[10月3日15:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 豊洲アルカディアビル]
敷島エージェンシー会議室内……。
初音ミク:「失礼します」
井辺翔太:「ああ、初音さん、お呼び立てして申し訳ありません。そこへお掛けください」
井辺はミクに椅子を勧めた。
井辺はとても丁寧な性格であり、例え相手がロイドでも、敷島エージェンシー所属のプロデューサーとしてそのアイドルに対する敬語を欠かさない。
ミクはちょこんと椅子に座った。
井辺:「それで、今回お呼び立てしたのは、あなたにまた新曲ができたのと、その発表についての打ち合わせです」
ミク:「また新曲が歌えるんですか!ありがとうございます!」
井辺:「どんな歌でもそつなく歌える初音さんは、作曲家さんからの引く手が多いですから。それで、早速デモを聴いてください」
井辺は机の上に置いたPCで、メディアプレイヤーを再生した。
ミク:「……~♪……~♪ いい曲です」
井辺:「ええ。いつも忙しく、なかなか作曲を頼めない方に頼めるとは、とても幸運です」
ミク:「あれ?これ、知ってます。……そーらーを越えてー♪ラララ♪星のかーなたー♪……」
井辺:「はい。あの有名なアニメソングのアレンジを所々曲内に散りばめているそうです。初音さんは人間ではなく、ボーカロイドです。人間のアイドルにはできないことを前面的に押し出そうという方針に基づき、まず思いつくイメージとして、某有名アニメソング……」
ミク:「ラララ♪科学の子~♪十万馬力だー♪」
敷島:「ちょーっと、待ったぁぁぁぁっ!」
敷島、バンッと会議室のドアから飛び込んでくる。
井辺:「社長!?どうかなさいましたか!?」
ミク:「たかおさん!?」
敷島:「何でミクが『鉄腕アトム』歌ってんだよ!?」
井辺:「何故って……。以前お話しした新曲の中に、そういったアニメソングのアレンジを散りばめた斬新なイメージを……」
敷島:「ミクはダメだ!この曲は他のヤツに回せ!」
井辺:「何故ですか!?」
鏡音リン:「政治家の圧力っすか!?デカ長!」
敷島:「誰がデカ長だ!」
中学生姉弟を主人公にした探偵ドラマに出演中のリンだった。
敷島:「さっきの偉い博士から、ミクに『鉄腕アトム』は歌わすなというストップが掛かったんだ。どうも、ミクの特殊な機能にヤバいものがあるらしい」
ミク:「わたしの体にそんなものが!?取り外してください!」
敷島:「いや、俺に言われても困るよ。俺だってさっき知ったんだから。とにかく、原因が明らかになるまで、それはストップだ。他の歌だったら、特に何も言われてないから、それなら大丈夫だと思う」
井辺:「はあ……分かりました。作曲家さんに相談してみます」
敷島:「井辺君、ミク、すまない。とにかく、ボーカロイドの力に関しては未だ分からない所があるんだ。設計者の南里所長がもうこの世にいないからな。俺も悔しいけど、俺達より詳しい専門家がダメだって言ったら従うしかない」
井辺:「その通りですね。申し訳ありませんが、それでよろしいですか?初音さん」
ミク:「たかおさん……社長さん達がそう仰るなら、仕方が無いですね」
リン:「んじゃあ、リンが歌いまーす!そーらをこーえてー♪ラララ♪星のかなたー♪」
井辺:「社長、鏡音さんはいいんですか?」
敷島:「ミク以外ならいいらしいな。何でかは分からない」
井辺:「はあ……」
尚、鏡音リン・レンの場合は設定年齢14歳ながら、こぶしの効いた歌い方が意外と得意ということもあり、演歌などの新曲が宛がわれることもあるという。
[10月3日18:00.天候:曇 敷島エージェンシー→豊洲駅前交差点]
敷島:「じゃあ、俺は先に上がるよ」
井辺:「はい、お疲れさまでした」
二海:「お疲れさまでした!」
敷島は社長室を出ると、事務室に残っている井辺やマネージャー達に帰る旨を伝えて、会社をあとにした。
先にエレベーターホールに出たシンディがエレベーターを呼んでいる。
シンディの目はカメラになっていて、メモリーに映像として記録することができるし、無線通信を介して、アリスの端末にその映像を同時送信できる。
表向きは敷島への護衛と身の回りの世話をさせるのが目的ということになっているが、裏の理由は敷島の浮気防止の為の監視である。
ビルの外に出ると、都営バス乗り場に向かう。
敷島:「あーあ。俺も伯父さんみたいに、役員車通勤したいなぁ……」
シンディ:「タクシーをチャーターして行き帰りすることはできるよ?」
敷島:「バカ言え。どうせアリスが、『そんな金あるなら、トニーの養育費に充てろ』とか言ってくるよ」
シンディ:「ハハハ……」
豊洲駅前交差点で信号待ちをする。
敷島:「この分だと、帰りのバスには間に合うな」
シンディ:「そうね」
豊洲駅前交差点は歩車分離信号になっていて、車道の信号は全て矢印のみで行われている。
矢印が切り換わる際、黄色が点灯することがあるだけだ。
その時、上空で何か衝撃音のようなものが聞こえた。
敷島:「何だ?」
敷島をはじめ、多くの通行人が上を見上げた。
そして、全員が驚愕の顔になった。
件の交差点の上は、ゆりかもめ線の延伸部分が途中で止まっている。
今は豊洲駅が終点だが、計画では勝どき駅まで伸ばしたいらしい。
豊洲駅を出て、やや左カーブする所で今は止まっているわけだ。
もちろん、カーブの手前には現時点で終点とする為の車止めが付いているわけだが……。
電車がその車止めを突き破って、延伸部分に飛び出していた!
このままではカーブの先へも飛び出して、高架線から落ちてしまう!
敷島:「シンディ!」
シンディが飛び出して、ブーツに仕込まれたブースターを起動させた。
それで大ジャンプを行う。
敷島:「届くか、それで!?」
ギリギリ、届いた。
高架線の切れ端部分に手を掛けてよじ登る。
と、同時に低速ではあるが、電車がやってきた。
シンディ:「くっ!」
シンディ、電車に立ちはだかる。
そして、何とか受け止めたのだが……。
先頭の頭部分だけがはみ出て止まった。
そこだけが、ガクンと地面の方を向く感じになる。
なのでシンディ、押し出されるような形になって再び高架から落ちたのだが、もちろんそれだけなら平気。
敷島:「大丈夫か、シンディ!?」
シンディ:「ええ。だけど姉さん、よくあんなことができるよねぇ……」
敷島:「まあ、あいつは特別だからなぁ……」
尚、件の車両内からは、KR団の生き残りを名乗る者からの犯行声明と思しきメモが落ちていたという。
しかし却って、またマルチタイプ達の活躍ぶりが紹介される形となったわけだが……。
敷島エージェンシー会議室内……。
初音ミク:「失礼します」
井辺翔太:「ああ、初音さん、お呼び立てして申し訳ありません。そこへお掛けください」
井辺はミクに椅子を勧めた。
井辺はとても丁寧な性格であり、例え相手がロイドでも、敷島エージェンシー所属のプロデューサーとしてそのアイドルに対する敬語を欠かさない。
ミクはちょこんと椅子に座った。
井辺:「それで、今回お呼び立てしたのは、あなたにまた新曲ができたのと、その発表についての打ち合わせです」
ミク:「また新曲が歌えるんですか!ありがとうございます!」
井辺:「どんな歌でもそつなく歌える初音さんは、作曲家さんからの引く手が多いですから。それで、早速デモを聴いてください」
井辺は机の上に置いたPCで、メディアプレイヤーを再生した。
ミク:「……~♪……~♪ いい曲です」
井辺:「ええ。いつも忙しく、なかなか作曲を頼めない方に頼めるとは、とても幸運です」
ミク:「あれ?これ、知ってます。……そーらーを越えてー♪ラララ♪星のかーなたー♪……」
井辺:「はい。あの有名なアニメソングのアレンジを所々曲内に散りばめているそうです。初音さんは人間ではなく、ボーカロイドです。人間のアイドルにはできないことを前面的に押し出そうという方針に基づき、まず思いつくイメージとして、某有名アニメソング……」
ミク:「ラララ♪科学の子~♪十万馬力だー♪」
敷島:「ちょーっと、待ったぁぁぁぁっ!」
敷島、バンッと会議室のドアから飛び込んでくる。
井辺:「社長!?どうかなさいましたか!?」
ミク:「たかおさん!?」
敷島:「何でミクが『鉄腕アトム』歌ってんだよ!?」
井辺:「何故って……。以前お話しした新曲の中に、そういったアニメソングのアレンジを散りばめた斬新なイメージを……」
敷島:「ミクはダメだ!この曲は他のヤツに回せ!」
井辺:「何故ですか!?」
鏡音リン:「政治家の圧力っすか!?デカ長!」
敷島:「誰がデカ長だ!」
中学生姉弟を主人公にした探偵ドラマに出演中のリンだった。
敷島:「さっきの偉い博士から、ミクに『鉄腕アトム』は歌わすなというストップが掛かったんだ。どうも、ミクの特殊な機能にヤバいものがあるらしい」
ミク:「わたしの体にそんなものが!?取り外してください!」
敷島:「いや、俺に言われても困るよ。俺だってさっき知ったんだから。とにかく、原因が明らかになるまで、それはストップだ。他の歌だったら、特に何も言われてないから、それなら大丈夫だと思う」
井辺:「はあ……分かりました。作曲家さんに相談してみます」
敷島:「井辺君、ミク、すまない。とにかく、ボーカロイドの力に関しては未だ分からない所があるんだ。設計者の南里所長がもうこの世にいないからな。俺も悔しいけど、俺達より詳しい専門家がダメだって言ったら従うしかない」
井辺:「その通りですね。申し訳ありませんが、それでよろしいですか?初音さん」
ミク:「たかおさん……社長さん達がそう仰るなら、仕方が無いですね」
リン:「んじゃあ、リンが歌いまーす!そーらをこーえてー♪ラララ♪星のかなたー♪」
井辺:「社長、鏡音さんはいいんですか?」
敷島:「ミク以外ならいいらしいな。何でかは分からない」
井辺:「はあ……」
尚、鏡音リン・レンの場合は設定年齢14歳ながら、こぶしの効いた歌い方が意外と得意ということもあり、演歌などの新曲が宛がわれることもあるという。
[10月3日18:00.天候:曇 敷島エージェンシー→豊洲駅前交差点]
敷島:「じゃあ、俺は先に上がるよ」
井辺:「はい、お疲れさまでした」
二海:「お疲れさまでした!」
敷島は社長室を出ると、事務室に残っている井辺やマネージャー達に帰る旨を伝えて、会社をあとにした。
先にエレベーターホールに出たシンディがエレベーターを呼んでいる。
シンディの目はカメラになっていて、メモリーに映像として記録することができるし、無線通信を介して、アリスの端末にその映像を同時送信できる。
表向きは敷島への護衛と身の回りの世話をさせるのが目的ということになっているが、裏の理由は敷島の浮気防止の為の監視である。
ビルの外に出ると、都営バス乗り場に向かう。
敷島:「あーあ。俺も伯父さんみたいに、役員車通勤したいなぁ……」
シンディ:「タクシーをチャーターして行き帰りすることはできるよ?」
敷島:「バカ言え。どうせアリスが、『そんな金あるなら、トニーの養育費に充てろ』とか言ってくるよ」
シンディ:「ハハハ……」
豊洲駅前交差点で信号待ちをする。
敷島:「この分だと、帰りのバスには間に合うな」
シンディ:「そうね」
豊洲駅前交差点は歩車分離信号になっていて、車道の信号は全て矢印のみで行われている。
矢印が切り換わる際、黄色が点灯することがあるだけだ。
その時、上空で何か衝撃音のようなものが聞こえた。
敷島:「何だ?」
敷島をはじめ、多くの通行人が上を見上げた。
そして、全員が驚愕の顔になった。
件の交差点の上は、ゆりかもめ線の延伸部分が途中で止まっている。
今は豊洲駅が終点だが、計画では勝どき駅まで伸ばしたいらしい。
豊洲駅を出て、やや左カーブする所で今は止まっているわけだ。
もちろん、カーブの手前には現時点で終点とする為の車止めが付いているわけだが……。
電車がその車止めを突き破って、延伸部分に飛び出していた!
このままではカーブの先へも飛び出して、高架線から落ちてしまう!
敷島:「シンディ!」
シンディが飛び出して、ブーツに仕込まれたブースターを起動させた。
それで大ジャンプを行う。
敷島:「届くか、それで!?」
ギリギリ、届いた。
高架線の切れ端部分に手を掛けてよじ登る。
と、同時に低速ではあるが、電車がやってきた。
シンディ:「くっ!」
シンディ、電車に立ちはだかる。
そして、何とか受け止めたのだが……。
先頭の頭部分だけがはみ出て止まった。
そこだけが、ガクンと地面の方を向く感じになる。
なのでシンディ、押し出されるような形になって再び高架から落ちたのだが、もちろんそれだけなら平気。
敷島:「大丈夫か、シンディ!?」
シンディ:「ええ。だけど姉さん、よくあんなことができるよねぇ……」
敷島:「まあ、あいつは特別だからなぁ……」
尚、件の車両内からは、KR団の生き残りを名乗る者からの犯行声明と思しきメモが落ちていたという。
しかし却って、またマルチタイプ達の活躍ぶりが紹介される形となったわけだが……。