[9月7日20:30.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 湯快爽快おおみや1F食事処]
稲生:「前にも通ったコースだと思いますが、最終のバスで大宮駅に戻って、そこから電車で新宿駅に向かうというものになります」
マリア:「それでいいよ」
マリアは風呂上がりなのと、食事の際にアルコールを取ったこともあって、白い肌はピンク色に染まっていた。
稲生:「そう言えば前から気になっていたんですが……」
マリア:「なに?」
稲生:「入浴の諸注意で『髪の毛を湯船に浸けない』ってのがあるんですが、マリアさんはショートだからともかく、ロングの人はどうしてるんでしょう?」
マリア:「髪を束ねて、タオルで巻き上げればいい。師匠もそうしてた」
稲生:「あ、なるほど……。結構大変なんですね」
マリア:「……だね。私も勇太に連れられて、こういう所にでも来なかったら知らなかったよ」
稲生:「おっ、そうですか」
マリア:「勇太も気づいてると思うけど、最近のダンテ一門の魔道師達はやたら日本に来るようになってる。最初は日本で何か悪いことが起こると思っていたんだけど……」
マリアは水晶球を出した。
するとそこには、イリーナ組以外の魔道師達の画像が出ている。
それだけ見ると、思いっ切り日本観光を楽しむ外国人達にしか見えなかった。
マリア:「私達の“魔の者”との戦いのことが門内に全部広まったわけだけども、『更なる調査の一環』にかこつけて、明らかに遊びに来ている」
稲生:「い……いいんじゃないですか。楽しそうで」
マリア:「エレーナのホテルも、毎日必ずどこかの魔道師が泊まりに来るくらいになったそうだ。しかし……あまり、魔道師には来て欲しくないんだけど……」
稲生:「どうしてですか?」
マリア:「私がどうして日本に住んでいるか、知ってるでしょ?」
稲生:「“魔の者”から逃れる為、でしたね」
マリア:「そう」
マリアが10代の頃、イギリスで酷い暴行を幾日も受けたのは、“魔の者”の仕業によるとされる。
マリアの魔道師としての力が開花する前に、その魂を喰らうのが目的であったらしい。
日本では子宮を狙われたが、どうも妊娠経験があってはダメらしく、急遽心臓狙いに変更されたが。
いずれにせよ、悪魔の考えることは分からない。
マリア:「それが魔道師がやたら入り浸るようでは目立ってしょうがない」
稲生:「まだ“魔の者”はマリアさんを狙っているんでしょうか?」
稲生が狙われたこともあった(“クイーン・アッツァー”号編)が、こちらもまたその魔の手から逃れられている。
マリア:「どうだろうね。私達が契約する悪魔達でさえ、“魔の者”の考えることは分からないそうだ。理解しようとするだけ無駄かもしれない」
稲生:「ですねぇ……」
[同日21:30.天候:晴 送迎バス車内]
運転手:「大宮駅行き、最後のバスが出発しまーす!」
運転手は発車の時間間際、バスから降りて、周囲に乗車希望者がいないかを確認している。
稲生とマリアはマイクロバスの1番後ろの席に座っていた。
マリアは窓側に座り、ローブを羽織ってフードを被っている。
運転手:「はい、発車しまーす」
運転手がバスに戻って来て、自動ドアを閉めた。
そして、ゆっくりと出発する。
駐車場の中を通って住宅街に出、路地から国道17号線新大宮バイパスへ向かう。
車内には明かりが灯ってはいたが、バス車内の照明では、そんなに明るいものではない。
マリアはフードを被ったまま、背もたれと窓枠にもたれるようにしていた。
旅の疲れと酒に酔ったのが原因かもしれない。
薄緑色のブラウスにグレーのプリーツスカートという、まるで女子高生という恰好をしてはいるが、これは高校時代の稲生の制服に感化されたものが1つ。
色合いはともかく、10代で魔道師になった者は似たような恰好をすることが多い。
エレーナも白いブラウスに黒いベスト、赤いネクタイ(リボンタイになることもある)に、黒いスカートである。
まるでアナスタシア組のようだが、これは“ベタな魔女の法則”として黒系を選んだことによる。
マリアはあまりそちらのモノトーンは好きになれず、稲生の高校の制服を参考にしたという話がある。
が、どうやらこちらは半分冗談らしい。
マリアは人間時代、全寮制の私立高校にいたが、そちらにも制服があった。
その制服の色を参考にしているのが本音だろうとも思われる(“クロックタワー3”の主人公、アリッサを参照)。
さすがに、イリーナやアナスタシアくらいまで歳を取れば、そういった服装は卒業になるだろう。
アナスタシア組で、肉体年齢が18歳を超えた弟子については、黒スーツ着用が義務付けられているとのこと。
[同日21:45.天候:晴 大宮駅西口→大宮駅埼京線ホーム]
バスが路線バスの降車場の手前、パチンコ店前辺りに止まる。
運転手:「はい、ありがとうございましたー」
ドアが開くと、乗客達が一斉に降りる。
稲生:「マリアさん、大丈夫ですか?」
マリア:「ああ……大丈夫」
マリアはバスから降りる時、稲生に手を取ってもらった。
バスから降りるとフードを取る。
稲生はローブを羽織っていない。
マリアがローブを羽織っているのは、見た目がまだ10代なのに(実年齢は25歳)、飲酒していることで余計な誤解を周囲にさせない為でもあった。
稲生:「今日はマリアさん、飲みましたね」
マリア:「何だか安心しちゃって……。師匠と一緒なら、逆にそんなことは無いんだけど……」
稲生:「先生もかなり飲まれますからねぇ……」
圧倒されて、却って酒が喉を通りにくいということだ。
普段はケンカばかりしていそうなイリーナとアナスタシアだが、2人にウォッカを持って行くと、仲良く飲むらしい。
因みにこの手法は、エレーナが初めてやった。
ウォッカはウクライナでもよく飲まれており、ワンスターホテルのレストランでも出る。
その酒で見事、イリーナとアナスタシアを仲直りさせたという逸話だ。
マリア:「今回のアナスタシア組からの勝負、魔法じゃなくてゲームなのも、ある意味、うちの師匠に気を使った可能性も否定できないな」
稲生:「そうなんですか?」
マリア:「どうしても本気の魔法勝負となると、ヘタしたら死人が出るしね」
稲生:「『流血の惨を見る事、必至であります』ってか」
マリア:「ん?」
稲生:「い、いや、何でも……」
稲生達はコインロッカーに行き、そこで預けていたキャリーバックを回収した。
それからそれを転がして、埼京線ホームに向かう。
マリア:「大丈夫?」
稲生:「大丈夫です。上手くエスカレーターに乗せれば……」
埼京線ホームは地下深くにある。
ホームに到着すると、既に電車がホームに停車していた。
大宮始発の各駅停車ということもあってか、そんなに乗客は多くない。
稲生はゴロゴロとキャリーケースを引っ張って、先頭車に向かった。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、21時53分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
りんかい線の車両に乗り込んだ。
埼京線の車両と違って、座席の色が青を基調としたものになっている。
そこに隣り合って腰掛けた。
[同日21:53.天候:晴 JR埼京線2184K電車10号車内]
実は結構、発車時間ギリギリだったりする。
それでも車内は空いていた。
〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
軽快な発車メロディの後で、すぐにドアが閉まる。
3打点チャイムが流れるのはJR車両と同じだが、ドアの閉まる速度はりんかい線車両の方が若干速いかもだ。
すぐにインバーター制御のモーター音を地下トンネル内に響かせて、電車が走り出した。
ポイントの通過で大きな揺れと共に、車輪の軋み音が聞こえてくる。
〔「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の電車は、埼京線各駅停車、新宿行きです。途中駅での、快速の接続待ちはありません。次は北与野、北与野です。……」〕
電車は地下トンネルを一気に出ると、そのまま更に坂を駆け登って高架線に出た。
夜景自体はきれいなのだろうが、眠気と戦う魔道師にとってはそれどころでは無かった。
恐らく新宿駅から更に乗り換える夜行バスでは、よく眠れることだろう。
稲生達は進行方向左側の座席に座っていて、ドアの横の席に座っている。
島式ホームの多い埼京線では、進行方向左側のドアは開く方が珍しい。
必ず開くのは、対向式ホームである十条駅くらいか。
新宿駅や大崎駅の場合、入線するホームによる。
稲生はそれを良いことに、座席脇に大きなキャリーバッグを置いていた。
マリアはそんな稲生に、寄り掛かるようにして眠気と格闘している。
稲生にとっては、御褒美以外の何物でも無いわけだが。
稲生:「前にも通ったコースだと思いますが、最終のバスで大宮駅に戻って、そこから電車で新宿駅に向かうというものになります」
マリア:「それでいいよ」
マリアは風呂上がりなのと、食事の際にアルコールを取ったこともあって、白い肌はピンク色に染まっていた。
稲生:「そう言えば前から気になっていたんですが……」
マリア:「なに?」
稲生:「入浴の諸注意で『髪の毛を湯船に浸けない』ってのがあるんですが、マリアさんはショートだからともかく、ロングの人はどうしてるんでしょう?」
マリア:「髪を束ねて、タオルで巻き上げればいい。師匠もそうしてた」
稲生:「あ、なるほど……。結構大変なんですね」
マリア:「……だね。私も勇太に連れられて、こういう所にでも来なかったら知らなかったよ」
稲生:「おっ、そうですか」
マリア:「勇太も気づいてると思うけど、最近のダンテ一門の魔道師達はやたら日本に来るようになってる。最初は日本で何か悪いことが起こると思っていたんだけど……」
マリアは水晶球を出した。
するとそこには、イリーナ組以外の魔道師達の画像が出ている。
それだけ見ると、思いっ切り日本観光を楽しむ外国人達にしか見えなかった。
マリア:「私達の“魔の者”との戦いのことが門内に全部広まったわけだけども、『更なる調査の一環』にかこつけて、明らかに遊びに来ている」
稲生:「い……いいんじゃないですか。楽しそうで」
マリア:「エレーナのホテルも、毎日必ずどこかの魔道師が泊まりに来るくらいになったそうだ。しかし……あまり、魔道師には来て欲しくないんだけど……」
稲生:「どうしてですか?」
マリア:「私がどうして日本に住んでいるか、知ってるでしょ?」
稲生:「“魔の者”から逃れる為、でしたね」
マリア:「そう」
マリアが10代の頃、イギリスで酷い暴行を幾日も受けたのは、“魔の者”の仕業によるとされる。
マリアの魔道師としての力が開花する前に、その魂を喰らうのが目的であったらしい。
日本では子宮を狙われたが、どうも妊娠経験があってはダメらしく、急遽心臓狙いに変更されたが。
いずれにせよ、悪魔の考えることは分からない。
マリア:「それが魔道師がやたら入り浸るようでは目立ってしょうがない」
稲生:「まだ“魔の者”はマリアさんを狙っているんでしょうか?」
稲生が狙われたこともあった(“クイーン・アッツァー”号編)が、こちらもまたその魔の手から逃れられている。
マリア:「どうだろうね。私達が契約する悪魔達でさえ、“魔の者”の考えることは分からないそうだ。理解しようとするだけ無駄かもしれない」
稲生:「ですねぇ……」
[同日21:30.天候:晴 送迎バス車内]
運転手:「大宮駅行き、最後のバスが出発しまーす!」
運転手は発車の時間間際、バスから降りて、周囲に乗車希望者がいないかを確認している。
稲生とマリアはマイクロバスの1番後ろの席に座っていた。
マリアは窓側に座り、ローブを羽織ってフードを被っている。
運転手:「はい、発車しまーす」
運転手がバスに戻って来て、自動ドアを閉めた。
そして、ゆっくりと出発する。
駐車場の中を通って住宅街に出、路地から国道17号線新大宮バイパスへ向かう。
車内には明かりが灯ってはいたが、バス車内の照明では、そんなに明るいものではない。
マリアはフードを被ったまま、背もたれと窓枠にもたれるようにしていた。
旅の疲れと酒に酔ったのが原因かもしれない。
薄緑色のブラウスにグレーのプリーツスカートという、まるで女子高生という恰好をしてはいるが、これは高校時代の稲生の制服に感化されたものが1つ。
色合いはともかく、10代で魔道師になった者は似たような恰好をすることが多い。
エレーナも白いブラウスに黒いベスト、赤いネクタイ(リボンタイになることもある)に、黒いスカートである。
まるでアナスタシア組のようだが、これは“ベタな魔女の法則”として黒系を選んだことによる。
マリアはあまりそちらのモノトーンは好きになれず、稲生の高校の制服を参考にしたという話がある。
が、どうやらこちらは半分冗談らしい。
マリアは人間時代、全寮制の私立高校にいたが、そちらにも制服があった。
その制服の色を参考にしているのが本音だろうとも思われる(“クロックタワー3”の主人公、アリッサを参照)。
さすがに、イリーナやアナスタシアくらいまで歳を取れば、そういった服装は卒業になるだろう。
アナスタシア組で、肉体年齢が18歳を超えた弟子については、黒スーツ着用が義務付けられているとのこと。
[同日21:45.天候:晴 大宮駅西口→大宮駅埼京線ホーム]
バスが路線バスの降車場の手前、パチンコ店前辺りに止まる。
運転手:「はい、ありがとうございましたー」
ドアが開くと、乗客達が一斉に降りる。
稲生:「マリアさん、大丈夫ですか?」
マリア:「ああ……大丈夫」
マリアはバスから降りる時、稲生に手を取ってもらった。
バスから降りるとフードを取る。
稲生はローブを羽織っていない。
マリアがローブを羽織っているのは、見た目がまだ10代なのに(実年齢は25歳)、飲酒していることで余計な誤解を周囲にさせない為でもあった。
稲生:「今日はマリアさん、飲みましたね」
マリア:「何だか安心しちゃって……。師匠と一緒なら、逆にそんなことは無いんだけど……」
稲生:「先生もかなり飲まれますからねぇ……」
圧倒されて、却って酒が喉を通りにくいということだ。
普段はケンカばかりしていそうなイリーナとアナスタシアだが、2人にウォッカを持って行くと、仲良く飲むらしい。
因みにこの手法は、エレーナが初めてやった。
ウォッカはウクライナでもよく飲まれており、ワンスターホテルのレストランでも出る。
その酒で見事、イリーナとアナスタシアを仲直りさせたという逸話だ。
マリア:「今回のアナスタシア組からの勝負、魔法じゃなくてゲームなのも、ある意味、うちの師匠に気を使った可能性も否定できないな」
稲生:「そうなんですか?」
マリア:「どうしても本気の魔法勝負となると、ヘタしたら死人が出るしね」
稲生:「『流血の惨を見る事、必至であります』ってか」
マリア:「ん?」
稲生:「い、いや、何でも……」
稲生達はコインロッカーに行き、そこで預けていたキャリーバックを回収した。
それからそれを転がして、埼京線ホームに向かう。
マリア:「大丈夫?」
稲生:「大丈夫です。上手くエスカレーターに乗せれば……」
埼京線ホームは地下深くにある。
ホームに到着すると、既に電車がホームに停車していた。
大宮始発の各駅停車ということもあってか、そんなに乗客は多くない。
稲生はゴロゴロとキャリーケースを引っ張って、先頭車に向かった。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、21時53分発、各駅停車、新宿行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕
りんかい線の車両に乗り込んだ。
埼京線の車両と違って、座席の色が青を基調としたものになっている。
そこに隣り合って腰掛けた。
[同日21:53.天候:晴 JR埼京線2184K電車10号車内]
実は結構、発車時間ギリギリだったりする。
それでも車内は空いていた。
〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕
軽快な発車メロディの後で、すぐにドアが閉まる。
3打点チャイムが流れるのはJR車両と同じだが、ドアの閉まる速度はりんかい線車両の方が若干速いかもだ。
すぐにインバーター制御のモーター音を地下トンネル内に響かせて、電車が走り出した。
ポイントの通過で大きな揺れと共に、車輪の軋み音が聞こえてくる。
〔「お待たせ致しました。本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。ご乗車の電車は、埼京線各駅停車、新宿行きです。途中駅での、快速の接続待ちはありません。次は北与野、北与野です。……」〕
電車は地下トンネルを一気に出ると、そのまま更に坂を駆け登って高架線に出た。
夜景自体はきれいなのだろうが、眠気と戦う魔道師にとってはそれどころでは無かった。
恐らく新宿駅から更に乗り換える夜行バスでは、よく眠れることだろう。
稲生達は進行方向左側の座席に座っていて、ドアの横の席に座っている。
島式ホームの多い埼京線では、進行方向左側のドアは開く方が珍しい。
必ず開くのは、対向式ホームである十条駅くらいか。
新宿駅や大崎駅の場合、入線するホームによる。
稲生はそれを良いことに、座席脇に大きなキャリーバッグを置いていた。
マリアはそんな稲生に、寄り掛かるようにして眠気と格闘している。
稲生にとっては、御褒美以外の何物でも無いわけだが。