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893)ザクロ種子油に含まれる共役リノレン酸のプニカ油はがん細胞を死滅する

図:α-リノレン酸は亜麻の種子や荏胡麻の種子の油に多く含まれる。α-リノレン酸は炭素数18で二重結合を3個持つ脂肪酸(C18:3)で、カルボキシル基(COOH)から数えて9番目と12番目と15番目の炭素に二重結合があり、これらはいずれもシス型の構造をとる(9c,12c,15c)。プニカ酸はリノレン酸の異性体の一種でザクロ種子油に多く含まれる。プニカ酸はカルボキシル基(COOH)から数えて9番目の炭素にシス型、11番目の炭素にトランス型、13番目の炭素にシス型の二重結合がある(9c,11t,13c)。プニカ酸は単結合と二重結合が交互に並んでおり、二重結合が一つおきに存在する「共役系」は電子の非局在化が起こり、非共役型の脂肪酸とは異なる特徴的な性質を有する。プニカ酸は抗がん作用や免疫増強作用など多彩な健康作用が注目されている。

893)ザクロ種子油に含まれる共役リノレン酸のプニカ油はがん細胞を死滅する

【多価不飽和脂肪酸は脂質二重層の流動性を高める】
脂肪酸には多数の種類があります。例えば、乳脂肪には400種類以上の異なる脂肪酸が含まれています。
脂肪は、それを構成している脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。

細胞膜は流動性を持ち、脂質や膜タンパク質は動いています。この流動性は膜の構成物質で決まります。特にリン脂質を構成する脂肪酸の不飽和度(二重結合の数)に影響されます。不飽和度が高まるほど脂肪酸の融点は低くなるためです。つまり、不飽和脂肪酸を多く含む細胞膜は流動性が高まります

脂肪酸は、構造の違いにより「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類に分類できます。パルミチン酸(炭素数16)やステアリン酸(炭素数18)のように炭素と炭素の間に二重結合が全くない脂肪酸を飽和脂肪酸といい、二重結合がある脂肪酸を不飽和脂肪酸といいます。
一般に、脂肪酸は炭素の数が多くなるほど融点(固体から液体に変化する温度)が高くなります。また、同じ炭素数の脂肪酸を比較した場合、二重結合の数が多くなるほど融点が低くなります。(表)

表:脂肪酸は炭素の数が多くなるほど融点(固体から液体に変化する温度)が高くなる。同じ炭素数の脂肪酸を比較した場合、二重結合の数が多くなるほど融点が低くなる。

炭素原子は、他の原子と結合できる手を4本持っています。炭素-炭素二重結合とは、2つの炭素原子どうしが互いに2本の手でつながっている状態のことをいい、「C=C」で表記します。
分子が接近すると分子間に引力のような力が働きます。この分子間引力をファンデルワールス力(van der Waals force)といいます。ファンデルワールス力は、分子間の距離が近づくほど強くなります。

飽和脂肪酸は炭素原子が直鎖状に並びます。まっすぐな棒状の構造なので、たくさんの分子が集まると、鉛筆を束ねた構造になります。したがって、ぎゅぎゅう詰めになるので、分子が動きにくくなり固体となります。ファンデルワールス力が強く働いて分子間の結合が強固になるためです。液体にするには熱を加え加えなければなりません。したがって、融点が高くなります。
不飽和脂肪酸は二重結合の部分でくの字に曲がった構造になります。分子が曲がっているため、分子を束ねると隙間の多い構造になり、分子間のファンデルワールス力は弱くなります。その結果、分子は動き回ることができ、融点が低下して液体になります。(図)

図:脂肪酸のステアリン酸とオレイン酸は、どちらも18個の炭素原子で構成される。 ステアリン酸は炭素結合が全て飽和しているが、オレイン酸は一価不飽和脂肪酸であり、1つのシス二重結合を含んでいる。ファンデルワールス力による分子間の引力による結合はステアリン酸の方がオレイン酸よりはるかに強くなる。その結果、ステアリン酸の融点は69.9 ℃であり、オレイン酸の13℃の融点よりも高くなっている。不飽和脂肪酸が豊富な細胞膜は、飽和脂肪酸が豊富な膜よりも流動性が高くなる。

植物油や魚油が液体なのは不飽和脂肪酸が多いためです。細胞膜に不飽和脂肪酸が多く含まれるほど、流動性が高くなります。
体内の隅々の組織に酸素を運ぶ赤血球は、赤血球自身の直径よりも細い毛細血管を通過できます。赤血球の細胞膜が柔軟で、変形する能力をもっているためで、これを赤血球変形能といいます。赤血球の細胞膜の飽和脂肪酸の割合が大きくなると細胞膜の流動性が低下し、赤血球変形能が低下し、体の隅々まで酸素が行き渡らなくなります。食事からの不飽和脂肪酸の摂取が多いと、組織の血液循環が良くなります。

【二重結合にはシス型とトランス型がある】
飽和脂肪酸では炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和していますが、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合が含まれます。炭素原子は、他の原子と結合できる手を4本持っています。炭素-炭素二重結合とは、2つの炭素原子どうしが互いに2本の手でつながっている状態のことをいい、「C=C」で表記します。

この二重結合の部分で脂肪酸の構造が変化します。飽和脂肪酸はまっすぐな構造をしていますが、炭素間に二重結合がある不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がっています。
脂肪酸が二重結合の所で曲がる時に、「シス型」と「トランス型」という2種類の構造を取ります。「シス(cis)は「同じ側」「近い方」、トランス(trans)は「反対側」「遠い方」というような意味の接頭辞です。二重結合の部分で炭化水素鎖は曲がりますが、シス型の方がトランス型より大きく曲がります。(図)

図:脂肪酸の炭素間の二重結合(C=C)の部分では「シス型」と「トランス型」という2種類の構造を取る。「シス(cis)は「同じ側」、トランス(trans)は「反対側という意味の接頭辞で、二重結合の所でシス型は水素が同じ側に並び、トランス型は反対側に並ぶ。シス型の2重結合のところで炭化水素の鎖は大きく曲がる。

シス型」は、二つの水素原子が二重結合の同じ側面側に存在する脂肪酸です。自然界に存在する脂肪酸のほとんどはシス型二重結合の分子構造を持っています。炭化水素鎖がシス型二重結合の部分で大きく曲がり、脂肪酸分子間の結合が弱くなり、より融点が低くなるため、室温では液体となります。
トランス型二重結合では、二つの水素原子が二重結合の反対側に存在し、比較的安定した構造になり、脂肪酸分子間の密着度が強くなるので、シス型の異性体よりも融点は高くなります。

炭素数と二重結合の数が同じでも、二重結合の位置と立体構造(シス型とトランス型)の違いによって立体的な構造や大きさに違いが生じるので、脂肪酸の性状が異なります。

【共役脂肪酸はがん抑制物質として発見された】
不飽和脂肪酸には炭素鎖に少なくとも1つの二重結合が存在します。多価不飽和脂肪酸は2個以上の二重結合が存在します。多価不飽和脂肪酸は炭素鎖内の二重結合の数と位置に従って分類されます。ほとんどの多価不飽和脂肪酸は、メチレン (-CH2-) 基によって分離された二重結合(-C=C-CH2-C=C-)を示します。この場合は、二重結合と二重結合の間には2個以上の単結合が介在します。

対照的に、一部の多価不飽和脂肪酸はメチレン基によって中断されない二重結合(-C=C-C=C-)を有します。この場合は、二重結合が一つおきに存在する特定の構造を持っていることが特徴です。この二重結合を共役型二重結合と言い、分子中に共役型二重結合を有する脂肪酸を共役脂肪酸(Conjugated Fatty Acids)と言います。

肉や魚などタンパク質の多い食品を加熱調理すると、焦げた部分にベンツピレンなどの発がん性物質を生成します。この発がん性物質の生成を研究している中で、肉を調理する過程で発がん物質のみならず発がん抑制物質が生成することを、ウイスコンシン大学パリザ(Michael W. Pariza)教授らの研究グループが1980年代に発見しました。

その抽出物質を精製・分離した結果、炭素数18個で9位にシス、11位にトランス配置の二重結合を有するリノール酸の異性体であることをが判明しました。単結合と交互になっている共役型二重結合を有するため、この脂肪酸をシス9、トランス11-共役リノール酸と呼びます。(図)
 

図:リノール酸はカルボキシ基(COOH)から9番目と12番目の炭素の部分で二重結合が存在し、この2つは両方ともシス型を示す。9cと12cは9番目と12番目の二重結合がシス(cis)型であることを示す。C18:2は炭素数が18で二重結合が2個存在することを意味する。共役リノール酸の一種(9c,11t-C18:2)では、9番目の炭素の二重結合はシス型で、11番目の炭素の二重結合はトランス型を示す。リノール酸の2つの二重結合はメチレン (-CH2-) 基によって分離されている(-C=C-CH2-C=C-)。共役リノール酸の二重結合はメチレン基によって中断されてない(-C=C-C=C-)。この結合を共役型二重結合という。

この二重結合の位置および立体構造の違いにより、リノール酸の生理作用とは違った効果を発揮していると推測されています。リノール酸は発がんを促進する作用がありますが、共役リノール酸は反対に発がん過程を予防する作用があります

現在では、共役リノール酸はサプリメントとして販売されています。その宣伝文句には、「体脂肪を減少させ、筋肉を増加させ、免疫力を高め、バランスの良い健康な体を作る」と記述されています。愛好者はボディビルダーや、フィットネスやスポーツクラブに通っている人が多いようです。
カプセルに充填したものだけでなく、タンパク質素材や炭水化物素材に共役リノール酸をブレンドしたスポーツ強化食品や機能性食品として販売されています。がん再発予防の目的のサプリメントとしても利用されています。

【共役型二重結合は電子が非局在化している】
共役型二重結合について説明を補足しておきます。電子の「非局在化」とは、電子が特定の原子や結合に固定されず、分子全体や結晶全体にわたって広がっている状態を指します。この非局在化した電子は「自由電子」とも呼ばれます。電子が非局在化することで、分子や結晶全体のエネルギーが低下し、より安定になります。

炭素(C)原子の原子価は4です。原子価は、その原子が幾つの原子と結合できるかの値です。つまり炭素(C)は4つの原子と結合できます。2本の結合が2つの原子間で使われる場合、その結合を二重結合と言います。これに対して1本の結合を単結合と言います。

結合の間に2本以上の単結合があると、二重結合部の電子は二重結合部に局在化(それぞれの二重結合の部分に固定化)します。しかし、二重結合の間に1個の単結合しかない場合、この領域の電子は非局在化(共有)します。(図)

図:Aのように二重結合の間に2個以上の単結合がある場合は、それぞれの二重結合の電子は局在化(それぞれの二重結合の部分に固定化)している。しかし、Bのように二重結合の間に1個の単結合しかない場合、この二重結合と単結合部の領域の電子は非局在化(共有)する。

上図のBに示す1,3-ブタンジエンでは2つの2重結合の間には1個の単結合しかありません。この分子の単結合は二重結合に少し近づいた性質を持ちます。つまり、この場合は電子の共有(非局在化)が起こります。単結合と二重結合が交互に並んでいる時は、この領域の電子の非局在化が起こっており、隣り合った二重結合の部分に電子が自由に移動できるので、これを共役型二重結合と言います。

【共役リノレン酸は種子油に多く含まれる】
多価不飽和脂肪酸は幅広い生物学的活性を持っています。その中でも共役脂肪酸は非常に有益な健康作用が注目されています。共役脂肪酸の中で、共役リノール酸は人間の健康に対する有益な効果について最も広範囲に研究されています。これらの効果には、抗肥満、抗動脈硬化、抗糖尿病、抗発がん、および免疫調節特性が含まれます。
さらに最近は共役リノレン酸に対する関心が大幅に高まっています。リノール酸とリノレン酸は炭素数が18で同じですが、二重結合はリノール酸は2個、リノレン酸は3個です。

共役リノレン酸は3個の二重結合のうち、少なくとも2個が共役型二重結合を有するリノレン酸の異性体です。リノレン酸の異性体は、天然では多種多様な種子油中に高濃度で存在します。
3個の二重結合が全て共役結合になっている共役リノレン酸としてザクロ種子油のプニカ酸、ニガウリ(ゴーヤ)種子油のα-エレオステアリン酸、キンセンカ種子油のカレンジン酸、ジャカランダ種子油のジャカル酸など多数の種類が知られています。(図)

図:α-リノレン酸は3個の非共役二重結合を持ち、亜麻の種子油や荏胡麻の種子油に多く含まれる。ザクロ種子油のプニカ酸(9c,11t,13c-C18:3)、ニガウリ種子油のα-エレオステアリン酸(9c,11t,13t-C18:3)、キンセンカ種子油のカレンジン酸(8t,10t,12c-C18:3)、ジャカランダ種子油のジャカル酸(8c,10t,12c-C18:3)は3個の連続した共役二重結合を有する共役リノレン酸。

【共役リノレン酸のプニカ酸はザクロ種子油の70%を占める】
αリノレン酸と共役リノレン酸は3個の二重結合を有し、化学構造は同じ(C18H30O2)ですが、二重結合の位置と立体構造が異なります。αリノレン酸はCOOH末端から9番目と12番目と15番目の炭素にシス型二重結合があります
 
共役リノレン酸の一種のプニカ酸(9cis,11trans,13cis)はCOOH末端から9番目と11番目と13番目の炭素に二重結合があり、9番目と13番目の炭素の二重結合はシス型で、11番目の炭素の二重結合はトランス型で、この3つの二重結合は共役型結合となっています。すなわち、1個の単結合を挟んで3つの二重結合が連続しています。(図)

図:α-リノレン酸は炭素数18で二重結合を3個持つ脂肪酸(C18:3)で、カルボキシル基(COOH)から数えて9番目と12番目と15番目の炭素に二重結合があり、これらはいずれもシス型の構造をとる(9c,12c,15c)。プニカ酸はリノレン酸の異性体の一種で、カルボキシル基(COOH)から数えて9番目の炭素にシス型、11番目の炭素にトランス型、13番目の炭素にシス型の二重結合がある(9c,11t,13c)。プニカ酸は単結合と二重結合が交互に並んでおり、二重結合が一つおきに存在する「共役系」は電子の非局在化が起こり、非共役型の脂肪酸とは異なる特徴的な性質を有する。プニカ酸は抗がん作用や免疫増強作用など多彩な健康作用が注目されている。

プニカ酸は抗がん作用、抗糖尿病作用、抗肥満作用、抗酸化作用、抗炎症作用など多くの有益な生物活性を示すことが示されています。

 αリノレン酸はメチル基(CH3)末端から3番目の炭素に最初の二重結合があるので、オメガ3系多価不飽和脂肪酸に分類されます。プニカ酸はメチル基から5番目の炭素に最初の二重結合があるので、オメガ5系多価不飽和脂肪酸に分類されます。
ザクロ (Punica granatum) 種子油には約70% のプニカ酸が含まれており、現在この注目すべき脂肪酸の主要な天然源となっています。

共役リノール酸はリノール酸(オメガ-6脂肪酸)の異性体であり、肉類、乳製品(特に反芻動物)に多く含まれています。共役リノール酸は体脂肪の減少、筋肉の増加、抗がん作用、抗酸化作用などの健康効果があるとされています。
共役リノレン酸は体内で一部は共役リノール酸に変換されます。したがって、共役リノール酸と類似の健康作用を有します。さらに、共役リノレン酸に特有の作用もあります。抗腫瘍効果に関しては共役リノレン酸の方が高いようです。つまり、プニカ酸を多く含むザクロ種子油はがんの予防や治療において近年注目されています。

【プニカ酸はがん細胞のフェロトーシスを促進する】
共役リノレン酸には、抗アテローム性動脈硬化作用など心血管系の健康状態を改善する能力とともに、抗炎症作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、免疫調節作用が報告されています。さらに、in vitroおよびin vivoの両方で強力な抗がん作用を発揮することが報告されています。様々な動物発がん実験モデルで、発がん抑制作用が報告されています。

共役リノレン酸 の 抗がん活性は脂質過酸化に関連していると考えられています。実際、共役リノレン酸は、共役二重結合レベルでの電子の非局在化によってフリーラジカルが形成されやすいため、非共役の対応物である α-リノレン酸 (C18:3 c9c12c15) よりも自動酸化を受けやすくなっています

フェロトーシスは、アポトーシスやネクロトーシスなどの他の調節細胞死とは形態学的、生化学的、遺伝学的に異なる、鉄介在性の細胞死の一種です。フェロトーシス細胞死は、多価不飽和脂肪酸の酸化によって生成される活性酸素種の一種である脂質ヒドロペルオキシドの蓄積によって特徴付けられます

共役リノレン酸の一種のプニカ酸(Punicic acid)はザクロ種子油に豊富に含まれます。ザクロ種子油の70〜80%を占めます。食用油でプニカ酸を多く摂取できるザクロ種子油の抗がん作用に注目が集まっています。ザクロ種子油の摂取は身体機能や組織の恒常性に対して悪影響を及ぼさないことが実証されています。

培養がん細胞を使った実験で、プニカ酸ががん細胞に対して細胞傷害性であり、その傷害作用が抗酸化剤や鉄キレート剤で阻止されることから、フロトーシス誘導によるものと考えられています。以下のような報告があります。

Punicic acid is an omega-5 fatty acid capable of inhibiting breast cancer proliferation(プニカ酸は乳がんの増殖を阻害することができるオメガ5脂肪酸)Int J Oncol. 2010 Feb;36(2):421-6.

【要旨】
ザクロ抽出物には生理活性物質が多数含まれており、がん治療にも使用されている。プニカ酸(punicic acid)は、ザクロ(Punica granatum) の種子油に含まれるオメガ 5 長鎖多価不飽和脂肪酸である
多くの長鎖脂肪酸にはがん予防作用があることが報告されている。今回我々は、エストロゲン非感受性乳がん細胞株(MDA-MB-231)とエストロゲン感受性細胞株(MDA-ERalpha7)の両方の増殖に影響を与えるプニカ酸の作用を検討した。
40μMのプニカ酸で処理した乳がん細胞の増殖は、未処理細胞と比較して、MDA-MB-231細胞およびMDA-ERalpha7細胞でそれぞれ92%および96%阻害された。
さらに、プニカ酸は、未処理の対照細胞と比較して、MDA-MB-231 細胞および MDA-ERalpha7 細胞においてアポトーシスをそれぞれ 86 %および 91%誘導し、細胞のミトコンドリア膜電位を破壊した。
この実験系に20 μM の抗酸化物質トコトリエノールを添加することにより、増殖阻害、アポトーシス、およびミトコンドリア膜電位の破壊に対するプニカ酸の効果が阻止された。
PKC 阻害剤ビスインドリルマレイミド I は、プニカ酸の抗がん効果をMDA-MB-231とMDA の両方で部分的に阻止した。
これらの結果は、プニカ酸が脂質過酸化とPKC 経路に依存する乳がん阻害特性を持っていることを示唆している

プニカ酸のがん細胞に対する細胞死誘導作用が抗酸化剤で阻止されることから、プニカ酸が脂質過酸化による細胞死(フェロトーシス)を誘導することを示しています。
以下のような報告もあります。

Punicic Acid Triggers Ferroptotic Cell Death in Carcinoma Cells.(プニカ酸はがん細胞におけるフェロトーシス細胞死を誘発する)Nutrients. 2021 Aug 10;13(8):2751.

【論文の要旨】
植物由来の共役リノレン酸は、がんなどのさまざまな病気に対する予防および治療特性について広く研究されている。特に、ザクロ種子油中に最大 83% 存在する共役リノレン酸異性体 (C18:3 c9t11c13) であるプニカ酸は、抗がん効果を発揮することが示されているが、その細胞毒性の背後にあるメカニズムは不明のままである。

過酸化脂質の圧倒的な蓄積によって引き起こされる細胞死であるフェロトーシスは、共役リノレン酸の細胞毒性の根底にある潜在的なメカニズムとして最近浮上している
本研究では、プニカ酸が、単層または三次元回転楕円体として増殖した HCT-116 結腸直腸がん細胞および FaDu 下咽頭がん細胞に対して非常に細胞毒性があることを示す。
我々のデータは、プニカ酸ががん細胞のフェロトーシスを引き起こすことを示している。これは重大な脂質過酸化を誘発するが、その影響はフェロトーシス阻害剤の添加によって防止される。

抗がん特性を持つ既知の多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸 (DHA) と組み合わせると、プニカ酸の細胞毒性が相乗的に増加する。私たちの発見は、がんの予防と治療のためのフェロトーシス感作植物化学物質としてプニカ酸を使用する可能性を強調している。

プニカ酸は脂質過酸化を促進してがん細胞を死滅する効果を示唆しています。つまり、フェロトーシスを亢進する可能性を示唆しています。ドコサヘキサエン酸 (DHA)がフェロトーシスの誘導を促進することは多くの報告があります。(804話参照)
したがって、ドコサヘキサエン酸とザクロ種子油を併用すると、フェロトーシス誘導において相乗的な効果が期待できます。(下図)

図:ドコサヘキサエン酸(DHA)は微細藻類や魚に多く含まれる(①)。共役リノレン酸のプニカ酸はザクロ種子油に多く含まれる(②)。食事からDHAとプニカ酸の摂取量を増やすと、がん細胞の細胞膜に多く取り込まれる(③)。抗がん剤、放射線照射、アルテスネイト、鉄剤、高濃度ビタミンC点滴、スルファサラジン、ジクロロ酢酸ナトリウム(④)は活性酸素の産生を高める(⑤)。飽和脂肪酸の多い細胞膜は脂質の過酸化が起こりにくい(⑥)。多価不飽和脂肪酸は酸化を受けやすいので、DHAとプニカ酸を多く取り込んだがん細胞内では活性酸素の産生が高まると脂質の過酸化によって細胞は酸化傷害を受け(⑦)、脂質二重層が破綻し(⑧)、フェロトーシスの機序で死滅する(⑨)。つまり、食事からのDHAとプニカ酸の摂取量を増やすと、がん細胞のフェロトーシスを増強できる。

さらに、ドコサヘキサエン酸とプニカ酸はペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の内因性リガンドです。(892話参照)
この転写因子(PPARγ)で誘導される遺伝子群は、がん細胞の増殖を抑制し、細胞の分化やアポトーシス(細胞死)を誘導する作用がある。
つまり、ドコサヘキサエン酸とプニカ酸は鉄介在性細胞死(フェロトーシス)の誘導と、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)の活性化など複数の機序で相乗的な抗腫瘍効果を発揮します。

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