小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

虎の巻  1

2006-06-19 22:09:21 | 小説
 はるか昔の中国、紀元前も紀元前、周の時代に呂尚という軍師がいた。後に斉の始祖となった人物である。呂尚というから、わかりにくい。釣り好きの代名詞となった人物といえば、誰もが知っているだろう。太公望である。この太公望の撰になるという兵法書がある。
 「六韜」という。「文、武、龍、虎、豹、犬」の六巻からなる。「虎韜の巻」がいわゆる「虎の巻」であり、今日の参考書あるいはあんちょこの語源になっている。「虎の巻」は秘伝の書だった。
 秦の始皇帝の時代、張良という人物がいた。始皇帝の暗殺も企てたことのある人物だが、前漢王朝の基礎を築いたことで知られている。その張良は、あるとき橋上で不思議な老人と出合い、兵法書を譲り受けた。太公望の「六韜」とされている。
 さて、話はわが国に移る。
 以下は室町時代の『御伽草子』の一節。

 日の本より艮(うしとら)に当たりて、きまん国といふ島は、鬼の島にてありけるが、鬼の大将は八面大王と申すは、四十二巻の虎の巻をもちてありけるぞ。彼の島に渡り、大王が婿になり、一人娘の朝日天女に契をなし、この巻物を引出物に取り、それよりも立帰り、秀衡五十万騎を引率し、汝十八と申すには、都へさし上すべし。
 
 秀衡という固有名詞が出てくるから、鬼の大王の娘と契を結んで虎の巻を手に入れた人物の名は、もはや言うまでもないだろう。牛若丸、そう義経のことである。


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