報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大宮から東京へ。そして、信州へ」

2016-10-01 21:22:25 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[9月7日20:30.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 湯快爽快おおみや1F食事処]

 稲生:「前にも通ったコースだと思いますが、最終のバスで大宮駅に戻って、そこから電車で新宿駅に向かうというものになります」
 マリア:「それでいいよ」

 マリアは風呂上がりなのと、食事の際にアルコールを取ったこともあって、白い肌はピンク色に染まっていた。

 稲生:「そう言えば前から気になっていたんですが……」
 マリア:「なに?」
 稲生:「入浴の諸注意で『髪の毛を湯船に浸けない』ってのがあるんですが、マリアさんはショートだからともかく、ロングの人はどうしてるんでしょう?」
 マリア:「髪を束ねて、タオルで巻き上げればいい。師匠もそうしてた」
 稲生:「あ、なるほど……。結構大変なんですね」
 マリア:「……だね。私も勇太に連れられて、こういう所にでも来なかったら知らなかったよ」
 稲生:「おっ、そうですか」
 マリア:「勇太も気づいてると思うけど、最近のダンテ一門の魔道師達はやたら日本に来るようになってる。最初は日本で何か悪いことが起こると思っていたんだけど……」

 マリアは水晶球を出した。
 するとそこには、イリーナ組以外の魔道師達の画像が出ている。
 それだけ見ると、思いっ切り日本観光を楽しむ外国人達にしか見えなかった。

 マリア:「私達の“魔の者”との戦いのことが門内に全部広まったわけだけども、『更なる調査の一環』にかこつけて、明らかに遊びに来ている」
 稲生:「い……いいんじゃないですか。楽しそうで」
 マリア:「エレーナのホテルも、毎日必ずどこかの魔道師が泊まりに来るくらいになったそうだ。しかし……あまり、魔道師には来て欲しくないんだけど……」
 稲生:「どうしてですか?」
 マリア:「私がどうして日本に住んでいるか、知ってるでしょ?」
 稲生:「“魔の者”から逃れる為、でしたね」
 マリア:「そう」

 マリアが10代の頃、イギリスで酷い暴行を幾日も受けたのは、“魔の者”の仕業によるとされる。
 マリアの魔道師としての力が開花する前に、その魂を喰らうのが目的であったらしい。
 日本では子宮を狙われたが、どうも妊娠経験があってはダメらしく、急遽心臓狙いに変更されたが。
 いずれにせよ、悪魔の考えることは分からない。

 マリア:「それが魔道師がやたら入り浸るようでは目立ってしょうがない」
 稲生:「まだ“魔の者”はマリアさんを狙っているんでしょうか?」

 稲生が狙われたこともあった(“クイーン・アッツァー”号編)が、こちらもまたその魔の手から逃れられている。

 マリア:「どうだろうね。私達が契約する悪魔達でさえ、“魔の者”の考えることは分からないそうだ。理解しようとするだけ無駄かもしれない」
 稲生:「ですねぇ……」

[同日21:30.天候:晴 送迎バス車内]

 運転手:「大宮駅行き、最後のバスが出発しまーす!」

 運転手は発車の時間間際、バスから降りて、周囲に乗車希望者がいないかを確認している。
 稲生とマリアはマイクロバスの1番後ろの席に座っていた。
 マリアは窓側に座り、ローブを羽織ってフードを被っている。

 運転手:「はい、発車しまーす」

 運転手がバスに戻って来て、自動ドアを閉めた。
 そして、ゆっくりと出発する。
 駐車場の中を通って住宅街に出、路地から国道17号線新大宮バイパスへ向かう。
 車内には明かりが灯ってはいたが、バス車内の照明では、そんなに明るいものではない。
 マリアはフードを被ったまま、背もたれと窓枠にもたれるようにしていた。
 旅の疲れと酒に酔ったのが原因かもしれない。
 薄緑色のブラウスにグレーのプリーツスカートという、まるで女子高生という恰好をしてはいるが、これは高校時代の稲生の制服に感化されたものが1つ。
 色合いはともかく、10代で魔道師になった者は似たような恰好をすることが多い。
 エレーナも白いブラウスに黒いベスト、赤いネクタイ(リボンタイになることもある)に、黒いスカートである。
 まるでアナスタシア組のようだが、これは“ベタな魔女の法則”として黒系を選んだことによる。
 マリアはあまりそちらのモノトーンは好きになれず、稲生の高校の制服を参考にしたという話がある。
 が、どうやらこちらは半分冗談らしい。
 マリアは人間時代、全寮制の私立高校にいたが、そちらにも制服があった。
 その制服の色を参考にしているのが本音だろうとも思われる(“クロックタワー3”の主人公、アリッサを参照)。
 さすがに、イリーナやアナスタシアくらいまで歳を取れば、そういった服装は卒業になるだろう。
 アナスタシア組で、肉体年齢が18歳を超えた弟子については、黒スーツ着用が義務付けられているとのこと。

[同日21:45.天候:晴 大宮駅西口→大宮駅埼京線ホーム]

 バスが路線バスの降車場の手前、パチンコ店前辺りに止まる。

 運転手:「はい、ありがとうございましたー」

 ドアが開くと、乗客達が一斉に降りる。

 稲生:「マリアさん、大丈夫ですか?」
 マリア:「ああ……大丈夫」

 マリアはバスから降りる時、稲生に手を取ってもらった。
 バスから降りるとフードを取る。
 稲生はローブを羽織っていない。
 マリアがローブを羽織っているのは、見た目がまだ10代なのに(実年齢は25歳)、飲酒していることで余計な誤解を周囲にさせない為でもあった。

 稲生:「今日はマリアさん、飲みましたね」
 マリア:「何だか安心しちゃって……。師匠と一緒なら、逆にそんなことは無いんだけど……」
 稲生:「先生もかなり飲まれますからねぇ……」

 圧倒されて、却って酒が喉を通りにくいということだ。
 普段はケンカばかりしていそうなイリーナとアナスタシアだが、2人にウォッカを持って行くと、仲良く飲むらしい。
 因みにこの手法は、エレーナが初めてやった。
 ウォッカはウクライナでもよく飲まれており、ワンスターホテルのレストランでも出る。
 その酒で見事、イリーナとアナスタシアを仲直りさせたという逸話だ。

 マリア:「今回のアナスタシア組からの勝負、魔法じゃなくてゲームなのも、ある意味、うちの師匠に気を使った可能性も否定できないな」
 稲生:「そうなんですか?」
 マリア:「どうしても本気の魔法勝負となると、ヘタしたら死人が出るしね」
 稲生:「『流血の惨を見る事、必至であります』ってか」
 マリア:「ん?」
 稲生:「い、いや、何でも……」

 稲生達はコインロッカーに行き、そこで預けていたキャリーバックを回収した。
 それからそれを転がして、埼京線ホームに向かう。

 マリア:「大丈夫?」
 稲生:「大丈夫です。上手くエスカレーターに乗せれば……」

 埼京線ホームは地下深くにある。
 ホームに到着すると、既に電車がホームに停車していた。
 大宮始発の各駅停車ということもあってか、そんなに乗客は多くない。
 稲生はゴロゴロとキャリーケースを引っ張って、先頭車に向かった。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、21時53分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 りんかい線の車両に乗り込んだ。
 埼京線の車両と違って、座席の色が青を基調としたものになっている。
 そこに隣り合って腰掛けた。

[同日21:53.天候:晴 JR埼京線2184K電車10号車内]

 実は結構、発車時間ギリギリだったりする。
 それでも車内は空いていた。

〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 軽快な発車メロディの後で、すぐにドアが閉まる。
 3打点チャイムが流れるのはJR車両と同じだが、ドアの閉まる速度はりんかい線車両の方が若干速いかもだ。
 すぐにインバーター制御のモーター音を地下トンネル内に響かせて、電車が走り出した。
 ポイントの通過で大きな揺れと共に、車輪の軋み音が聞こえてくる。

〔「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の電車は、埼京線各駅停車、新宿行きです。途中駅での、快速の接続待ちはありません。次は北与野、北与野です。……」〕

 電車は地下トンネルを一気に出ると、そのまま更に坂を駆け登って高架線に出た。
 夜景自体はきれいなのだろうが、眠気と戦う魔道師にとってはそれどころでは無かった。
 恐らく新宿駅から更に乗り換える夜行バスでは、よく眠れることだろう。
 稲生達は進行方向左側の座席に座っていて、ドアの横の席に座っている。
 島式ホームの多い埼京線では、進行方向左側のドアは開く方が珍しい。
 必ず開くのは、対向式ホームである十条駅くらいか。
 新宿駅や大崎駅の場合、入線するホームによる。
 稲生はそれを良いことに、座席脇に大きなキャリーバッグを置いていた。
 マリアはそんな稲生に、寄り掛かるようにして眠気と格闘している。

 稲生にとっては、御褒美以外の何物でも無いわけだが。
コメント (1)
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