千の天使がバスケットボールする

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ロン・ティボー国際音楽コンクール ガラ・コンサート

2009-02-05 23:01:28 | Classic
「今宵、三人のアジアン・ビューティが饗宴。」
そういうコンセプトとノリかっ?と思わずプログラムを眺めたが、1位の韓国女性シン・ヒョンスーさんと5位に入賞した長尾春花さんの写真には、確かにキラキラ模様がかかっている。そう、如月の今夜は若手登竜門の世界的なコンクール、ロン・ティボー国際音楽コンクールに入賞された、韓国・日本のいずれも20歳前後のそれぞれにビューティなアジア女性によるお披露目コンサートである。

トップ・バッターは2005年度に2位となったゲスト出演の南紫音さん。
サラサラの綺麗な長い髪が、ロゼ色のドレスによく映える。ドレスの上半身は身体にぴったりしていてスパンコールで輝いているのだが、スレンダーで上品な、平安時代の貴族を思い出す南さんの容姿にとても似合っている。日本女性の美しさを代表しているような方だ。今宵の饗宴のために用意した曲は、なんとバルトークのヴィオリン協奏曲第2番とお姫様雰囲気とは離れたしぶい選曲。どちらかというと私のような物見遊山的な観客や関係者、音楽家の卵向けの聴衆を意識していたらまた別の曲になったのではないか。
この曲はバルトーク最盛期の傑作とは知りながらも、長く旋律が覚えにくいためになかなか親しみにくい。情けないことに何度CDで学習しても、雰囲気を味わうだけでおわってしまうのだが、南さんの演奏は聴いている方も集中力がとぎれることがなく、シブイと感じていたバルトークのむしろ本来もっている華やかさと豊饒さを感じとれた。彼女の雰囲気そのままの端正で丁寧な完成度の高い演奏を、安心のできる定番として満足するかぬきんでた個性のものたりなさを感じるかは、求めるヴァイオリニスト像によってわかれるかもしれないが、私は長い目で成長を見守り、今後現代音楽や室内楽の方でも活躍されることを期待したい逸材だと感じた。楽器は、日本音楽財団から貸与されているストラディヴァリウス1700年製の「ドラゴネッティ」を使用。落ち着いている雰囲気なのだが、まだ桐朋学園大学在学中の1989年生まれ。なんと場合によっては法定代理人が必要な未成年。それでもこの難曲をやすやすと弾ききってしまうのだ。

次に登場したのは、南さんと同い年の藝大生で5位に入賞した長尾春花さん。
舞台に登場した瞬間に南さんとはまた違った雰囲気を感じる。年齢に似合ったまだまだ女の子らしさが残る長尾さんは、がっしりとした体型に静岡県掛川市出身らしい素朴さと白いドレスのちょっとやぼったさ(←失礼!)が逆に好感がもてるグラビア・アイドル系。彼女のローカルくさい持ち味は、なるほど家庭的で民族風ドヴォルザークの協奏曲の音楽に親密な印象がある。私も大好きな曲だが、意外と演奏される機会の少ないこの曲を演奏した長尾さんは、高い技術力をもちあわせているのはわかるのだが、若さとフレッシュさをもう少しリズム感に活かすといっそう彼女の内面の魅力がだせるのではないかと思った。今後演奏経験を積んで、プロとしての自覚が芽生えた時の彼女に会いたい。ただ、高いテクニックだけでは国際的なコンクールで優勝するのはもはやありえないことが実感するのが、今夜の真打のシン・ヒョウスの演奏である。

21歳のシン・ヒョンスさんが、この分野でも熱心な韓国の期待の星であることは次の音楽暦でも察せられる。
ユーディ・メニューイン国際コンクール/ジュニア部門第2位(02年)、ヨハンセン国際コンクール(ワシントン)優勝(03年)、パガニーニ国際コンクール第3位及び最年少決勝進出者に贈られるエンリコ・コスタ博士記念賞(04年)、ティボール・ヴァルガ国際ヴァイオリン・コンクール第3 位(05年)、シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール第3位(05年)、ハノーヴァー国際ヴァイオリン・コンクール2位及び聴衆賞受賞(06年)、チャイコフスキー国際コンクール/ ヴァイオリン部門第5位(07年)。
日本でいえば中学生の時から、韓国ではなく国際舞台で活躍するために数々の国際的なコンクールにチャレンジしてきたが惜しくも優勝できなかった軌跡がわかる。樫本大進さんの17歳の記録を更新して山田晃子さんが史上最年少の16歳で優勝したことを思えば、今回のコンクールは頭を向けだすためのラスト・チャンスだったのかもしれない。満を持してのプロコフィエフの協奏曲1番。
背中をだした鮮やかなトルコブルーのしなやかなドレスを堂々と着こなせる長身。少しお姉さんだが、演奏内容はもはや成熟している。乾いて無機質だが夢幻的な近代絵画を観るようなプロコフィエフを、肉感的な艶を与えた独特な演奏はパリの聴衆を熱狂させたそうだ。情熱的な部分はたおやかな上品さで、超絶技巧の難所は勢いにのったた力まかせではなくあくまでも美音でチャーミング、ヴァイオリンを冷静に客観的に弾けるタイプとみた。こんなにおしゃれにプロコを弾けるんだ。彼女はアジアン・ビューティたちの中でもクール・ビューティな姫君。文句のつけようのない素晴らしい演奏に会場もわき、韓国勢の台頭を実感する。

プログラムにある三人のアジアン・ビューティの饗宴は、全くの偽りなしの看板どおり。真面目で几帳面、手先も器用で勤勉なアジア人のヴァイオリン部門の入賞は今後も継ぐと予想する。世界でも通用しそうな日本女性のヴァイオリニストとして思いつくだけでも庄司さやかさん、木嶋真優さん、松山冴花さん、神尾真由子さん、米元響子さんとまさにアジアン・ビューティが花束状態。肉体的な不利のないヴァイオリン部門は、今後日本女性のお家芸となるかもしれない。日本人はテクニックはあるが、個性がないとこれまでさんざん評価されていたが、近年父親の仕事の関係で幼い頃よりヨーロッパで育つ日本人もふえ、音楽界はとっくにグローバル化がすすんでいる。

------ 09/2/5 サントリーホール  ------------------------
指揮:広上淳一
出演:シン・ヒョンスー
   (2008年度ロン・ティボー国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 第1位)
   長尾春花
   (2008年度ロン・ティボー国際音楽コンクール ヴァイオリン部門 第5位)
ゲスト:南紫音(2005年度ヴァイオリン部門 第2位)
オーケストラ:東京フィルハーモニー交響楽団

≪プログラム≫
バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番 (Vl.南紫音)
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 (Vl.長尾春花)
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調( Vl.シン・ヒョンスー)

<2008度コンクール結果>
第1位:シン・ヒョンス(申 賢守)/Hyun-Su Shin /21歳 (韓国/女性)
-プロコフィエフ/ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調

第2位:なし

第3位:ノア・ベンディックス=バルグリー/Noah Bendix-Balgley/24歳 (ドイツ・アメリカ/男性)
-ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

第4位:サテニィク・クールドイアン /Saténik KHOURDOÏAN/25歳 (フランス/女性)
-シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 ニ短調

第5位:長尾春花 /Haruka NAGAO/19歳 (日本/女性)
-ドヴォルザーク/ヴァイオリン協奏曲 イ短調