千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

読売日本交響楽団 第503回定期演奏会

2011-04-18 23:03:07 | Classic
今宵のマスター(マエストロ)、シルヴァン・カンブルラン氏は、フランスはアミアン産。シルバーグレーの長髪を後ろで一本にしばった容姿はなかなかお茶目さんのようだが、2010年4月から読売日本交響楽団の常任指揮者に就任された。、冒頭、場内アナウンスで被災者の追悼のためにメシアンの「管弦楽のための交響的瞑想〜忘れられた捧げもの」の「聖体」を(ヴァイオリンとヴィオラ)の演奏を告げられ、続いて”演奏終了後の拍手はお控えください”との断りがあった。静かで心の内側の傷を癒すような内省的な音楽だが、メシアンを選ぶあたりカンブルランらしいと感じた。

そして、ほぼ満席の客席を前に、今日のプログラムの演奏に入る。何でもカンブルランの今年のテーマーは「ロミオとジュリエット」だそうだが、まずはプロコフィエフ版で精力的な指揮棒から醸成される音楽は、ちょっと軽めだが色彩豊かで生き生きとしたドラマティックさとエンターティメント性を感じられる。読響も、N響のような優等生的な演奏の枠をこえておおいに楽器を鳴らしている。

続いてラヴェルのピアノ協奏曲2曲。これは、ソリストのロジェ・ムラロの演奏に圧倒されっぱなし。本当に左手だけで弾いているのかっ、というくらい、くっきりとした音符が会場を飛び交い、まるで華やかな打ち上げ花火を見ているようでラヴェル音楽も極まれりである。日本人に彼の人気があるのもわかる。会場の拍手にこたえてアンコールで弾いた曲もアンブルランにあわせたかのようなメシアンだったのは、特別な音楽会の思い出ともなった。カンブルラン×ムラノ×ラヴェルの最高の組み合わせに、読響の新しい一面と今後の可能性をみたような印象である。プログラムも独特であるが、これはムラノにお得意のラヴェルを2曲弾かせたいためだろうか。

さて、最後のボレロは、私にとっては作曲者のラヴェルの頭の良さを実感するこだわりの曲で何度も何度も聴いてきた曲だったが、今夜は不思議な感慨を胸に抱いた。たったふたつの旋律が繰り返され、楽器が加わり音量もどんどん増幅されて、最後の頂点で一気に破綻する。素晴らしい傑作だと思う。しかし、今は、とても悲しいことにボレロから津波をなんとなく連想してしまったことが記憶に残りそうで残念だ。おりしも、カンブルラン自身の次のコメントを見つけ、様々にボレロという音楽を考えさせられた。

―とびきりの名曲だが「執拗な反復の後に激変する音楽は暗示的。毎日の小さな積み重ねが悲劇に至るようにも思え、人生を考えさせる」

東北地方大震災の後、一週間ほどは関東圏も余震が頻発し、公的な交通手段も計画停電のおかげで一定時間運休となったり毎日、明日、会社に出社できるのかわからない、今日、無事に帰宅できるのか心配という日々が続き、いつまた帰宅困難者になってしまうかもしれないと、正直言ってコンサートどころではなかった。コンサートも次々と延期もしくは中止。けれども、気候とともに電車の運行も安定すると、本当にこれでよいのだろうか、と考えるのも本音だった。ある日、コンビニのBGMで流れるヴァイオリンとチェロの音楽に思わず足を止めて、自分が本当に心から音楽を渇望していることに気がついた。

こんな時に音楽なんて、被災者の方たちのことを考えるとそのような意見も当然だと思う。しかし、音楽は何のためにあるのかと考えたら、こんな時だからこそ音楽をという発想もあってもよいではないだろうか。プログラムに指揮者の下野竜也氏の「感謝とお願い」が掲載されている。それによると、諸条件がそろい、会場の協力もあり、音楽家としてのメッセージを発し、オーケストラとしての音を出すことに楽団員、職員が一丸となって取組み、3月19、20日の演奏会を開いたそうだ。(ことさら強調するものではないとの断り書きがあり)音楽を求めてくださるお客様に音楽を届ける使命があり、そのことを終の仕事と決めているとも。そして、音楽にできること、できないことを議論で尽くし、開催を決定したそうだが、これには正解はないと。

それでは、観客である私たちにとっては、音楽を絶やすことなく、必要としている人に届くように、やはりチケット代を払って演奏会に足を運ぶことも大事ではないかとも思う。おりしも1900年に創立した米国の名門オーケストラ、フィラデルフィア管弦楽団が破綻し、連邦破産法11条に基づく更生手続きの適用を申請したというニュースが届いた。チケットの売り上げが落ち込み、献金・寄付金が減少し、契約が落ち込むなどの状況の中で、運営費がかさんでいたためだそうだ。あのフィラデルフィア管弦楽団すら、と驚いたのだったが、日本のオケはもっと困窮しているのではないだろうか。私はもう自粛なんかしないっ、日本経済のために群馬県に旅行にも行き、ワンピース、カーデガン、パンツ2本お買物し、コンサートにも行き、お金を使うことにした。顰蹙を買ってしまいそうで、コンサートに行ったことは職場の人にはまだ内緒だが。。。

---------------------2011年4月18日(月) 19:00開演 サントリーホール  ---------------------------------

指揮:シルヴァン・カンブルラン(読売日響常任指揮者)
ピアノ:ロジェ・ムラロ
プロコフィエフ/バレエ音楽〈ロミオとジュリエット〉作品64 から抜粋
ラヴェル/ピアノ協奏曲 ト長調
ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
ラヴェル/ボレロ

■アンコール
メシアン:プレリュード