瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編―その3―)

2009年10月08日 22時40分40秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)





次の日目を覚ましたら、俺は羽田空港にワープしてた。
しかもいつの間にか両手におにぎりが乗っている。
乗ってるからには食わねーともったいねーから、意識がもーろーとしてる頭でモシャモシャ食う。
隣の席にはナミが居て、俺の顔を見ながら、ぶつくさ文句をこぼしてた。
高い声が耳の奥まで入って来るんだけど、眠くて何を言われてるんだかさっぱり解んねェ。
ボケッと顔をながめてたら、飯がのどにつまった。
ゲホゲホむせる俺の背中を叩きながら、ナミがコーヒー牛乳のパックをよこす。
飲んでる内にようやく頭がさえて来て、じょーきょーがつかめた気がした。

そうだ、俺、これからナミと旅行すんだっけ。
そんでプロポーズすんだっけ。

だからナミと一緒に羽田空港行って…けどおかしいな?その前にモノレールとか乗ったはずなのに、ちっとも記憶が無ェぞ。
朝起きて着替えて飯食って家出た覚えも無ェ。
昨夜ゾロと別れた後、持ってく荷物をカバンにつめた覚えすら無ェ。
流石に焦って「カバン!!」と叫んだ俺の反対側を、ナミが不機嫌な顔で指差した。
見れば隣の席に俺愛用の赤いリュックが置いてある。
開けて中を確認したら、財布から着替えまで、全部つめてあった。

「御主人様の旅の仕度は全てこの私が整えておきましたわ」
「そうかーありがとうな、ナミ!助かったぜ!」
「屈託無く笑って言うな!!高校生にもなって人に荷作りして貰うなんて、恥を知りなさい!!」

素直に礼を言ったのに、ナミは短いオレンジの髪を逆立てて怒る。
脳天にかまされたチョップのおかげで、俺の頭はますますはっきりした。
つまりナミは俺に面倒かけさせられた事に腹を立てて、不機嫌で居たわけか。
合点がいってひざを叩く俺の横で、ナミはなおも小言を続ける。

「…自分から『当日は早朝4時起きだぞ!絶対遅刻すんなよ!』なんて念押ししといて、暗い内からお弁当作って迎えに行ってみれば、荷物を準備した様子すら無く、布団の上で寝こけてんだもの。
 赤ん坊の頃からの付き合いで知り尽くしてた積りだったけど、此処までずぼらで世話が焼ける奴だとは知らなかったわ!
 私はあんたのママじゃないっつーの!」
「ところでナミ、俺まだ朝メシ食ってねーんだけど」
「今あんたが貪り食ってた握り飯は幻覚かァー!?」

ナミのかん高い声がロビーに響いて、周りに座ってた大勢の奴らが、こっちに注目した。
ばつが悪くなったのか、ナミが大人しく座り直す。
その時ちょうど飛行機に乗れってアナウンスが流れた。
ロビーに居た奴らがいっせいに立ち上がって並ぶ、俺達もカバンを持って並んだ。
と、俺の前に並んで立ってたナミが、急に振り返って言った。

「あんたと結婚する女は苦労するわね」

クスクス笑って言った言葉に、俺は何だかすげー腹が立った。


他人事みたいに言ってんじゃねェ。
苦労すんのはおまえだぞ。
「ママじゃない」っつって、母ちゃんみてーな態度すんな。


言い返そうとしたけど、後ろから押されたせいで、思いついた言葉は飲みこんじまった。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「俺、窓際な!」

飛行機に乗った俺は、前に立ってるナミを押しのけて、窓際の席を確保した。

「別に取りゃしないわよ!」

俺の主張を聞いたナミが、ため息吐いて笑う。
構わずに、のぞき穴みたく小せェ窓にはりついて、外の景色をながめる。
夜だった空にはいつの間にか太陽が昇ってた。
滑走路から飛立ってく、俺達が乗ってるのとそっくりなジェット。
後少ししたらこのジェット機も飛立つんだ。
待ち切れなくって「ワクワクすんな♪」っつって、ナミに同意を求めようと振り向いたら、隣に置いてたリュックが消えてて、代りにナミが座ってた。
自分のカバンと一緒に、ナミが上のたなにしまってくれたらしい。
お礼を言おうとした俺の顔をジロリにらんで、ナミが皮肉っぽくつぶやいた。

「…こういう時、躾の行き届いた男なら、女性に窓際の席を譲って、鞄を仕舞って下さる配慮を見せるんだけどなァ」
「なんだ、おまえも窓際の席に座りたかったのか?だったらジャンケンして決めよーぜ!」
「そうじゃなくって、も少し大人の男らしくエスコートして欲しいってェの――」

言い合ってたそこにスチュワーデスが来て、シートベルトを締めるよう注意された。
2人して慌てて締める。
確認したスチュワーデスが去った後、ナミはもう1度ため息を吐いて笑った。

「ま、いいか。ルフィにそんな気配りされたら、鳥肌が立っちゃうもん」
「なら始めから言うなよ!第一エスコートなんてコート俺知らねーぞ!ペチコートの親せきか!?」
「だけどさ、言いたくなるじゃない?初めての2人っきりの旅行なのよ。彼女として少しは甘えさせてv」

俺の肩にもたれかかってナミが言う。
オレンジみたいな良いにおいがするほほは、赤く染まってた。
きっと俺の顔も赤くなってる。
胸ん中じわじわ嬉しさがこみ上げて来て、ナミの手をギュッと握った。
ナミの円くて茶色い瞳を見つめ、「しししっ♪」と声に出して笑う。
ナミもにっこり俺に笑い返した。


――『男』としてじゃなく、『弟』みたいな感覚で付き合ってんのかもしれねェぞ?


違うぞ、サンジ、俺達愛し合ってる。
だからずっと一緒に生きてくんだ。
俺にはナミが必要だからな。



ゴゴゴゴッってものすごい振動が伝わって、ついにジェット機が飛立つ。

一気に雲の上まで上昇した所で、機体は安定したみたいだった。
「すげェ、今日は快晴だ!」って言ったら、「雲の上だもん。当り前でしょ」ってナミに返された。
そうか当り前か、って事はパイロットは青空を人より沢山見てるんだなーって思ったら、うらやましくなった。

すっきりまぶしい青空の下、白い雲がずーっと広がってる。
まるで雪原だ、スキーが出来たら楽しいだろうな。
いや雪原だけじゃなく、海の波にも似て見えるぞ。
そういや「雲海」って言葉をどこかで聞いたっけ。

「なァ、ナミ!雲が広がってる景色って、海にも見えねェ!?」

窓にはりついたまま、ナミに声をかける。
ナミは隣で音楽を聴きながら、乗る前に借りた経済新聞を読んでた。

空の上にポッカリ浮んでる半月に気付く。
太陽が昇ってるのに、月も昇ってるって、なんか不思議だよなー。
昼と夜がくっ付いた空の下、真っ白い雲の海が広がってる。
空想の中で俺は雲の波にヨットを浮べ、風を受けて走ってた。

「楽しいだろうなー…空は海と同じで果てしないから、どこまでも行けるし…」

「ね、ねェ、ルフィ!真下を見て!富士山よ!」

想像の海を冒険してた俺を、ナミの声がさえぎった。
後ろから肩越しに、ナミが真下を指差してる。
見下ろしたそこには、雲の海から頭を突き出してる白い山が在った。

「ホントだ!富士山だ!上から見ると口開けてるみてェだな!」
「噴火口を見下ろすなんて、飛行機に乗らなきゃ出来ない、新鮮な体験よねェ!富士山に積ってる雪と雲が続いて、見分けが付かないのも面白い♪」

肩にかぶさった姿勢のまま、ナミが俺の目を見て話し続ける。

「富士山上空は気流が強くて、国内で最も危険なフライト区域なんだって。この飛行機も揺れるかも…」

直後まるでねらいすましたみてーに、飛行機がストーンと下に落ちた。
墜落まではしねーけど、一瞬無重力を味わって、俺でもヒヤッとした。
ナミが背中に思い切りしがみつく。
どうせなら前に回って欲しいと、おしく感じた。
アナウンスで機長が「今日は風が強くて揺れるけど、安全に問題は有りません~」とか何とかしゃべる。
下に見える雲が段々とぶ厚くなってくように感じられた。
長崎は天気が悪いんだろうか?天気予報を見て来なかったから判んねーや。
海が荒れてたらヨットに乗る計画がオジャンになっちまう。
揺れる度にナミにしがみつかれて嬉しい反面、俺の胸には不安が雲みたくどんどん広がってった。




コメント
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