瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

君と一緒に(ルナミ編―その6―)

2009年10月21日 20時29分11秒 | 君と一緒に(ワンピ長編)
前回の続きです。】




運転手のおっさんは、俺とナミの他に、もう1人客を乗せた所で、バスの扉を閉めた。
カメラと三脚を抱えて乗りこんだおっさんが、俺達の右隣の先頭席に座る。
まるでカメラマンが持ってるような本格的なカメラで、ナミと一緒にマジマジ見詰めちまった。
一眼レフってヤツか?詳しく知らねーから判んねーけど、ひょっとして本物のカメラマンじゃねーかって、ナミとヒソヒソ声で話し合った。
そういや中に入って会った奴ら、そろってカメラを持ち歩いてたな、それもたいてい三脚付きで。

「何処見ても絵になる風景だもの。そりゃ撮りたくなるわ」

窓から外を眺めたナミが、納得したように言う。
運転手のおっさんが「発車します」と言って、バスが走り出したのと同時に、ガタガタものすごい揺れた。
震度で表すなら5ぐれェか?腹ん中まで震えて、あんまり乗り心地良くねーなと思った。

「石畳の上を走ってるから仕方ないのよ」

そう言うナミの顔も苦笑ってる。
道は色違いで2種類、灰色の石だたみは車道、赤いレンガの道は歩道らしかった。(そうじゃないかって降りた後にナミが話したんだ)

「やっぱ船が良かったなー。船だったらこんな乗り心地悪くなかっただろうし…」
「いつまでもブータレてんじゃない!――ほら、外見て!紅葉がとっても綺麗よ!」

ぐちをこぼす俺の機嫌を治そうとしてか、ナミが窓の外を指差して明るく笑う。
車道をはさんで続く木は、赤や黄色に染まって、確かにきれーだった。
葉っぱじゃなく、まるで花が咲いてるように見える。
頭ん中に自然と「もみじ」って歌が流れた。
紅葉林の左向うに、運河をはさんで、風車と花畑が見える。
俺達が中に入ったばかりの時、見つけた景色だ。
風車は花畑の中3台並んで建ってて、十字の羽根をゆっくり回転さしてる。
近くで見てみてーなー、ナミは花畑を見たがってたし…ヨットに乗った後で寄ろうとこうほに入れておく。
振り返って後ろに座ってるナミを見たら、同じく後で見に来ようと考えてか、開いた地図にペンで○を付けていた。

並木が切れ、橋の上を通ったバスは、「ニュースタッド」って言うバス停に停まった。
そこで何人か客を乗せた後、運転手のおっさんは、さっき俺とナミが話してたのを聞いてたらしく、ここの道がどうして石だたみとレンガで出来ているのか、理由を説明してくれた。
なんでも「水はけを良くする為」らしい。

「お客さん達は何処から来たんですか?」

気さくな笑い声でおっさんに聞かれ、俺とナミは声をそろえて答えた。

「「東京」」

俺達の答えを聞いたおっさんが、運転しながらうなずく。

「都会の道はアスファルトだから水はけが悪いでしょう。
 大雨降ったら直ぐに水溜りが出来て困るんじゃないですか?
 この街では雨水は石畳や煉瓦の溝から滲み込むから、水溜りが出来難いんですよ」

「そうか、吸水性が優れてるって理由で、煉瓦を使ってるのね!」
「なんかよく解んねーけど、『不思議道』ってかいしゃくで良いのか?」
「解らない事を全て『不思議』の一言で片付けようとすんじゃない!」

「てい!」と叫んでナミが俺の後ろ頭にチョップを入れる。
振り返った俺は仕返しにナミの頭をグシャグシャにかき混ぜてやった。
じゃれてる内にバスは運河がクロスしてる上を越えてく。
そっから先は赤レンガのかべに白い窓の建物が続いた。

「ビネガースタッド」って所でまたバスが停まる。

「ビネンスタッドですよ、お客さん」

…運転手のおっさんがそー呼んだ橋の上でバスが停まり、俺達と一緒に初めから乗ってたカメラマンのおっさんが降りてった。
歩いてくのを目で追ってったら、広場にポツンと建ってる白い石造りの教会の前で立ち止まり、三脚を立てた。
彫刻が沢山されててきれーな教会だ、青い屋根の上には鋭くとがった飾りが何本も付いてる。
今まで見て来た中で1番こってる気がする、カメラマンがひ写体に選んだのにも納得いった。
教会の正面下にはでっかい花時計、右隣には教会と背比べしてるような超でっけークリスマスツリーが立ってた。

「此処は場内中央に位置する『アレキサンダー広場』。本日の夕方5時50分からは、この教会の前で光の街の点灯式が行われる予定です」

すかさず運転手のおっさんがガイドする。

「綺麗な教会…vおっきなクリスマスツリー…v素敵ねー…v」

窓から外を眺めるナミの目が、あんのじょううっとりうるんでた。

「ね、此処で降りてかない?」

俺の首に腕を巻きつけ、甘えた声で言う。
その言葉を聞いた俺は、嫌な顔を向けて断った。

「何言ってんだバカ!まず『パラディ』へ行くって約束したろ!?」
「私は約束した覚え無いし、どんな所か聞いてもいないわ!一体その『パラディ』って何なの!?レストラン!?アトラクション!?」

巻きついた腕にグッと力がこめられる、細ばった目でにらまれた俺は、正面に向き直ってそらとぼけた。

「……マリンレジャー受付だ」
「マリンレジャー??」
「…うう海釣りとか出来るらしい…」
「釣り?テーマパークまで来て釣りしようってェの??」

追求が厳しくなってくのにしたがい、ナミの腕がグッグッグッてしめられてく。
圧力に負けそうになった俺は、腕を振り払って怒鳴った。

「着く前からうるさく聞くなよ!!行けば解るだろ!!俺が1番楽しみにしてる所だ!!だまって地図で場所確認しとけ!!」

俺の態度に面食らったナミの顔が、みるみるすさまじくブータレてく。
それでも俺の言った通りに地図を開くと、だまってパラディの位置を確認した。

広場をつっきったバスが停まる、空いた右側席の窓からのぞいたら、入口からも見えた、茶色い高い塔が建っていた。
間近で見るとすっげー迫力、きっとここで1番高い建物だろう、3段ロケットみたく細長くてスリムでカックイー。
「ドムトールン」って名前の塔で、高さは105m有るって運転手のおっさんが教えてくれた。
てっぺんに昇ったら、このハウステンボスだけでなく、海まで見渡せるかも。

「勿論見渡せますよ。5階は展望台になってて、パスポートで入る事が出来ます」
「なーナミ!ヨッ…パラディ行った後でさァ!ここ昇ってみよーぜ!なっ!?」

陽気に話をふってもナミはつーんとすましたまま、地図から頭を上げようとしない。
やべーな、完全に機嫌を悪くしちまってる…。
何となく険悪なムードの俺達を横目に、途中から乗って来た年寄り夫婦と女達がゾロゾロ降りて行き、バスに残ってるのは俺とナミ2人だけになった。

「…お客さん、どうしますか?此処過ぎると終点のスパーケンブルグですが……」

運転手のおっさんが振り返ってたずねる、俺達のやりとりをずっと聞いてて心配になったらしい。
ナミの顔をこっそりうかがった後で、俺は「かまわねーから行ってくれ」って頼んだ。

バスが走り出す、信号機が建ってる橋を渡った所から、左側に海が広がった。
それを見たとたん、俺の胸が一気にわき立つ。
おっさんが「此処はオレンジ広場、夜8時45分から花火ショーの会場になります」と教えてくれた。
名前を聞いて、てっきりオレンジが生った木が沢山植えられてるのかと思いワクワクしたけど、植えられてたのはリボンが飾ってあるクリスマスツリー1本だけでガッカリした。
けどそのツリーの後ろ――港にけい留してある木造帆船を見つけた瞬間、俺の胸は海を見た時以上に熱くわき立った。

「おっさん!!あれっ!!あの船!!乗れんのか!?乗って良いんだろ!?」
「ああ、あの帆船は『デ・リーフデ号』って言う、此処のシンボル船でして、残念ながら乗る事は出来ません」

興奮して立ち上がり指差した俺に、おっさんがのんびりと答える。
「乗れない」の一言に、俺の高まった胸は一気にしぼんだ。

「『デ・リーフデ号』って、日蘭交流の切っ掛けになった船?」

今まで無視して地図をガン見してたナミが顔を上げて聞く。
おっさんはナミの質問にうなずくと、得意気に説明し出した。

「そう、16世紀、日本に初めて漂着したオランダの帆船を、忠実に復元した物ですよ。乗れはしないけど、ステージとして役立ってくれてる、大事な船なんですよ」
「なんだ!乗れねーんなら用無しだ!」
「だからそーいう身も蓋もない事言うなってェーの!!」

怒ったナミが俺の頭をポカリと殴る。
けど間違った事言ってねェから謝らねェ、帆船は海を渡る為に在る乗り物だ。
海を渡らなけりゃ、ただのオモチャじゃねーか。
ガッカリはしたけど、俺の胸にはまだ希望が残ってた。

幕末の帆船「観光丸」、それを忠実に復元した船が、ここに在るって調べがついてる。
こっちは遊らん船で、ちゃんと乗る事が出来て、海を走るって聞いた。
パラディと同じスパ…ゲッティに似た名前の場所に在るって事も調べてある。
ヨットクルーズの次に俺が楽しみにしてたものだ。
待ち切れなくてウズウズしてる俺の気も知らず、バスは左手にレンガの家(?)が建ち並ぶ通りをゆっくり走り、紅葉の続く坂が見えた手前でようやく停まった。

「はい、お待たせしました~!此処が終点スパ――」

おっさんが言い終わるのも待たずに、ナミの手をつかんでダッシュで降りる。

「ナミ!!ヨッ――パラディはどっちだ!?右か左か前か後ろか!?」
「み…右…お土産屋さんが並んでる間を抜けて前の辺り…」

俺の迫力に気圧されてか、ナミは素直に場所を答えた。
つないでる手を引っ張って、言われた通りに土産屋の間を抜けてく。
潮の香りをふくんだ風が顔に当たる、確かにこの道から海に出られるらしい。
ぶち当たった建物の看板に、イルカが描いてあるのが目に入った。
看板名の頭が「P」――ここがパラディだな!
俺はわき目もふらずに中へ飛びこみ、奥のカウンターに居た女をつかまえ、「すいませんヨット2人乗せてください!!」って頼んだ。




「済みません。本日は生憎の強風の為、運休する事に決まったんですよ」

「え?え?えええ~~~~~~~~~~~…!!!!!」

店員の女からしょうげきの事実を知らされ、俺のひざからガクーンと力が抜ける。
床にくずれ落ちるのと同時に、カウンターに引っかかってた爪が、ガリガリ音を立てた。

「……か…風が弱まったら…?そしたら乗せてくれんだろ…?」

それでも望みを捨て切れず、カウンターをはい登って聞く。
けれど女は気の毒そうに笑いつつ、きっぱり非情に言い切った。

「いえ、天気予報で強風波浪注意報が発表された以上、本日は終日運休する予定でいます」

追い討ち食らった俺のひざから再び力が抜けて、カウンターから滑り落ちる。
セミに似たポーズで動かなくなった俺を見て哀れに思ったのか、女はフォローするようにヨットクルーズに代るものを勧めて来た。

「宜しかったら『ナイトカヌー』は如何ですか?海ではなく運河を廻る物ですが、街のイルミネーション輝くこの時期、光の彩が水面に映って、それはもうロマンチックですよv2人艇で3千円、時間は夜8時10分~か9時10分~のどちらか。初心者でもコーチが指導に付きますので安心して――」
「いえ、結構です!船なんかで廻らず、足で廻りますので!…失礼しました!」

女が宣伝チラシを見せながら説明するのをさえぎり、ナミは座りこんだままの俺を引きずって店から出た。
その時だ――俺の頭に一筋の希望の光が灯った。

「そうだ!!観光丸!!大型の帆船なら、ちょっとやそっとの強風にも負けず走れるだろ!?ヨットがダメならそっち乗せてくれよ!!」

「…観光丸ですか?……済みません、それも生憎……」

言い難そうな面して、女がカウンターから出て来る。
店を出て俺達の隣に立ち、指で差した先には、海上に伸びたさん橋しか見当たらなかった。






…書き出すまですっかり忘れてたんですが、12月~2月迄、観光丸は運休しちゃうんですよ。(但しクリスマス期間、大晦日~1/3迄は除く)
この先どうなるのか書いてる人間にも不明なまま次回に続きます。(汗)

んでこの記事でも書いたように、現在場内スポーツ系の受付は、「アクティビティセンター」に変更しとります。
いや「パラディ」って店名は引き継いでんですけどね、この話に出て来るパラディは旧パラディです。(ややこしい言い方で御免)
自分、まだ「アクティビティセンター」を利用した事無いんで、一応リアリティを重んじて、旧パラディの方をモデルにしたという。(汗)
そんな訳で実際に行かれる予定の方は、受付場所をお間違えになりませんように。(汗)
ヨットクルーズは~1/9迄、ふくちゃんのブログに体験した時のレポが上がってますよ。
サンセットクルーズを何時か体験してみたい。
(→http://www.huistenbosch.co.jp/transport/detail/5080.html)

場内バスは乗客が少ない時など、タクシー並にリクエストに応じて、停車してくれる場合も有り。
行き先を訊かれた時にでも、目的をついでに話しておくと、良い事有るかもしれませんよ。
コメント (2)
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