CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】神

2024-02-12 21:05:43 | 読書感想文とか読み物レビウー
神  作:フェルディナント・フォン・シーラッハ

チェーホフ以来の戯曲だわ
読みながらそう思ったんだが、非常に難しい題材を扱っていて
いうわゆる脚本なんだが、それを好演しているであろう世界が見えるようで、
また、非常に難しい内容を扱っているから、本で読むということが正解で
実に不思議な読書になった
短い内容なんだが、深く考え込まされてしまった

テーマとしては「自殺」としてよいと思うのだが、
内部の言葉を借りれば「自死」になろうか、
ともかく様々な宗教で禁じられたこの行為について、それを選ぶ自由はあるか、
尊厳死という考え、殺人との違い、死刑の正当性等々に殴り込みをかける内容で
非常に面白いというか、もはや、脚本がどうしたではなく、
このテーマ自体が面白いといえば不謹慎ながら、非常に深く難しいものだと
改めて思い知らされる内容だった

生きることに意味を見出せなくなった老人が、
死ぬことを求めたが許されないことへの違法性を問うた裁判なのだが
法律や、宗教観といったものに根付いた、自殺の否定について、
様々な論証から、そもそも宗教は禁じていないのではないかという話を
これでもかと繰り広げて、これは、古から言われているだけで、
実際はもう古い考え方で、死をたぐる自由は個人に帰してもよいのではと
そういうお話になるのである

大半が、そこを細かに論じていて、結局生はどこからきて、誰のものか
それは神のものなのかといった話になったりするんだが、
ほとんど無意味といってはなんだが、哲学的というよりも感傷的に近いもので、
宗教感というものが、思想支配しているかのように思わされてしまうのである

で、その反証ではないが、反対側の意見としては、
自殺を認めること、特に自殺ほう助を行うことの容認が、
社会からの自殺圧力を増してしまうであろう恐怖の示唆、
かつてナチがちょっとずつ変えてきたものが
気づけば、あのような事態へと突き進んだそれに比肩するのではと
そういう警鐘だけであったが、
それでも十分ともいえるような内容で
結局どっちなのか、それは、これを演じた劇場で、観客に多数決で問うと
まぁそういう脚本になっていて、非常に面白かったのである

当然のように、どちらと決められるはずもないものなので
問題提起をしただけともいえるのだが、そこに至る様々なプロセスを
戯曲という一本にまとめたことで、討論になって暴発することなく
論点をなぞるということができるのがよいところかと思ったりしつつ
大変難しい問題を扱っていて、
また、これが西洋人に特に強いものではないかということも考えられるところに
不可思議を感じつつ読み終えたのでありました