【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

岡田茉莉子さんの映画人生

2010-03-10 01:29:49 | 評論/評伝/自伝
岡田茉莉子『女優 岡田茉莉子』文藝春秋社、2009年

          女優岡田茉莉子   [本]


 夫である吉田喜重監督の勧めで2年半ほどかけて執筆した自伝です。

 ポイントをいくつか。一つは日本の映画史は女優としての著者の人生と重なっていること。映画の全盛期、そして衰退(撮影所の閉鎖)。そうした中で著者は映画俳優から舞台、TV出演に重点が移っていくさまがしっかり書かれています。

 また、岡田茉莉子が岡田茉莉子を演じることの自己意識にも克明に筆が及んでいること。両者が重なる部分と違和感がある部分とが意識のなかで交錯しています。

 3つめは父であった岡田時彦に対する感情の変遷。もの心がついた頃には、父はもういず、ほとんど母の手ひとつで育てられたとのことです。その父が俳優であったことを、映画のなかで知ったときの衝撃。

 さらに、吉田喜重監督とはおしどり夫婦というか、お互いがお互いをよく理解しあっていることが伝わってきました。監督の映画は難解であるといわれることもありますが、著者の解説で監督の映画作りに対する姿勢がよくわかりました。

 写真が豊富で楽しいです(85枚ほど)。

 大部な書物(586ページ)なので、いろいろいなことが書き込まれています。岡田茉莉子の芸名は文豪の谷崎潤一郎が命名した(pp.66-67)。巨匠小津安二郎監督との出会いは「秋日和」の本読みのときから(p.181)。

 さらに名作「秋津温泉」では当初芥川比呂志との共演が予定され、部分的に撮影もしていましたが、芥川が病に倒れ長門裕之さんに交替したこと(p.219)、吉田喜重監督『戒厳令』で普段台詞覚えがよくない三國連太郎さんがいつになく快調だったので台詞を「よく覚えられたわね」と言うと、「この役に乗っているからね」と返答があったこと(p.401)など、描写が細かいです。

 本書を知ったのはNHKラジオの番組「ラジオ深夜便」で著者ご本人がこの著作のことを語っていたのを聴いたことによります。

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