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919)タンパク質毒性ストレスを高めるがん治療法(その2):2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミン

図:がん細胞はグルコース・トランスポーター(GLUT-1)からのグルコース(ブドウ糖)の取込みが亢進し(①)、解糖系(1分子のグルコースが2分子のピルビン酸に分解される過程)が亢進している(②)。グルコース6リン酸から派生するペントースリン酸経路(③)では、還元剤のNADPHと核酸合成の材料になるリボース5リン酸が産生される(④)。グルタミンとフルクトース6リン酸を基質として、グルタミン・フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(GFAT)の働きで、グルコサミン6-リン酸が生成され(⑤)、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)が生成する(⑥)。UDP-GlcNAcは糖タンパク質や糖脂質やプロテオグリカンの産生に使われる(⑦)。UDP-GlcNAcを生成する経路をヘキソサミン生合成経路という(⑧)。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は、ヘキソキナーゼ(HK)で代謝されて2-DG-6リン酸(2-DG-6-PO4)に変換され(⑨)、2-DG-6-PO4はヘキソキナーゼ(HK)とホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)を阻害する(⑩)。その結果、2-DGは解糖系とペントース・リン酸経路とヘキソサミン生合成経路を阻害して、がん細胞の増殖を阻害する。2-DGはがん細胞に多く取り込まれるので、これらの作用は、がん細胞に特異的に酸化ストレスと小胞体ストレスを高めることになる。

919)タンパク質毒性ストレスを高めるがん治療法(その2):2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミン

【2-デオキシ-D-グルコースは解糖を阻害する】
がん細胞の性質は多様で不均一ですが、ほとんどのがん細胞に共通しているのは、エネルギー産生(ATP産生)をミトコンドリアにおける酸素呼吸(酸化的リン酸化)ではなく、細胞質における解糖系に依存していることです。これは好気的解糖とかワールブルグ効果(Warburg effect)として知られています。

解糖系は細胞質内で起こる10の酵素反応からなり、1分子のグルコースが2分子のピルビン酸になる過程で2分子のATPを酸素を使わずに作り出します。

図:1分子のグルコースが2分子のピルビン酸になる過程を「解糖」と言う。解糖系では2分子のATPを消費して4分子のATPを産生するので、差し引き2分子のATPを無酸素の状態で産生する。ピルビン酸は酸素の供給がある状態ではミトコンドリア内に取り込まれてTCA回路と電子伝達系の酸化的リン酸化によってさらにATPの産生が行われる。

解糖系は、地球の大気に酸素が存在するようになる前から生物に存在した高度に保存された経路です。解糖の英語のGlycolysisのlysisは「分ける」という意味です。つまり解糖(Glycolysis)というのは、1分子のグルコースを2分子のピルビン酸に分けることに由来する命名です。
がん細胞は解糖系が亢進しているので、解糖系を阻害する薬はがん細胞の増殖を抑制します

解糖系阻害剤の一つが、代謝されないグルコース類縁物質の2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)です。
2-DGはグルコースと同じトランスポーター(輸送担体)で取り込まれるので、細胞内の取込みの段階でグルコースの拮抗阻害剤として作用します。

細胞内では、ヘキソキナーゼによってリン酸化されて、2-デオキシグルコース-6リン酸(2-DG-6リン酸)に変換されますが、この2-DG-6リン酸は解糖系の先の代謝系には進めない(ヘキソキナーゼの先の解糖系酵素で代謝できない)ので、細胞内に蓄積します。
特に、がん細胞は2-DG-6リン酸を脱リン酸化して2-DGに戻すホスファターゼ活性が低下しているので、がん細胞内に2-DG-6リン酸が蓄積します。

蓄積した2-DG-6リン酸は解糖系酵素のヘキソキナーゼとホスホグルコースイソメラーゼ(グルコースリン酸イソメラーゼ)をフィードバックで阻害する作用があり、取り込まれたグルコースの解糖系での代謝を阻害し、ATP産生や物質合成を低下させます。

図:2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はグルコース(ブドウ糖)の2位のOHがHに変わっているグルコース類縁物質(①)で、グルコースと同様にグルコーストランスポーター(GLUT1)によって細胞内に取り込まれる(②)。細胞内のヘキソキナーゼで2-DG-6リン酸(2-DG-6-PO4)になるが、それから先の解糖系酵素では代謝できないので細胞内に蓄積する(③)。蓄積した2-DG-6リン酸はヘキソキナーゼ(HK)とホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)をフィードバック的に阻害するので、グルコースの解糖系での代謝を阻害する(④)。

【2-DGはペントースリン酸経路を阻害する】
解糖中間体は多くの生合成系へと流れていきますが、その一つがペントースリン酸経路です。
ペントースリン酸経路とは、解糖系の中間体のグルコース6リン酸から分岐し、同じく解糖系の中間体 グリセルアルデヒド3リン酸に戻る経路(回路)です。
解糖系と同様に細胞質に存在する経路で、補酵素の一つであるNADPHを産生し、核酸の原料となるリボース5リン酸などの5単糖 (ペントース) を産生します。

NADPHは還元剤です。脂肪酸やステロイドの合成、抗酸化物質のグルタチオンやチオレドキシンの還元剤として使用されます。
解糖系はATPを産生します。ペントースリン酸経路はATP産生には関与せず、核酸の原料や還元剤(NADPH)の産生を行っています。

細胞が増殖するにはエネルギー(ATP)だけでなく、核酸や脂肪酸などの物質合成や、酸化ストレスを軽減する還元剤の需要も増えます。したがって、がん細胞では、解糖系とペントースリン酸経路が亢進しています。
2-デオキシ-D-グルコースはヘキソキナーゼとホスホグルコースイソメラーゼを阻害するので、グルコースの解糖系と同時にペントースリン酸経路を阻害してNADPHと5単糖 (ペントース)の産生を阻害します(下図)。

図:解糖系は1分子のグルコースが2分子のピルビン酸に分解される過程で2分子のATPが産生される(①)。グルコース6リン酸から派生するペントースリン酸経路(②)では、還元剤のNADPHが2分子産生され(③)、核酸合成の材料になるリボース5リン酸が産生される(④)。がん細胞ではグルコースの取込みが増え、解糖系とペントースリン酸経路が亢進して、細胞分裂のためのエネルギー(ATP)と物質合成(核酸、脂肪酸、NADPHなど)が亢進している。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は、ヘキソキナーゼ(HK)で代謝されて2-DG-6リン酸(2-DG-6-PO4)に変換され(⑤)、2-DG-6-PO4はヘキソキナーゼ(HK)とホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)を阻害する(⑥)ので、グルコースのペントース・リン酸経路での代謝を阻害する。

【2-デオキシ-D-グルコースは酸化ストレスと小胞体ストレスを引き起こす】
細胞内の酸化ストレスは、がん細胞の増殖や転移を抑制する方向で作用します。したがって、がん細胞の酸化ストレスを高めることはがんの治療に有効です。
がん細胞の酸化ストレスを高める方法としてケトン食、2-デオキシ-D-グルコース、メトホルミン、ジクロロ酢酸ナトリウム、アルテスネイト、高濃度ビタミンC点滴、半枝蓮、ジスルフィラムなどがあります

2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)はがん細胞の解糖系とペントース・リン酸経路(Pentose Phosphate Pathway: PPP)を阻害し、がん細胞の酸化ストレスを高めます。

2-DGは小胞体ストレスを高めてがん細胞を死滅させる作用も報告されています。
小胞体(Endoplasmic reticulum)は、細胞内における分泌・膜タンパク質の品質管理において大切な小器官です。
糖鎖がタンパク質と共有結合して、タンパク質の活性や安定性を変化させます。糖タンパク質の生成は糖代謝とシグナル伝達の接点となります。転写因子やRNAポリメラーゼIIのような細胞機能に重要な細胞内タンパク質も糖鎖によって修飾されます。

糖鎖には、O-結合型糖鎖(セリン・スレオニン結合型糖鎖)と、N-結合型糖鎖(アスパラギン結合型糖鎖)とが存在します。
O-結合型糖鎖はアミノ酸のセリン(Ser)やスレオニン(Thr)側鎖の水酸基に結合していて、N型糖鎖はアスパラギン(Asn)残基に結合しています。

図:O-結合型糖鎖はタンパク質のセリン(Ser)やスレオニン(Thr)残基に、糖供与体のウリジン2リン酸-N-アセチルグルコサミン (UDP-GlcNAc) からのN-アセチルグルコサミンが結合している。O-結合型糖鎖では、アスパラギン(Asn)残基にN-アセチルグルコサミンが結合している。

この糖鎖結合の過程に使われるのがUDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)です。
UDP-GlcNAcは糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンの合成に使われます。このUDP-GlcNAcはヘキソサミン経路で合成されます。

解糖系のグルコース-6-リン酸の次のフルクトース-6-リン酸はヘキソサミン生合成系に入り、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)を産生します。

グルタミンとフルクトース6リン酸を基質として、グルタミン-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(GFAT)の働きで、グルコサミン6-リン酸が生成され、N-アセチルグルコサミン6-リン酸はN-アセチルグルコサミン1-リン酸に変換されます。

ヘキソサミン経路の最終段階では、UDP-N-アセチルグルコサミンピロホスホリラーゼ(UAP)の働きで、N-アセチルグルコサミン1-リン酸にウリジン2リン酸(UDP)が付加され、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)が生成します。

図:解糖系のフルクトース-6-リン酸(①)にグルタミン-フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(GFAT)の働きで(②)、グルタミンと結合して、グルコサミン6-リン酸が生成され(③)、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)が生成する(④)。UDP-GlcNAcは糖タンパク質の産生に使われる(⑤)。UDP-GlcNAcを生成する経路をヘキソサミン生合成経路という(⑥)。

上述のように、糖質とタンパク質はN-グリコシド結合もしくはO-グリコシド結合によって結合します。

タンパク質に結合したN-アセチルグルコサミンにさらに様々な単糖が結合して糖鎖が作られます。糖鎖が結合したタンパク質を糖タンパク質と言います。多くの膜結合タンパク質や分泌タンパク質が糖タンパク質です。この修飾は小胞体とゴルジ体で起こります。

2-デオキシ-D-グルコースはグルコース-6-リン酸とフルクトース-6-リン酸の生成を阻害するので、糖鎖の結合を阻害します

図:がん細胞はグルコース・トランスポーター(GLUT-1)からのグルコース(ブドウ糖)の取込みが亢進し(①)、解糖系(1分子のグルコースが2分子のピルビン酸に分解される過程)が亢進している(②)。グルタミンとフルクトース6リン酸を基質として、グルタミン・フルクトース-6-リン酸アミノトランスフェラーゼ(GFAT)の働きで、グルコサミン6-リン酸が生成され(③)、UDP-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)が生成する(④)。UDP-GlcNAcは糖タンパク質や糖脂質やプロテオグリカンの産生に使われる(⑤)。UDP-GlcNAcを生成する経路をヘキソサミン生合成経路という(⑥)。2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)は、ヘキソキナーゼ(HK)で代謝されて2-DG-6リン酸(2-DG-6-PO4)に変換され(⑦)、2-DG-6-PO4はヘキソキナーゼ(HK)とホスホグルコースイソメラーゼ(PGI)を阻害する(⑧)。その結果、2-DGはヘキソサミン生合成経路を阻害して、糖タンパク質の合成を阻害する。

糖鎖がタンパク質と共有結合して、たんぱく質の活性や安定性を変化させます。つまり、糖タンパク質の生成は糖代謝とシグナル伝達の接点となります。

転写因子やRNAポリメラーゼIIのようないくつかの細胞内タンパク質はO-GlcNAcの結合によって修飾されます。

糖タンパク質に含まれる糖質のうち主要なものは、グルコース、ガラクトース、フコース、マンノース、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)などです。

2-デオキシグルコースはグルコースやマンノースと構造が類似しているので、糖鎖の形成過程で間違って取り込まれて、糖鎖の構造異常を引き起こして、小胞体ストレスを高める可能性があります

このように2-DGは解糖系とペントースリン酸経路を阻害する以外に、タンパク質に糖鎖が付くN-グリコシル化の過程を阻害して糖タンパク質の糖タンパク質の糖鎖の構造異常を引き起こします。


糖鎖異常の糖タンパク質は、折り畳みが不完全な異常タンパク質になり、小胞体に蓄積して小胞体ストレスを引き起こし、細胞死の原因にもなります。

【2−デオキシ-D-グルコースとメトホルミンはヘキソサミン生合成を相乗的に阻害する】
もし、正常細胞には取り込まれず、がん細胞に多く取り込まれて、ヘキソサミン生合成を阻害する物質があれば、それはがん治療に効果が期待できます。

2−デオキシ-D-グルコースとメトホルミンがヘキソサミン生合成の阻害において相乗的に作用することが報告されています。以下のような報告があります。

2-Deoxy-d-glucose increases GFAT1 phosphorylation resulting in endoplasmic reticulum-related apoptosis via disruption of protein N-glycosylation in pancreatic cancer cells.(2-デオキシ-d-グルコースはGFAT1リン酸化を増加させ、膵臓がん細胞のタンパク質N-グリコシル化の阻害を介して小胞体関連アポトーシスを引き起こす)Biochem Biophys Res Commun. 2018 Jun 27;501(3):668-673. 

【要旨】
解糖系阻害剤の2-デオキシ-d-グルコース(2DG)はエネルギー飢餓を引き起こし、多くの種類のがん細胞株の細胞生存率に影響を与える。膵臓がん細胞における2DGの作用を検討するために、2DG投与後の膵臓がん細胞株のプロテオーム解析を実施した。

2DG投与によって80個のタンパク質に発現の変化が見られた。これらの中で、ホスホヘキソース代謝に関与するタンパク質の発現亢進が認められた。
糖タンパク質を維持するために必要なウリジン二リン酸N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)を生成するヘキソサミン生合成経路で作用するフルクトース6-リン酸アミノトランスフェラーゼ1(GFAT1)が、mRNAおよびタンパク質レベルで発現の亢進を認めた。
そこで、N糖タンパク質の総量を測定した。

予想外に、総N糖タンパク質の減少と、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)によるGFAT1のリン酸化を認めた。
これらの実験結果は、ヘキソサミン生合成経路の異常を示唆している。
さらに、2DGを投与した細胞では、グルコース応答タンパク質78(glucose response protein 78:GRP78)やC / EBP相同タンパク質(C/EBP-homologous protein :CHOP)などの小胞体ストレスマーカーの発現の増加を認め、2DGが小胞体ストレスを誘導することが示された

さらに、メトホルミンによるAMPKの相加的活性化は、2DGの存在下でタンパク質のNグリコシル化の減少と細胞増殖阻害を相乗的に増強した
これらの結果は、膵臓がん細胞において2DGがGFAT1のリン酸化を亢進し、タンパク質のNグリコシル化を低下させ、小胞体ストレスを亢進して細胞増殖の阻害を引き起こすことを示唆している

つまり、2-デオキシ-D-グルコースは、ヘキソサミン生合成経路で作用するフルクトース6-リン酸アミノトランスフェラーゼ1(GFAT1)をリン酸化してタンパク質のN-グリコシル化を阻害し、小胞体ストレスを引き起こしてアポトーシスを誘導するということです。

さらにメトホルミンはAMPKを活性化して、GFAT1のリン酸化を相乗的に増やすので、2DGとメトホルミンの併用は、タンパク質のN-グリコシル化の阻害と小胞体ストレス誘導において相乗効果が期待できると言う結果です

2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンの相乗的な抗がん作用については、他にも多くの報告があります。

【2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンの相乗効果】 

がん細胞のエネルギー産生経路を2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンで二重阻害すると抗腫瘍効果が増強することがマウスを使った移植腫瘍の実験で示されています。以下のような報告があります。 

Dual inhibition of Tumor Energy Pathway by 2-deoxy glucose and metformin Is Effective Against a Broad Spectrum of Preclinical Cancer Models(2-デオキシグルコースとメトホルミンによる腫瘍細胞のエネルギー産生経路の2重の阻害は、多くの前臨床の動物実験モデルにおいて効果がある) Mol Cancer Ther. 10(12): 2350-2362, 2011年


この論文では、様々な種類のがん細胞をマウスに移植した実験モデルを用いて、2-デオキシグルコース(2-DG)とメトホルミンを同時に投与すると、抗腫瘍効果が相乗的に高まることを報告しています。
2-DGとメトホルミンはそれぞれ単独では抗腫瘍効果は強くはありませんが、併用すると強い抗腫瘍効果が得られるという結果です。


培養がん細胞を用いた実験では、2-DGで解糖系を阻害しても、がん細胞を死滅させるだけの効果はありませんが、メトホルミンを同時に投与すると、がん細胞は死滅しました。マウスの移植腫瘍の実験系でも、2-DGとメトホルミンを同時に投与すると、がん組織が著明に縮小しました

メトホルミンはミトコンドリアの呼吸鎖(電子伝達系)を阻害してATP産生を阻害する作用がありますが、さらにAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化してmTORC1(哺乳類ラパマイシン標的蛋白質複合体-1)の活性を阻害することによってがん細胞の増殖を阻害します。


一方、2-DGはグルコースの解糖系とペントース・リン酸経路での代謝を阻害することによって、エネルギー産生と物質合成を抑制し、その結果、がん細胞の増殖が抑えられます。


すなわち、2-DGとメトホルミンの同時投与は、がん細胞のエネルギー産生と物質合成と増殖シグナル伝達を効率的に阻害することによって、がん細胞の増殖を阻害することができるのです。以下のような報告があります。 

Co-treatment of breast cancer cells with pharmacologic doses of 2-deoxy-D-glucose and metformin: Starving tumors.(薬理学的用量の2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンによる乳がん細胞の併用治療:がん細胞の飢餓)Oncol Rep. 2017 Apr;37(4):2418-2424.

【要旨】
がん細胞のエネルギー産生の特徴は好気性解糖である。従って、解糖の阻害は、がん細胞に選択的な治療法となる。
解糖系を阻害する2-デオキシ-D-グルコース(2DG)は、多くのがん細胞においてアポトーシス(細胞死)を誘導することが示されている。さらに、糖尿病治療薬のメトホルミンの抗腫瘍活性が実証されている。
本研究では、2DGとメトホルミンの薬理学的用量の組み合わせが抗腫瘍効果を高めるかどうかを確認することを目的とした。

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞のMDA-MB-231およびHCC1806細胞を用いて、2DGとメトホルミンのそれぞれ単独の投与と併用投与の場合の細胞生存率を測定した。
アポトーシスの誘導は、ミトコンドリア膜電位の低下およびPARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)の切断の測定によって定量した。

2DGまたはメトホルミンによる乳がん細胞の治療は、細胞生存率の有意な低下およびアポトーシスの増加をもたらした。
2DGとメトホルミンを同時に投与すると、それぞれ単一で投与した場合と比較して、細胞生存率が有意に低下した。この細胞生存率の低下は、アポトーシスの誘導によるものであった。
さらに、アポトーシス誘導に関しては、単剤で投与した場合と比較して、併用投与はより強い誘導効果を示した

ヒト乳がん細胞の解糖系亢進は、治療のターゲットになりうる。解糖系阻害剤の2DGおよび糖尿病治療薬のメトホルミンの併用投与は副作用が少なく、乳がんに対する適切な治療法になるかもしれない。

トリプルネガティブ乳がんに対してメトホルミンと2-デオキシ-D-グルコースの併用が抗腫瘍効果を高めることは他にも多数の論文があり、最近増えています。がん細胞では解糖系が亢進しているので、メトホルミンだけでは抗腫瘍効果が十分に得られないことが分ってきたからです。
メトホルミンをがん治療に使うときには、がん細胞の解糖系を阻害する方法を併用することが重要と言えます。

解糖系を阻害する方法としては5-アミノレブリン酸も有効です。5-アミノレブリン酸は乳酸脱水素酵素Aの活性を阻害して解糖系を阻害します。(896話参照)

918話で解説したジスルフィラム(ユビキチン・プロテアソーム系を阻害する)とヒドロキシクロロキン(オートファジーを阻害する)に、さらに小胞体ストレスと酸化ストレスを高める2-デオキシグルコース、メトホルミンを併用する治療法は試してみる価値はあります。副作用はほとんどなく、がん細胞を比較的選択的に攻撃します。(図)

図:2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンは変異タンパク質や折り畳み不全タンパク質を増やし(①)、小胞体ストレスを増強し(②)、タンパク質毒性ストレス(proteotoxic stress)による細胞死を誘導する(③)。細胞のタンパク質分解システムのオートファジー(④)とプロテアソーム(⑤)は不良タンパク質の分解を促進して小胞体ストレスを軽減する。ヒドロキシクロロキンはオートファジーを阻害し(⑥)、ジスルフィラムはプロテアソームを阻害する(⑦)。その結果、ヒドロキシクロロキンとジスルフィラムは2-デオキシ-D-グルコースとメトホルミンによるタンパク質毒性ストレスによる細胞死を促進する。

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