千の天使がバスケットボールする

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『戦争はまだ始まっていない』

2009-02-21 23:16:07 | Movie
今宵は、イタリア産ワイン、DOCG銘柄の「トルジャーノ・ロッソ・リゼルヴァ」をたしなみながら、めったに観ることができない映画を堪能した。ベルナルド・ベルトリッチ監督による1985年製作イタリア・西ドイツ合作の『戦争はまだ始まっていない』である。ベルトリッチ監督の作品中、唯一日本未公開映画であるが、米国在住の従妹にビデオを拝借して鑑賞。(以下、内容にふれております。)

タイトルからも想像できるように、舞台は1939年の第二次世界大戦勃発前夜のベルリンが舞台である。
ドイツ国家元帥ゲーリングの屋敷から、男女のさざめく会話と窓からのまぶしい明かりが戸外に帯をつくって流れていく。季節はまだ肌寒い春。しめやかな夜の帳の中で華やかな大広間には、ワーグナーの音楽が流れている。ナチ党員で親衛隊将校セバスティアン(ドナルド・サザーランド)は、黒い親衛隊の制服を身に付け、パーティの客たちを眺めている。今夜の花は、なんと言ってもベルリン駐在のイタリア外交官の妻・フランチェスカ(ドミニク・サンダ)である。金髪と青い瞳に、清楚な肢体に翡翠色の幾重にもジョーゼットの布が重なったドレスがよく似合う。彼女は、ファシズムの粗野な部分を軽蔑しながら、ファシストたちの権力だけは充分に利用し、自由奔放にふるまう快楽主義者。そこへやってきたのが、日本の軍人ミシマ(ジョン・ローン)である。まるで東洋の禅を体現化したように、静かな湖のような佇まいの黒い髪、黒い瞳のミシマは、広間の人々をたちまちのうちに魅了する。

理想の東洋の男ミシマ、男たちが崇拝する美貌の人妻、そしてバイセクシャルで耽美主義者の狂気じみたナチス将校。彼らの出会いが、戦争の足音とともに、戻ることにできない道にふみはずすことをもたらすとは、この時夢にも思わなかったのではないだろうか。いや、将校にとっては、悲劇すら甘い快楽と夢想していたかもしれない。。。

ジョン・ローンとドミニク・サンダの美しさがあまりにも印象に残る映画である。ふたりとも私好みの大好きな俳優なので、眺めているだけで満足。ファンであることをさしひいても、俳優の存在が、これほどはかなく、美しくかげろうのように描いた作品はめったにないと断言したい。そういう意味では、少々過激なベッドシーン◎◎と悲劇的な結末を含めてベルトリッチ監督らしい佳作である。ここであえて”佳作”と言ってしまったのは、恋愛をテーマーに扱いながら東洋人の神秘さにこだわったためだろうか、ミシマの内面をうまく描けていないと日本人としてはいささか残念なところである。日本男児とは言え、ミシマは寡黙過ぎる!

しかし、ミシマとフランチェスカが晩秋のふたりが最初に出逢った大広間でダンスをする場面は、映画ファンならずとも必見である。
退廃的な雰囲気の中、ミシマとフランチェスカのどちらが誘うでもなく、ふたりは自然に手をとりダンスをする。見つめあうふたり、軽いステップが、やがて情熱的な舞にかわるのにそれほど時間はかからない。ここで、フランチェスカは真紅のドレスを着ているのだが、それは衝撃的なラスト・ダンスを暗示しているようではらはらさせる。女の白い肌、真紅のドレス、男の黒い髪。人々はいやでもこのカップルに注目するようになる。そして、嫉妬に狂った夫が密かに拳銃で彼らを狙うと、それに気がついたセバスティアンが阻止しようとフランス人外交官の妻を誘ってダンスをして、彼らを守ろうとする。音楽のテンポが速くなり、めまぐるしく入れ替わる4人のダンスが、夫の焦りを募らせるのだが、セバスティアンの機転で人々が再びダンスに加わり、広場はカップルであふれて、夫の殺意はそこで押しとどめられる。
愛情と愛するがゆえの狂気を描いたこの映画。イタリア人、ドイツ人、日本人の三人の関係を描いたこの作品は、ベルトリッチによるファシズムとその時代の映画でもある。日本語の字幕版が未発売なためか、国内では観る事ができないのが、実に惜しい。

監督:ベルナルド・ベルトリッチ