小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

『蘭学事始』の中の登場人物 その2

2006-01-15 16:54:19 | 小説
 杉田玄白は『蘭学事始』のなかで、蘭学が興る前からあった南蛮流外科、つまりオランダ外科の流派や医師について列記している。私が注目したのは次の記述であった。
「又栗崎流といへるは、南蛮人の種子なりと。(略)其中栗崎氏にて名はドウといふものは、彼地に成長しても其宗(キリスト教)には入らず、其国の医事も学びしが、邪宗に入らざる訳を以って帰朝を許され召し帰され、長崎へ帰りし後、其術を以って大いに行れ、至って上手なりしが、人々栗崎流と称せし由。名のドウといへるは蛮語露のことなる由」
 どうやら混血の医師がいたようなのだ。柴田錬三郎の創出した時代劇のヒーロー、眠狂四郎はご存知ころびバテレンと日本人女性とのハーフだった。狂四郎に似た境遇の医師が実在したということなのだろうか。
 さて、忠臣蔵に話は飛ぶ。殿中で浅野の若殿に斬りつけられた吉良上野介を手当てした幕府お抱えの医師がいた。名を栗崎道有という。吉良上野介が四十七士のよって討たれた時も、吉良の首と胴体を縫合したのは、同じ医師であった。むろん栗崎流の医師である。「ドウ有」という号をもつこの医師の、おそらく祖父が玄白のいう「ドウ」なのである。
 


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