報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女が見せた悪夢」

2016-10-02 22:21:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[時期不明 時刻不明 天候不明 埼玉県さいたま市中央区某所 某カフェ]

 稲生はアナスタシア組のアンナとカフェにいた。
 稲生を連れて行った小さなカフェである。
 そこでアンナは稲生に、ある話をしていた。
 それは前回話したのと同じ、稲生の母校の高校で起きた怖い話である。
 前回してくれたのは、性格の悪いイケメンに惚れた哀れな女子生徒の話であったが、今回はまた違った話だった。
 カップルの話ではあったが、こちらはちゃんと真面目に付き合っている方。
 そのカップルに介入した悪魔の話であった。

 アンナ:「誰が見ても仲睦まじいカップルでね、2人とも性格も良かったから、周りの人達にはやっかまれることも無く、祝福されてたそうよ」
 稲生:「いいですねぇ……」
 アンナ:「だけど、お互いの両親がそのお付き合いに反対だったの」
 稲生:「えっ、どうしてですか!?」
 アンナ:「理由は分からない。両親同士が仲が悪かった為に、その息子や娘が付き合うことに反対だったと言われてる。だったら、同じ高校に入れるなって話だよね」
 稲生:「確かに……」

 恐らくそれを知ったのは、高校に入学してしまった後だからだと思われる。
 東京中央学園は私立校である為、入学金からして公立校と比べてもバカ高い。
 それに寄付金制度もある。
 それらを払っておきながら、転校させるのもバカらしかったのかもしれない。
 だが、それが悲劇を生んだのもまた事実。
 とにかく、両親からの反対の声を交わしつつ、このカップルは付き合い続けたという。
 昔の話であるが、どれくらい昔かというと、まだケータイが普及する前くらい。
 お互いの連絡に電話を使っていたらしいが、当時は家の固定電話か外の公衆電話を使うのが当たり前の時代だ。
 そんな時、彼氏の方が部活で帰りが遅くなった為、約束の時間に電話できなくなり、止む無く公衆電話から掛けたそうである。

 アンナ:「その場所っていうのが、学校の裏門にポツンと立っていた電話ボックスだったの」
 稲生:「電話ボックス?そんなのあったかなぁ……?」
 アンナ:「今は無いわ。撤去されたのよ。表向きはケータイが普及して利用者がいなくなったからということになっているけど、実際は違ったのよ。そして彼氏さんは知らずにその電話を使ってしまった為に、不幸に巻き込まれることになった」
 稲生:「何でその電話、ヤバいんですか?」
 アンナ:「悪魔の電話だからよ。私が直接見たわけじゃないから分からないけど、多分、電話機自体が悪いんじゃなく、悪質な低級悪魔が依り代にしていたんだと思うね」
 稲生:「へえ……」
 アンナ:「それからよ。2人の間に変なことが起きたのは……」

 例えば彼女の元に、彼氏から電話が掛かって来た。
 彼女は何の疑いも無く、彼氏との電話を楽しんだ。
 ところが翌日、学校に行くと彼氏の様子がおかしい。
 聞いてみると、彼氏は彼女の家に電話をしたというのに、ずっと話し中で繋がらなかったという。
 その逆もあった。
 彼女が彼氏の家に電話を掛けたらずっと話し中で、彼氏としては彼女からの電話を取っていたという。
 さすがにこれはおかしいと感じた2人は、誰かが成り済ましをしているのではないかと考えた。
 そこで2人は成り済まし犯が2度と悪さをできないように、色々と工夫したらしい。
 電話を掛けて1度切り、また掛け直したり、或いはあえて電話の時間をずらしたりとかだ。
 しかしそれでも、悪魔の方が1枚上手だったらしい。
 ある夜のこと、彼女が電話を取ると、物凄く不機嫌な彼氏の声が聞こえて来た。
 何でも彼女の方から会いたいという電話があってずっと待っているのに、待てど暮らせど来やしない。
 しびれを切らして電話したら、まだ家にいる。
 どういうことだ?と。
 もちろん、彼女にとっては身に覚えの無いことである。
 彼氏は学校の裏門の前で待っているから、早く来いと急かしてきた。

 アンナ:「今からすれば、とても怪しい話だよね。ねぇ、稲生君。彼女は彼氏の所へ行ったと思う?」
 稲生:「行ったと思います」

 稲生は自分ならどうしただろうと思った。
 恐らく、イリーナにでも相談したかもしれない。

 アンナ:「そう。彼女は行ったの。思えば、行かなかった方が良かったのかもしれないけど」

 裏門に到着すると、彼氏の姿は無かった。
 待ち切れなくて帰ってしまったのだろうか?
 夜中の裏門は人の気配など無く、裏路地に面している為か、街灯もほとんど無い。
 だからこそ、電話ボックスの薄明るい明かりがとても目立った。
 すると、まるで彼女を待ち構えていたかのように、鳴るはずの無い公衆電話から呼び出し音が鳴ったという。

 1:電話を取った。
 2:電話を取らなかった。
 3:逃げ出した。

 稲生:「電話を取ったと思います」
 アンナ:「そう。まるで自分を待っていたかのようなタイミングで鳴ったからね。彼女は引き寄せられるように、電話を取った。だけど、受話器の向こうからは何も聞こえなかったの。それで彼女はどうしたと思う?」

 1:何か喋ってみた。
 2:もうしばらく様子を見た。
 3:電話を切った。

 稲生:「僕だったら不気味なんで、切ってしまいます」
 アンナ:「そう。彼女もそうしたわ。だけど、そうするべきではなかった。だって、そのせいで恐ろしいことが起きたんですもの」

 1:電話ボックスが爆発した。
 2:電話機が変化し、ついに悪魔が正体を現した。
 3:外に彼氏の死体が転がっていた。
 4:いきなり暴漢が現れ、乱暴された。
 5:いや、ちょっと待って……。

 アンナ:「ダメよ。選択肢は選ばせない」
 稲生:「せ、選択肢!?」
 アンナ:「ねぇ、この先の続きを聞きたいでしょ?」
 稲生:「そりゃあ、気になりますよ」

 稲生が大きく頷くと、アンナは立ち上がった。

 アンナ:「稲生君の頼みだから聞いてあげる。でも、その代わりキスしてちょうだい」
 稲生:「は!?」

 稲生は耳を疑った。

 稲生:「い、今、何て……!?」
 アンナ:「冗談じゃないわ。本気よ」

 アンナは真っ直ぐ稲生を見つめている。

 アンナ:「キスしてくれないと、話してあげないよ」

 脅迫のように言い放つと、稲生の傍までやってきた。

 稲生:「あ、あの……。それ、何の意味が?」
 アンナ:「私、あなたのことが好きなの。マリアンナのことなんか捨てて、私に今すぐキスして!あなたの家を元通りしてあげるんだから、それくらい、いいでしょ!?」

 恩着せがましい言い方と、魔女同士の呆れるほど薄っぺらい結束(自分の都合優先で、仲間のことは平気で【お察しください】)に稲生は腹が立った。
 だが、アンナはそんなことお構いなしである。

 アンナ:「キスしてってば!あなたの家が元通りにならなくてもいいの!?」

 アンナは稲生の腕を掴み、無理やりキスしてこようとしてきた。

 稲生:「ちょっ……!やめてくださいよ!!」

 稲生はアンナを突き飛ばした。
 咄嗟のことだったが、それでバランスを崩したアンナが椅子に躓いて、後ろ向きに倒れる。
 ガンッ!という音がして、アンナはテーブルの角に頭をぶつけた。

 稲生:「あ、アンナ!?大丈夫か!?」

 稲生はアンナに慌てて駆け寄った。
 アンナの頭からは血がドクドクと出ており、固く目を閉じている。
 まさか、死んでしまったのか?そんなつもりは無かったのに……。
 稲生が茫然としていると、アンナの目がカッと見開かれた。
 そして、青ざめた唇から、スッと血が流れる。

 アンナ:「私に恥をかかせたな……!絶対許さない……!お前を呪ってやる……!!」
 稲生:「うっ……!」

 稲生に激しいめまいが起こる。
 気が付くと、稲生はカフェの椅子に座っていた。
 テーブルを挟んで向かいにはアンナが座っている。
 もちろん、どこもケガはしていない。
 今のは何だったんだろうと、稲生は首を傾げた。

 アンナ:「じゃあ、話を始める前に次の中からカードを選んで」
 稲生:「!?」
 アンナ:「あなたに話す話はいくつかあるんだけど、その中で話してあげるのは1つだけ」

 アンナはテーブルの上に4枚のトランプを裏返して置く。

 アンナ:「この中から選んで」
 稲生:「いや、でも、話しならさっき……」
 アンナ:「? 何言ってるの?話なら、これからするわよ?いいから、早くカードを引いて」
 稲生:「……!」

 稲生はカードを引いた。

 アンナ:「ああ、このカードね。それじゃ、仲睦まじいカップルに悪魔が介入してしまったせいで大変なことが起きた話をしてあげるね」
 稲生:「……!!」

 稲生は真っ青になった。
 これって……?
 そして今度は少し違う結末で話が終わり掛けると、アンナはニヤッと笑った。
 唇が青ざめて、そこから一筋の血が滴り落ちる。

 アンナ:「逃げられると思った?ダメよ。永遠に逃がしはしない……!魔女の恐ろしさをもっと味わわせてやるわ……!」
 
 数秒後、稲生はまた元の位置に座っていた。
 アンナも同じ位置に座っている。

 アンナ:「じゃあ、話を始める前にカードを引いて」

 稲生はまたカードを引いた。
 違うカードを引くと別の話をアンナはしてくれるのだが、その話が結末に差し掛かると、件のセリフを言って、また元に戻るのである。
 稲生は何ループもした時、また同じカードを引いた。
 悪魔の公衆電話の話だ。
 稲生は意を決して、再びアンナがキスを迫る展開に持って行く。
 だが、再び稲生がアンナを突き飛ばそうとした時、

 アンナ:「また、私を殺すのね……?そんなことをしても逃げられないわよ。もっともっと魔女の恐ろしさを味わってもらうわ……!」

 そして、またもや元の位置に戻ってしまう。
 どうあっても逃げられないのか!
 アンナが何食わぬ顔で、またカードをテーブルの上に並べる。

 稲生:「も、もうやめてくれーっ!僕が悪かった!もう許してくれっ!!」

 稲生は頭を抱えてテーブルの上に突っ伏した。
 そして、アンナがニヤリと笑い、青ざめた唇からスッと血を垂らす。

 アンナ:「思ったより根性が無いのね。せっかく私が好きになった人なんだから、もっと頑張って欲しかったわ。……でも駄目よ。私、呪ってやるって言ったでしょう……?あなたはこれから、ずーっと私と一緒なの。マリアンナのことは忘れて……ね」

 稲生の周囲がグラリと歪んだ。
 どっちが上でどっちが下だか分からない、真っ暗闇の中へと落ちて行く。
 アンナの声が響いた。

 アンナ:「私達は一緒よ。永遠に……」

 永遠に……。
 永遠に……。
 永遠に……。
 永遠に……。
 永遠に……。

 
 そして、稲生は何も分からなくなった。

[9月8日05:40.天候:晴 アルピコ交通高速バス車内]

 稲生:「わああああっ!?」
 マリア:「!!!」

 稲生はガバッと飛び起きた。
 バスは稲生達が降りる1つ前のバス停、白馬町にて乗客を降ろしている最中だった。
 稲生の叫び声に、他の乗客達がこちらを見る。

 稲生:「……あ。す、すいません!すいません!」

 稲生は慌てて謝る。

 マリア:「な、何があったの!?」
 稲生:「な、何でもありません!」
 マリア:「ええ〜……?」

 夢オチで済んだから良いようなものの、後で知ったことだが、これはアンナが稲生に対して、師匠アナスタシアに恥をかかせた腹いせであったという。
 本当は恐ろしい魔女の話でした。
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