黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『誰が疑問符を付けたか?』太田忠司(幻冬舎)

2008-08-30 | 読了本(小説、エッセイ等)
愛知県警捜査一課の“鉄女”“氷の女”“カミソリ女”という異名を持つ、京堂景子警部補。職場ではクールな彼女には、新進イラストレーターの夫・新太郎がいて、彼の前では別人のようにベタ甘な態度。
新太郎が、趣味としている家事全般と秀でた推理能力で、景子を助ける“婦唱夫随”ミステリ連作短編集。

被害者・小日向祐子が首吊り死体で見つかった浴室には、彼女が集めていたヌイグルミがネクタイで吊るされていた。発見者は夫の倖二郎。容疑者は、以前所有していたアパートの住人・緒方新治と甥の木曾光朗だった。犯人の意図したこととは?……『ヌイグルミはなぜ吊るされる?』、
殺害されていた大学生・今野栞の遺体の上にはハマチの刺身がのっていた。発見者は、田島菜々子という隣室のOL。その後の聞き込みにより、そのハマチを買ってきたのは栞本人だとが判明するが、彼女は魚が捌けないという……『捌くのは誰か?』、
参宮貿易の社長・参宮睦夫が亡くなった。凶器は、ロシア製のマカロフ。発見者は家政婦・木下美津で、何者かが侵入してきて、彼女を縛り上げた後に、彼を襲ったらしい。そこへ庭師がやってきた。広い庭を持つ参宮の屋敷の手入れを頼まれているのだが、見ると松の木が無残に切られていた。家人曰く、本人が1週間前に切っていたという……『なぜ庭師に頼まなかったか?』、
定年から1年。妻に家出された腹いせに、彼女が身を寄せている義姉とともに殺害しようと思い立つ垣内。その家に向かう途中に、連れていた老犬・トラジロウが遺体を発見。見つかった遺体は菅尾昌也という会社員だが、何故か女装姿。しかし彼が家を出る際、着て出かけたはずのスーツは、会社のロッカーに入っていて……『出勤当時の服装は?』、
痴漢に襲われ、持っていた催涙スプレーで撃退したはずみで、犯人が手越川に転落したと証言する女性・藤堂絵美。しかし、川の中には2人分の遺体…絵美の元同僚で恋人だった高野健太と、近所で評判の悪い元教師・四賀勉。彼女が本当に殺したのはどちらなのか……『彼女は誰を殺したか?』、
ごみ屋敷の清掃にやってきた清掃会社の青年・西野完が殺害された。その屋敷の主は吉田喜蔵という男で、その甥・道中勇治が清掃を依頼。近所の町内会長・石毛隆興も現れ、立ち会う中、始まった清掃。一緒に来ていた清掃員・坂戸篤志が、家の内部に様子を見に行くと西野が亡くなっていたが、何故かその部屋にはごみひとつない状態で……『汚い部屋はいかに清掃されたか?』、
自分勝手な言動で評判の悪い画家・十束澄彦が殺害された。その頃、妻・恵美は、元妻である影山聡子とともに出かけていたという。十束が放し飼いにしている熊の如き犬・ノアが見た目とうらはらにおとなしい犬だと知っている少年・池戸淳は、ノアのことが好きで……『熊犬はなにを見たか?』、
月水金にアスレチックジムに通っている新太郎は、そこでロッカー荒らしが鉄アレイをひとつ盗んだという噂を耳にする。そのジムには、自分の肉体を誇る島岡と、貧弱な身体の土井というインストラクターがいた。そこへ景子の部下たちが聞き込みにやってきた。ジムに通っていた女性が何者かに殺害されたらしい……『京堂警部補に知らせますか?』の8編収録の短編集。

京堂夫妻が活躍する『ミステリなふたり』の続編。
大好きな2人なので、ようやく続編が読めて嬉しいです~♪
基本は、景子さんが新太郎に事件について相談するのがパターンですが、後ろ2編は、それを崩した形(『熊犬~』は少年視点、『京堂~』は新太郎視点で景子さんは絡まない)なのが、ちょっと楽しいですね。

<08/8/30>

『ひかりの剣』海堂尊(文藝春秋)

2008-08-29 | 読了本(小説、エッセイ等)
医鷲旗…それは日本医科学生体育大会剣道部門の優勝旗の別称である。医学生の間では、その旗を手にした覇者は外科の世界で大成するという言い伝えがあるという。
1988年。昨年の第36代医鷲旗杯では、宿敵・帝華大を僅差で破ったものの、決勝で極北大に負けていた桜宮の東城大学医学部。その主将である速水晃一は、昨年の敗退を悔やみ、未だ剣道部に居続ける6年生・前園らと共に医鷲旗獲得に向けて、闘志を燃やしていた。
一方、東京の帝華大学医学部の剣道部で主将を務める清川吾郎は、昨年速水に負けていた。今年こそはと雪辱に燃える彼だったが、“阿修羅”と異名をとる顧問の高階が、東城大に招聘されることが決まる。高階が赴任先で剣道部の顧問になってしまっては速水との力に差が開いてしまうと危惧した清川は、夏まで稽古をつけないで欲しいと頼み込む。
そして春。清川の弟・志郎が、東城大剣道部へ入部。戦力の一翼を担う。
しかし帝華大はいまひとつ人材不足。そんな中、マネージャーとして入部した薬学部の朝比奈ひかりの機敏さに気づいた清川は、彼女を部員として誘うが、祖父の許しが必要だという……

ここであらすじを止めると彼女が主役っぽいですが(タイトルは“ひかり”の剣だし/笑)、あくまで速水と清川が主役のスポ根モノ。『ブラックペアン~』と同時期のお話です。
速水は云わずと知れた“ジェネラルルージュ”、清川は『ジーンワルツ』に登場してます。彼らが如何にしてその後の自分というものを確立していったかという、ターニングポイント的な部分も含む成長物語。
……ひかりちゃんは、今後どこかに出てきそうな予感が(笑)。

<08/8/29>

『冷蔵庫のうえの人生』アリス・カイパース(文藝春秋)

2008-08-28 | 読了本(小説、エッセイ等)
多忙な産婦人科医である母親と、その15歳の娘・クレアは二人暮し。
なかなか一緒に話す機会が持てない彼女たちは、日々の連絡を冷蔵庫のドアに貼ったメモでおこなっている。
買い物のリスト、手袋のおねだり、学校のテストのこと、買い物に付き合えないことの謝罪の言葉、ひそかに付き合い始めた年上のボーイフレンド・マイケルのこと、……
そんな中、母に忍び寄る身体の不調。そして発覚する病。治療を続けながらも働く母と、時に傷つけ合いながらも支えるクレアだったが……

冷蔵庫に貼られた、母娘の1年間の伝言メモで構成されるお話。
少ない文字の中で、またそれ故に、行間から醸し出される雰囲気作りがとてもうまいですね。
何しろ文字数は少ないので、夏休みの読書感想文……特に、今になってもまだ終わっていない子向きかも(笑)。

<08/8/28>

『金色の野辺に唄う』あさのあつこ(小学館)

2008-08-27 | 読了本(小説、エッセイ等)
残りわずかの命であると自覚している92歳の老女、藤崎松恵は、それまでの人生を振り返る。
両親のどちらにも似ず、美しく生まれた娘・奈緒子。それ故に、夫は本当に自分の子供なのかと疑ったままだった。
かつて曾孫・東真が幼い頃描いてくれた、焔のような柿の絵を気に入り、額に入れて飾っていたのだが、いつの間にか彼自身が持ち去ってしまった。その絵を再び見たいと願う松恵は、柿の絵を描いて欲しいと言い残して……序章 葬送の唄、
亡くなった曾祖母が言い残した、絵を描けという言葉。しかし、彼は付き合っていた恋人・瑞樹映子が描いた絵を見て、自分の凡庸さを痛感し、もう描かないと決めていたのだった。
そんな中、映子が彼の元へやってきて……第一章 風の唄、
義祖母が亡くなり、その祭壇に飾る為の竜胆100本を、義母が花屋に注文している場面に遭遇し、女王のようだと感じる美代子。
そんな彼女の姉・早季子は子供の頃に交通事故で亡くなり、母はずっと美代子の影にその姿を見ていた。姉の死から10年が経ち、美代子の成人式の振袖を選ぶことになり、母と出かけた彼女。その場では決められず、再び選びにいく展示会の時に、姉ではなく自分でいいのかと問うつもりだったのだが、両親はその前日に事故で他界。宙に浮き、幻のまま落花したその思いに答えてくれたのが、夫・充であり、義祖母だった……第二章 竜胆の唄、
小波渡史明が働く長谷生花店に、竜胆100本が欲しいという無理な注文が舞い込んだ。その竜胆は藤崎松恵の葬儀に飾られるものだと聞き、彼がこの店に就職する前に出会い、助けられた、3年近く前のことを思い出す。
彼を妊娠中に捨てられた母は精神が不安定になり、出産後自殺、祖母に育てられた小波渡。ずっと愚痴られ続ける成長した彼だったが、生まれてこなければと言われ、思わずナイフで祖母を刺してしまう。しかし、祖母は自殺としてその事実を隠蔽してくれ、小波渡は一人残された。その後、コンビニをクビになり、仕事もなく腹を空かせていた彼は、知らずに松恵の作った牛肉の甘露煮に引き寄せられていて……第三章 遥かなる子守唄、
和箪笥から喪衣を取り出した奈緒子は、その樟脳の匂いで、ふとそれにまつわる過去を思い出す。
姉・美恵子の小さくなった振袖を、母から着せられた奈緒子。しかしそこへ現れた、姉は自分の着物を盗ったといい、諍いに。聞く耳を持たず、そんな姉の味方につく父に疎外感を受ける奈緒子。
そんな思いもある所為か、美貌に恵まれつつも、つねに愛を求め続ける彼女は、夫・伸人ともうまくゆかず、離婚していたが、そんな彼が母の葬儀にやってくるという……第四章 大樹の唄、
鮮やかな青空の下、行われる松恵の葬儀。人々はさまざまな思いを抱いて……終章 金色の野辺に唄うを収録。

92歳で天寿をまっとうする松恵と、いろんな屈託を抱えるその周囲の人々との心の軌跡を描いたお話。
温かく包み込むような松恵さんの存在感と、ラストで描かれる光景の美しさが印象的でした。

<08/8/27>

『いっちばん』畠中恵(新潮社)

2008-08-26 | 読了本(小説、エッセイ等)
松之助が店を出たり、栄吉が修行にいったりと、このところ周囲の人々たちとの別れが多く、気落ちしている長崎屋の若だんな・一太郎を喜ばせようと、妖たちは贈り物をすることに。鳴家たちはお菓子を、屏風のぞきと猫又のおしろたちは春画を、鈴彦姫と野寺坊、獺たちは根付けを、それぞれの組に分かれ、自分たちがいちばん良い品を贈ろうと互いに張り合う妖たち。
そんな中、世間を騒がせている掏摸の犯人について相談にやってきた日限の親分。犯人は飴売りのおすまだと目星はついているのだが、その背後に大店黒川屋の息子・富治郎が関わっている為、なかなか手が出せないという。その為には、何とか彼らの手口を明かしたいと一太郎の元に相談にやってきて……『いっちばん』、
このところ、巷で普通の人間に見えないはずの妖を、探している者がいるらしいという噂が聞こえてきた。しかもその妖の中に、鳴家も含まれているらしいと聞き、不審に思う一太郎たち。
一方その頃、廻船問屋である長崎屋に対抗しようとする店が現れた……どちらも近江を本家とする唐物屋で、小乃屋と西岡屋。彼らは長崎屋の客筋に手を出し始め、さらに長崎屋に品比べを持ち掛けてきた。しかも、品物集めに必要な情報を渡さないなど、不利な状況。そんな中、小乃屋の息子・七之助がこっそりとやってきて、内緒で一太郎に客の名前を教えてくれたが、どうやら彼は鳴家の存在を知っている様子で……『いっぷく』、
気がつくと、空を飛んでいた一太郎。信濃の大天狗・六角坊が彼を屋敷から連れ去ってきたらしい。彼が親しくしていた山伏八坂坊が亡くなり、彼の持っていた管狐・黄唐を譲り受けたいと願い、方々に頼み、最終的に大妖である一太郎の祖母・皮衣にも頼んだのだが断られた為に、要求を飲んでもらうべく、人質に一太郎を誘拐したのだという。そんな中、狛犬もやってきて……『天狗の使い魔』、
老舗菓子屋の安野屋に修行に行った栄吉だったが、満足に菓子を作らせてもらえない日々。そんな中、砂糖を盗みにやってきた八助が、その舌を買われて店で働くことになり、栄吉の弟弟子に。しかも栄吉よりも器用な彼に、あっという間に追い越されてしまい落ち込む日々。そこへ一太郎が様子を見にやってきたのだが、その折、八助の元に不審な客・彦丸がいて……『餡子は甘いか』、
長崎屋に見知らぬ若い娘が現れ騒ぎとなるが、その正体は、いつもは塗壁のような化粧をしているお雛。
紅白粉問屋一色屋の一人娘である彼女は、先の火事で店に被害を受けた為に、厚化粧をする余裕がないらしい。そんな彼女は店の建て直しの為に、千代紙を使った袋を作り、その中におしろいを入れて売るという工夫を思いつき、それに使う千代紙の相談に長崎屋にやってきたのだった。そこで錦絵屋の志乃屋を紹介し、無事千代紙の工面はついたのだが、今度はお雛の婚約者・正三郎が乗り込んできた。どうやら志乃屋の息子・秀二郎がお雛に結婚を申し込んだというのだが……『ひなのちよがみ』の5編収録の短編集。

シリーズ第7弾。
表題作での、妖たちのドタバタっぷりが楽しかったです。ラストの屏風のぞきの言葉が、言い得て妙(笑)。
『いっぷく』の彼の再登場に喜んだりv
また、『餡子~』での、努力をしても報われない栄吉の姿が切なかったですね;

<08/8/26>

『不連続の世界』恩田陸(幻冬舎)

2008-08-25 | 読了本(小説、エッセイ等)
音楽ディレクター・塚崎多聞は、大学時代の先輩である人気放送作家・田代から、彼が貧しい生活を装う為の“70年代ハウス”で眠るといつも見るという、連続した同じ夢の話を聞く。別れ際、また聞かせて下さいといった多聞に、田代は“コモリオトコにでも聞かせてもらうんだな”という謎の言葉を残す。その後出会った少年も同じその名を口にし、彼が見ていた視線の先を見ると、そこには木のてっぺんにしがみついた謎の男がいて……『木守り男』、
聞いたものは、死にたくなるという音楽を歌うという謎の歌手・セイレンの話を聞いた多聞は、真偽を確かめる為、日本オタクなイギリス人・ロバートとともにN市にやってきた。件の歌は『山の音』と題されたもので、その歌が流されたミニFM局にいつの間にか紛れ込んでいたというMDに収録されていたという。その局のDJ・高瀬から、どうやら出所はかつて高校の数学教師だったという土地の名士・神津良祐ではないかという情報を得、彼の元を訪ねた多聞。歌は、5年前に行方不明になった彼の娘・麻子が歌っているようなのだが……『悪魔を憐れむ歌』、
メジャーデビューが決まったインディーズ出身の3人組バンド・ネバーモアを手がけることになった多聞。ミュージッククリップのロケハンを彼らの故郷であるH県で行うことになったのだが、撮影場所であるO市出身の杉原保は、何故かそれを嫌がっている様子。多聞が理由を尋ねると、彼がその町で映画のロケ現場を見ると、人が死ぬのだと聞かされる……『幻影キネマ』、
フランス人作家・べシャールの、エッセイでもあり紀行文でもあり研究書でもあるという著書の翻訳を手がけることになった、翻訳家・楠巴。そこには、彼が日本のT砂丘を訪れた折に“砂丘が消えた”光景を目撃したと記されていた。その謎を知る為に、多聞と共にその地を訪れた巴。砂丘を訪れた後に立ち寄った、写真家Uを記念した美術館で、ミニシアターに入ったはずの若い男が消えたという場面に遭遇した2人は……『砂丘ピクニック』、
友人の黒田、尾上、水島と共に、東京発高松行きの夜行列車で旅をすることになった多聞。そこで怪談話をすることになった多聞は、1年前にフランスに里帰りしたまま音信不通の妻・ジャンヌが、各地を旅行しながら、意図不明な写真を送ってくる謎について語る。そんな中、彼の元に無言電話がかかってきて……『夜明けのガスパール』の5編収録の短編集。

(『月の裏側』に登場した)塚崎多聞が遭遇する、謎の数々を描いたミステリ。
全体的に怪談…というか、都市伝説風なホラーテイスト?
『砂丘~』に登場した巴さんの名前に見覚えがあったものの、どこで見たか思い出せず、思わずあとで確認したり(『中庭の出来事』でしたね/笑)……黒田さんは、綺麗さっぱり忘却の彼方でしたが(笑)。

<08/8/25>