報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「廃屋」 3

2016-10-05 20:47:27 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[時期不明 時刻不明 天候:晴 とある洋風民家の廃屋?]

 VHSテープを手に応接間に戻ろうとした私の耳に、猛獣のような、しかしゾンビのような唸り声が聞こえた。
 私は急いで懐中電灯で辺りを照らしてみたが、唸り声らしき主の姿は見られない。
 ますます気味の悪い。
 私は応接間に入ることにした。
「!?」
 もちろん唸り声は応接間の中からしたかもしれないと思い、慎重にドアを開けたのだったが……。
 応接間の異変は唸り声の主がいたことではなかった。
 中から聞こえて来たのは、ザー!という雑音。
 それはテレビから聞こえた。
 確かにテレビは砂嵐の画面のままになっていたが、ほとんどスピーカーからは何も聞こえない状態だったはずだ。
 それが何故か、ボリュームが最大になって部屋中に響いていた。
 誰がボリュームを操作したのか?
 そういえばこのテレビには、リモコンが見当たらない。
 どこかにあって、何かの拍子にポリュームが最大になってしまったのだろうか。
 私は応接間の中に誰も潜んでいないことを確認してから、拾ったテープをビデオデッキの中に入れた。
 果たして、一体何が映っているのか……。

 男A:「おい、映ってるのか?」
 男B:「ああ、バッチリだ」
 男A:「なあ、おい。本当にコイツ、大丈夫なのか?」
 男B:「大丈夫だって。俺が確認したから」

 いきなり画面に1人の男の顔がドUPで映ったので一瞬ビックリしたが、すぐにカメラから離れた。
 ビデオに映っていたのは2人の若い男。
 見た感じ、20歳前後ってところだ。

 男A:「前回みたいに、苦労して撮ったけども、カメラが回ってなくて映ってませんでしたってオチは勘弁だからな、安藤?」
 男B改め安藤:「それ、去年の話だろ?勘弁しろよ。ちゃんと反省してるって。なあ、おい、日野」
 男A改め日野:「とにかく、行くぞ」

 どうやらビデオの中にいるのは安藤と日野、それとその2人を撮影しているカメラマンが1人の3人らしい。
 日野は手に懐中電灯を持っており、それで先行した。
 安藤もカメラマンを手招きして、ついて来るよう合図する。
 鬱蒼とした森の中で、しかも撮影時間は夜のようだった。
 森の中だと思っていたのだが、すぐに建物が現れた。
 ウッドデッキが見えて来たのだが、どうも手入れが悪いのか、木につやつや感が無い。

 日野:「この辺でタイトル行くか?」
 安藤:「いいね。行ってみよう」

 日野がウッドデッキの前に立ち、パッと顔を明るくした。

 日野:「はい、皆さん!どうも、こんばんわー!極東学園大学、サークル都市伝説追究委員会の日野でございます!えー、今回はですね、いつもの王道パターンで、廃屋探索を行いたいと思います!皆さん、この廃屋はですね、日本のどこにあると思いますか?……んー、残念!今回は場所が特定される内容は申し上げられないんですねー!何故かと言いますと……今度の廃墟は……ちょっとヤバいんですよ。何しろ、一家全員が謎の行方不明となって、死体すら見つかっていないという、曰く付きと言うには生ぬるい場所だからです。さあ、早速中に入って行きますよー?どうぞ、お楽しみにー!」
 安藤:「はい、カット!」
 日野:「こんなもんでいいか?」
 安藤:「最高だよ。さすがは高校時代、新聞部で学校の七不思議特集やっただけのことはあるな」
 日野:「今更ヨイショしても、去年のミスは許されないからな?」
 安藤:「厳しいな。でも高校の時だって、相当ヤバかったんだって?」
 日野:「ああ。七不思議の怪談を聞く集会を主催したんだけども、司会役の後輩を除いて、語り部全員が行方不明になりやがった。未だに、死体すら見つかってない」
 安藤:「……そっちの話をした方が盛り上がるんじゃねーか?」
 日野:「うるさいな。今は怪談話そのものよりも、こういう廃墟探索が好きなんだ」

 ビデオの2人はウッドデッキに上がった。
 ウッドデッキにはドアがあり、そこから家の中に入れそうだ。
 だが、廃屋の割には、そのドアの上に付いている外灯は煌々と輝いているのだが……。

 日野:「あれ?」

 日野は懐中電灯片手にドアノブを回した。
 だが、鍵が掛かっているらしく、うんともすんとも言わない。
 日野はガチャガチャとドアノブを回したりして、何とかこじ開けようとしている。

 安藤:「ちょっとどいて」

 安藤が日野の代わりにドアを開けようとした。
 最初はドアノブを回していたが、終いには足で蹴破ってしまった。
 おいおい、いくら廃屋だからっていいのかよ……。

 日野:「……お前がこじ開けたシーンは、編集でカットしておくよ」
 安藤:「そうしてくれ」

 2人は中に入った。
 カメラマンも後からついてくる。
 ……と!私は中の様子に見覚えがあった。
 ドアから入ると真っ直ぐ廊下があって、突き当りに戸棚がある。
 このビデオテープが入っていた戸棚だ。
 私がここに連れ込まれる前、既に招かざる深夜の訪問者がここにいたのだ!
 しめた!この映像を見て行けば、彼らがどうやってこの家から出たか、ヒントが映っているかもしれない。
 因みにさっきの勝手口のドアだが、今のとデザインが変わっている。
 恐らくこの兄ちゃん達に蹴り壊されたので、新しいドアを付けたのだろう。
 だとしたら、やはりこの家は一応の管理はされているということになる。

 日野:「田舎のオジさんとオバハンが謎の失踪ってか」
 安藤:「名前は浅峰克彦と浅峰昌子。それに、息子が1人いたらしいってさ。結構ヤンキーだって」
 日野:「田舎のヤンキーね。あんま大したこと無さそうだな。いつから行方不明だって?」
 安藤:「3年前からだって」
 日野:「ふーん……」

 日野達は腐臭の充満する台所に入った。
 案の定、この2人も腐臭にむせていた。

 日野:「これで放置されてから、たったの3年か!?勘弁してくれよ。飯くらい食ってから消えろってんだ」
 安藤:「はははははは!」

 やはり当時から、台所はそのままだったらしい。
 もっとも、当時って、このビデオが撮られたのが何年なのかが分からないのだが。

 日野:「あっ、くそっ!何か踏んだ!いい靴履いてくるんじゃなかったよ!」
 安藤:「死体でも踏んだ?」
 日野:「んなわけねーだろ!……おっ、何だこれ?」

 安藤が台所の奥の方へ行くのと、日野が何かを見つけたのは同時だった。

 日野:「肖像画発見!多分この2人のオジさんとオバハンが、この家の住人だよ」

 今の台所にあったか?
 日野が懐中電灯で照らした場所には、2人の中年夫婦の絵があった。
 1人は60歳くらいの初老の男性で、目立つ白髪に眼鏡を掛け、白い髭を生やしている。
 隣にいるのは似た年齢の女性で、黒髪を肩の先まで伸ばしている。
 どこにでもいる、初老の夫婦といった感じだった。

 日野:「えー、皆さん、ご覧頂けるでしょうか?こちらの肖像画、まるでゴッホ辺りが描いたようなタッチですが、実によく描けています。ここに描かれている老夫婦が、この家の主達だと思われます。果たしてこの2人は今どこにいるのでしょうか?……どうだ、安藤?今みたいな感じで。……安藤?……安藤!?」

 日野は安藤を呼んだが、安藤の声がしなかった。

 日野:「おい、安藤!どうした!?こっちに来いよ!」

 日野は安藤が行ったと思われる台所の先を懐中電灯で照らした。
 そこは2階の階段がある所と、応接間に通じる廊下がある場所だ。
 しかし、いくら日野が呼び掛けても安藤の反応は無かった。

 日野:「おい、倉石!安藤がどこに行ったか知らないか!?」
 倉石:「そっちの廊下に行ったと思いますが……」

 どうやらカメラマンの名前は倉石というらしい。

 日野:「ちっ!1人で先走りやがって!あいつ、いっつもそうなんだよな!去年だって、あいつにカメラマンやらせてみたら、録画されてなかったし!あいつとはもう2度と撮影しないぞ!カメラマンと違って、アシスタントなんて代わりはいくらでもいるんだからな!」

 日野は憤慨した様子で先に進んだ。
 どうやら階段の上には興味が無いらしく、日野は応接間のある廊下の方へ向かった。
 倉石カメラマンもそんな日野を映しながら付いていく。
 一体この3人の大学生は、この後どうなるのだろうか?
 明らかに死亡フラグの立った安藤を始め、この3人に待ち受けている展開とは?

 ……私、ここから本当に脱出できるんだろうな?
コメント (3)
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