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馴化作戦

 毎週日曜日に近くの公園まで妻と犬のタロウの散歩に行っていることは以前記事にしたが、公園まで行く途中に、やたら吠えまくる犬が一匹いて、そこを通る度にうるさくて叶わない。最初の頃はタロウも平気で近づいていたが、ある時、近づきすぎたのか、鼻を咬まれてしまい、それ以来まったく近づかなくなった。体躯はタロウの半分ほどしかない犬だが、歯をむき出しにして吠え立てるのを見ると、狂犬のような気もして、私もタロウと同じく無視するようにしていた。
 しかし、よく見ると、狭い庭に鎖でつながれ、糞も掃除されていない。ひょっとしたら餌も満足にもらっていないのではないか、散歩なんて連れて行ってもらったことなどないだろうな、などと考えたら、
「犬なりにストレスが溜まった状態にいて、吠えることくらいでしか発散できないのかもしれない、ちょっと可哀相だな・・」
と仏心が浮かんできた。そんな私の同情心などまるで感じることのできないその犬は相変わらず吠え続けていたが、私がポケットからタロウにやるために持っていた干し貝柱を小さく分けて投げてやったら、空中でキャッチした。なかなか上手いなあ、と感心したのも束の間、また激しく吠え始めたので、残りの貝柱も投げてやった。今度はキャッチし損ねたが、地面に落ちた貝柱を目敏く見つけて飲み込んだ。
「この犬バカじゃないと思うんだけど・・。」
その様子を見ていた妻が言った。
「ちゃんとしつければ、お利口さんになると思うけど・・」
「じゃあ、これから毎週、餌やってみるか。馴れるかなあ・・」
「どうかな、それは・・。飼い主がもうちょっと世話してやればいいのにね」
「汚いものなあ・・」


 それ以来ほぼ毎週、散歩のついでに干し貝柱をやるようになったが、相手もなかなか頑固だ。と言うよりも、頑迷なのかもしれない・・。必ず吠える。餌を求めて吠えるのとは違い、ただただ闖入者を阻止せんがための戦闘態勢に入った吠え方だ。だが、ほんの僅かだが、吠える時間が短くなった気がする。それは多分貝柱のお陰なのだろうけど、徐々に馴化し始めているのかもしれない。
『馴化(ジュンカ)』
[1] 生物が高地移動・季節変化などの環境の変化に数日から数週間かけて適応していくこと。
[2] 野生の動物を、人間の生活に役立てるために馴らすこと。

 なにもこの犬を私の生活に役立てようとは全く思っていないが、敵対心が満腔に横溢して攻撃してくる生き物を手懐けることができたら、創世期の人間が野生動物を家畜としていったときの心持ちを味わうことができるのではないだろうか、そんな気がして結構本気で馴化作戦に取り組んでいる・・。



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