小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

曽我兄弟の仇討 2

2006-08-13 13:41:32 | 小説
 岩波版『曽我物語』は流布本12巻を収録したものだが、はっきり言って読みやすい本ではない。いったい『曽我物語』は漢文体の10巻のものなど諸本があるが、おそらく僧侶たちと思われるそれぞれの作者たちが、それぞれの思惑で増補したり、ある場合創作的エピソードを付加しているようだ。原型の曽我物語をさぐることも容易でないほど、いわば改ざんされているのだ。
 私はどこかで、瞽(ごぜ)つまり盲目の遊行女性芸人たちが伝えたという曽我物語を「読める」のではないかと、淡い期待をいだいていたが、流布本の冒頭で、ああこれは無理だと悟った。
 曽我兄弟の仇討は、『吾妻鏡』も記述しており、れっきとした史実である。しかし『曽我物語』が現代的な感覚で歴史小説のように読めるかというと、微妙である。
 さらに私には先入観がある。曽我兄弟の仇討は、たんなる親の敵討ちではない、実は北条時政が黒幕で曽我兄弟に頼朝を暗殺させたかったという説、あるいは源範頼黒幕説のあることを知っている。両説の詳細は知らないが、説の存在を知っている。およそ、史料を読むときには、虚心に読めるにこしたことはない。先入観は新しいことを発見する上で邪魔になるだけだ。そんなわけで、若干の気重さをおぼえながら、『曽我物語』を読み始めた。瞽たちはなにを伝えたかったのか。おそらく土佐の片田舎に曽我伝説をもたらしたのも彼女たちではなかろうか、とそんな気がしている。ともかく今、私の曽我物語検証の牽引力になっているのは、そのことだ。とはいえ、どんな結論に導かれるのか、私自身がわかっていない。


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