小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

松岡・龍馬本と「皇后の夢」の情報源

2009-11-09 22:13:34 | 小説
 松岡司『異聞・珍聞 龍馬伝』(新人物往来社)を読んだ。松岡氏は高知県佐川町の青山文庫名誉館長でもあるが、本書は「高知新聞」に平成20年4月1日から6月14日まで連載されたものに、「(補)松浦玲『坂本龍馬』」を付して構成されている。
 この巻末の、松浦本へのクレーム?のつけ方が興味深かった。松岡氏はこう書いている。
「海舟と龍馬が深くかかわる前半は濃密に書きつつも、後半は文庫本のせい?か拙著『定本坂本龍馬伝』など参考に、全体流しているような感じです」
 そして自著を評価してくれた松浦氏に対し「どれほど御読みくださったのか。ニ、三点だけながら、ひっかかるものがあります」とし、実質的には5点の批判を箇条書きにしている。ま、研究者としては微細な点も見逃さない真摯な態度だとは思う。
 ところで、松岡司氏のひそみにならえば、私もまた『異聞・珍聞 龍馬伝』の「皇后瑞夢の真相」に若干引っかかるものがあった、と言いたくなる。
 松岡氏はあきらかに、私がかって本名の近藤功名義で高知龍馬研究会の会報『龍馬研究』(平成11年1月25日発行・NO.191)に寄稿した「『皇后の夢』の真実」を参考にしておられる。
 氏はこう述べている。
〈私は、話は、やはり皇后本人より出たと思っています。皇国の行く末を想う皇后は真剣に日露戦争を案じていました。案じていましたから二月に葉山で小川陸軍中将を謁見させたさい、『かって、日清戦役のときの牙山勝報を聞かせらりしも、この葉山行啓中なるぞ。これ天佑、よき兆候!」
 と言って激励したのです〉
 こんな流した書き方では、読者はよく呑み込めないのではないだろうか。
 国会図書館で明治37年の報知新聞2月18日付の「皇后陛下の御感」という小川陸軍中将の記事を発見したとき、私は、ああこれで皇后の夢の情報源がわかった、と思ったものだ。先の拙論に記事の全文は載せた。「今回海軍の勝利に付御物語あらせられ」そして「かって日清戦争云々」と続くのである。この「御物語」が龍馬が夢枕に立ったという話であろうと、私は推定したのであった。
 どうやら松岡氏は私の推論に御賛同してくださったようだが、「御物語」を皇后から小川中将が聞いたと、なぜ明記されなかったのか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。