黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『善人長屋』西條奈加(新潮社)

2010-07-11 | 読了本(小説、エッセイ等)
質屋千鳥屋を営む儀右衛門が差配をつとめる、千七長屋。昨今では“善人長屋”というふたつ名を貰っているが、住んでいるのは、皆、裏稼業を持つ悪党ばかり。
三州赤坂の錠前破りが江戸にやってくることになり、ここに住むことになっていたのだが、儀右衛門の娘・お縫の勘違いから、赤坂で錠前屋をしていたという加助が住むことに。しかもこの加助が、堅気の人間な上に、普通の人間以上におせっかいで“善人”だった。
そんな中、長屋の店子・安太郎がお縫たちの元へ相談にやってきた。彼の娘・お小夜には、乾物問屋玄海屋の若旦那との縁談が持ち上がっていたのだが、その矢先泣く泣く別れた仏具職人との間に赤子ができていることが判明。このまま祝言をあげることもできないが、お小夜に熱を上げている若旦那が簡単あきらめるとも思えず、また破談になったらいろいろとただではすまないことになるという。そこで美人局をしている唐吉と文吉兄弟の手を借りて、策を高じることに……『善人長屋』、
加助が、橋の上で困っていた娘を長屋に連れてきた。簪を盗まれたという彼女は、日本橋室町の大きな酒問屋の女中で、お貞。奉公先のお嬢さんの持っている簪を、つい黙って持ち出したのだが、それを盗まれてしまったのだという。
しかも今は遠くへ出かけているお嬢さんが帰ってくるのは五日後で、その簪を使って出かけるつもりとのことで万事休す。
お貞から、盗んだ相手に赤い波の入墨があったと聞いた情報屋の半造は、下手人は緋鯉の伝八だと断じる。何とか取り戻そうと画策するお縫たちは……『泥棒簪』、
代書屋をしている女たらしの浪人・梶新九郎が、本所緑町の料理屋桂井の娘・おみちを殺めた下手人としてつかまった。
しかし新九郎が彼女からの付け文で呼び出された時には、既に死んでおり、無実。
彼を助けるべく、話を聞きにもぐりこんだお縫は、彼女は逆袈裟がけで斬られており、落ちていた櫛に視線を向けていたらしい。
半造が調べたところでは、そのおみちは、男出入りの激しい娘だったという……『抜けずの刀』、
加助が、困っていた紅売りの彦次という男を連れてきた。仕入先の相屋という紅屋に騙され、三両二分の借金が十二両二分にまで膨れ上がっていたという。
儀右衛門はその話を断るが、後からその話を聞いた店子の菊松とお竹の夫妻は、かつての自分たち同様に騙された彦次に同情。二人とお縫、文吉の四人で、儀右衛門には内緒でその話を引き受けることに……『嘘つき紅』、
田舎にひっこんだはずのかつての長屋の住人・源平が江戸に舞い戻った。彼が長い間世話をしていた女性の娘・お恵が金沢町の杉屋という紙問屋に嫁に行っていたのだが、彼女が店に出入りしていたという浪人・横手礼四郎と無理心中をし、亡くなったためだ。
以前杉屋にいたという女中・お牧に話を訊くと、お恵は旦那さんと大内儀に殺されたのだという……『源平蛍』、
加助が拾ってきた怪我人は、文吉が以前陰間茶屋で働かされていた時に一緒だった、犀香だった。
怪我はたいしたことはないが、それまでの生活で内臓をやられており、彼の身体はぼろぼろらしい。それを自分の身代わりになった所為だと気に病む文吉。
そんな犀香には、大事な人がいるというのだが、その人物とは彼が昔小姓として仕えていた、井筒藩の藩主・刈田直矩らしい。その直矩が今は重い病に臥せっているらしく、彼が怪我をしたのは何とか会わせて欲しいと掛け合った門番に、痛めつけられたせからだった。。
ひと目だけでも会わせてあげたいと願うお縫たちは……『犀の子守歌』、
加助がことあるごとに、人助けという名の悶着を長屋に持ち込むことにいらだつ半造。それはいつかそれが儀右衛門にとんでもない禍が降りかかることを恐れているからだった。昔から儀右衛門に対する態度は特別で、忠義立てしているかのような半造。それは、半造が儀右衛門を悪党の道に引きずり込んでしまったという、借りがあるからだという。
今から二十五年ほど前。同心に仲間を売ったと濡れ衣を着せられた半造。窮地に陥った彼を救ってくれたのが、当時はまだ堅気だった儀一、後の儀右衛門だったという……『冬の蝉』、
師走十四日。深川富岡八幡宮の歳の市にやってきた、お縫、文吉、加助。
ところがその人ごみの中に、火事で亡くなったはずの女房・お多津がいたと騒ぐ加助。文吉が逃げた女の後を追い、見失うが、加助の名に反応していたことから、確かに本人であるらしいという。しかも文吉が見たところ彼女は堅気ではない様子。彼女を追う中で二人組の男に邪魔されたが、その男たちを追うと祐稔寺という小さな寺へ行き着いた。そこへ探りを入れたお縫たちは、住職の覚雲に会う。一見良い人そうに見えるが悪人だと見抜いたお縫。どうやら彼は、夜叉坊主の代之吉という盗人らしい。
さらにそこには加助の娘・おたまが預けられていた。やがてお多津は、日本橋大伝馬町の太物問屋・野州屋に女中として入り込んでいるらしいと判明。
その野州屋は、主人の喜八朗以外開けることのできない、からくり錠が蔵にかかっていると、盗人の間でも評判の店で、蔵を開けると祟りがあるという噂が流れていた……『夜叉坊主の代之吉』『野州屋の蔵』の9編収録の連作短編集。

脛に傷を持つ悪党たちばかりが住む『善人長屋』に、本当の善人が加わることになって、てんやわんや、というお話。
悪党といっても生業の方ばかりで、性格は何げにみんな良い人な気が(笑)。
彼らのその後も気になるので、続編希望♪

<10/7/11>