報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔界からの召喚命令」

2016-10-20 21:50:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月15日14:30.天候:晴 長野県北部 マリアの屋敷西側・リビングルーム]

 稲生:「イリーナ先生、シャワーの水漏れ、直しておきました」
 イリーナ:「ご苦労様。いや〜、こういう時、男手があるといいねぇ……。『男なんかイラネ!』とか何とか言ってる魔女達に見せてやりたいよ」
 マリア:「何でそこで私を見るんですか!私はそんなこと言ってませんよ!」
 イリーナ:「別に、何も言ってないさねー」
 稲生:「もっとも、魔女さん達は魔法で設備故障なんか直しちゃうんでしょうね」
 イリーナ:「まあ、そうなんだけどねぇ……。身も蓋もありゃしないけど……」

 イリーナは紅茶をズズズと啜った。
 啜りながら、稲生のレポートを読んでいる。

 イリーナ:「うん……うん……。なかなか修行は順調に進んでるみたいだねぇ……。そろそろ次の段階への移行を考えようかねぇ……」
 稲生:「本当ですか!」
 イリーナ:「この調子で頑張るんだよ」
 稲生:「はい!」
 マリア:「元々古めかしく造ってある屋敷ですけど、さすがにそろそろあちこちガタが来ている感じがしますねぇ……」
 イリーナ:「ん?なぁに?アタシのせいだって言いたいの?」
 マリア:「いや、この屋敷、設計したの師匠だし」
 イリーナ:「でも管理を任せているのはマリアだよ」
 マリア:「ですけどね……」
 稲生:「まあ、何年も使い込めば不具合も起きますよ。もし何だったら、僕が直しますから」
 イリーナ:「頼もしいねぇ……。大師匠が『男手も必要だ!』と言ってる意味が分かるってものさね……」
 マリア:「そういう意味なんですか?私は男女比率が偏ってるから、その調整の為だって聞いたんですけど……」
 イリーナ:「こぉら!勇太君の前でそんなこと言わない!」
 稲生:「全然気にしてませんから」

 と、そこへ、マリアの使役するメイド人形が郵便物を持って来る。

 稲生:「相変わらず、大量に来ますねぇ……。先生宛の手紙」
 イリーナ:「ま、1000年も生きてると、色んな付き合いもあるさー。ほとんどが要らないダイレクトメールだったりするけど……。それは暖炉の火種にでも使って」
 マリア:「まだ暖炉を使用するほど寒くはありません」
 稲生:「まあ、暖炉の火を焚いて謎解きするギミックがこの屋敷にはありますけどね。でも、誰も使わない」
 イリーナ:「まかり間違って侵入者でも来たなら、彼らに解かせるつもりだったんだけど、誰も来ない?」
 稲生:「来ませんねぇ……」
 マリア:「もはや公然の秘密と化しているので、正規の訪問者くらいしかいません」

 イリーナの仕掛けによれば、もし侵入者が現れようものなら、稲生は中ボス、マリアは大ボス、イリーナがラスボスになってその侵入者の前に立ちはだかるつもりであるという。
 で、普段その侵入者を追及する役目を人形達が行う。

 稲生:「僕はともかく、マリアさんや先生が立ちはだかったら、もう侵入者は命が無いですよ」
 イリーナ:「まあ、そうだね」
 稲生:「……ん?僕も敵役ですか!?」
 マリア:「当たり前だろう?」
 イリーナ:「勇太君もこっち側の者じゃない。まだ見習とはいえ、魔道師なんだからさ」
 稲生:「人間の敵になるなんて……」
 イリーナ:「いや、誰も人間の敵になれなんて言ってないよー。侵入者は何も人間とは限らないからね」
 稲生:「あ、なるほど」
 マリア:「師匠が本気で読む手紙は、やはり『依頼』の手紙ですか」
 イリーナ:「そうだね。あとはそのお礼状とか……」
 稲生:「先生のお仕事って?」
 イリーナ:「色々あるよ。“ゴルゴ13”みたいな依頼もあるしね」
 稲生:「暗殺!?」
 イリーナ:「暗殺とは限らないし、暗殺は引き受けるのが難しいね。結局私達は裏から世界を見る存在でもあるから、暗殺対象者が私達にとって好ましくない者である限りは引き受けないよ。ま、他の魔女が引き受けることあるけど……」
 マリア:「でも、依頼の内容を聞く面談とかは“ゴルゴ13”みたいですよ」
 稲生:「先生の活動資金はそこから来ているんですね」
 イリーナ:「私だけじゃないよ。この屋敷の維持費や、あなた達の生活費も賄っている」
 稲生:「大変、お世話になっております」
 イリーナ:「早く一人前になって、自分で稼ぐようになっておくれね」
 稲生:「はい!」

 弟子達で郵便物の仕分けを行うのだが、もちろんイリーナ宛の手紙が沢山ある。
 ロシア語で書かれた手紙にあっては、もちろんロシアからの依頼の手紙だったりもするのだが、大抵はダンテ一門内からの手紙であったりすることも多い。
 ロシア語圏出身の魔道師が多いダンテ一門においては、そこでの公用語は英語に限られているのだが、ロシア系の魔道師達が私信で手紙を送る場合はロシア語でも良いことになっている。

 稲生:「まだロシア語は分からないなぁ……」
 イリーナ:「公用語は英語なんだから、それさえ分かれば大丈夫だよ」
 稲生:「あれ?僕宛てのがある。……変わった封筒だなぁ……」

 封筒の形自体は定型サイズギリギリのものなのだが、真っ赤な封筒であった。

 マリア:「! 師匠、まさかこれ……!?」
 イリーナ:「ほお……」
 稲生:「え?何ですか?」

 稲生は差出人を見た。
 するとそこには、『アルカディア王国宮内省』と書かれていた。
 中を開けてみると、そこにあったのは『召喚令状』!

 稲生:「な、何ですか、これ!?」
 マリア:「召喚令状ですよ、師匠!?」
 イリーナ:「うーむ……。勇太君は魔界に籍があるわけでもないのにねぇ……」

 それは英語で書かれていたが、訳してみると、何でもルーシー女王直々の御指名であるらしい。
 だがこの召喚令状、魔界のアルカディア王国内ではよく国民に向けて発送されているものだという。

 イリーナ:「魔界にも人間の住民はいるからね、この『赤手紙』は人間限定で送られてくるものなんだよ」
 稲生:「僕はまだ人間扱いなんですね」
 イリーナ:「陛下から見れば、そうなんだろうねぇ……」
 稲生:「で、女王陛下が僕に何の御用なんでしょう?」
 イリーナ:「陛下の正体が何であるかは知ってるでしょう?」
 稲生:「あ、はい。確か、吸血鬼ですね」
 イリーナ:「うん、つまりそういうこと」
 稲生:「どういうことなんですか?」
 マリア:「血を寄越せってさ」

 マリアは溜め息混じりに言った。

 稲生:「へ?ひょえーっ!?」

 因みにこの“赤紙”の最後には、こんなことが書いてあった。
『尚、理由なき拒否は国家反逆罪として検挙の対象となり得ることもある為、重々承知しておくことを強く勧めるものである』
 と。

 稲生:「ここは日本だから、アルカディア王国の法律は及ばないから大丈夫ですね」
 イリーナ:「あー、ゴメン。私に、『依頼』来てるわ。安倍春明首相から。『ルーシーの我がままで申し訳無いが、何とか連れて来てくれ』って」
 稲生:「ということは、ここで僕が拒否したら……?」
 マリア:「師匠とガチ勝負して勝つしかないな」
 稲生:「あ、あの……。アナスタシア組と勝負したのはご存知ですよね?」
 イリーナ:「ああ。勇太君、大活躍だったそうじゃない」
 稲生:「先生、僕と一発どうですか?」
 イリーナ:「ほお?早くもアタシと師弟対決かい?いいよ。やってみようね」
 マリア:「師匠!?アナスタシア組と、どんな勝負したかは知ってるんですよね!?」
 イリーナ:「“ぷよぷよ”でしょ?エレーナに電話して、持って来てもらおうかねぇ……」

 イリーナの、普段は細くしている目が、この時ばかりは半開きになっていた。
コメント
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