JR西日本は管内の芸備線(備中神代-三次-広島)のうち、岡山支社管轄の備中神代-備後落合間でそのあり方などを地元を協議していくことになりました。
協議対象となる備中神代-東城が平均通過人員81名、東城-備後落合が11名です(数字の出典:データで見るJR西日本2020)。この11名は全国のJRでも最悪の数値で、もはや維持不可能と言える状態です。「存廃は協議の議論対象外」としていますが、廃線話であることは間違いないものと受け止められています。
今回の進め方を見る限りJRは「用意周到に廃線に向けて話を進めている」と個人的には思っています。なぜ芸備線が廃止対象なのか、なぜ路線の長い広島支社管内ではなく短い岡山支社管内から話を進めるのか深掘りしてみたいと思います。
[芸備線とは?]
岡山県の備中神代駅から広島県の三次を経由し広島駅に至る159.1kmの路線で、全線が単線でディーセルカーが運転されています。備中神代からは伯備線に乗り入れて新見までなので、実質は新見-三次-広島間の路線と言えます。
中国山地南側の盆地を東西に縫うように走り、備後落合で木次線、塩町で福塩線、三次で三江線と接続して南北に走っていましたが、三江線は2018年に全線が廃止されています。
広島に近い広島-狩留家間の平均通過人員は7,987人と悪くはありませんが、狩留家-三次は713人、三次-備後落合間は215名、さらにその東は上記の通りで極めて厳しい状態です。
[なぜ利用されなくなったのか?]
理由は以下の通りいくつかあります。
(1)沿線の過疎化
今回協議対象となっている沿線の岡山県新見市・広島県庄原市の人口は1990年の9.3万人から2019年には6.3万人にまで減っています。
(2)接続路線の衰退、急行の廃止
先に説明の通り三江線は利用が僅かのため2018年に全線廃線、福塩線の平均通過人員は162人、木次線は190人です。接続路線も維持不能レベルになっているのです。このためかつて走っていた「ちどり(広島-松江)」「たいしゃく(広島-新見)」「みよし(広島-三次)」は全て廃止され長距離利用客はいなくなっています。
(3)並行する高速バス路線の整備が進んだ
例えば今回協議対象の東城駅からは庄原・三次経由の広島行き高速バスがあります。三次-広島でしたら1時間に2本程度と便利で広島-三次が1時間に1本の芸備線では相手になりません。所要時間も快速は75分前後ですが普通は100分前後で高速バスの90分前後と大きく変わりません。
(4)高速化など近代化が行われなかった
芸備線に似た路線として津山線(岡山-津山、58.7km)があります。津山から因美線や姫新線に接続します。津山線は全線の平均通過人員のみしか公開されていませんが3,588人であり、芸備線全線の1,323人に比べると勝っています。また津山線の年間の旅客収入は796百万で芸備線の793百万とほぼ同じです。路線の短さ、広島と岡山の都市規模の差を考えると津山線が健闘していることが分かると思います。
この差は1996年に行われた津山線の高速化です。地元自治体の負担や住民の募金で高速化工事が行われ、最高速度の引き上げが行われています(95km/h)。これにより岡山-津山間の快速は最速で58分と大幅に時間が短縮されました。一方の芸備線は国鉄時代から最高速度85km/hで、この速度を出せる区間は少なく、逆に25km/hなど極端な低速に制限される区間があります。芸備線については広島県の財界が高速化を求める提言を行いましたが、「誰が資金を負担するか」という肝心の部分がなく立ち消えとなっています。
[なぜ岡山支社の管轄エリアから話を進めるのか?]
恐らくは「本命の広島支社の管轄エリアの前に岡山支社側から廃線して既成事実化してしまおう」という考えがあると思われます。
その理由がはっきり分かるのが今回の話を取り上げた地元民放のニュース映像です。
・岡山放送
「JR芸備線」協議開始 存続か?廃止か?地元は危機感強める【岡山・新見市】
・テレビ新広島
JR「芸備線」廃線の危機【前編】鉄路を見守ってきた人たち
JR「芸備線」廃線の危機【後編】いま、重大な分岐点に
どちらも同じフジテレビ系ですが、岡山放送は廃止になった場合に芸備線沿線から新見高校に通学する高校生への影響を取り上げています。その数が60名弱であることも取り上げており、「この高校生たちをどう救ってゆくか」が現状の課題であることがはっきり分かる形です。
一方のテレビ新広島は「昔は賑やかだった」「1日1回だけ賑やかになる」といった感傷的な内容にとどまっており、映像が長いのに廃線になった場合の課題整理についてほとんど踏み込めていません。
これが岡山と広島の県民性の違いと言えます。現実的な話ができる岡山県の県民性と感情が優先する広島県の県民性の違いが明らかな形で出ています。なので岡山側から話を進めた方がJRとしてもやりやすいですよね。JRはセンチメンタルで列車を動かしているのではなく営利で動かしているのですから。
[可部線の先例に学ぶJR、同じことを繰り返す広島]
JRにとって頭の中にあるのが2003年に廃止にこぎつけた可部線の末端区間(可部-三段峡)の先例であるはずです。
この際にJRは「列車の本数が少ないから利用できないだけで廃止は理不尽だ」との沿線の強硬な抵抗に遭っています。このため列車の増発を行い「定期券の利用客が増えれば検討する」としました。
沿線自治体や住民が存続運動を行いましたが、JRが求めた「定期券の利用客増加」に対しやったことは「存続を願うテーマソングを作る」「沿線にある津浪駅とサザンの曲『TSUNAMI』を引っかけて桑田佳祐さんに来てもらう」といった全く的外れなものでした。もちろん桑田さんも面倒事に巻き込まれたくないためか丁重に断ったようです。
結局定期券の利用客は数名しか増えず、地元自治体からの上下分離方式による負担などの話もなく存廃論議は打ち切られて廃止となっています。可部線で相当に苦労させられたJRは今回岡山側から外堀を埋める形で本命の広島を押し切ろうとする意図を持っていることが分かると思います。
さて、今回の芸備線の存廃論議に対しても地元の庄原市は「利用向上策としてJRを利用した車窓からのフォトコンテストやイベント支援を行う」としており、可部線の時と変わっていません。ネットでは「これで乗客が増えると思っているのか」と辛辣な意見が出ています。
芸備線の高速化も提言のみで誰も資金を出さなかったようにお金を負担することを避けるのではなく、上下分離で線路や施設を地元が買い取って運行を続けてもらう、あるいは広島県として呉線や可部線も含めて買い取って3セクに移行し呉線や可部線の収益で地域交通全体を支えるといった資金負担をしないのであればJRとまともに話はできないと思います。自助努力なくして地域の再生は無理だろうと思っています。
協議対象となる備中神代-東城が平均通過人員81名、東城-備後落合が11名です(数字の出典:データで見るJR西日本2020)。この11名は全国のJRでも最悪の数値で、もはや維持不可能と言える状態です。「存廃は協議の議論対象外」としていますが、廃線話であることは間違いないものと受け止められています。
今回の進め方を見る限りJRは「用意周到に廃線に向けて話を進めている」と個人的には思っています。なぜ芸備線が廃止対象なのか、なぜ路線の長い広島支社管内ではなく短い岡山支社管内から話を進めるのか深掘りしてみたいと思います。
[芸備線とは?]
岡山県の備中神代駅から広島県の三次を経由し広島駅に至る159.1kmの路線で、全線が単線でディーセルカーが運転されています。備中神代からは伯備線に乗り入れて新見までなので、実質は新見-三次-広島間の路線と言えます。
中国山地南側の盆地を東西に縫うように走り、備後落合で木次線、塩町で福塩線、三次で三江線と接続して南北に走っていましたが、三江線は2018年に全線が廃止されています。
広島に近い広島-狩留家間の平均通過人員は7,987人と悪くはありませんが、狩留家-三次は713人、三次-備後落合間は215名、さらにその東は上記の通りで極めて厳しい状態です。
[なぜ利用されなくなったのか?]
理由は以下の通りいくつかあります。
(1)沿線の過疎化
今回協議対象となっている沿線の岡山県新見市・広島県庄原市の人口は1990年の9.3万人から2019年には6.3万人にまで減っています。
(2)接続路線の衰退、急行の廃止
先に説明の通り三江線は利用が僅かのため2018年に全線廃線、福塩線の平均通過人員は162人、木次線は190人です。接続路線も維持不能レベルになっているのです。このためかつて走っていた「ちどり(広島-松江)」「たいしゃく(広島-新見)」「みよし(広島-三次)」は全て廃止され長距離利用客はいなくなっています。
(3)並行する高速バス路線の整備が進んだ
例えば今回協議対象の東城駅からは庄原・三次経由の広島行き高速バスがあります。三次-広島でしたら1時間に2本程度と便利で広島-三次が1時間に1本の芸備線では相手になりません。所要時間も快速は75分前後ですが普通は100分前後で高速バスの90分前後と大きく変わりません。
(4)高速化など近代化が行われなかった
芸備線に似た路線として津山線(岡山-津山、58.7km)があります。津山から因美線や姫新線に接続します。津山線は全線の平均通過人員のみしか公開されていませんが3,588人であり、芸備線全線の1,323人に比べると勝っています。また津山線の年間の旅客収入は796百万で芸備線の793百万とほぼ同じです。路線の短さ、広島と岡山の都市規模の差を考えると津山線が健闘していることが分かると思います。
この差は1996年に行われた津山線の高速化です。地元自治体の負担や住民の募金で高速化工事が行われ、最高速度の引き上げが行われています(95km/h)。これにより岡山-津山間の快速は最速で58分と大幅に時間が短縮されました。一方の芸備線は国鉄時代から最高速度85km/hで、この速度を出せる区間は少なく、逆に25km/hなど極端な低速に制限される区間があります。芸備線については広島県の財界が高速化を求める提言を行いましたが、「誰が資金を負担するか」という肝心の部分がなく立ち消えとなっています。
[なぜ岡山支社の管轄エリアから話を進めるのか?]
恐らくは「本命の広島支社の管轄エリアの前に岡山支社側から廃線して既成事実化してしまおう」という考えがあると思われます。
その理由がはっきり分かるのが今回の話を取り上げた地元民放のニュース映像です。
・岡山放送
「JR芸備線」協議開始 存続か?廃止か?地元は危機感強める【岡山・新見市】
・テレビ新広島
JR「芸備線」廃線の危機【前編】鉄路を見守ってきた人たち
JR「芸備線」廃線の危機【後編】いま、重大な分岐点に
どちらも同じフジテレビ系ですが、岡山放送は廃止になった場合に芸備線沿線から新見高校に通学する高校生への影響を取り上げています。その数が60名弱であることも取り上げており、「この高校生たちをどう救ってゆくか」が現状の課題であることがはっきり分かる形です。
一方のテレビ新広島は「昔は賑やかだった」「1日1回だけ賑やかになる」といった感傷的な内容にとどまっており、映像が長いのに廃線になった場合の課題整理についてほとんど踏み込めていません。
これが岡山と広島の県民性の違いと言えます。現実的な話ができる岡山県の県民性と感情が優先する広島県の県民性の違いが明らかな形で出ています。なので岡山側から話を進めた方がJRとしてもやりやすいですよね。JRはセンチメンタルで列車を動かしているのではなく営利で動かしているのですから。
[可部線の先例に学ぶJR、同じことを繰り返す広島]
JRにとって頭の中にあるのが2003年に廃止にこぎつけた可部線の末端区間(可部-三段峡)の先例であるはずです。
この際にJRは「列車の本数が少ないから利用できないだけで廃止は理不尽だ」との沿線の強硬な抵抗に遭っています。このため列車の増発を行い「定期券の利用客が増えれば検討する」としました。
沿線自治体や住民が存続運動を行いましたが、JRが求めた「定期券の利用客増加」に対しやったことは「存続を願うテーマソングを作る」「沿線にある津浪駅とサザンの曲『TSUNAMI』を引っかけて桑田佳祐さんに来てもらう」といった全く的外れなものでした。もちろん桑田さんも面倒事に巻き込まれたくないためか丁重に断ったようです。
結局定期券の利用客は数名しか増えず、地元自治体からの上下分離方式による負担などの話もなく存廃論議は打ち切られて廃止となっています。可部線で相当に苦労させられたJRは今回岡山側から外堀を埋める形で本命の広島を押し切ろうとする意図を持っていることが分かると思います。
さて、今回の芸備線の存廃論議に対しても地元の庄原市は「利用向上策としてJRを利用した車窓からのフォトコンテストやイベント支援を行う」としており、可部線の時と変わっていません。ネットでは「これで乗客が増えると思っているのか」と辛辣な意見が出ています。
芸備線の高速化も提言のみで誰も資金を出さなかったようにお金を負担することを避けるのではなく、上下分離で線路や施設を地元が買い取って運行を続けてもらう、あるいは広島県として呉線や可部線も含めて買い取って3セクに移行し呉線や可部線の収益で地域交通全体を支えるといった資金負担をしないのであればJRとまともに話はできないと思います。自助努力なくして地域の再生は無理だろうと思っています。