黒猫書房書庫

スイーツ多めな日々です…。ブログはちょー停滞中(´-ω-`)

『鯉浄土』村田喜代子(講談社)

2008-10-27 | 読了本(小説、エッセイ等)
最初の夫を事故で亡くして、2度目の夫と結婚以来30数年が過ぎても、昔どおり“浜倉さん”と呼ぶ母。そんな母は、いつまでも小娘のような人だったが、何でもやってくれた祖母を失って、その地位を失い、奇妙な老人に。弟は、母親は容れ物だというが……『からだ』、
久しぶりに実家に泊まりにくる娘の為に、ル・クルーゼの琺瑯鍋でパエリアを作るわたし。そんな中、鶯の声を聞き、ふとグリム童話の“ねずの木の話”を思い出す。それは先夜に娘から打ち明けられた妊娠の話からの連想でもあり……『庭の鶯』、
夫・泰之が心臓の動脈瘤の手術をした。だいぶ回復し、毎日のように病院の中を歩き回る彼。そんな中、わたしは“薔薇体操カンファレンス”と書かれた部屋を見つけるが……『薔薇体操』、
里帰りしている娘・祐子の、生後1ヵ月の娘・樹子をあやしつつ、わたしは毎日、昔話・桃太郎を語る。しかし主役は桃太郎ではなく“じゅっこちゃん”、お供は家で飼っているラブラドルのユーリィと、隣宅の飼猫ミーちゃん。しかしストーリィは、その日の気分で変動し……『力姫』、
わたしの飼っている犬・グレースが庭の柵を破って行方不明になった。必死に手を尽くし、動物管理センターにも保護されたら連絡をくれるようにとお願いしていたのだが……『科学の犬』、
大学の図書館で働くわたしは、おとといの昼前に同じ電車に乗り合わせた母子の交わしていた、恐竜の話が記憶に残り、図書館で本を手に取る。浅井教授に質問すると、人が爬虫類を苦手とするのは、2億2000万年前の刷り込み、生き物たちの命をかけたせめぎあい。“残害の苦”だという。翌日、元上司だった市ノ瀬瑤子の寝たきりだった夫の葬儀に、百合恵と出席することになったわたしは……『残害』、
手術を控えた夫の滋養の為に、人から良いと聞いた鯉コクを作るわたし。鯉が売っているところを探し、湖の畔の川魚料理の店に買いに行くが、鯉を捌くことができる店主が出かけたまま、なかなか戻らず……『鯉浄土』、
銭湯を営む家に生まれた姉妹。姉であるわたしが後を継いでいるが、帰省してきた妹と銭湯にまつわる四方山話を語りあう。25年前、体の不自由な11歳の妹を、大きな風呂に入浴させてあげたいという兄からの電話をとったわたし。営業時間外ならばと、営業が始まる前に来るようにいい、準備をして待っていたのだが、彼らは現れなかった。しかしその電話は、今でもときどきかかってきて……『二十五年の妹』、
91歳で亡くなった舅・田中正二の三回忌。先頃見つかったという、彼が生前使っていた手帳を会食の席で読むわたしたち。そこに綴られていたのは、通信販売で買った商品名の数々、家族の生年月日や自分の歴史、住所録、そして……『惨惨たる身体』の9編収録。

丹念に描かれた現実の中に、ふっと覗く幻想が不気味な雰囲気を漂わせている作品たちでした。

<08/10/27>