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916)メラトニンは正常細胞には抗酸化作用を示し、がん細胞には酸化ストレスを高める

図:メラトニンは正常細胞に対しては抗酸化作用を発揮し、酸化ストレスを軽減して細胞保護作用を示す。一方、がん細胞に対しては、活性酸素の産生を高めて酸化促進作用(酸化ストレス亢進)を示し、がん細胞の増殖を抑制し、細胞死を誘導する。

916)メラトニンは正常細胞には抗酸化作用を示し、がん細胞には酸化ストレスを高める

【メラトニンは体内時計を制御する】
メラトニンは1958年に牛の脳の松果体から単離され、1959年に構造がN-アセチル-5-トリプタミン(N-acetyl-5-methoxytryptamine)と決定された松果体ホルモンです。睡眠覚醒サイクルなどの日内リズムの調節に重要な役割を果たしています。
 
私達の体の中(脳)にはいわゆる「体内時計」があり、昼夜サイクルの時間を刻みながら、体の多くの機能に活動と休息のリズムを与えています。これをサーカディアンリズム(circadian rhythm)と言います。ラテン語で「サーカ」は「約」、「ディアン」は「1日」という意味で、日本語では「概日リズム」と言います。

松果体は脳のほぼ真ん中にあるトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官です。夜暗くなると、松果体からメラトニンが分泌され始め、血中のメラトニンが増えると睡魔が襲ってきます。そして、生体リズムは睡眠や体息に適したものに調整されます。 
朝、太陽光線が目に入ると、松果体にその刺激が伝わりメラトニンの分泌が抑制されます。 これによって覚醒スイッチがONとなり、諸々の生体機能は昼間の活動に適応した状態になります(図)。

図:メラトニン(①)は脳の松果体(②)から分泌される。夕方になって暗くなると松果体からメラトニンの産生が始まる(③)。夜間にメラトニンの血中濃度が上昇し、真夜中(午前2時から5時ころ)にピークに達する(④)。夜間のメラトニンの濃度は日中の5〜10倍に達する。メラトニンは分泌開始から10~12時間で分泌を中止し、急激に血中濃度が低下し、午前7時ころに最低になって覚醒する(⑤)。 

メラトニンの原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。トリプトファンに2種類の酵素が働いてセロトニンが生成します。セロトニンは神経細胞と神経細胞のつなぎ目(シナプス)で情報伝達の役目をする神経伝達物質の一つです。このセロトニンにさらに2種類の酵素が働いてメラトニンが生成されます。
セロトニンからメラトニンが生成する段階は、脳の視交叉上核からの指令が来ないとスタートしない仕組みになっています。目から入った光の情報は視神経と通って脳にある視交叉上核に伝えられ、さらに神経によって松果体に連絡が入ってメラトニンの合成が制御されます。

視交叉上核が体内時計の中枢です。メラトニンの合成は夜間に網膜に光刺激が入らなくなると促進され、網膜に光刺激が入ると阻害されるという仕組みでメラトニン合成が制御されています。(図)

図:視床下部の視交叉上核(①)から出た神経繊維はいくつかのニューロン連鎖ののち交感神経の上頸神経節(②)に達し,その節後繊維は松果体(③)に分布する。松果体の交感神経から放出されるノルアドレナリンはメラトニン合成に関与する酵素の一つのN‐アセチルトランスフェラーゼの生成を促進し、多量のメラトニンを産生放出する(④)。この経路は網膜に光刺激が入ると阻害される(⑤)。夜間に網膜に光刺激が入らなくなるとメラトニンの合成が刺激される(⑥)。 

【メラトニンは細菌や植物にも存在する】
松果体は脊椎動物にしか存在しません。したがって、最初はメラトニンは脊椎動物だけに存在すると考えられていました。しかし、1984年に昆虫にメラトニンが存在することが報告されて以降、メラトニンは細菌やプランクトンや植物を含めて、自然界に広く存在していることが明らかになっています。

図:メラトニンは細菌や植物や昆虫や哺乳動物などほとんど全ての生物に存在する

生物の進化において、メラトニンは最も古くから存在する生理活性物質の一つと考えられています。光合成によって酸素を生成するシアノバクテリアが誕生した25億年から30億年前に、活性酸素の害を防ぐ目的でメラトニンが誕生したと考えられています。

抗酸化作用はメラトニンの直接的な作用ですが、さらに受容体を介して様々な生理機能の制御に関与するようになりました。メラトニン受容体は7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体の一種です。Gタンパク質共役型受容体は多くの種類の細胞に分布しており、光・匂い・味などの外来刺激や、神経伝達物質・ホルモン・イオンなどの内因性の刺激を感知して細胞内に伝達する役割を担っています。 

人間ではGタンパク質共役型受容体遺伝子は1000種類以上が見つかっており、個々のGタンパク質共役型受容体は特定のシグナルに特異的に反応して生理機能を引き起こします。メラトニンが作用するGプロテイン共役型受容体が存在することは、メラトニンが細胞のシグナル伝達系において重要な役割を担っていることを示唆しています。

【ミトコンドリアと葉緑体は細菌が真核細胞に共生して発生した】
約35億年前に発生した最初の生物は、はっきりした核を持たない(核膜をもった核が無い)原核生物です。これらの生物は海の中を漂う有機物を利用し、酸素を使わずに生息していました。
 
約25億年前に光合成を行う藍藻(シアノバクテリア)が登場します。光合成によって、無機物である二酸化炭素と水からグルコース(ブドウ糖)などの有機物と酸素を作り出すことができるようになりました。それまで無酸素状態だった地球大気に大量の酸素分子が放出され、嫌気性生物の多くが絶滅し、酸素を利用した呼吸をする微生物(α-プロテオバクテリア)も誕生しました。
真核細胞の葉緑体やミトコンドリアは、ある種の細菌が原始真核細胞に取り込まれて共生するようになって形成されたと考えられています。これを「細胞内共生説」と言います。

光合成を行うシアノバクテリアが原始真核生物と共生して葉緑体となりました。葉緑体は植物に存在する細胞内小器官です。光合成が主要な機能ですが、その他に窒素代謝、アミノ酸合成、脂質合成、色素合成など、植物細胞における代謝の中心となっています。

酸素を用いて呼吸を行うα-プロテオバクテリアが原始真核生物に共生してミトコンドリアになったと考えられています。原始真核生物はシアノバクテリアやα-プロテオバクテリアを餌として捕食していたのですが、そのうちに寄生して細胞内小器官へと進化し、共生するようになったと考えられています。(下図)

図:約46億年前に地球が誕生し、約38億年前に生命(=生物)が出現した(①)。約25億年前に光合成を行う藍藻(シアノバクテリア)が登場し、地球大気に大量の酸素分子が放出され(②)、酸素を利用した呼吸をする微生物(α-プロテオバクテリア)が誕生した(③)。α-プロテオバクテリアが原始真核生物に細胞内共生して(④)ミトコンドリアになった(⑤)。光合成を行うシアノバクテリアが原始真核生物に共生して(⑥)、葉緑体となった(⑦)。


このような生物の進化の過程で、メラトニンは生物発生時の初期の段階から抗酸化物質として存在していました。さらに、生物の進化の過程で、抗酸化作用以外に、日内リズムや睡眠の制御、免疫・生体防御などの多彩な機能を新たに担うようになりました。

つまり、植物や動物におけるメラトニンの作用は、元来は抗酸化による細胞の保護でしたが、生物進化の過程でメラトニンを様々な生物機能の制御に利用されるようになり、メラトニンの生理機能は多様化するようになったのです。

【メラトニンはミトコンドリアで産生される】
細菌がメラトニンを合成していることが明らかになっています。細菌のメラトニンは活性酸素を消去することによって、細胞を酸化傷害から守る役割を担っています。ミトコンドリアや葉緑体においてもメラトニンが合成されています。これもミトコンドリアや葉緑体が酸素を利用する過程で発生する活性酸素を消去して、細胞を酸化障害から防ぐためです。メラトニンは非常に強い抗酸化作用を有しています。
 
動物においても、メラトニンはミトコンドリアで合成されて、ミトコンドリアで発生する活性酸素の消去において重要な働きを担っています。メラトニン合成の律速酵素であるアリルアルキルアミンN-アセチルトランスフェラーゼの活性がミトコンドリアで確認されており、高レベルのメラトニンがミトコンドリアにおいて見出されています。  
つまり、メラトニンはミトコンドリアをターゲットにした抗酸化物質として、ミトコンドリアを酸化傷害から守る役割を担っていると考えられています
 
メラトニンは生物最古の抗酸化物質と考えられています。酸素を使ってエネルギーを産生する好気性細菌は、自身でメラトニンを産生し、活性酸素によるダメージを防いでいると考えられています。メラトニンを産生する細菌が原始真核生物に寄生してミトコンドリアになった後も、ミトコンドリア内でメラトニンの合成が維持されています。

ミトコンドリアおよび葉緑体は、生物におけるフリーラジカル生成の主な細胞小器官です。このため、これらの細胞小器官はフリーラジカルとそれに伴う酸化ストレスから保護する対策が必要です。その役割を担っているのがメラトニンです。メラトニンはミトコンドリアと葉緑体を活性酸素から守るために働きます。

【メラトニンは様々なストレスによって産生が誘導される】
メラトニンは他の抗酸化剤と比べて、いくつかの有用な特徴を持っています。メラトニンは水溶性と脂溶性の両方の性質を持つので、脂質の多い細胞膜と水分の多い細胞質の両方で活性酸素を消去できます。  
メラトニンは活性酸素の中でも特に酸化障害を引きおこすヒドロキシルラジカルを消去することが知られています。直接的な活性酸素消去作用だけでなく、活性酸素を消去する酵素の産生を増やす間接的作用もあります。
 
酸化ストレスなどのストレスが強くなるとメラトニンの産生が誘導される点もメラトニンの特徴です。飢餓によるストレスでもメラトニンの産生が誘導されて細胞をストレスから守る働きを担っています。
植物でも酸化ストレスや干ばつでメラトニンの産生が増えます。つまり、メラトニンは様々なストレスで産生が増えて、生物個体を保護する作用があります。

また、他の抗酸化剤が一つの分子当たり1個のフリーラジカルしか消去できないのに対して、メラトニンは1分子が10個のフリーラジカルを消去できる事が報告されています。これは、活性酸素や一酸化窒素ラジカルや脂質ラジカルなどのフリーラジカルと反応して生成された代謝産物がさらにフリーラジカル消去活性を持つためです。これをメラトニンカスケードと言います。つまり、メラトニンは生物最古で最強の抗酸化剤でありフリーラジカル消去剤と言えます。

図:メラトニンとその代謝産物によるフリーラジカル消去のカスケード反応(cascade reaction)。R・はフリーラジカルでRHは還元された物質を示す。メラトニンとフリーラジカルが反応してできた代謝産物もフリーラジカル消去活性を持つ。したがって、1分子のメラトニンは10分子におよぶフリーラジカルを消去できる。
AMCC: 3-acetamidomethyl-6-methoxycinnolinone
AMNK: N1-acetyl-5-methoxy-3-nitrokynuramine
(参考:Molecules. 2015 Oct 16;20(10):18886-906. )
メラトニンは太古に発生した単細胞生物から現代の哺乳類や高等植物までの全ての生物において、生物をストレスから守る生体防御物質と言えます。

さて、光合成を行うシアノバクテリアや、酸素を利用する好気性細菌では、活性酸素の産生は日中に多く、夜間は少なくなります。活性酸素を消去するためにメラトニンは消費されます。したがって、活性酸素の産生の多い日中はメラトニンは消費されて少なくなります。夜間は消費されないので、メラトニンの量は多くなります
つまり、動物と同じように、細菌レベルでも、メラトニンは昼間少なく、夜間に多いという日内変化を示します。このような日内リズムの存在が、多細胞生物に進化していく過程で、メラトニンを体内時計として利用するようになった可能性が指摘されています。

【メラトニンは免疫力を高める】

松果体と免疫系との関係が最初に指摘されたのは1926年です。猫に松果体抽出エキスを投与すると免疫システムが活性化することが報告されています。1970年代には、マウスの動物実験でメラトニンを産生する松果体を切除すると、胸腺の重量が減少し、胸腺のリンパ球の増殖が停止するなど免疫系の働きが顕著に低下することが報告されています。

1980年代後半から、メラトニンが免疫細胞に直接作用することが報告されています。その作用メカニズムは、免疫細胞におけるメラトニン受容体の分布の解析から解明されています。リンパ球にメラトニン受容体が存在することは1992年に報告されています。胸腺や脾臓やリンパ節など免疫組織においてメラトニン受容体が発現していることが確認されています。


Tリンパ球や単球の表面にメラトニン受容体があり、メラトニンはこの受容体を介してリンパ球や単球を刺激して、インターフェロンγ(IFN-γ)やインターロイキン(IL)1,2,6,12などの免疫反応を増強するサイトカイの分泌を促進する作用があります。これらのサイトカインは病原菌やがん細胞に対する細胞応答を増強します。
 

メラトニンはリンパ球内のグルタチオンの産生を増やしてリンパ球の働きを高める効果が報告されています。メラトニンは免疫細胞を活性化するだけでなく、活性酸素によるダメージからリンパ球や単球を保護する効果もあります。メラトニンはストレスによる免疫力の低下を抑え、感染症に対する抵抗力を高める効果が動物実験で示されています。


【メラトニンは寿命を延ばす】
メラトニンは酸化ストレスを軽減し、免疫力を高めます。これらの効果は、老化を抑制し、寿命を延ばす効果が期待できます。メラトニンは脳細胞の酸化を防ぐことにより、認知症やアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患を予防できるのではないかと期待されています。メラトニンは細胞膜や血液脳関門を容易に通過できるので、脳の神経細胞の酸化障害を防ぐことができるのです。 
 
他の抗酸化剤は、フリーラジカルを消去すると、自身は酸化されて酸化剤となって、他の物質を酸化するようになるのですが、メラトニンは酸化されても安定で、他の物質を酸化することはありません。

さらに、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドデスムターゼ、カタラーゼなどの細胞内の抗酸化酵素の活性を高める効果も報告されています。逆に、フリーラジカルを産生する酵素(リポギシゲナーゼ、一酸化窒素合成酵素など)の産生を抑制する効果も報告されています。
 
このような多方面の抗酸化作用によって、メラトニンは細胞膜の脂質や細胞内のタンパク質、核内のDNA、ミトコンドリアにおけるフリーラジカルによるダメージを防ぎ、その結果、これらの細胞成分の酸化によって生じる病気(がん、動脈硬化、神経変性疾患など)を防ぐ効果を発揮します

フリーラジカルがミトコンドリアで豊富に生成されることを考えると、さまざまな活性酸素種を効率的に消去し、特にミトコンドリアでその生産を減少させる分子は、老化の速度を遅くし、老化関連疾患を減らす効果が期待できます。実際に、メラトニンには抗老化作用や寿命延長効果が複数の実験系で報告されています。

例えば、キイロショウジョウバエの寿命に及ぼすメラトニンの影響を調べた実験結果が報告されています。

Extension of life span and stress resistance of Drosophila melanogaster by long-term supplementation with melatonin.(メラトニンの長期補給によるショウジョウバエの寿命とストレス耐性の延長。) Exp Gerontol. 2002 May;37(5):629-38.

この実験では、100μg/ mlの濃度で栄養培地に毎日添加されたメラトニンは、キイロショウジョウバエの寿命を有意に延長しました。最大寿命は、対照群で61.2日、メラトニンを給餌したハエで81.5日でした。対照と比較してメラトニンを給餌したハエでは、最大寿命で33.2%の増加、寿命中央値で13.5%の増加でした。
さらに、メラトニンはフリーラジカルを発生するパラコートに対するキイロソウジョウバエの耐性を増加させることが示されました。  
つまり、メラトニンは抗酸化作用によって細胞の酸化障害を抑制し、寿命を延ばす作用があるという結果です。

【メラトニンは多彩な機序で抗がん作用を発揮する】
がん細胞の代謝の特徴は、酸素が十分に利用できる状況でも、酸素を使わない解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸素を使ったエネルギー産生(酸化的リン酸化)が抑制されていることです。つまり、酸素があっても、あたかも低酸素のような代謝を行っているわけです。
このような代謝の特徴の根本的なメカニズムは、がん細胞では酸素濃度とは関係なく、恒常的に低酸素誘導性因子-1(HIF-1)が活性化しているためです。つまり、がん細胞では恒常的に低酸素シグナルがオンになっているということです。その理由は、がん細胞で活性化されているmTORC1やSTAT3がHIF-1の産生を促進するからです。

HIF-1はがん幹細胞の幹細胞として能力を維持させる作用、上皮-間葉移行や細胞接着因子の遺伝子発現を誘導する作用、血管内皮増殖因子(VEGF)を介する血管新生によりがん細胞の遠隔転移を促進する作用なども知られています

つまり、HIF-1活性が亢進するとグルコースの取込みと解糖系とペントースリン酸経路が亢進し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化の活性が抑制され、さらに、血管新生が促進され、乳酸の産生が増えると免疫細胞が抑制され、結合組織の分解も促進されて転移や浸潤が起こりやすくなるので、HIF-1活性が高いがんほど予後が悪いと言えます。メラトニンはHIF-1αの活性化を阻害する作用があります。

メラトニンはがん細胞の増殖や転移を抑制し、細胞死(アポトーシス)を誘導し、血管新生を阻害し、抗腫瘍免疫を増強し、代謝を正常化する作用があります。
メラトニンの抗腫瘍効果のメカニズムは多彩で複雑です。HIF-1の活性を抑制しワールブルグ効果を是正する作用は、メラトニンの抗腫瘍効果のメアニズムの一つです。(下図)

図:酸素分圧(pO2)が低下して低酸素になると(①)、低酸素誘導因子-1(HIF-1)の発現が亢進する(②)。HIF-1はグルコースを取り込むGLUT-1(③)と解糖系酵素(④)と乳酸を排出するMCT4(⑤)の発現を亢進し、細胞質での解糖系でのグルコース代謝を促進する。HIF-1は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生を増やし(⑥)、血管新生を亢進する(⑦)。HIF-1はペントース・リン酸経路を亢進し(⑧)、NADPHと核酸の合成を促進する(⑨)。HIF-1はピルビン酸脱水素酵素キナーゼの発現を亢進してピルビン酸脱水素酵素の活性を阻害し(⑩)、アセチルCoAの産生を低下させ、ミトコンドリアでの代謝を抑制する(⑪)。メラトニンはHIF-1の活性化を阻害する(⑫)。ジクロロ酢酸ナトリウムはピルビン酸脱水素酵素キナーゼを阻害する(⑬)。その結果、メラトニンとジクロロ酢酸ナトリウムの併用はがん細胞のワールブルグ効果(好気的解糖)を抑制し、グルコース代謝を正常化する。


【メラトニンはがん細胞においては酸化ストレスを高める】
前述のように、メラトニンはがん細胞の増殖を抑制し、さらにがん細胞を排除する免疫力を高めます。多くの動物実験や臨床試験で、メラトニンが抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を増強することが明らかになっています
 
メラトニンは強い抗酸化作用を有するので、抗がん剤や放射線照射位よる酸化傷害から正常細胞を守ることによって副作用を軽減することは理解できます。
しかし、がん細胞を酸化傷害から守ることによって抗がん剤や放射線治療の効き目を妨げる可能性もあります。つまり、「メラトニンが抗がん剤や放射線治療の効果を高める」という効果は、メラトニンが強い抗酸化剤であることと矛盾するように思われます。
 
この矛盾は、「メラトニンはがん細胞に対しては活性酸素の産生を高める」というメカニズムで理解されています。つまり、メラトニンは正常細胞に対しては抗酸化作用を示し、がん細胞に対しては酸化ストレスを高める酸化促進作用を示すということです

このような都合の良いことが起こるのは、正常細胞とがん細胞の代謝の違い、すなわちワールブルグ効果に起因します。がん細胞はミトコンドリアでの酸化的リン酸化によるエネルギー産生が抑制され、細胞質での酸素を使わない解糖系でのグルコース代謝が亢進し、乳酸産生が増えています。これをワールブルグ効果好気的解糖と言います。
ミトコンドリアを活性化すると、正常細胞はエネルギー産生を増えて元気になります。一方、がん細胞はミトコンドリアを活性化すると活性酸素の産生が増えて、酸化ストレスの亢進によって、細胞の増殖が抑制され、細胞死が誘導されます。

がん細胞はミトコンドリアにおける電子伝達系の障害が明らかになっています。メラトニンはがん細胞のミトコンドリアの電子伝達系(特に複合体IとIII)に作用し、電子漏れを引き起こします。漏れた電子は酸素と反応してスーパーオキシドアニオン(O2-)を発生させ、ミトコンドリア由来の活性酸素種が増加します。これによってミトコンドリア膜が破綻して、ミトコンドリア膜電位の過分極(hyperpolarization)が起こり、さらに活性酸素種の生成が加速する悪循環に入ります。

がん細胞は細胞内に遊離鉄を多く含むので、活性酸素種が遊離鉄と反応してヒドロキシルラジカル(•OH)を生成し、脂質過酸化を引き起こして細胞死(フェロトーシス)を誘導します。
つまり、メラトニンはがん細胞のミトコンドリアの活性酸素種の産生を増やして、酸化ストレスを増加します

注目すべきことに、活性酸素種を除去するためにがん細胞をN-アセチルシステインで前処理すると、メラトニン誘発性のアポトーシス誘導が阻止されます。つまり、メラトニンは正常細胞に対しては強い抗酸化作用によって細胞を酸化傷害から保護しますが、がん細胞に対しては酸化促進作用を示すということです。酸化促進作用だけでなく、前述のようにメラトニンは多彩の機序で抗腫瘍効果を発揮します。

以上から、メラトニン強い抗酸化作用を有しますが、がん細胞に対しては酸化促進的に作用し、抗がん剤や放射線治療の効果を妨げることなく、むしろ抗腫瘍効果を高めることができます。
メラトニンは、副作用がなく、正常細胞を酸化ストレスから保護しながら、がん細胞に対しては酸化促進作用を発揮するという、極めて特徴的な作用を発揮します。つまり、メラトニンは生命体をがんから守る生理活性物質と言えます。

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