CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】我が友、スミス

2024-02-28 21:05:40 | 読書感想文とか読み物レビウー
我が友、スミス  作:石田夏穂

筋トレというには生ぬるい、BB、すなわちボディビルディングについて
大変ストイックに取り組む女性のお話
と、いう体裁ではあるものの、もっと深く人物をえぐり描いていて
気持ち良い小説だった、芥川賞なのに明るいといった感想を抱いてしまうタイプの
非常によろしい短編作品だった
どうも候補にはあがったそうだが、これは取ってもおかしくない良作だわ

結局、何かをつきつめていく、特に肉体的に妄信的な負荷をかけていく
その孤独と、ある種の酩酊みたいなのが描かれているものが
単純に好きだという、私の嗜好の問題のような気がするんだが
ボクシングを描く小説に似た感じの、試合に向けて積み上げていく様、
そしてそのクライマックスの爽快さというのがあって
かつ、人間味、その泥臭さというのが
爽快さにさらに素敵なスパイスを効かせているように感じて
まあ楽しいことこのうえなかった

タイトルのスミスというのが、筋トレ補助をする器具の名前で、
これに驚いたというか、ちょっと笑ってしまったんだが
そこからひきずりこまれるように、筋トレのあれこれをものすごく読みやすくレクチュアされて、
まるで主人公と同化したように、そこにのめり込んでいく姿に投影といったらいいか
ひきずられるようになって、一緒に何かしらの努力をしているかのように
錯覚してしまう感じがとてもよかった

主人公が、ストイックに打ち込んでいく姿、
その割に、この競技あるあるのように語られていた、
服を着ているだけで、実際にその選手だとわからないといったそれ、
ただ筋トレしているだけで、その他は普通の人であるということが
語られることもなく、キャラクタが雄弁に語るように生きていて
また、そこに悩みが塗布されると、途端にわがことのように
人間味が滲みあふれてきて、最高によかったと思うばかりであった

クライマックスのシーンは、正直よくわからないというか、
この感情の機微はおいて行かれてしまったと、自分なんかは思ってしまったのだけど
それにしても、綺麗にといったらいいか、そうならざるをえず、なったといえるような爽快さがあって
凄くよろしく読めたのである
後日譚もまた、淡々としながらも日常のようでそうではない、
友達や戦友ではないのに、そのように感じてしまうS子との会話なんかが
なんかむやみにかっこよく読めて凄く好きだった
実際はどうなのか、それまでの展開と、この生き様がそれをかっこよく見せていると
そういう錯覚に陥っているとわかっているんだが
こういうのが凄く嫌いじゃない、むしろ、大好きだと思って読み終えたのである
よい一冊だった