報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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“大魔道師の弟子” 「魔界の不思議な旅 〜特急あずさ26号〜」

2016-10-22 22:14:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月22日14:37.天候:晴 JR白馬駅1番線]

〔「1番線、ご注意ください。14時37分発、中央本線直通、特急“あずさ”26号、新宿行きが到着致します。自由席は3号車から5号車、グリーン車は8号車の後ろ半分です。停車駅は信濃大町、穂高、豊科、松本、塩尻、岡谷、下諏訪、上諏訪、茅野、小淵沢、韮崎、甲府、八王子、立川、終点新宿の順に止まります」〕

 3号車を先頭車にした9両編成の特急列車が入って来る。
 1号車と2号車が欠番である理由は、この2両は付属編成で、この列車の場合は途中の松本から連結となるからである。

 稲生:「では先生、8号車の11A席へどうぞ。僕達は6Aと6Bですから」
 イリーナ:「別にあなた達もグリーン車で良かったのよ?どうせ交通費は全部、王宮に請求するからさ」
 マリア:「今回、勇太がルーシー女王に呼ばれた為の旅なんだから、師匠の言う通りだよ」
 稲生:「いえ。ここでケジメを付けませんと、また他の組に変な事を言われる恐れがあるので……」
 イリーナ:「アタシは気にしないし、あなたも気にする必要は無いんだよ。『イリーナ組はそういう方針だ』で突っぱねればいいのよ。ま、今回はしょうがないけどね」

 8号車だけ乗降ドアが車両の真ん中にある。
 ここを境に後ろ半分がグリーン車、前半分が普通車指定席となる。
 ドアが開くと、乗客達はそれぞれの車両に乗り込んだ。

 稲生:「それじゃ、新宿までお寛ぎください」
 イリーナ:「あいよ。着いたら起こしてね」
 稲生:「立川を出たら、起こしに行きます」

 稲生がマリアと共に普通車を選んだのは、何もイリーナやアルカディア王国に遠慮したからではない。
 交通費などの諸経費は、全て王宮で支給するとのお知らせが召喚令状に書かれていた。

 稲生:「じゃ、マリアさん、窓側へ」
 マリア:「うん」

 普通車の方がマリアと密着しやすかったからである。
 マリアはいつもの緑色のブレザーに、えんじ色のリボンタイ、白いブラウスにグレーのプリーツスカートをはいていた。
 その上から、フード付きのローブを着ているのだが、車内ではそれは脱いで窓際のコート掛けに掛けている。

〔次は、信濃大町です〕

 すぐに電車は発車して、シンプルな男声の自動放送が流れてきた。

 稲生:「まさか、先生があんなにゲームが強かったなんて……」

 稲生は座席を少しリクライニングして呟いた。

 マリア:「魔法を使わなくても、意外とゲームの強いヤツは結構いるから気をつけた方がいいよ」
 稲生:「エレーナが強いのは分かる気がするけど……」

 さすがにアナスタシア組との勝負の後、勤務中にテトリスやっていたことがバレて、オーナーに怒られたらしい。
 真夜中のフロント業務において、全く客のいない時に、眠気防止の為にやっていたとか何とか言っていたらしいが……。

 マリア:「私は興味が無かったから、全然役に立たなくて申し訳無かったけど」
 稲生:「いや、そんな……。まさか、アナスタシア先生がゲームで勝負してくるなんて思わなかったものですから……」
 マリア:「エレーナじゃないけど、契約書とか同意書とか渡されたら、とにかくよく読んだ方がいいからね」
 稲生:「分かりました」

 稲生は紺色のスーツに黒と白のストライプのネクタイを着けていた。
 ローブは持って来ているのだが、似合わないので普段は着ない。
 一応、荷物の中には入れてある。
 スーツを着ているのは、王国ではVIPと面会するからである。
 因みに荷棚の上に置いたマリアの荷物の中には、人形形態となったお供のフランス人形が2体ほど入っていた。
 それはミカエラ(ミク人形)とクラリス(ハク人形)なのだが、人間形態とは違い、デフォルメ形態でもある人形の状態だと、非常にコミカルな動きをする。
 自分でバッグのファスナーを開けると、中から顔を出して車内の様子を伺ったり、乗客達の目を盗んで荷棚の上に寝転がったりするのだ。
 スカートをパタパタさせたり、荷棚の上に腰掛けたり……。

 車掌:「ん?」

 車内改札に来た車掌が、ふと荷棚の上の方に目をやった。

 ミク人形:「…………」(←普通のフランス人形のフリをしている。微動だに動かない)
 ハク人形:「…………」(←同上)
 車掌:「(気のせいかな?)お客様のお人形さんですか?網棚から落ちないように、ご注意ください」
 稲生:「あ、すいません」

 車掌が行ってしまうと、また荷棚の上で遊ぶ人形達だった。

 稲生:「勝手に出て来ちゃダメだよ」
 ミク人形:(てへぺろ)
 ハク人形:(てへぺろ)

 稲生に注意されて、1度は鞄に戻される緑色のツインテールのミク人形と白いポニーテールのハク人形。
 しかし、しばらくしたらまた出てしまう。
 で、また網棚の上で寛ぐ。

 車販嬢:「お弁当にサンドイッチ、温かいお飲み物に冷たいお飲み物……きゃっ!?」

 車内販売がやって来ると、ミク人形がSuicaを出してアイスクリームを所望した。

 稲生:「すすす、すいません!ちょっとしたオモチャなんです!ほら、よくできてるでしょう!?」

 稲生、苦し紛れに手持ちのスマホの画面を適当にピッピッと押す。
 それに合わせて、ミク人形がロボットのようにカクッカクッと動いた。

 マリア:(バカ……)
 車販嬢:「こ、これは失礼しました!な、何になさいますか?」
 稲生:「えーと……僕はアイスコーヒーで。マリアさんは何にします?」
 マリア:「ホットティー」
 稲生:「か、かしこまりました」

 稲生の肩をツンツンと突くミク人形。

 稲生:「こーらっ!大道芸やらない!」

 ハク人形、荷棚からぶら下がり、更にミクがそれにぶら下がって、稲生の肩をSuicaでツンツンと突いていた。
 そして稲生が振り向くと、車内販売のワゴンに積まれているアイスクリームの箱をピッと指さした。

 稲生:「分かった!分かったから!すいません、アイスクリームも2つください!」
 車販嬢:「かしこまりました……」(←もう何を見ても驚かないという決心をした)
 稲生:「支払いはSuicaで」
 車販嬢:「ありがとうございました……」

 車販嬢がグリーン車の方に行ってしまう。

 稲生:「マリアさん、人形達の電源切っておきましょうよ」
 マリア:「ロボットじゃない!」
 ミク人形:「♪」(荷棚の上に座り、アイスクリームを美味しそうに食べている)
 ハク人形:「♪」(同上)

 人形形態だとコミカルな動きをするマリアの人形達。
 そのバリエーションが豊富になればなるほど、それはマリアの魔法力の向上を意味するのだそうだ。
 まさか、アイスまで食べるようになるとは、稲生は想定外だったようだが……。
コメント (2)
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