって決められた。
共和党軍はメトロの高架線や地下鉄線を使って、魔王城へ攻め込んでいる(メトロは全面運休していたが、外部政党の圧力を受けない魔界高速電鉄は民主党軍の鉄道封鎖を認めなかった)。
稲生:「サーシャはどこに住んでるの?」
サーシャ:「デビル・ピーターズ・バーグの郊外さ。あそこ、まだ森とかあるだろう?エルフの棲む森もあるくらいだし……。あそこの土地が安く手に入ったんで、エリックに家を建ててもらって、そこで2人暮らしさ」
稲生:「なるほど。新婚生活だね」
サーシャ:「エヘヘヘ……」
稲生:「エリックさんは?2人一緒じゃないの?」
サーシャ:「ああ。エリックは今、デビル・ピーターズ・バーグの保安隊(保安官の部隊)にいてね、今日は仕事なんだ。傭兵時代に稼げる時は稼げるというわけじゃないから、夫婦共働きさ」
稲生:「サーシャも何か仕事してるの?」
サーシャ:「保安隊の手伝いだよ。夫婦で同じ部署にいるわけにはいかないから、私は非正規部隊さ」
要するに、岡っ引きみたいな仕事ということだ。
保安隊は魔王軍国家憲兵隊から分隊された組織で、それまでは警察業務も軍隊でやっていたのだが、政権の安定に伴い、国内の治安維持にそこまで勢力を裂く必要が無くなった為、新たに作られた。
保安隊に所属する隊員を保安官と呼ぶ。
稲生:「傭兵時代のツテを生かして、情報収集の役目か。それで、まだその恰好なんだね」
もっとも、サーシャの着ているアーマーは、アニメやゲームのそれほど露出の高いものではない。
スポーツブラやビキニショーツの上に胸当てや股当てを着けるなど、比較的現実的なものとなっている(二次元の世界では素肌の上から直接、胸当てなどを着けているような絵柄もある)。
サーシャ:「ま、そんな所だね。イノーはイノーで、あの姉弟子さんとは仲良くやってるのかい?」
イリーナ並みに背の高いサーシャ。
小柄な稲生を上から覗き込むようにして聞いて来た。
稲生:「お、おかげさまで……」
サーシャ:「ははっ、そうか。立ち話はこのくらいにして、もし何だったら、うちに遊びに来なよ。何も無いけど、エリックも改めて礼を言いたいみたいだしさ」
稲生:「うん。先生にも言っておく」
稲生はサーシャと別れて、高架鉄道線の改札口から中に入った。
そして、環状線のホームに向かった。
〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕
かつては“霧の都”と称されたアルカディアシティ。
だがルーシー王権が安定していく度に霧は薄れ、今では薄いもやが掛かる程度になっている。
ここでもホームの発車票にはパタパタが使われており、それによると今度の電車は各駅停車だが、次の電車は急行が来るらしい。
だから稲生は、各駅停車を見送ることにした。
環状線ホームから見える中央線ホームには、焦げ茶色のモハ40系電車が停車しているのが見えた。
そして、稲生がいるホームにやってきた電車は山手線のように薄緑色に塗られたモハ72系。
稲生:「これもいいなぁ……」
環状線もまた、地下鉄線と同じく6両編成くらいで運転されることが多い。
高架鉄道線は地下鉄線と違って車掌が乗務しており、ワンマンで運転されることはない。
乗務員も地下鉄は魔族が多いのに対し、高架鉄道は人間が務めることが多い。
地下よりも明るいので、人間はよく高架鉄道を使うことが多いという。
モハ72系が出発した。
反対側の内回り線には、東武鉄道の5000系電車がやってくる。
稲生:「どっちも釣り掛け駆動がいいねぇ……」
〔まもなく6番線に、電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください〕
稲生:「おっ、来た来た。えー……」
稲生、やってきた急行電車を見て固まる。
稲生:「え?これって……」
どう見てもJR西日本207系にしか見えなかった。
それも、水色のラインが入った旧塗装。
稲生:「え?何でこんな最新型があるの?しかも7両編成だし」
〔「6番線から、環状線外回り、急行電車が発車します。ご注意ください」〕
稲生:「あっ!の、乗ります!」
稲生が急いで乗り込むと、2打点チャイムを鳴らしてドアが閉まった。
そしてJR西日本ならではの、聞いていて眠くなるようなVVVFインバータの音が鳴り響いた。
〔「ご乗車ありがとうございます。環状線外回り、急行電車です。次は21番街、21番街です」〕
稲生:「何で、こんな新型電車が魔界高速電鉄で走ってるんだろう……?」
稲生は何度も首を傾げた。
しかし、電車内の乗客達は誰も稲生の疑問に答えようとする者はいなかったのである。