[10月22日21:15.天候:曇 魔王城・大食堂]
横田:「魔界共和党総務担当理事の横田です。先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。暗黒の世界たる魔界を、月のように光り輝く幻想郷とするべく、世界の太陰であられるところのルーシー・ブラッドプール1世陛下におかれましては、ますますの……」
何気に晩餐会の司会を務める横田である。
だが、退屈な話で眠くなるのは人間界での顔と同じか。
横田:「……それでは準備が整いましたようでございます。我らが女王、ルーシー・ブラッドプール陛下のおなーりー!!」
稲生:「な、何だ何だ!?」
イリーナ:「こりゃまた豪勢な演出だねぇ……」
何故か顕正会の雷門会の如く、和太鼓をドンドンと叩く集団が現れ、観音扉が自動で開けられると、そこからルーシーが入って来た。
先導するは安倍春明であるが……。
ルーシー:「こんなにジャパニーズ・ドラムを叩くなんて聞いてないわよ?うるさくて耳がキンキンする!」
安倍:「横田のヤツ、またミスりやがって……!」
威厳溢れる顔付きで入って来たルーシーだが、魔術で安倍にテレパシーを送った。
どうやら日本人の稲生が来るということで、和太鼓の演出を企画したようなのだが、配置人数を多めにしてしまったようである。
ルーシー:「コホン。えー、日本から遥々このアルカディアへ足を運んで頂き、真に感謝するものであります。今宵は細やかながら、晩餐を用意しましたので、心行くまで堪能してください。それと、今回の件に関しては……」
パンッ!パンパンッ!パーンッ!
ルーシー:「な、何ごと!?」
安倍:「横田ァ!まだ陛下がお言葉を述べておられる最中だぞ!?」
横田:「す、すいません!クラッカーの準備してたら、何発か暴発をば……!」
ルーシー:「……!硬い事は申しません。とにかく、今は晩餐をお楽しみあれ」
ルーシーの瞳は普段マリアと同じ青色をしているのだが、魔力を上昇させた時などは琥珀色になったり、赤く光ったりする。
そこはさすが正体がヴァンパイアといったところか。
稲生:「い、頂きます!」
イリーナ:「じゃあ、お言葉に甘えて。姉さん、こっちのワイン飲む?」
ポーリン:「姉さん言うなっ!」
晩餐会への参加者はルーシーや安倍の他、宮廷魔導師のポーリンもいる。
ポーリンはダンテ一門の大魔道師で、エレーナの師匠である。
薬師系の魔道師で、普段は(肉体の使用期限をできるだけ伸ばす為か)老魔女の姿をしているのだが、公の場に出る時にはイリーナと同じくらいの30代の女性に変身して現れる。
本来はイリーナも完全に魔力を落とせばたちまち老婆の姿になってしまうのだが、そこはやはりベタな魔女の法則で、『師匠が老婆なら、弟子は若い女』の通りか。
因みにイリーナとポーリンは共にダンテ門流の創始者、ダンテ・アリギエーリの直弟子であり、ポーリンの方が先に弟子入りしたので、姉弟子ということになる。
但し、イリーナは途中で魔道師の修行を逃げ出した過去があり、生真面目なポーリンからは、妹弟子だとは思いたくない面もある。
なので、イリーナがポーリンを『姉さん』呼ばわりするのを嫌がるのである。
もっとも、さすがに今ではイリーナも免許皆伝を受けて、更にそこから精進し、グランドマスター(大魔道師)の地位にいる為、認めざるを得ないこともあり、微妙な感情なのである。
稲生:(僕が着けてるローブのブローチは、Iだ)
Iとはインターン(見習い)の略である。
マリアのブローチには、Lとあった。
ロー・マスター(一人前になり立て。日本の運転免許で言う若葉マークの状態)の略である。
他にはミドルマスターのM(ある程度熟練した状態。運転免許で言えば若葉マークが取れ、ブルーの状態)、そこから更に昇進したハイマスターのH(車の免許でいうゴールド)もある。
ハイマスター辺りになると、そろそろ師匠からは独立し、自分も弟子を取るように勧められるようになる。
だからイリーナとポーリンのローブのブローチには、グランドマスターのGの文字が彫られている。
マリア:「何も緊張することはないさ。食べよう。何か盛られていることは無いみたいだ」
稲生の隣に座るマリアが、あまり食の進まない稲生に話し掛けた。
稲生:「は、はい」
稲生はオードブルのサラダにフォークを入れた。
コース料理になっており、最初のサラダは海老やホタテの入った海鮮サラダであった。
アルカディア王国に海なんてあったっけか?と首を傾げるのは、ヤボというものだ。
例えアルカディア王国に海は無くても、魔界全体で言えば海はある。
人間界のそれとは違い、だいぶ見たことも無い、言い換えれば不思議な生態の海洋生物はいるだろうが。
それでもエビやホタテはいるらしく、そこはちゃんと稲生達が食べやすいように調理されているようだ。
ヴァンパイアは人の生き血以外、何も口にできないと思われがちだが、少なくともルーシーは違うようだ。
ちゃんと出された料理を口にしているし、血のように赤いワインも口に運んでいる。
ルーシー:「少なくとも、私もパパもママも食事はできるから、少なくとも私の家系においては、『ヴァンパイアは生き血しか吸えない』というのは間違ってるみたいだね。ただ、永遠の命を保つのに必要なだけ。どうしてヴァンパイアが永遠の命を保つのに、人間の生き血が必要なのかは私も分からない。だけど、そうすることで、確かに命を保っているのは事実だから」
稲生:「失礼ですが、お祖父さんとお祖母さんはどうなったのですか?」
ルーシー:「……死んだよ」
稲生:「ええっ!?でも、永遠の命って……」
ルーシーはパチンと指を鳴らした。
すると大食堂の壁に掛けられている大きな絵画が、クルンと回転して別の絵に入れ替わる。
その絵に描かれていたのは、キリスト教関係者によって火あぶりにされる男女の絵であった。
ルーシー:「さすがにこんなことされたら、死ぬに決まってるわ。永遠の命とはいうけど、殺されても死なないわけじゃないのよ。そこの魔道師達みたいにね」
稲生:「大変失礼致しました」
ルーシー:「もっとも、グランパもグランマも、当時は普通に『人間狩り』をやっていたから、いずれはああなってもしょうがなかったけどね。報いを受けただけよ。私はそんなヘマはしない」
稲生:「はー……」
ルーシーの母親はニューヨークに本社を構える総合商社の役員をしているが、その商才でもって、この王国の運営に当たったら、王室内が大混乱になったという。
女王の母親だから、ここでは皇太后ということになるのか?
安倍の仕事が全て皇太后に取られてしまったという異常事態が起きた。
尚、ルーシーには双子の妹ローラがいたが、これもまたキリスト教系カルト教団の“魔女狩り”に遭って、若い命を落としている。
ルーシー:「重い話をしてしまったね。そんな話はここまでにして、食事を進めましょう。今度は、あなたの人間界での出来事を聞かせて」
稲生:「は、はい!」
横田:「魔界共和党総務担当理事の横田です。先般の党大会における大感動は、未だ冷めやらぬものであります。暗黒の世界たる魔界を、月のように光り輝く幻想郷とするべく、世界の太陰であられるところのルーシー・ブラッドプール1世陛下におかれましては、ますますの……」
何気に晩餐会の司会を務める横田である。
だが、退屈な話で眠くなるのは人間界での顔と同じか。
横田:「……それでは準備が整いましたようでございます。我らが女王、ルーシー・ブラッドプール陛下のおなーりー!!」
稲生:「な、何だ何だ!?」
イリーナ:「こりゃまた豪勢な演出だねぇ……」
何故か顕正会の雷門会の如く、和太鼓をドンドンと叩く集団が現れ、観音扉が自動で開けられると、そこからルーシーが入って来た。
先導するは安倍春明であるが……。
ルーシー:「こんなにジャパニーズ・ドラムを叩くなんて聞いてないわよ?うるさくて耳がキンキンする!」
安倍:「横田のヤツ、またミスりやがって……!」
威厳溢れる顔付きで入って来たルーシーだが、魔術で安倍にテレパシーを送った。
どうやら日本人の稲生が来るということで、和太鼓の演出を企画したようなのだが、配置人数を多めにしてしまったようである。
ルーシー:「コホン。えー、日本から遥々このアルカディアへ足を運んで頂き、真に感謝するものであります。今宵は細やかながら、晩餐を用意しましたので、心行くまで堪能してください。それと、今回の件に関しては……」
パンッ!パンパンッ!パーンッ!
ルーシー:「な、何ごと!?」
安倍:「横田ァ!まだ陛下がお言葉を述べておられる最中だぞ!?」
横田:「す、すいません!クラッカーの準備してたら、何発か暴発をば……!」
ルーシー:「……!硬い事は申しません。とにかく、今は晩餐をお楽しみあれ」
ルーシーの瞳は普段マリアと同じ青色をしているのだが、魔力を上昇させた時などは琥珀色になったり、赤く光ったりする。
そこはさすが正体がヴァンパイアといったところか。
稲生:「い、頂きます!」
イリーナ:「じゃあ、お言葉に甘えて。姉さん、こっちのワイン飲む?」
ポーリン:「姉さん言うなっ!」
晩餐会への参加者はルーシーや安倍の他、宮廷魔導師のポーリンもいる。
ポーリンはダンテ一門の大魔道師で、エレーナの師匠である。
薬師系の魔道師で、普段は(肉体の使用期限をできるだけ伸ばす為か)老魔女の姿をしているのだが、公の場に出る時にはイリーナと同じくらいの30代の女性に変身して現れる。
本来はイリーナも完全に魔力を落とせばたちまち老婆の姿になってしまうのだが、そこはやはりベタな魔女の法則で、『師匠が老婆なら、弟子は若い女』の通りか。
因みにイリーナとポーリンは共にダンテ門流の創始者、ダンテ・アリギエーリの直弟子であり、ポーリンの方が先に弟子入りしたので、姉弟子ということになる。
但し、イリーナは途中で魔道師の修行を逃げ出した過去があり、生真面目なポーリンからは、妹弟子だとは思いたくない面もある。
なので、イリーナがポーリンを『姉さん』呼ばわりするのを嫌がるのである。
もっとも、さすがに今ではイリーナも免許皆伝を受けて、更にそこから精進し、グランドマスター(大魔道師)の地位にいる為、認めざるを得ないこともあり、微妙な感情なのである。
稲生:(僕が着けてるローブのブローチは、Iだ)
Iとはインターン(見習い)の略である。
マリアのブローチには、Lとあった。
ロー・マスター(一人前になり立て。日本の運転免許で言う若葉マークの状態)の略である。
他にはミドルマスターのM(ある程度熟練した状態。運転免許で言えば若葉マークが取れ、ブルーの状態)、そこから更に昇進したハイマスターのH(車の免許でいうゴールド)もある。
ハイマスター辺りになると、そろそろ師匠からは独立し、自分も弟子を取るように勧められるようになる。
だからイリーナとポーリンのローブのブローチには、グランドマスターのGの文字が彫られている。
マリア:「何も緊張することはないさ。食べよう。何か盛られていることは無いみたいだ」
稲生の隣に座るマリアが、あまり食の進まない稲生に話し掛けた。
稲生:「は、はい」
稲生はオードブルのサラダにフォークを入れた。
コース料理になっており、最初のサラダは海老やホタテの入った海鮮サラダであった。
アルカディア王国に海なんてあったっけか?と首を傾げるのは、ヤボというものだ。
例えアルカディア王国に海は無くても、魔界全体で言えば海はある。
人間界のそれとは違い、だいぶ見たことも無い、言い換えれば不思議な生態の海洋生物はいるだろうが。
それでもエビやホタテはいるらしく、そこはちゃんと稲生達が食べやすいように調理されているようだ。
ヴァンパイアは人の生き血以外、何も口にできないと思われがちだが、少なくともルーシーは違うようだ。
ちゃんと出された料理を口にしているし、血のように赤いワインも口に運んでいる。
ルーシー:「少なくとも、私もパパもママも食事はできるから、少なくとも私の家系においては、『ヴァンパイアは生き血しか吸えない』というのは間違ってるみたいだね。ただ、永遠の命を保つのに必要なだけ。どうしてヴァンパイアが永遠の命を保つのに、人間の生き血が必要なのかは私も分からない。だけど、そうすることで、確かに命を保っているのは事実だから」
稲生:「失礼ですが、お祖父さんとお祖母さんはどうなったのですか?」
ルーシー:「……死んだよ」
稲生:「ええっ!?でも、永遠の命って……」
ルーシーはパチンと指を鳴らした。
すると大食堂の壁に掛けられている大きな絵画が、クルンと回転して別の絵に入れ替わる。
その絵に描かれていたのは、キリスト教関係者によって火あぶりにされる男女の絵であった。
ルーシー:「さすがにこんなことされたら、死ぬに決まってるわ。永遠の命とはいうけど、殺されても死なないわけじゃないのよ。そこの魔道師達みたいにね」
稲生:「大変失礼致しました」
ルーシー:「もっとも、グランパもグランマも、当時は普通に『人間狩り』をやっていたから、いずれはああなってもしょうがなかったけどね。報いを受けただけよ。私はそんなヘマはしない」
稲生:「はー……」
ルーシーの母親はニューヨークに本社を構える総合商社の役員をしているが、その商才でもって、この王国の運営に当たったら、王室内が大混乱になったという。
女王の母親だから、ここでは皇太后ということになるのか?
安倍の仕事が全て皇太后に取られてしまったという異常事態が起きた。
尚、ルーシーには双子の妹ローラがいたが、これもまたキリスト教系カルト教団の“魔女狩り”に遭って、若い命を落としている。
ルーシー:「重い話をしてしまったね。そんな話はここまでにして、食事を進めましょう。今度は、あなたの人間界での出来事を聞かせて」
稲生:「は、はい!」