黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『ええもんひとつ とびきり屋見立て帖』山本兼一(文藝春秋)

2010-07-05 | 読了本(小説、エッセイ等)
幕末の京都。かけおちして、三条木屋町に小さな道具屋・とびきり屋を構えたばかりの真之介とゆずの若夫婦。
恩のある道具屋・桝屋喜右衛門に頼まれて、夜市に出かけた二人は、彼から預かった、さほど高そうにも思えぬ黒楽茶碗<筒井筒>と漢詩の書かれた扇子を店に並べたが、それに興味を示したらしい女がおり、気にかかる。
その後の競りで、何故か高値がついたそれらを落札したのは、その女。粋筋らしき雰囲気で、吉田屋と名乗った彼女の正体と、茶碗に高値がついた意味が気になる二人は喜右衛門に話を聞くことに……『夜市の女』、
手代の牛若が持って帰ってきた香箱。使い込まれた安物の道具を見たゆずは、既視感を感じる。
それは、ゆずが以前香道を習っていた公家の香道家元の浮舟家で、香を教えていた青侍・藤原元盛の持ち物だった。貧乏故に、香の道具を売ろうとする彼は、以前通っている頃にゆずにも話を持ちかけたが、どれも安いものばかり。そんな彼の持ち物の中で、ただひとつだけ…雉の香炉だけは名品だった。
その話を聞いた真之介は元盛の家へと出かけるが、それを手放すことは拒否される。交渉の末、夏にふさわしい“ええ香りを聞かせてくれ”たら譲るといわれ、あれこれ思案する真之介だったが……『ええもんひとつ』、
明日は七夕。
これといった特色のない、とびきり屋。一時の好景気が去った今では客足も鈍りがち。古いものだけでなく新しいものも店に置こうと考えたゆずは、扇子を安く仕入れて売ろうと、以前出かけたことのある店に交渉に行くが、自分のあさはかさに落ち込むことに。
そんな中、喜右衛門から売れ残りや半端物の焼き物を安く売っている場所があると聞き、五条まで出てきたゆずたち。たまたま入ったうどん屋で手にした湯飲み茶碗の変わった意匠に目をとめて……『さきのお礼』、
七月半ば。壬生狼の芹沢鴨が、店に出していた虎が描かれた李朝白磁の徳利を安くしろと、無理難題。
話し合いの末、彼から名品を持ってそうな旧家を紹介して貰うが、なりゆきで、売れそうもない李朝の大きな壷を高値で買うことになってしまった真之介。ところがその品をみたゆずは、“お金のにおいのする”(=良い品)品だといい……『お金のにおい』、
桂小五郎からの密書を預かったゆずは、たまたま店にあった茶壷の中に隠す。ところが、その茶壷を、茶道の若宗匠が欲しいと言い出した。
どうやらそれを、八重桜という伝説の茶壷に仕立て上げようとしているらしい。しかしそれを訳にはいかないゆずは必死に応戦。
そこを通りかかって話に入ってきた芹沢の横車を利用し、花結びの結び比べで決着をつけることに……『花結び』、
名代の道具商・からふね屋で、二番番頭をつとめていた真之介。その主人・善右衛門の愛娘・ゆずと恋仲になるが、その関係を言い出せずにいた。
そんな中、茶道の東の家元の家から流出した、永徳の亀の掛け軸を買い戻す仕事が舞い込む。それに成功したら話を持ちだそうと考えた真之介は、その掛け軸の行方を追うが……『鶴と亀のゆくえ とびきり屋なれそめ噺』の6編収録の連作短編集。

シリーズ第二作。
『鶴と亀~』はふたりのなれそめ、というか第一作目の『千両花嫁』の前日譚的なお話。
今回は、全体的に歴史上の人物は控えめで、前回より二人とその周辺に絞られている分、よいまとまりになっている気がします。

<10/7/5>